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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 京の都に後醍醐帝が戻られ、三種の神器を光厳院に御譲りになられた。

 そしてその三種の神器を持って、豊仁親王殿下は新たな帝に即位。

 そこで初めて大きく色々と動き始めた。


 オレは都の明法家である是円と真恵兄弟らと共に<建武式目十七条>を制定。

 これを基準にして、新たな法体系を築いた。

 つまり鎌倉、北条と続いた法の確立だ。

 ここで仙太郎と高が色々と揉めたが、最終的にはオレの一存で決める形となった。


 高はもっと柔軟なものの方が良いと言い、仙太郎はもっと厳しくするべきだと言う。

 この両者は譲らなかったので、少々厳しめにしておいた。

 しかし高の言う事も分かるので、柔軟にしなければならん部分は柔軟にしてある。


 どっちつかずだと言われそうだが、(うつつ)をしっかりと統治するには両方必要なのだ。

 柔軟と言えば聞こえはよいが、軟弱だと舐められるだけになる。

 そして厳しすぎると誰もついて来ぬ。

 だからこそ丁度よい塩梅が必要なのだ。




 そして建武三年(1336年)、十一月二十六日。

 この日、オレは正二位と権大納言となった。

 これは頼朝公と同じ官職であり、オレはとうとうここまで来たのだなと思う。

 正直に言って感慨などは無いし、特に喜びも無い。

 足利の当主として成すべき事を成す。それだけだ。


 黒金(くろかね)と桜も検非違使(けびいし)のままであり、今も京の都の見回りをしている。

 賊退治だが、オレ達が京の都に居た時とは違い増えていたようなのでな。

 それと鎌倉に文を出し、赤橋と越前の二人もこちらに呼ぶ事にした。


 後醍醐帝も花山院に幽閉したし、少なくとも今の京を脅かす者はおらぬであろうからな。

 今の内にこちらに呼び寄せておきたいのだ。

 仙太郎も妻を呼んだようだし、これからは夫婦でおっても構うまい。

 やっと落ち着けたのだからな。いや、長かったわ。


 これからは、ゆるりとしておけるであろう。

 オレは本拠をどこにするか悩んだが、ここ京の都は室町に決めた。


 理由としては、京の都の奪還における主力は西国の者であったこと。

 そして(まつりごと)の中心がまた鎌倉に行くのではないかという危機感が、京の都にあった事が理由だ。


 やはり鎌倉に(まつりごと)の中心があった事は、畿内の者にとって相当の恨みとなっておるらしい。

 そもそも、それこそが楠木殿達が最初に帝に合力した理由でもあるしな。

 だからこそオレは(まつりごと)の中心は京の都だとする事にした。

 これに関しては高も仙太郎も同じ意見であった。


 両者共に、また(まつりごと)の場所を変えれば、それが原因で世が乱れるという意見だ。

 これはオレの考えとも一致しているので、他の者の説得も難しくはなかった。

 皆、我々が勝ったという形で終わらせたいのだ。

 で、あるならば勝者として居られるからな。


 また戦などを起こして、今度は敗者に転落したら………

 などと考えれば反対はし辛い。

 なにより皆が理解しておる、必ず勝てる戦など無いのだという事を。

 だからこそ勝ったままにしておきたいのは当然のこと。


 後は(まつりごと)を頑張れば済むだけだ。

 戦よりは幾分か気楽なのは間違いない。

 穏やかな日々が続くであろう、おそらく。


 …

 ……

 ………


 十二月も半ばになった。

 寒さが厳しい今日この頃だが、後醍醐帝が花山院を脱出、大和の国は吉野に逃れたようだと(しら)せが入った。

 まあ、オレにとっては最早どうでもいい方でしかない。

 実際に(まつりごと)をしているのはオレなのだ。

 今更あの御仁が何を言おうと従う者は少ない。


 津々浦々の多くの者が<二十分の一税>で己らを苦しめた帝だと知っておる。

 である以上は、あの御仁を都合よく使いたい者しか集まるまい。

 和議によって京の都に戻った時に、あの御仁の名は落ちたのだ。

 完全にな。


 そして落ちた者の名は二度と浮かび上がらぬ。

 それこそが古くから変わらぬ世の常である以上、あの御仁が何を言おうと大した意味は無い。

 戦は続くかもしれぬが、オレや仙太郎が出る戦にはなるまい。

 ならば下の者達の功となってもらえばよいだけだ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:神守(かみもり)黒金(くろかね)



 今日は建武五年(1338年)八月十一日。

 この日、又太郎は正式に帝から征夷大将軍位を受け取った。

 つまり又太郎が武家の棟梁であり、頼朝と同じく津々浦々の武士を差配し、(まつりごと)をする者だと認められた訳だ。


 あと、何故か僕と桜には官位が与えられてる。

 僕は従三位になり、桜は正四位上となった。

 なぜ僕が公卿になってるのか理解できないけど、官職は元のままだ。

 つまり右衛門権佐と検非違使(けびいし)だね。


 そして全てが終わり、僕達も住まわせてもらってる室町の屋敷に戻っている最中に出た。

 何かと言えば、眼の力がだ。


 ―――――――――――――――


 足利 尊氏 男 三十三歳


 体力・二十八

 霊力・二十九

 術技・二十四

 知恵・三十一

 知識・三十二

 運勢・普


 ようやくこの男も征夷大将軍になったか。これでそなたがこの者の近くにいるのも終わりだ。ここからは下野の国は那須まで行け。そこに玉藻が封じられし殺生石がある。あやつは復活する寸前だ。それまでに行き、ヤツを完全に滅ぼすのだ。ただし危険な為、そなた一人で行け


 ―――――――――――――――


 つまり僕が又太郎の下に居るのはこれで終わりってわけか。

 神様がそう言うのであれば仕方ないね。

 その事を又太郎や桜、それに桃にも言っておかなくちゃ。

 神様が危険だって言うなら、相当の相手だろうしね。


 僕は室町の屋敷に戻ってゆっくりしている皆の前で、さっき見えた事とこれからの事を話す。


 「つまり黒金(くろかね)は兄上が征夷大将軍になるまで見守る役目というか、兄上の命を守る役目にあったという事か。

 そしてそれが済んだから、新田を操っておった玉藻という妖怪を退治に行けとは……」


 「しかも下野(しもつけ)の国に居たとはな。

 どこに居るのかと思っていたが、やはり新田に鎌倉で乗り移ったように関東であったか。

 元々稀人(まれびと)が倒したと言われておったが、それでも石に姿を変えただけであったか?

 その所為で未だに生きておったとはな」


 「封印したとも言われていますし、様々な話のある妖怪です。

 既に古い時の事など詳しくは分からなくなっていますからな。

 何が本当であったかはともかく、これで黒金(くろかね)殿が討伐してくれるのであれば安心です。

 神様が言われているのですから、おそらく大丈夫でしょうし」


 「まあね。

 とにかく桜と桃は戻ってくるまで鹿野邸で厄介になっててよ。

 葛葉(くずは)も桜が居てくれると助かるって言ってたし」


 「そうね。

 この室町の屋敷も割と色々なヤツが来るし、結構下卑た目を向けて来るヤツが居るのよ。

 向こうはそもそも女性が多いから気楽なのもあるし、向こうで厄介になる方がいいかも」


 「まあ、桜殿の美貌であれば……ねえ?」


 「ええ。何年経っても変わらず、肌の張りも艶も素晴らしいまま。

 妖怪になりたいという者が居ると聞きますが、あの美貌が手に入るのであれば分からなくもありません」


 「でも妖怪になったら、おそらく最初の弱い時に喰われて死んじゃうけどね。

 生き残れる者は極僅かだからさ」


 「あー、それは確かにそうだな。そうそう甘くはないという事であろう。

 そなた達も冗談なのであろうが、思っている以上に妖怪は殺されるから止めておけ。

 しかも最初は考える事も出来ず、相手を襲うだけの獣となってしまうらしいからな。

 考えて戦う事すら出来ん」


 「しかも桃と同じで、長く生きなきゃ強くもなれないしね。

 強くなれないなら獣のままよ。

 人間から妖怪になれるなら、最初から理性はあるのかもしれないけど、そんな方法なんて聞いた事もないわ」


 「ま、諦めた方がいいね。

 碌な事にならないし、妖怪だっていうだけで殺される事も多いよ。

 陰陽師が居るんだからさ」


 「「あー………」」


 その一言で納得したようで、諦めてくれたようだ。

 流石に美しさの為だけに妖怪になるのはねえ……駄目でしょ。


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