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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:新田義貞



 我らは興福寺の者達と合力致して東寺攻めを行っておるが、駄目だな。

 伝説の稀人(まれびと)の矢攻めが激しく、どうにもならぬ。

 せめて又太郎様が出てきて下されば、ワシが一騎打ちを行って派手に散る事が出来るというのに。


 そう思っておったら、門の上に又太郎様の姿が見えた。

 今しかない。今しかワシが散る好機は無いのだ!

 ワシが一騎打ちにて散れば、流石に新田本家を潰す事まではされまい。


 「一騎打ちじゃーーっ!! ワシは一騎打ちを所望いたす!!

 出て来られよ、足利武蔵守殿!!

 この新田左兵衛(かみ)、貴殿と一騎打ちを所望いたす!!」


 「新田よ! 狐憑きで無くなったそうで何よりだが、お前と一騎打ちなどせん。

 新田の家はお前の血筋の者には継がせぬが、他の一族衆から養子を入れて後を継がせる。

 お前は己の思う通りに生きるがいい。

 好きに生きて、好きに朽ちろ! それがオレからの手向けだ!!」


 「又太郎様………」


 まさか、あそこまでしたワシを赦すと?

 そのうえでワシに好きに生きろと申されるか。

 ワシは散々に邪魔をし、足利家を舐め腐ったのだぞ。

 たとえそれがワシのやった事でなくとも、玉藻に操られていた事であってもか?


 「貴様の状況は既に主家を裏切り勝手に独立した者でしかない。

 新田本家は、お前とは関わりなく養子を入れて続く。

 ならばお前とその家族ぐらいは好きに生きよ。

 オレと戦いたいならそれも構わん。それもまた武士の生き方よ。

 これからどう生きるか、帰って考えるがいい」


 「しかし、ワシは……」


 「兄者! ここは退くぞ!

 又太郎様がああ言って下さっておるのだ。心変わりされる前に退け!!」


 「あ、ああ。そう、だな。

 ……退け! 皆の者よ退くのだ!!

 このままでは駄目じゃ、退けーーーーっ!!!」


 ワシは東寺の門に背を向けて撤退する。

 玉藻に操られておったとはいえ、あのような方に愚かにも歯向かっておったとは情けない。

 少なくとも操られておった時のワシは、己の欲に忠実であっただけ。

 つまりは又太郎様に対する嫉妬こそ、己の醜い欲なのだ。


 あのような方に愚かな嫉妬を向けるとは……情けないほどに愚かしいわ。

 やはりワシとは器が違うのであろうな。

 足利家の方は、やはり足利家の方なのだ。

 新田家が主家と奉じていた方の家なのだと改めて分かる。


 「兄者、良かったな。少なくとも新田の本家は残る。

 兄者の家族も追いかけられる事は無いそうだ。

 あそこまでしていただいたが、それでも兄者は又太郎様と争うのか?」


 「ワシは家族と共に居られるだけで十分だ。

 しかし、だからこそ己の身の置き場が無い。

 ワシはこの戦で又太郎様の手に掛かり死ぬ気であった。

 最後に新田の家をお頼みすれば、何とか新田家を残していただける。

 そう思うておったのだが……」


 「赦されると思うておらなんだので、どうしていいか分からぬか。

 確かにそうであろうと思う。

 そもそも又太郎様は兄者が狐憑きだと知っておられたようだ。

 まあ、又太郎様が知っておられても、周りが許さねば如何様(いかよう)にもならぬのだが」


 「そうだな。

 操られていたワシがやってしまった事だ、良い悪いはともかく背負わねばならん。

 とはいえ、まさか新田の家を残し、ワシに好きに生きろと申されるとは……」


 「まずは又太郎様の言われた通り、帰ってじっくりと考えてみよう。

 それからで良いのではないかと思う」


 「そうだな。帰ってしっかりと考えるか」


 ワシは義助と共に退却し、近江は坂本まで戻った。

 そして腰を落ち着けて考えようと思っていた矢先、後醍醐帝より呼び出しがあったので御座所に向かう。

 ワシは敗北したのだがな、いったい何用であられようか?


 正装して参内したが、そこには帝しかおられなんだ。

 他の公卿や公家の方は一切おられぬ。

 いったいどういう事を言われるのやら。


 「新田よ、来たか。そなたには辛き事なれど、聞け」


 「はっ!」


 「この度、足利武蔵守と和議を結ぶ事に致した。

 この事をそなたに一切聞かせなんだは、朕の近くに面倒な者がおるからよ。

 それは言わずとも分かると思う」


 「はっ!」


 「しかしじゃ、朕は和議を結んで戻る気は無かった。

 が、このままでは如何(いか)にもならぬは事実。

 また、朕の近くの愚か者は都に戻りとうて仕方ないのだ。

 だからこそ和議を無理矢理にも纏めおった」


 「無理矢理、でございますか……」


 「そうよ。厄介な事じゃが、仕方あるまい。

 それより何より新田よ。そなたには恒良、尊良の両名を連れて北陸へ行ってもらいたい。

 向こうに行けば北畠と合力して京の都を取り戻す事が出来よう。

 朕は幽閉されるであろうが、折を見て脱出する。

 それまでには地盤を固めておくように」


 「ははっ! かしこまりましてございます」


 「うむ。すまぬが後を任せたぞ。

 愚か者がおっては上手くいく事も上手くいかぬ。

 重ね重ね、足利武蔵守を手放すように仕向けられたのが失敗であったわ。

 伝説の稀人(まれびと)がついておる者を手放してしまうとは……」


 「帝………

 それがしは命の為に準備をせねばなりませぬ。

 故に、これにて失礼いたしまする」


 「ああ、頼んだぞ」


 「ははっ!!」


 命を受けたワシは帝の下を辞したが、これがワシのやるべき事なのかもしれぬ。

 親王殿下をお守り致す。

 それこそがワシの本当の役目なのであろうな。

 新田小太郎ここにありと示してみせようぞ。




 屋敷に戻って正装から着替えたワシは、すぐに弟の義助を呼んで帝からの命を伝えた。

 義助は驚いたものの、又太郎様と争うよりは良いと言う。

 とはいえ、争わぬとは言えぬのだがな。


 「そうなのか?」


 「帝は陸奥の北畠卿と合力致して、京の都を奪還できるはずだと申された。

 つまり時が来たら奪還に力を貸せという事であろう。

 ただし、その時が本当に来るかは分からぬがな。

 それでもワシには十分過ぎる(ほまれ)よ。

 親王殿下をお守り致すという大役なのだからな」


 「そうだな。

 まずは北陸へと行かねばならぬが………」


 「足利一族衆の斯波がおるのであろう? 何とか迂回して向かうしかあるまい。

 とにもかくにもワシらは与えらえた命を果たすのみ。

 明日から忙しゅうなるが、今までよりは良い」


 「ああ。すぐに準備を始めよう」


 …

 ……

 ………


 親王殿下を北陸に行かせるのは、陸奥の北畠卿と連携をとらせ、北陸と陸奥の勢力で都の奪還をさせる為だ。

 ワシらはその為の地盤固めをせねばならん。

 時が相当に掛かるであろうが、それでも帝の命なのだ。叶えてみせようぞ。

 なんとか親王殿下の御名も使いつつ纏めねばならんな。


 「それでは出立いたしまする。

 敦賀に直接行く道は斯波に抑えられております故、迂回するしかありませぬ。

 平に御容赦を」


 「構わぬ。敵に見つかる訳にはいかぬ故にな。

 では出立じゃ」


 「「「「「出立!!」」」」」


 ワシと弟の義助は一行の最前列で進んで行く。

 親王殿下をお守りするには、ワシが命を懸けられる場におらねばな。


 それにしても、これだけついてきてくれたのには感謝しかない。

 操られておった時の酷さがあるにも関わらず、ワシを信じてついてきてくれるのだ。

 出来得る限り(むく)いてやらねばな。


 この先なにが待ち受けているのか分からぬが、北陸を新たな拠点といたし、新田小太郎ここにありと示さねばならん。

 それこそが、ついてきてくれた皆の家を守る為に必要な事だ。


 主家というのも大変だな。

 今初めて足利家の苦労が分かった気がする。

 下の家の者を助けるとは簡単な事ではないのだとな。

 我が新田家は庶家であったからこそ知らなんだのであろう、ここまで背負うものが大きいとは。


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