0225
Side:神守黒金
「まさか稀人が吉法師の前に現れるとは………。
となると吉法師は大きな事を成す者なのかもしれん。
かつて足利尊氏公の傍にも伝説の陰陽師が…………」
何故か僕を見て驚くというよりも、顔が青くなっていってるみたい。
どこに恐れるところがあったんだろう?
又太郎が尊氏公なんて呼ばれてる事も驚きだけどさ。
「あ、そういえば足利の尊氏公の時にも、黒金という伝説の陰陽師が現れたと聞く。
そしてその伝説の陰陽師は、神の御加護で何年経っても歳をとらぬ童の姿のままであったと……!」
「ああうん、それが僕だね。
最初は平安の頃だったんだけど、その後に北条が執権をしている頃に飛ばされてさ。
最後は下野の国は那須群で祟級妖怪の玉藻と戦ってたんだよ。
結局、負けたんだけどね」
「は? 負けた………?」
「うん。それで僕に加護をくれている神様が激怒してさ、右手を白く輝かせて殴り飛ばしたら爆発四散して玉藻は死んだよ。
いやー、神様ってメチャクチャ強いよね。ちょっと驚く。
だって祟級妖怪さえ一撃なんだもん」
そんな話をしていると、またもや横から吉法師に袖を引かれた。
この子なにかあると僕の水干の袖を引っ張るよね。
「すいきゅうようかい?」
コテンと首を傾げた感じで聞いてくるけど、葛葉なら「あざとい」って言うだろう。
吉法師は子供だから特に問題はないけどさ。
「妖怪には格と呼ばれている分け方があるんだよ。
下から丙級、乙級、甲級、大級とあってさ、その上に天級と祟級の二つがあるんだ。
天級は良い妖怪というか、人を襲ったりしない妖怪だね。
そして祟級は人を襲う妖怪だと思えば分かりやすいと思う。
実際には違うんだけど」
「ちがうの?」
「妖怪は霊力を得て強くなるんだけど、その霊力と穢れは密接に結びついてる。
穢れというか怨みと憎しみだね。
その怨みと憎しみが溜まると、それに狂わされるんだ。
だから狂った妖怪は悪い妖怪、狂っていない妖怪は良い妖怪。
そう覚えておくと間違わないよ」
「ほうほう。怨みと憎しみに狂うと悪い妖怪になるわけか。
京の都に大妖怪がおられると聞くが、そちらは良い妖怪なのであろうな」
「おそらく葛葉の事だろうと思うけど、葛葉は良い妖怪だよ。
神様にも天級に至れるであろうと言われてるしね」
「神様に言われている……ですか?」
「そう。僕の左眼をこうすると、それぞれの人や物の色々な事が視えるようになるんだよ。
これは神様の加護で使える眼でね、これで人や妖怪を視ると神様が文字で教えてくれるんだ。
試してみる?」
「ほう。それならワシの事を頼む。
神様がどのように申されるか気になるからのう」
「分かった」
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織田 信秀 男 二十七歳
体力・三十二
霊力・九
術技・一
知恵・二十八
知識・二十三
運勢・良
織田吉法師の父であり、尾張を掌握しようと奮闘する男じゃの。そなたがおらねば志半ばで終わるであろうが、そなたが手助けしてやれば変わろう。そこは好きにして構わぬ。玉藻もおらなくなったので、当分おかしな事をする者も出まい。なのでそなたが如何様にしようとも、好きにするがよいぞ
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「………」
「ど、どうなんじゃ? もしかしてワシ、相当に酷いのか?」
「能力的には普通かな? いや、若干他の人よりも知恵が高いと思う。
それよりも、尾張を掌握しようとして、志半ばで終わるって書いてある。
僕が手助けしてやると変わるって出てるけど、僕の好きにしていいとも書かれてるね?」
「…………志半ばで終わるのか。
ん? もしかしてその後を吉法師が継ぐのか? そして大きな事を成すと。
それなら分からんでもないが、神様は黒金が助けて志を遂げても構わんと仰せか。
ワシとしては、お願いしたいところなのだが……」
「僕は構わないよ。
吉法師の前に出て来た以上は何かあるんだろうしね。
まったく何も無いって事はないはずだよ。
一応は吉法師も視ておこうかな?」
―――――――――――――――
織田 吉法師 男 四歳
体力・八
霊力・十三
術技・一
知恵・十六
知識・七
運勢・良
後のこの者は畿内にまで勢力を広げるが、その後どうなるかはお主次第じゃ。ワシら神々としては好きにして構わんとしか言えん。ここからは己で考えて決めよ。ま、そなたは好きに生きるのであろうがな
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「あらら、なるほどね。
通りで僕が吉法師の下に来るはずだよ」
「な、なんじゃ?! 何が見えたのだ?!」
「後の吉法師は畿内にまで勢力を広げるんだってさ。
ただ、その後どうなるかは分からないって書いてあるね?
神様達は好きにしていいって言ってるだけで、後は自分で考えろってさ。
その状況がよく分からないけど、その時が来たら好きにさせてもらおう」
「おお! 吉法師が畿内にまで勢力を広げると!?
それは凄い! 流石は吉法師じゃ!!」
「………」
吉法師は首を傾げてるね。
ま、後の吉法師がするのであって、今の吉法師がする訳じゃないし。
よく分かっていないのは当たり前か。
それより四歳の割には霊力が高いな?
「えっと、通称が分からないから三郎さんって言うけど、三郎さんも吉法師も霊力が高いね?
普通は一か二しかないんだけど、三郎さんは九、吉法師にいたっては四歳で十三もあるよ。
練習すれば霊力も伸びるだろうし、吉法師には式神を教えた方がいいかも」
「式神、つまり陰陽術か。
教えてもらえるならばありがたいのだが、良いのか? 秘術だと聞くが……」
「秘術? もしかして式神を使う者は更に減ったの?
平安の頃なんて、陰陽師は誰でも式神が使えたのにね。更に悪くなってるじゃん。
又太郎にだって教えたから大丈夫だよ。仙太郎は学ばなかったけどね」
ぼくがそう言うと、また吉法師が袖を引っ張ってきた。
何か聞きたい事があるらしい。
「またたろうってだれ? せんたろうってだれ?」
「うん? もしかして名前が伝わってないのかな?
又太郎の正式な名前は、足利又太郎尊氏というんだよ。
ちなみに仙太郎は足利仙太郎直義というんだ。
ま、足利兄弟の事だね」
「なんと!? そなたが又太郎、又太郎と呼ぶから誰かと思っておったが、よもや尊氏公の事であったとはな。
そうか、尊氏公の通称は又太郎と申されるのか。
初めて知ったわ」
「本当ですね。
室町殿とか足利尊氏公としか呼ばれませぬので、まったく知りませんでした。
又太郎様と申されるのですね」
「そういえば又太郎と仙太郎はどうなったんだろう?
僕は又太郎が征夷大将軍になった後、すぐに下野の国に行ったから知らないんだよね。
そこで玉藻と戦って神隠しに遭うしさ」
「あー………尊氏公なぁ。
ちょっと微妙な話になるので困るが、簡単に言うと二つに分かれた。
いや、今は三つじゃがな。
畿内というか京の都の足利宗家。
そして関東公方の関東足利家。
そして四国の平島公方家だ」
「なんでそんな事に? 子孫がおかしなことをしたのかな?」
「………ワシは伝わっておる話しか知らん。
知らぬが……足利左馬頭様が南朝についた為だと聞いておる。
尊氏公の弟君だと聞いたから、おそらくそなたの言う足利仙太郎直義様であろうな」
「仙太郎が? ………それ以前に南朝ってなに?」
「知らぬのか? となると、その頃にはまだ朝廷は二つに割れてなかったのであろうな。
南朝は後醍醐帝が大和に築かれた朝廷じゃよ。
そして京の都の<持明院統>と大和の<大覚寺統>の二つの朝廷があったのだ。
今は合一して一つとなっておるがな」
「後醍醐………あの帝、本当に碌な事をしないね。
おそらく又太郎が<二十分の一税>を無くしただろうけど、いい加減にしろと言いたくなるよ。
世を荒らして乱した張本人だろうに、その後にまだ荒らすなんてさ。
本当に碌な事をしないよ」
「そ、そうなのか……。まさか後醍醐の帝が酷い方であったとはな」
どうやら伝わっていないようだね。
あの酷さが。




