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式神と霊兵  作者: 田中始め
戦国編
226/241

0226




 Side:神守(かみもり)黒金(くろかね)



 「そりゃ酷かったよ。

 全部を自分で決済しようとした親政とか、大内裏を再建する為に決めた<二十分の一税>とかさ。

 更には近くに佞臣(ねいしん)と言える公卿や公家を(はべ)らせていたしね。

 本当に碌でもない帝だったよ。

 だから対抗して又太郎が立ったのさ」


 「なるほど。帝の親政が酷かったから多くの武士が賛同致したのか。

 帝に叛旗を(ひるがえ)すのは変だと思っておったが、それが理由であったとはな」


 「それだけじゃないよ。

 民も武士も坊主も神官も怒ってたし、公卿や公家も怒ってたよ。

 一部の後醍醐帝に近い公卿や公家だけが、我が世の春みたいに喜んでた。

 そりゃひっくり返されるし、そうなって当然だとしか思わない。

 そうでしょ?」


 「それは酷いな。

 世の中の大半の者が怒りておるなら、引きずり降ろされるも仕方あるまい。

 何故(なにゆえ)そのような事をやったのだ?」


 「朝廷に居るからだよ。

 朝廷の中だけしか知らないから、世の多くの民がどう考えているかが分からないんだ。

 京の都の中でも下京の人達を見下す風潮はあったからね。

 上京は公卿や公家の屋敷があるからだけどさ。

 そこしか知らないから分からないんだ」


 「なんとまあ……

 民の声も聞こえなくなれば、そのようになるのですね。

 その結果、重い税を強いたと」


 「それも津々浦々に強いたし、それが立派な大内裏の再建の為だからね。

 そりゃ多くの国から帝に対する恨みが聞こえて来るよ。

 西国や九州に行った際にも聞こえて来たから、本当に津々浦々で恨みがあったと思うよ?」


 「そこまで恨まれておれば如何(いか)にもなるまいに、それでも己が頂点でなくば気に入らぬのか………。

 尊氏公が引きずり下ろした時点で、己のやった事が失敗だと気づかぬものなのだな」


 「周りにいる佞臣(ねいしん)が色々な事を吹き込むからね。

 余計に何も見えなくなったんじゃないかな?

 元々から自分が正しいと思い込む人みたいだったし、それに後醍醐帝って<大覚寺統庶流>なんだよ。

 嫡流じゃないんだ」


 「ああ、それでか。

 だからこそ余計に<治天の君>の座を欲したのであろう。

 おそらく己の血筋を<大覚寺統>の嫡流にしたかったのだ。その気持ちは分からぬではない。

 我が織田弾正忠家も、織田伊勢守家からしたら庶流の庶流でしかないのだ。

 これが面倒でな」


 「面倒?」


 「そなたには分からぬかもしれぬが、庶流の者というだけで言う事を聞かんのだ。

 尾張織田氏の嫡流は、尾張の(かみ)四郡を束ねる織田伊勢守家だ。

 そして(しも)四郡を束ねるのが織田大和守家。

 そしてその大和守家の庶流なのが、我が織田弾正忠家なのだ。

 つまり血筋的に相当に下位となる。

 実力は一番なのだがな」


 「そうなんだ?」


 「そうなのだ。

 我が織田弾正忠家が尾張を守っておると言っても過言ではない。

 東の守山城には弟の孫三郎が、そして北東の犬山城には弟の与次郎と父上がおって睨みを利かせておる。

 ワシは勝幡(しょばた)城で西と南への睨みじゃ」


 「なら他の織田家は何やってんの? 特に嫡流は?」


 「尾張はのう、日の本一の米所と言われておる。

 ただしそれは(しも)四郡の話なのだ。

 (かみ)四郡は山が多くてな、あまり米は採れぬときておる。

 なので米を売って防備を整えるのが難しい。とはいえ嫡流としての面目があってな。

 だからこそ戦の際に面倒な事をいちいち言うてくるのだ」


 「それはまた………力が無いなら黙ってればいいのに。

 弱い武士についていく者なんて居ないよ。

 そんなのは古くから変わらない」


 「まったくもってその通りなのだがな、面目を立ててやらんと同じ尾張の者なのに邪魔をしよるんじゃ。

 戦の最中なのにじゃぞ? いい加減にしてほしいわ」


 「それでも面目を立ててやるの? 殺せばいいのに。

 武士は舐められたら負けだよ? なら舐めてきた相手は殺すしかない。

 当たり前の事だろうに」


 「「「「「………」」」」」


 この場にいた全員が黙っちゃったね。

 又太郎も最初は驚いていたっけ? なんでだろうと今でも思うよ。

 舐められたら負けなんだから、舐めてきた相手は殺すしかないだろうに。

 だから相手を舐めたりしなくなるんだよ。

 舐められたら負けだって事を忘れたのかな?


 「いや、知ってはおるが………。(いささ)か以上に早くないかの?

 それで揉めて戦になるのは、もっと後になってからであろう」


 「えー……そんな事ないと思うよ?

 平安の頃の源氏なんて、舐めた事を言おうものなら即座に斬り合いになってたぐらいなんだけど………

 なんか武士の癖に随分と軟弱になったなと思う。

 舐めた事を言ってきた瞬間、首を刎ねればいいのに。

 で、文句言ってきたら根切りにすればいいんだよ」


 「それは幾ら何でもやりすぎであろう」


 「いいや? そこまでしないから舐められるんだ。

 そこまでしないから、相手が高を括って見下してくるんだよ。

 試しに舐めてきた相手を根切りにしてごらん、一切下らない事をしてこなくなるから。

 それが源氏であり平氏の生き方であり、それこそが本当の武士だ」


 「「「「「………」」」」」


 「そうなの?」


 「うん、そうだよ。

 だから源氏も平氏も相手を舐めた態度なんて滅多にとらなかった。

 やれば殺し合いにしかならないからね。

 そもそもだけど、武士は武の者だ。

 弱い者に舐められる筋合いは無いし、舐めてきた相手に我慢する必要も無い。

 殺してやればいいんだよ」


 「ま、まあ、それは横に置いておこう。

 特に平安の頃の武士は、左様な生き様であったと聞いた事がある故にな。

 とはいえ今は違うのだからして、今の生き方を吉法師にしてもらわねば困る」


 「でもいつかは跳ね返す必要があるよ?

 でなければ織田弾正忠家は舐められるままだ。

 それは子々孫々に渡って舐められる事を意味する。

 それで納得するならいいんだけどねぇ………」


 「「「「「………」」」」」


 そう言われて納得するなら武士じゃないんだけど、やっぱり三郎さんは納得していないみたいだ。

 いや、それは横の(さい)の方も同じみたい。


 それぞれの武士の(さい)も、色々な関りがあるらしいからね。

 家が下位だと自分も舐められるみたいだし、女性の間でも色々とあるって赤橋の方も言ってたっけ?

 越前の方は側室だから気楽だったみたいだけど、愚痴は聞いてあげてたな。

 そんな事を思い出したよ。


 「ま、とにかくだが、これから宜しく頼む。

 当面は吉法師に色々と教えてやってほしい。

 あまり過激なものは困るがな」


 「分かった。

 ま、又太郎も初めて聞いた時には驚いていたしね。

 とはいえ平安の源氏は軍議の最中に斬り合いとかあったんだけど、それは伝わってないのかな?

 義経だって殴ってたし、殴られた相手は太刀を抜いてたよ」


 「源義経公がか?

 ……何というか、こう、涼やかな方と思うておったのだが、実際には違うのだな」


 「涼やか? ないない。

 義経は顔は笑っているけど、目が笑っていないヤツだったよ。

 他人をあまり信用していなくて、笑っていない目で他人をよく見てたね。

 普通の眼を向けてたのは弁慶相手ぐらいだ」


 「武蔵坊弁慶か。

 遮那王(しゃなおう)と呼ばれておった義経公に負けて心酔し、それからは忠義を尽くされた方じゃのう」


 「まだその嘘が広がったままなの?

 義経は幼い頃に寺に入れられてるし、その後は陸奥まで下向してる。

 そこで長く過ごした後、兄である頼朝が立ち上がったから鎌倉まで行っただけだよ。

 弁慶がどこで義経と知り合ったか知らないけど、京の都に入れない義経が弁慶と戦うなんてあり得るわけないじゃん」


 「京の都に入れない?」


 「義経や頼朝の父は死罪になっていて、頼朝は罪人の子として配流。

 義経はまだ幼かったから寺に入れられただけ。

 頼朝でさえ長く罪人の子として、官位と官職は取り上げられてたんだ。

 そんな兄弟が京の都に入れると思う? 見つかったら死罪だよ」


 「あー………それは無理じゃな。

 当時の都を支配しておったのは平氏じゃ。

 どう考えても危険すぎて入れん。

 となると橋での決闘は誰ぞが言い出した事か……」


 そんなにガッカリされてもねえ……。

 作り話ならいいけど事実じゃない。

 そこはしっかり分けておかないといけないところだ。


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