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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 オレ達は京の都に戻ってきたが、その時には後醍醐帝も新田達も居なくなっておった。

 オレの予想通りに叡山に行ったらしいわ。

 いつも通りの行動でしかないな。

 ついでにそれなりの公卿や公家も随行したらしいので助かる。

 奴らは邪魔でしかない。


 そしてオレは光厳院の下へと参内し、今後の事を話し合っておる。

 実は後醍醐帝は光厳院にも同行を迫っていたらしく、途中までは共に行ったのだそうだ。

 しかしオレが京の都に来る事を知った院は、病だと偽って離脱。

 都へと戻ってきている。


 相変わらずだが、醜い駆け引きがあったようで何よりだ。

 これが京の都といった感じがするな。

 むしろここまで汚いから京の都なのかもしれん。

 それはともかく院に<治天の君>となっていただき、後醍醐帝の成そうとした悪政を止めて頂かねば。


 「後醍醐帝の悪政か………

 大内裏の再建と<二十分の一税>であろう?」


 「ハッ! 他にも細々としたものは多くございますが、まずはそれを止めていただければと考えておりまする」


 「此度、足利武蔵守に多くの者が合力致したのも、それらがあっての事よな。

 我は左様な事をさせる気は無い。すぐに無くしてしまわねばならぬであろう。

 それに改元も撤回しておかねばなるまい」


 「それと、新たな帝を立てて頂きたく……」


 「うむ。我の弟である豊仁を就ければよい。

 我は<治天の君>となり、後醍醐帝の成した悪しき所を何とかせねばなるまいな。

 かつて北条に連れられ左肘に矢を受けた我が、今度は後醍醐帝の尻拭いか。

 まこと、この世は不思議に満ちておるの」


 「院……」


 「戯言じゃ、それぐらいは許せ。

 これが我に、いや朕に与えられた道なのであろう。

 足利武蔵守の道は如何(いか)な道なのであろうかな?

 伝説の陰陽師であり稀人(まれびと)を味方につけ、天は何を成せとそなたに言うておるのやら?」


 「分かりませぬ。

 それがしは成すべき事を成したら、鎌倉に帰る所存にございます。

 そして陰陽師として生きようと、そう思っておりまする」


 「ほほほほほほ……! 足利武蔵守は面白い者じゃの。

 今ならば朕に征夷大将軍位を求めてもおかしゅうないというのに。

 かつて後醍醐帝には言うたのであろう?」


 「あの時は北条を打ち倒す為の正当性の為に欲しただけでございます。

 今は必要ありませぬので、それがしは欲してもおりませぬ。

 その時、その機によって行うべき事は変わります。

 今は必要ありませぬ」


 「そうか……相分かった。

 で、あれば一つずつ詰めていこうかのう。

 為さねばならぬ事は多く、骨が折れそうじゃ。

 とはいえ(あまね)く民の為にも励まねばな」


 「「「「「「「「「「ハハッ!!」」」」」」」」」」


 院の下でとにかく普通の(まつりごと)にせねばな。

 そうせねばいつまで経っても、あの面倒な仕事が続く。

 帝の親政などと言うて、全てを帝が決めようとするからおかしな事になるのだ。

 帝とはいえ所詮は一人、出来る事など限られておる。


 だからこそ人を配して上手く使わねばならんのだ。

 オレはかつて鎌倉に住んでいた、故に(まつりごと)の事はよく知っておる。

 人が多く必要な事もまた知っておるのだ。ずっと見て聞いて、やってきたのだからな。


 だからこそ、帝の親政が失敗なのは分かっておった。

 鎌倉で北条がやっていた事も、結局は多くの者を使うこと。

 つまり上に立つ者というのは、下の者を上手く使う立場なのだ。

 それをせずに全て己で決済しようとするから、結果として仕事が遅れてなかなか進まぬ。


 全てに帝の決済が要るなどとすれば、そうなって当たり前であろうに。

 そもそも(まつりごと)がいったいどれだけ多岐に渡ると思うておるのだ。

 それを帝御一人で決済していては間に合わぬに決まっておろう。

 当たり前の事ぞ。


 そんな事をするから誰の為にもならんのだ。

 後醍醐帝は理想を掲げ、理想に溺れた者でしかないわ。


 「理想を掲げ理想に溺れる、か。

 確かに聞いた話を(かんが)みるに、そうであろうと思うわ。

 足利武蔵守が申す通り、上にある者は下々が円滑に動けるようにしてやらねばならん。

 それこそが上に立つ者の正しい在り方であろうな」


 「ハッ! それは戦でも変わりませぬ。

 大将の為すべき事は、下の者達が功を上げられるように差配する事でございます。

 自ら馬を駆って攻める事ではございませぬ故に。

 とはいえ新田はようやっておるようですが」


 「ふむ。

 となると新田左兵衛(かみ)と後醍醐の帝は似た者同士とも言えるのう。

 本人らは左様な事など思うておらぬようであるがな。

 ほほほほほほほ………」


 「院。少々笑い過ぎでございまするぞ」


 「ほほ、すまぬの。とはいえ言われれば一々納得する事ばかり。

 後醍醐の帝は下に足利武蔵守を置きながら、上手く使う事が出来なんだという事よ。

 まあ、あのような者どもを(はべ)らせておってはな、上手くいく事であっても上手くいくまい」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」


 その事に関しては院を(たしな)めたりせんのだな?

 となると後醍醐帝の最大の失政は、愚か者を(はべ)らせた事か。

 当然と言えなくもないが、左様な事をして上手くいく事などあるまいな。

 オレも気を引き締めねばならんであろう。


 「院。

 豊仁親王殿下に帝の座に就いていただくのは良いのですが、三種の神器が……」


 「そうであったな。

 足利武蔵守、三種の神器は後醍醐の帝が持って出てしまった。

 なので取り戻してくれぬか?」


 「かしこまりました。

 おそらく京の都に戻る事と引き換えであれば、和議が成立すると思われます。

 幾度か向こうにおる新田が攻めて来るとは思いますので、御迷惑を御掛け致しまするが……」


 「そのような些事など構わぬ。

 ここは東寺であるし、そなたらもおる故にな。

 それに向こうは京の都に戻ろうと必死に攻めてくるであろう。

 幾度か戦をするのは已むを得ぬ。

 戻るにしても、何もせずに戻る事など出来まいて」


 「ありがとうございまする。

 それならば三種の神器を取り戻す事は可能です。

 こちらからは(いたずら)に攻めず、近江で睨み合いという形が望ましいでしょう」


 「ふむ。それならば後醍醐帝の面目も傷つくまい。

 それでよかろう」


 「ハハッ!! それでは早速」


 「うむ。そなたの手腕に期待する」


 「ハッ!」


 そしてオレは院の下を辞した。

 話し合いとしてはこれから何度も行う事になるので、今はあの程度でよかろう。

 それよりも大事なのは三種の神器か。

 しかしな………神器という割には軽々しく持って逃げるのはどうなのだ? としか思わん。


 三種の神器が無ければ新たな帝には成れぬのかもしれぬが、まるで人質ように扱われておるぞ。

 神々に対して無礼極まりない扱いだと思うのはオレだけか?

 かつての平氏も同じ事をしたらしいが、そんな罰当たりな事をするから滅ぶのだとしか思えぬわ。


 何故(なにゆえ)それが愚かな事だと思わぬのであろうか?

 何故(なにゆえ)それが代々継いできた歴代の帝を侮辱する事だと思わぬのであろうか?

 軽々しく扱うという事は、その価値もまた軽々しく扱うという事ぞ。


 己が継ぐ立場であれば好きにしてもよいと言うのか? 左様な事などあるまい。

 帝の象徴こそが三種の神器であろうに。

 それを軽々しく扱うなど、オレには理解できん。

 むしろ神社でも作りて(まつ)るべきであろうに。


 帝になる際には、そこに参拝いたして帝になられればよい。

 オレなどはそう思うがな?

 何故(なにゆえ)に軽々しく持ち運べるようにしておるのか、訳が分からぬ。

 そこらの宝物と同じ扱いなのか?


 ………流石にそのような事はあるまい。

 仮にそうであれば、そこまで大事な物ではないという事になってしまうぞ。

 幾らなんでもそれはない………と思いたい。


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