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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0021




 Side:黒金くろかね



 「塩を馴染ませておけば綺麗に臭味が取れるんだな。

 私が作っていた時より美味しい魚になっている。

 それに肉からいい出汁が出ているのか、それが合わさって美味しいな」


 「そう? なら眼の言う通りにして良かった。

 それより塩を使っちゃったけど大丈夫?

 塩が沢山あるのかどうかは知らないけど」


 「塩はそこまで高くないから大丈夫だ。

 かつては塩を買うのも大変だったらしいがな。

 だが稀人まれびとが簡単に塩を作る方法を伝授してくれたおかげで、塩が沢山作れるようになったらしい」


 「また稀人? 本当に何処にでも出てくるね。

 まあ、その御蔭で美味しい物が食べられるなら、ありがたいんだけどさ」


 「そうだな。

 それまでは職人が十年以上かけて塩作りの技を身につけていたらしいが、今は技など無くても簡単に作れるらしい。

 その御蔭で塩作りが盛んになって、結果的に安く出回るようになった」


 「ふーん……。

 まあ、塩が入っていたほうが美味しく感じるから、塩が安いのは良い事だね」


 「ああ。それ以外にも塩で干し肉なども作っているしな。

 それは塩肉と言われているが」


 「しおにく?」


 「塩肉とは沢山の塩に漬け込んだ肉の事でな、長く歩いたり運んだりする者達が買う食い物だ。

 長く置いていても腐らないので重宝されておるらしい。

 それよりも古い干し肉は、塩を使わずに小さく切って干しておったそうだ。

 そっちの方が干し肉と言われておる」


 「へー………うん? もしかして塩と肉が一緒になってるから、長く歩く人達が買うの?」


 「うむ。何日も掛けて歩き、そうやって京の都に運んでくるのだ。

 中には舟を使って遡ってくる商人あきんども居るよ。

 今日行った川とは違う、もっと大きな川だ」


 「ふね?」


 「舟とは川の上に浮いておる木で出来た物で、その上に乗って移動出来るのだよ。

 上ってくるのは大変なのだが、下るのは簡単に出来るそうだぞ。

 上る時は川の流れの逆だから、舟を移動させるのは大変なのだそうだ」


 「そうなんだね」


 「そういえば陰陽師の中で、舟を手伝っておる者も居るらしいな。

 舟が運んでくる荷は塩だったり食う物だったりも多い。

 それらが襲われんようにと、川を遡らせる時には式神を使うと聞く」


 「式神を?」


 「うむ。舟に縄を掛け、式神に縄を持たせて引かせるそうじゃ。

 宗之助そうのすけが使っておった<赤鬼>があったろう?

 あれを使えば舟を引く事は十分に出来るからな。

 あれはそれだけ力強いのだ」


 「そうだったんだ。

 古兵に切られて死んだから、あんまり強くないんだと思ってたよ。

 ところで斯明かくめいは<赤鬼>を使わないの?」


 「私も使えるが滅多な事では使わんな。

 <赤鬼>を使える陰陽師はそれなりに優秀なのだ。

 私が使うと五月蝿い者も居てな。

 なので私が一番使うのは狼だ。次に烏となる」


 「それはなんで?」


 「式神の狼も鼻が良くてな、妖怪はともかく人間ならば臭いで調べられるのだ。

 近くに居ると鳴いて知らせてくれたりする。

 それと烏は飛んで確認してくれるので、妖怪を見失わずに済むのだ。

 どちらも優秀だぞ」


 「成る程。空から見れば何処に居るか分かるもんね。

 そういうのは霊兵には出来ないから凄いや」


 「それぞれ一長一短があるという事だな。

 ただし霊兵使いは霊兵しか使えぬから、確かに霊兵を使える者が式神を使う修行をするのも分からぬではない。

 しかし霊兵も修行をすれば強いのだと思うがな」


 「そうだね。

 狼の霊兵も居るんでしょ?

 もしかしたら修行すると沢山出せるようになるかもしれないのに、もったいない」


 「そういえばそうだな。

 もしかしたら、今までの霊兵使いは然して強くならないから止めたのかもしれん。

 一体一体は弱くとも沢山出せるとなれば話は変わるぞ? 数は強さだからな」


 「あの道丹の仲間達も弱かったけど、一斉に襲い掛かってきたら対処できなかったし……。

 数が多いって確かに強いね。

 まあ、神様の御蔭で三体出せるようになったけど」


 「そうだな。三体ならば早々に負ける事もあるまい。

 とりあえずは安心していられるな。

 さて、夕餉も終わったし、片付けをしたら寝るか」


 「うん。夕餉を食べると眠たくなってきたしね。

 昨日は眠たくなかったのに」


 「昨日は日暮れまで寝ておっただろう。それでだ」


 「あ、そういえばそうだった」


 僕は鍋とか椀とか箸を綺麗に洗い、その後はいつもの所に置いて布団を敷く。

 夕餉の途中で斯明かくめいが火を着けて明かりにしたけど、それは竈に残っていた火を使っていた。

 灰を掘り出していたけど、あれは何だったんだろう?


 「あれは熾火おきびだ。

 簡単に言うと、まだ燃え残っている物を灰に埋めてしまう訳だな。

 実際には火は消えていないらしく、ゆっくりゆっくり燃えている。

 それをちょっと取り出して火を着けただけだ」


 「へー……」


 「火を着けるのは面倒だからな。

 最悪は符術の【鬼火】で無理矢理に火を着けてもいいのだが、それはそれで勿体ない。

 無駄に符を使うから、あまり褒められた事ではないのだよ」


 「そういえば符術って言ってたね、僕はよく分からないけど」


 「符術には【鬼火】の他に【風穿】や【堅土】に【封吸】などがある。

 【風穿】は風の槍を妖怪にぶつけるもので、【堅土】は土の塊をぶつける。

 【封吸】は少し難しく、呪いなどを吸って封じ込める符術となる。

 更にそれを祓い清める【祓魔】の符術もだ」


 「いっぱいあるんだね」


 「少しずつ覚えるといい。

 まだまだ時間はあるのだし、焦る必要はないだろう。

 黒金くろかねの場合は、難しい【封吸】と【祓魔】を先に覚えた方がいいかもしれん。

 霊兵が強いからな」


 「呪いなんて分からないし、どうしたらいいかも分からないもんね。

 確かにそっちの方がいいかも」


 「ま、それもこれも明日からだ。

 そろそろ明かりを消すから寝るぞ」


 「はーい」


 斯明かくめいが「フッ」とやって明かりを消した。

 何でも魚の油を使っているらしく、これも稀人まれびとが伝えたらしい。

 他にも油が採れる<ひまわり>とかいう花を育ててる所もあるんだって。


 その<ひまわり>という花は種の中身が食べられるらしく、たまに売られてるって聞いた。

 売ってたら買おうっと。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 次の日も朝餉を終えてから見回り。

 つや葛葉くずはも一緒に居るけど、大丈夫なのかな? 暇じゃない?


 「別に暇じゃないわよ? それに夫婦めおとになるまでに稼いでおきたいしね。

 見回りを素早く終えて、今日は都の外に退治しに行きましょう。

 どのみち妖怪は減らさなきゃいけないしね」


 「そうね。昨日と違って簡単に見回りましょうか。

 他の陰陽師の事もあるし、私達が沢山退治しても怨まれるだけだしね。

 流石に御当主様もそんな事は言わないでしょう。

 私達に呪いを掛けかねないもの」


 「人間の呪い如きが、わたしに効いたりはしないけど、貴方達には効くものね。

 注意しておくに越した事は無いわ」


 「昨夜、眠る前にちょうどその話をしたところです。

 黒金くろかねには【封吸】や【祓魔】を教えるのが先ではないかと」


 「ああ、確かにそうでしょうね。

 あんな兵士や大男が普通に出てくるんじゃ、【鬼火】なんかの普通の符術は後回しで問題ないでしょ。

 それ以外の特殊なのが先ね。

 符の作り方も含めて」


 「その辺りの基礎は斯明かくめい殿もですから、頑張って下さい」


 「ええ。ご指導のほど、宜しくお願いします」


 「僕も頑張るよ。今は見回りだけどね」


 「そうね。今はさっさと見回りを終えましょう」


 そう話してると、目の前から白とか黒とか茶色が混ざってるのが出てきた。


 「にゃーん」


 「あ、また猫? だけど色が違う。それに今日は左京に居る?」


 「三毛猫か。そこら辺をウロウロしておるのだろうな。

 猫は鼠を食うてくれるので、どこでも重宝しておる。

 なのでそっとしておこう」


 「うん、分かった」



 猫は鼠を食うから善いヤツなんだ。

 という事は鼠は悪いヤツなのかな?

 ……なんか鼠の妖怪とか出てきそう。


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