0210
Side:新田義貞
おのれ、足利め! そのまま西国で落ちぶれて死ねばいものを。
なぜに天はヤツを生かすのだ。
あのような薄汚れた者など、この世に生きるに相応しくはない!
九州の愚か者どもも何を考えているのやら。
しょせんは足利程度を担がねばならん田舎者か。
ワシの体調も回復した以上、足利もまとめて叩き潰してくれようぞ。
まずは手始めに播磨の国は白旗城の赤松を根切りにしてくれる!
「兄者、意気込んでおるところ悪いのだが、白旗城はなかなかの堅城と聞いておる。
そう簡単には攻め落とせぬであろう。
無理攻めしても仕方ない、駄目ならば退こう」
「何を言い出すのだ義助!
ワシが病などで寝込んだばかりに足利を生かしてしまったのだ。
ここで赤松を一蹴し、足利に止めを刺さねばならぬのだぞ!
そのような弱気でなんとする!」
「いや、弱気だどうだという話ではない。
先行した者達からも堅城であり、簡単には攻め落とせぬと文が来たではないか。
ならばそれを踏まえて策を練るしかあるまい」
「策など考えずともよい。ここは一気に突き抜けてしまうべき時ぞ。
これ以上、足利なんぞというのを生かしておいてはいかんのだ! 確実に始末せねばならん。
何よりこれは帝の命ぞ」
「それは、そうだが………」
ふん! ワシが病に倒れたから臆病風にでも吹かれたか?
尚のこと華々しい勝利で、新田ここにありと示さねばならんな。
弟である義助でさえコレだと、他の諸将や兵も臆病風に吹かれておるかもしれぬ。
そのような者らなど軍と言えぬわ。唯の烏合の衆ぞ。
ここは立派に打ち勝ち、烏合の衆を軍にせねばならぬ。
…
……
………
「クソッ!!!」
ドガッ!!
「何故あの程度の城が落ちんのだ!
たかだか千の兵が篭もっておる程度の城であろう!!
二万もの兵が居て、なぜに落とせんのだ!!」
「罠なども含めて色々とやられておる。
津々浦々の武士も楠木殿に注目しておったし、調べてもおった。
おそらくそれで罠を多数使っておるのだろう。
迂闊に攻めれば罠で殺されてしまうとなれば、簡単には落とせん」
弟の義助がそう言いつつ、ワシが蹴り飛ばした床机を戻す。
くっ! 義助は何も分かっておらぬ。
元々からして士気は低いのだ。
ここで素早く白旗城を落とし、士気を上げねばならんというのに。
「ええい! これでは足利に時を与えてしまうだけぞ!!
そうなれば息を吹き返してくるではないか!!」
「兄者。既に足利様は息を吹き返しておる。
九州では三千の兵で、二万を超える軍勢に散々突撃致して瓦解させたと伝わっておるのだ。
その武勇、流石は足利家の方であるとな。
そうなった以上は仕方あるまい。
怒っても当たり散らしても、状況は良うならぬ」
「分かっておるわ! そのような事ぐらい。
ワシは何故こうも上手くいかんのかと言っておるのだ!
天意はワシらにあるのだぞ。
にも関わらず、ここまで上手くいかぬのはおかしかろう!」
「兄者………
とりあえず今日はもう終わりだ。
夕日も出てきておるし、夕餉にせねばならん。
兄者も食べて落ち着くとよい」
「ふぅ……! 確かに今日の攻めはこれで終わりか。
致し方あるまいな」
これ以上は攻めさせても意味は無い。
夜も続けさせたら、諸将から反発を受けるだけだ。
已むを得ぬな。
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Side:脇屋義助
兄者の所を辞してきたが、あそこまで荒れておるとはな。
余程に足利様が息を吹き返した事が気に入らぬらしい。
新田家は兄者についていくと決めたようだが、それも已む無くそうなっただけだという。
既に新田家が持っていた世良田の町は他の者が治めており、新田荘の土地も半分以上が奪われたそうだ。
新田家も引く事は出来ぬのだろうが、その程度で済ませている足利様が怖い。
最早いつでも新田家を潰せるはずだが、にも関わらずせぬ。
自分の脇屋家も手出しは受けておらぬと聞く。
普通ならば敵対したのだ、攻められていてもおかしくはない。
にも関わらず、足利家から攻められたとは聞かぬ。
いったいどういう事であろうか?
なぜ裏切者の家を生かすのだ?
考えても答えは出ぬ以上、捨て置くしかないか。
「報告。
白旗城の様子は未だ意気軒高、士気が落ちたようには感じませぬ。
やはり足利様の事があるからでしょう」
「だろうな。
足利様は九州をまとめあげ、こちらに向かって進んできておられよう。
そして西国の者達も糾合されるはずだ。
総勢が何万になるかは分からぬが、相当の大軍勢になるやもしれん。
それがあるからこそ兄者も焦っておるのであろう」
「しかし、焦ったところで……」
「ああ、焦って上手くいく事など何も無い。
もしあるなら皆が焦るであろうよ。
しかしそんな事は無いから、常に冷静で居ろと言われるのだ。
兄者もそれは分かっておるはずなのだがな、足利様の事となるとアレだ。
いったい、なぜであろうか……」
不思議な事に楠木殿に対しては何もないし、他の諸将に対しても無い。
あるのは足利様と足利家に対するものだけだ。
家臣も不思議がっておるが、何故あそこまで足利家を敵視するのであろう。
確かに兄者が鎌倉攻めを行ったは事実だが、足利家の名がなければ兵が集まっておらぬのも事実。
さらに言えば、足利様から十分な役職に推しても頂いた。
褒美も十分に貰ったというのに、それでも怒りが無くならぬのはおかしい。
完全な逆恨みにしか思えぬし、現に他の方々も兄者は敬遠しておられる。
帝やそれに近き方々は、足利様への牽制の為に兄者を使うておるだけ。
それが余計に腹立たしいのかもしれぬが、なれば最初から武者所の仕事を正しくしておればよかったのだ。
そうすれば兄者の名が落ちる事などなかったはず。
それが護良親王殿下を焚きつけるような事ばかりしておったのだ、煙たがられても仕方あるまい。
そうしたのは他らぬ兄者であろうに。
まあ、心の中で愚痴を言っていても仕方ない。
夕餉をとって、さっさと寝よう。
考えていても解決などはせぬ。
…
……
………
「今日もか!! 何故あの程度の城に、ここまで手こずるのだ!
赤松め、何かおかしな陰陽術でも使わせておるのではあるまいな!
………はっ! もしかしたらワシらは幻の城を攻めておるのでは!?」
「兄者。幻などという事は無い。
前にも言うたが、罠が多数あって迂闊に攻められんのだ。
向こうもそれは分かってやってきておる。
しかし城を落としていかねば、背後から奇襲を受けてしまう。
ここは腰を落ち着けて攻めるしかあるまい」
「腰を落ち着ければ落とせるとでも言うのか!!
そのような事などあるまい! 動かねばならん。
自ら動く者にこそ勝利は与えらえれるのだ。
天は自ら動く者しか助ける事は無い」
「兄者、迂闊に攻めれば余計に兵が死ぬだけぞ。
今までそうであったろうに、だから落ち着けと言うておるのだ」
「五月蠅いわ!
これではまた京の都の公家どもがワシを嘲笑うは確実。
お前は笑われて納得せよとでも言う気か!?
武士が舐められておるのだぞ!!」
「あの方々には何を言うても無駄じゃし、何をやっても無駄じゃ。
なぜなら、どのような功を上げても認めんのだ。
二言目には「野蛮な武士は」と言うだけ。
だからこそ右から左に聞き流せと言うたのだ」
「武士が舐められておるのだ! と言うておろうが!!
舐められたら負けなのだ、武士はな!!」
「言いたい事は分かるが、公卿や公家の方々など生まれだけで見下してくる。
だからこそ見返す事などできんのだ。
向こうは何をやろうと見下してくるだけ。
こちらを舐めて来ない事などほぼ無いのだ」
「………」
兄者は未だ納得できぬようだが、公卿や公家の方々などそんなものよ。
我らを見下して喜んでおる猿だとでも思えばいいだけだ。
もちろん口には出せぬがな。




