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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 「えい! えい!」


 「「「「「「「「「「おーーーーっ!!」」」」」」」」」」


 「えい! えい!」


 「「「「「「「「「「おーーーーっ!!」」」」」」」」」」


 新田との戦は勝った。

 おそらく新田は京の都へと逃げ帰ったはずだ。

 その後どうするかだが、ほぼ間違いなく後醍醐帝は比叡山に逃げ込むだろう。

 いや、坂本の町か? どちらにしても連中を追い出せた以上、我々は入京するだけだ。


 そして光厳院の下に参内いたし、新たな帝を立てて頂かねばならぬ。

 光厳院が<治天の君>になられるであろうが、そこはオレの(あずか)り知らぬところだし如何様(いかよう)でも構わん。

 オレはこの乱れた世が鎮まればそれでいい。


 皆の顔も笑顔だ。

 ここで勝ったという事は、もはや我らを(さまた)げるものは無いからな。

 ここから進んで行き、都の周辺で大軍を用意できる者などおらぬ。

 もしおるならば、既に新田の軍に加わっておったであろう。

 むしろそうするのが当然だしな。


 新田の軍が大敗して逃げ帰った以上、我らを止められる軍は無い。

 あと残っているのは北畠卿の率いる陸奥の軍か。

 北畠卿の力量の判断がつかぬが、侮っていい相手ではなかろう。

 楠木殿よりは下であろうが、それでもそれなりの力量は持つはずだ。


 少なくとも、陸奥の者達を統率できておるみたいだしな。

 で、ある以上は警戒しておかねば。

 それより兵を休めたならば、京の都へと進軍しよう。

 兵達の油断だけは無いように、出発前に(いまし)めておくか。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:新田義貞



 京の都へと馬を飛ばし、なんとか辿り着いた。

 途中で弟の義助とも会い、他の家臣達と合流する事も出来た。

 なので必死になって京の都まで駆けて来たのだ。

 都に入った我らはすぐに内裏へと(おもむ)く。

 急いでお伝えせねばならん。


 ワシは早急にお伝え致さねばならぬ事があると伝え、目通りを願った。

 すると、帝はすぐにお会い下されるとのこと。

 流石にワシらが慌てて駆け込んでくるという事の意味は御理解なされておられるようだ。


 「新田よ、危急の目通りとの事だが………。負けたか?」


 「ハッ! 大敗致しましてございます。

 真に申し訳ございませぬ」


 「大敗か………。して、楠木は?」


 「…………楠木殿の軍は立派に戦い、最後は弟御と共に刺し合って自害致したと聞き及んでおります」


 「な、なんと………

 楠木よ、何故(なにゆえ)あの時に朕の話を聞かずに行ったのだ。

 何故(なにゆえ)じゃ、何故(なにゆえ)に朕を置いてゆく……」


 「帝………

 こうなれば叡山へと退くしかありませぬ。御動座を」


 「最初から楠木の申す通りに動座しておくべきであったわ。

 そして足利の軍を都に入れて挟み撃ちにしておればよかったのだ。

 にも関わらず、朕はこのような者どもの言に乗ってしまった……」


 「帝!! ここは叡山に退かねばなりませぬ!! 早く御動座を!!!」


 「わ、分かった。すぐに動座致さねばならぬの。

 新田と脇屋よ、護衛を致せ」


 「「ハハッ!!」」


 楠木殿は帝に上奏致したと聞いておる。

 帝には叡山に退いて頂き、ワシと共に京の都に入った敵軍を挟み撃ちにするというものじゃ。

 確かに京の都は守り難く攻めやすい。

 真に京の都を守りたければ、一度敵に奪わせた方が良いのは間違いないのだ。


 にも関わらず、坊門とかいう公家が邪魔をしたと言うておったな。

 先ほど声を荒げた公家がそれか?

 戦の事も知らぬ者が余計な口出しをするから、楠木殿のような名将が散る羽目になるのだ。

 こやつらが一番要らぬのは間違いない。


 かつて玉藻に操られておった時にも似たような事を考えたが、やはり公卿や公家は要らぬとしか思えぬ。

 もちろん全ての公卿や公家が要らぬ訳ではなかろうが、しかし仕事もしておらぬ公卿や公家など要るまい。


 そも、京の都で長きに渡りしっかりと仕事をしておるのは安倍家と加茂家だけであろう。

 陰陽寮を指揮し、未だに妖怪と戦い続けておる。

 安倍家は潰えてしまったが、現在は土御門家として残っておるからな。

 そして加茂家は未だに存続しておる。


 確か鹿野家から養子を入れて、加茂家の娘との間に子を成したはずだ。

 元々加茂家から嫁入りした方がおられるゆえ、鹿野家と加茂家は縁戚と聞く。

 安倍家との間にも嫁いだ方はおられるが、その方は大妖怪だと聞くしな。

 それでは血は残るまい。


 もちろん大妖怪との子はおるのだが、人間の子はおらぬと聞いた。

 その後は安倍家から鹿野家に嫁入りした女子はおらぬらしいし、それなら安倍家が潰えるは致し方なきこと。

 嫁御を送っておれば、安倍家も養子で残せたであろうに。


 それはともかくとして、出来得る限り早く準備を整えていただきたいものよ。

 着の身着のままで逃げるが正しいというのに、儀式だ祈禱だと下らぬ事をするのだ。

 逃げ切る事が何より肝要だという事を分かっておらぬのかと思うわ。


 その待たねばならぬ間に、兵を休ませるのと武具などを揃える事をしておかねば。

 兵糧も集められるだけ集めておくか。

 おそらく又太郎様は追撃をされぬと思うが、他の諸将がどう進言致すか分からぬ。


 護衛である以上は帝の御身をお守り致すが、鬱陶(うっとう)しい公家どもなど要らぬぞ。

 出来れば都に置いていってくれぬものか。

 あのような者どもを(はべ)らせるから、帝の親政が上手くいかぬのだとしか思えん。


 そもそも大内裏の事も<二十分の一税>の事も、果たして本当に帝が言い出した事なのか?

 もしかしたら公卿か公家が入れ知恵致したか、煽ったのではあるまいな?

 「親政を為される帝には、それに見合う御殿が必要です」とかなんとか……


 あの腐った公卿や公家どもならば言いかねん。

 ワシではなく義助も同じ事を思うであろうよ。


 「兄者。とにかく今の内に残った兵を休ませる。

 あの大敗で散り散りになり、残っている兵は六千ほどだ。

 ようこれだけ残ってくれたと思う」


 「そうだな。

 残った兵には酒でも飲ませて(ねぎら)ってやらねばならん。

 逃げた者達は捕らえられておるか降伏いたしたであろうしな。

 賊になっておるかもしれぬが………そこは又太郎様に何とかしていただこう。

 そこまで手なぞ回らんしな」


 「仕方ない。

 これから帝の護衛で叡山へと行かねばならんのだ。

 我らが留まるは坂本の町であろうがな。

 それはともかくとして、真に兄者なのだと改めて思うわ」


 「すまなんだな義助、迷惑をかけた。

 ワシもあの時に玉藻に乗っ取られてしまい、以後は表に出る事も出来なんだのだ。

 ようやっと玉藻めを打ち倒す事が出来たが、その時には既に遅かったわ。

 ワシも未だに何故倒せたのかが分からんがな」


 「その玉藻とかいう妖怪狐に何かあったのかもしれんな。

 生憎と自分はそのような名の妖怪に心当たりは無いが」


 「ワシもだ。

 しかも今は妖怪の事を調べておる場合ではない。

 帝の護衛を致して叡山まで(つつが)なく行っていただかねばならぬ。

 ………それにしても、西国の者達の数が多かったな」


 「それだけ帝の<二十分の一税>に皆が反発しておるのだ。

 何度も足利様や楠木殿が諫言(かんげん)をされておったのだがな、帝はお聞き入れになる事は無かったと聞く。

 それが今になって大きな力となっておるのだ」


 「民は国の(もとい)と申すのにな。

 何故(なにゆえ)その(もとい)を壊そうとされるのか理解できん。

 それに………大内裏の再建や<二十分の一税>は、果たして本当に帝が言い出された事なのか?

 ワシには疑いしかないのだがな」


 「それは………」


 やはり義助も同じ事を思うておったか。

 帝の御親政の割には、あれだけ異様に民に負担を掛けるのだ。

 あれだけが際立っておかしい。

 となると、帝に良からぬ事を吹き込んだ者がおる。

 そう考えるのが自然というものよ。


新作として、空想科学カテゴリに「悪魔が来たりて進歩する」という作品を新たに投稿しました。宜しければ、御一読下さい。

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