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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 近江の国に派遣した小笠原が、何度も新田に攻められたそうだが撃退したようだ。

 一度目は瀬田の唐橋の近くの野で陣を張ったところ、そこを攻められて撃退。

 小笠原はより守りやすい鏡山に陣を張るも、再び新田が襲ってきたので撃退。

 更に守りやすい伊吹山に陣を張ったらしい。


 そこでこちらに援軍要請をしてきた訳だが……

 ちょうどこちらでは糧道。つまり補給路の遮断を行うべきでは? という議論の最中であった。

 そこに小笠原の文が来たので派兵が決定。

 まさかそこまで新田が激しく攻めてくるとは思わなんだな。


 狐憑きで無くなったのであれば冷静なはずだが………

 もしかしたら公卿や公家どもがやらせておるのか? 新田や脇屋であれば断るのは難しかろう。

 仮にそうであれば同情はするが、しかし諦めろ。


 あれらはしつこいし鬱陶(うっとう)しいぞ?

 己の思い通りにならんと、癇癪(かんしゃく)を起こすからな。

 まるで(わらし)のような連中だ。


 もちろん全ての公卿や公家がそうではないが、基本的に下の者であればあるほど左様な者が多い。

 ま、その辺りは武士も変わらんがな。


 「では派遣する軍の大将は佐々木導誉殿で決まりですな。

 他に何かありますか?」


 「この際だ、遅れて今川掃部助も出してよかろう。

 糧道の遮断だからな。

 それなりの兵力が要るであろうし、手が回らん事もある。

 佐々木導誉が大将である事に変わりはないがな」


 「そうですね。ここは確実に締め上げたいところです。

 近江の国と叡山は長い付き合いですし根を張っていますから、簡単な事では折れないでしょう。

 ここは確実に日干しにしたいところ」


 「ですな、それが出来れば叡山に対する圧力にもなります。

 古くから強訴などを致して(まつりごと)を歪めてきたのです。

 ここらで一度大人しくなってもらわないと困りますからな。

 後醍醐帝の時にも、帝に色々と要求しておったようですし」


 「帝に要求するなど、彼奴(きゃつ)らめは何様のつもりなのだ。

 高が坊主が随分と増長いたしておるようじゃな。

 ここは叩き潰して本分に戻してやらねばなるまい。

 特に叡山の坊主は酒を飲み、稚児女性を抱くという。

 唯の破戒僧であるらしいからな」


 「本来ならば仏道を穢す者として根切りにした方がよかろうにな。

 山門(延暦寺)などにおるのであればまだしも、あやつらは坂本の町で遊んでおると聞く。

 そのような者どもは根切りに致すべきぞ」


 「その通りよ。

 真の仏道に邁進(まいしん)せぬ者は極楽に行く必要などあるまい。

 我ら武士が地獄に落としてやるべきぞ」


 「諸将の気持ちはよう分かるが、今は糧道の遮断が先だ。

 仏道の事は後にしてくれ」


 「申し訳ございませぬ。

 ついつい怒りが我慢できず、つい……」


 「「「申し訳ございませぬ」」」


 そんな横道に逸れる事もあったが、何とか無事に話し合いは終わり、佐々木導誉を先に送り出した。

 そもそも佐々木導誉を出したのは、佐々木が若狭の国や小浜周辺の地理に詳しいからだ。

 要するに北から回って、そちらを遮断する。


 南は小笠原がおるので、これでしっかりと遮断できるであろう。

 出来たならば、後は日干しにするだけだ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:新田義貞



 「まだでおじゃるのか!

 帝がこのような所に来て幾日経ったと思うておる!!」


 「申し訳ございませぬ。

 しかし数の差はそこまでなくとも大敗してからですので、兵の士気も低く疲れが溜まっております。

 これでは幾ら攻めても勝つのは難しく」


 「ええい! ほんに役に立たぬ者じゃ!!

 何故(なにゆえ)そなたが足利如きに勝てなんだのか、よう分かる無様さじゃの!!」


 「申し訳ございませぬ」


 「ふん! 真に申し訳ない気持ちになっておるのでおじゃろうかの!」


 「申し訳ございませぬ」


 面倒なので同じ言葉を繰り返しておる。

 正直に申してワシも疲れておるのだ。

 無理に攻めてこいと言われ、帝からも早うせよと言われる始末。

 兵が幾らでも動けると思うておるのか? あり得ぬわ、左様なこと。


 それに京の都を攻める事もできず、結局は敵軍との戦いに終始する有様。

 どうせ向こうはこちらを攻められんのだ。

 だから京の都を攻めるべきだと言うたのに、早く近くから敵軍を追い出せと言い出すのだから呆れるわ。


 おそらく敵軍が出て来たのは睨み合いをする為であろう。

 向こうにとって大事なのは帝の持たれておる三種の神器なのだ。

 あれがないと新たな帝になられる事が出来ぬ。

 故に向こうは三種の神器の奪還こそが重要なのだ。


 となると向こうの為すべき事は兵糧攻めであろう。

 それ故にこちらを攻めて来る事など無いというのに、敵が近くに来ただけで恐れから「蹴散らしてこい」と言い出すのだからな。

 目の前しか見えておらぬと見える。

 愚かさに呆れるのも道理よ。


 故にこちらが京の都へ戻るには武勇を示さねばならぬ。

 京の都の軍を叩き、和議にした方が良いと思わせねばならんのだ。

 その形であれば帝も幽閉などはされまい。

 こちらは六千しかおらなんだのに、この無理な攻めで五百ほどが逃げ出してしまった。


 当たり前だが、このような扱いにされて我慢できる者など多くない。

 皆は疲弊しておるから逃げぬだけよ。

 にも関わらず疲れも戦もせぬ者どもが、偉そうにホザきおって……!


 おのれらが落ちたのは、そうやって下々の者を虐げたからであろうが。

 <二十分の一税>もそうだが、そうやって下々を足蹴にするから引きずり下ろされるのだ。

 自業自得よ。


 …

 ……

 ………


 二条様という方が三千騎を加賀や越前から集めて救援に来られたようだ。

 大きく士気が上がったが、我らは出陣せぬともよいと言われた。

 兵だけ貸せとのこと。

 愚か過ぎて呆れたので、言う通りにしておいた。

 負けるのは分かり切っておるからだ。


 兵達には申し訳ないが、上からの命なので逆らえん。

 そして意気揚々と出陣していったが、大敗して逃げ帰ってきたようだ。

 何でも小勢で攻めて来たので返り討ちにし、意気揚々と攻めたら数万騎に囲まれたそうだ。


 慌てて逃げたものの散々に追撃されて討ち死に。

 加賀や越前から連れて来た兵は千五百ほど失われたようだ。


 ワシらの連れていた兵には功をとらせまいと下げていたようだな。

 先に小勢が攻めてきた時にはワシの兵に戦わせたようだから、(こす)いヤツだとしか思わん。


 …

 ……

 ………


 帝が山門(延暦寺)に大きな荘園を寄付した代わりに、山門(延暦寺)は大和の興福寺に合力を要請。

 そして興福寺も合力する事を決めたようだ。

 ワシらはその間ゆっくり休めたので、体の調子も大分もどってきた。

 やはり相当に疲れておったようだな。


 四条様という方が派遣されたようだが、大丈夫であろうか?

 ワシらも攻めろと言われた時の為に用意しておかねばな。


 …

 ……

 ………


 「行け行け行け行け行け行け行けーーっ!!

 落とせ、落としてしまぇぇぇぇぇっ!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 我らは今、京の都は東寺攻めを行っておる。

 すでに近江坂本も叡山も兵糧攻めを受けており、このままではどうする事も出来ぬ。

 そして大和は興福寺の合力にて京の都を攻めておるのだ。

 これが最後の好機であろう。

 ここで打ち破れなければ、兵糧攻めに屈するしかなくなる。


 楠木殿ではないが、ここがワシの晴れ舞台。

 最後の戦場(いくさば)であろう。


 なんとしてもここで手柄か功を得ねば、新田家に先が無い。

 何としても得なければならん。


 弟の義助もそれは分かっておるから必死だ。

 その姿に涙しそうになるが、もし駄目ならば弟だけは生かさねば。

 こんな兄に従って、ついてきてくれたのだからな。


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