0227
Side:神守黒金
義経の話の後に幾つか話し、それが終わったので吉法師の部屋に行く。
んだと思ったんだけど、どうやら吉法師は武術の訓練の時間らしい。
こんな小さな頃から鍛錬をするのは体に良くないんだけど?
そう言うと三郎さんが驚いた。
「いや、よく考えたら「三郎さん」も驚くがの。
ワシは一応弾正忠家の当主だから弾正と呼んでくれればよい。
そもそもワシは武家官位だが、お主は本物の官職持ちであろうに」
「武家官位?」
「武家官位といえば聞こえがいいだろうというだけで、実際には官職を持っておらんのに勝手に名乗っとる官職を武家官位と言うのだ。
ワシの場合は自称<弾正忠>じゃの。
まあ、弾正忠という官職は無いのだが」
「そうなの? あんまり詳しくは知らないんだよね。
親王が貰う官職とかは聞いたけど。
確か上野守と上総守と常陸守だっけ?
それが親王しか持てない官職だったはず」
「ほう、そうだったのだな。知らんかったわ。
ところで幼い頃から訓練をしてはいかんのか?」
「あまり激しいのは良くないんだよ。
幼い頃の体っていうのは、大きくするのが先みたいなんだ。
その時に激しい訓練なんかをすると、体が大きくならないんだって。
昔子供を視た時に、神様がそんな事を書いていたよ。
武術の訓練は十歳ぐらいからでいいんじゃない? それまでは歩いたり走ったりでいいと思う」
「なるほどの、それなら出来るか。
せっかくなら蹴鞠をさせればよいの。
五年ほど前に京の都から飛鳥井卿と山科卿をお呼びして蹴鞠の伝授をしていただいたのだ。
なのでワシは蹴鞠が出来るのだよ」
「へー。京の都だと丸い物を蹴って遊んでた子供とかいたよ。
平安の時だったけど、蹴球とか言ってたっけ?
たしか稀人が教えたものだったと思うけど、蹴鞠と違って子供達がやるものだったね」
「ほう、蹴球な。それは面白いのか?」
「足だけ使う遊びだから、蹴鞠に似てるのかな?
木で枠を作って、その中に適当に作った丸い物を蹴り入れると一点入るって遊びだね。
十一人同士でやるのと、五人同士でやるのと二つあったはず。
丸い物を用意してくれれば、吉法師にさせるけど?」
「それは用意できるであろうが、しかし暇な者はそんなにおらぬぞ?」
「そこは霊兵を出すから大丈夫だよ。
ちょうど屋敷の外に出てきてるし、霊兵を出そうか」
そう言って霊兵を出そうと思ったんだけど、あの香香背男って神様が新たな霊兵を授けてくれてるね?
でもコレ、使いにくくない?
「<爆兵・白輝拳者>」
そう唱えて出て来たのは、貫頭衣を来て腰を縄で縛っただけの男だった。
でも両手が白く輝いていて、貫頭衣の背中に<香香背男>って書かれてる。
………どういう事? 神様じゃなくて霊兵だよね? なんかあの神様、自己主張が激しいな。
「なんか男が出てきたが、いったいこの者はなんなのだ?
あと、目つきが物凄く悪いのだが……」
「それは神様に言ってほしい。
僕が作り出している訳じゃないんだし、文句を言われても困るよ。
後、この霊兵は玉藻に負けた際に僕の体に降臨した神様から授かったもの。
背中に文字が書いてあるけど、その神様の名前なんだ。
何故か二つあるみたい」
「神様の名が二つ?」
「そう。玉藻に対して言ってたんだ。
我が名は香香背男、またの名を天津甕星って」
「天津甕星………という事は星の神様かもしれんな。
あまり星の神様というのは聞かぬが、何故にここまで目つきの悪い者を作られたのであろうか」
「さあ? 僕には分からないよ。
後、神様の拳が白く輝いてたけど、何故かこの霊兵の拳も光り輝いてるんだよねえ。
あれで殴られたら爆発しそう。そもそも霊兵の名前が爆兵だし」
「拳で殴ったら爆発するというのも怖いのう。
もっと穏やかなのは無いのか?」
「とりあえず全員出してみるよ。
<古兵・勇壮猛夫><猛兵・剛射隼人><斬兵・豪壮武辺><影兵・自在黒命><水兵・偽神大蛇>」
各一体ずつ呼び出したんだけど、何故か早速とばかりに吉法師が影兵に近づく。
何故か分からないんだけど、子葉も若竹もそうだったんだよね。
子供達って不思議なくらいに影兵に行くんだよ。
何故なんだろう? 普通は真っ黒って嫌がると思うんだけどね?
「吉法師よ、急にどうした?」
「………」
「黒いのに抱き着いた後、まったく動かんのだが?」
「黒いのは影兵といって、影に潜ったり体の形を変えられる霊兵だよ。
八十禍津日神様が与えてくれた霊兵でね、僕はいつも黒い馬の姿にして乗ってる。
吉法師を乗せてあげてくれる?」
そう言うと、影兵は体をとても小さな馬の形にした。
そしてそれを跨ぐように吉法師に言うと、吉法師は素直に跨ぐ。
すると影兵は大きくなり、あっという間に普通の大きさの馬に変わった。
「ち、ちょっと待て! 馬に変わるのは凄いし大きくなれるのも凄いが、吉法師が落ちる!!」
「大丈夫だよ。
黒い腕のようなものが出せるし、それで吉法師が落ちないようにしてるから安心していい。
そもそも普通の馬じゃないからね。ほら」
僕が示した場所を見ると、吉法師の腰に黒い腕が巻き付いていた。
これで固定されている為、黒馬から落ちる心配はまったく無い。
むしろ普通の馬より乗りやすく、速く、そして疲れないのが黒馬だ。
「いやいやいやいやいやいや。
乗りやすいのと速いのはともかくとして、疲れんってどういう事だ!?」
「霊兵ってそもそも霊力で出来てるんだよ。
だから生き物と同じじゃなくて、根本的に疲れとかが無い。
例えばだけど、鍬とか鋤とか鎌が疲れるの? そう考えれば分かると思う」
「……………なんとなくは分かるのだが、いまいち納得できん感じだな。
ただ言うておる事は分かる。道具が疲れはせんのと同じじゃの」
「………たかい」
「馬に乗って最初の一言がそれ? まあ、喜んでるみたいだからいいけど」
「そうじゃの。
とはいえ、その馬では修練にならぬので下ろしてくれ。
馬が皆ああして小さくなったり大きくなったりすると思われても困る」
そう弾正が言うので吉法師を下ろすと、また人型になった影兵に抱き着いた。
どうやら他の霊兵には見向きもしないようだ。
特に怖がってるのが水兵だけど、それは仕方ないのかな?
「それはの。デカい蛇など大人でも怖いわ。
いったいどこの神様がこんなデカい蛇を授けて下さったのだ?」
「八俣遠呂智っていう水神様だよ」
「「「「………」」」」
弾正も近くにいた護衛も、全員が絶句しているみたい。
特におかしな神様じゃないけどね? ある意味で一番冷静で普通の神様だったと思う。
何故か高天原に行ったり、天照大御神に自己主張が激しいとか言っちゃう神様だけどさ。
あれ?
もしかして天照大御神って、香香背男っていう神様と同じなの?
『アレと一緒にしないで下さい!!』
「!?」
「どうしたのだ? いきなりビックリしたみたいだが」
「ちょっとね。もう大丈夫みたい」
「??? ……変なヤツだの」
なんで僕の心に話しかけてくるんだろう?
それと八意思金神様と建御雷神様が大笑いしている声が聞こえる。
もしかして加護で繋がってるんだろうか?
でも天照大御神の加護は無いし………よく分からないね。
最後に八俣遠呂智の溜息が聞こえたけど、どういう意味なんだろう。
聞きたいような聞きたくないような……。




