0213
Side:足利尊氏
オレ達は九州から船で畿内へと戻ろうとしておる。
その際にかつて平氏に助力して源氏と立派に戦ったという、瀬戸内の水軍衆も味方に付ける事が出来た。
おかげで結構な者達を畿内へと運ぶ事が出来たので助かる。
大軍が歩いて移動すると時間が掛かるからな。
そうやって移動していくと厳島にて、密かにこちらに接触してきた者が居た。
誰かと思ったら光厳院からの使者である三宝院という方らしい。
なんの用だと思ったら、新田討伐の為の院宣であった。
オレにとっては新田討伐だろうと何だろうと構わなかったのだがな。
大事な事はオレ達が正当であるということ、それを担保できるなら何でもいいのだ。
どのみち新田が妖怪に操られておる事は知っておる。
ただしそれを言っても遅いし、もはや取り返しのつかぬ形になってしまっているのだ。
今更オレも許すとは言えぬしな。言えば家臣達が暴れる。
いわば足利の旗の下に集まってくれておる者達なのだ。
その者達の為にも、新田を許すという事はあり得ん。
ただし許さんのは新田小太郎だけで、新田一族そのものではない。
そもそも新田という家を完全に滅ぼせば、他の新田一族や一門がオレの敵に回る。
流石にそれは出来んし、なによりオレにする気が無い。
そもそも新田小太郎が養子なのだから、他の一族から再び養子を入れれば済む話だ。
新田小太郎の子らが継ぐのは許さんが、他の一族の者が養子に入って継ぐのは認める。
ただし里見家からは認めぬが、これは仕方あるまい。
それが落としどころかと船の上でボンヤリと考えておると、黒金が水兵という蛇を使って魚や貝を獲っておった。
何をしているのかと思うが、あれよあれよと言う間に増えていくな?
焼いたら美味そうだが、船で煮炊きはできん。諦めるしかないか。
そう思っていたら、黒金は魚を捌いて刺身にしてしまった。
そのまま持っていた醤油をつけて美味そうに食うておる。
………すまん、オレにもくれんか?
「好きに食べればいいと思うよ?
それにしても新鮮な魚は美味しいねえ。
獲れたてはやっぱり違うよ。魚の身はこうでなくちゃ」
「新鮮だとプリプリしてるのよ。
大分前に黒金と一緒に海に行って獲ったけど、やっぱり新鮮な物に限るわ。
猪の肉とかは時間を置かなきゃいけないのに、魚は新鮮な方がいいのよねー。
ちょっと不思議」
「影兵が綺麗にしてくれておるから、生で食べても問題ないのがいい。
それにしても新鮮な海の幸は美味いな。
これだけで英気が養えると思うくらいだ」
「そうですね、やはり魚は美味しいです。
肉も美味しいですけど、新鮮な魚は滅多に食べられませんからね。
特にここまで新鮮なのは、海に居ないと無理ですし」
「それだけでなく、ここまで綺麗なのは黒金殿の霊兵だからでは?
蛇なのは驚きましたけど、あそこまで大きいと普通の蛇には見えませんね。
兵士達も慣れたのか騒がなくなりましたよ」
「それは魚を貰っておるからではないか?
早速とばかりに短刀で無理矢理に捌こうとしておるぞ。
まあ、どうしようと奴らの勝手ではあるし、下手に切って残った身も食べつくすだろうがな」
「もったいないですし、骨の近くの身って美味しいんですよね。
煮炊きする場合には意図的に残すらしいですけど」
「水から煮込んで出汁をとるからね。
骨の近くの身は良い出汁になるから、食べるのもいいけど汁物の出汁の方が良いかな?
最後は雑穀を入れて雑炊にするのが一番だよ」
「残っている汁は美味いからな。
鍋に入れた様々な具が出汁になっておるし。
昔黒金が作ってくれた時には「どうなのだ?」と思ったが、食べてみると美味かったのを思い出す。
結局、父上が一番食べて皆から怒られておったな」
「でしたね。
あの時にはまだ父上が生きておられましたし、北条家もあそこまででは無かったのですが………」
「そうだな」
とはいえ、既に妖怪である玉藻か、その下っ端に憑かれておったのは間違いない。
少なくとも外戚の安達に憑いておったのだ、如何にもならぬ。
残念ではあるが、そうなるのは避けられなんだ。
あの頃は左様な事をしておる者がおるなど、思ってもみなかったのだ。
警戒しておらなんだのだから、狐憑きだとは思わなかったであろう。
その事は黒金の責でもないしな。
誰もが分からなんだのだから、仕方がない。
その一言に尽きる。
…
……
………
播磨の国にて軍の大半を下ろし、向こうの軍を仙太郎に任せる。
そしてオレ達は船に乗ったまま東へと進んで行く。
船に大軍を乗せておると、沈んだ時に多くの兵を死なせてしまう。
こちらは黒金がおるのだから、多くの兵がいる必要は無い。
黒金の猛兵に矢を射ってもらえば十分な牽制と攻撃になるし、後はそれをもって仙太郎の方を有利にするだけだ。
そうすれば敵を瓦解させられるだろう。
その前に敵の水軍を潰さねばならんが、これもそこまで苦労はすまい。
それ以上は進んでみぬ事にはわからん。
…
……
………
進んできて驚いたが、どうやら敵は水軍を用意しておらなんだみたいだ。
オレが九州から攻め上る事ぐらい分かっておろうに、船で来るかもという考えすら無かったのか?
流石にそれはどうかと思うぞ。
おかげでオレ達は楽だが、いったい敵軍の大将は誰だ?
この間抜けさは新田のような気がするが……
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Side:足利直義
兄上と分かれた我々は、京の都を目指して一路東進する。
そして福島で敵軍の先鋒との戦いになった。
とはいえこの戦では私達の勝利であっさりと終了。
理由としては相手の先鋒は数も少なく、主力と言えるこちらと戦える数ではなかった。
新田もいなかったようだが、後ろの方には居たのかもしれん。
どのみち敵は被害を大きくするのを避け、早々に退却していったからな。
ある程度は追撃をさせたものの、こちらの足並が揃わぬ方が問題なので、そこそこで止めておいた
その後は休憩を挟んで更に東進をしていく。
そして湊川までやってきた時、布陣しておる敵軍を発見した。
………どういう事だ?
あそこの地名は分からぬが、何故に三方を海に囲まれた岬に陣を敷いておるのだ?
あれでは海から好き勝手に攻められるぞ。
意味が分からぬが、また妖怪憑きの新田が暴走したのか?
楽でいいとはいえ、変な事をする。
弟の脇屋はいるだろうが、ヤツは指摘しなかったのか?
このままでは不利だと普通は進言致すがな?
弟も暴走しておるのかもしれん。
とはいえ敵は敵。容赦はせぬ。
私達は湊川に陣取る敵に対して攻撃を開始するも、近づいて初めて分かった。
目の前の軍は、あの楠木殿だ。
……なるほど、だから新田は包囲されるという意識が無いのか。
楠木殿ならば、という思いがあるのであろうな。
とはいえ妖怪が憑いておかしくなっておる新田が、そのような考えをするのか?
何ともおかしな話だ。
それはともかく兄上の船が敵を牽制するか、上陸して背後から強襲するまでは慎重に戦おう。
相手は楠木殿だ。慎重に慎重を重ねるくらいでいい。
そうでなければ何をされるか分からないからな。
平地で大軍を使う戦には弱いと聞くが、それは罠を使った籠城戦と比べての話だ。
なにより今の戦で弱いと言う保証など全く無い。
「敵を恐れても、侮ってもならぬ」。
父上が言われていた事だが、まさにその通りであろう。
私の為すべき事は兄上が勝つまでの時を稼ぐこと。
その事を違えて功に逸れば、必ずその隙を突かれる。
なので私は前に出ん。受け止めながら敵を削る。
ここで一番良いのはそれだ。
とはいえ楠木殿の軍も同じ弓。
簡単ではないが、ここは踏ん張ってみせる。




