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Side:艶
私は服を脱ぎ川に入って水で少し洗った後、布に石鹸を擦りつけて泡立ててから、体を洗い始める。
黒金の霊兵が二体も居るのでバカが来ても問題なく排除できるだろう。
それより今の内に聞いておかなくちゃね。
「葛葉、貴女は本気で斯明殿と添い遂げるというの?
安倍家との事もあるからそこまで目くじらは立てないけど、貴女はこの先も生き続けるのでしょう?
私達は人間、いつかは死ぬのよ?」
「そんな事を言い始めたら、私達妖怪も何れは死ぬわ。
誰かに殺されてだけどね。
それは変わらないのだから、気にする必要なんて無いでしょ。
それにイイ男が居たら子が欲しい。そう思って何か悪い事がある?」
「そうハッキリ言われると私も反論し辛いんだけど……。妖怪って皆そうなの?
貴女みたいに明け透けというか、何と言うか……」
「わたしは明け透けではないわ、貴女達みたいに言葉で誤魔化したりしないだけよ。
雌が雄を求める、とても自然で普通の事でしょうに。
貴女達のように家柄がどうとか立場がどうのこうのと考えないだけよ。
だって意味が無いもの、わたし達には」
「まあ、確かに妖怪には関わりの無い事なのかもしれないけど、人間はそうじゃないのよ」
「それでいいんじゃないの? その結果イイ男を逃がしても、それは自分が悪いだけでしょ。
自分が望む男が居たら気にせずに突撃すればいいだけよ。
それが出来ないなら取り逃がしても文句を言っては駄目。
だってそれより大事な事があるから引いたのでしょうしね」
「………そうとも言えるのかしら?
家の事とか色々とあるし、泣く泣く嫁に行った知り合いも居るけど……それもまた自分で選んだと言えるか。
アレもコレもと得る事は出来ない。
家が大事なのか、自分が好いた人と添い遂げるのが大事なのか。
どちらかを選んだって事ね」
「中には家を出る女も居るでしょうから、全てが全て家の為に生きたとは思わないけどね。
陰陽師の女なんて特に自分の力で生きていけるし」
「まあねえ。妖怪を倒して霊玉を得て、それを売れば生きていけるわ。
最悪は地方に行って獣を狩ればいいだけだし、それを売れば十分に生きていける。
式神を使えば可能だもの」
「そういう事、だからこそ好きに選んでいいのよ。
別に家から祝福されなくてもいいじゃない、それだけ好いた男が大事なら。
逆にそこまでじゃないなら止めておきなさいって事ね。簡単な話よ」
「それを考えると、彼女達は家との縁を切りたくなかったから、言われた通りの相手に嫁いだとも言えるわね。
平民の女性なんて、もっと強かに生きてるし」
「本当にね。
仕方がないのでしょうけど、屋敷の中に閉じ込めておくからそうなるのよ。
外に出せばいいのに、出るのは陰陽師の女ぐらいでしょ?
それ以外の公卿や公家の女は屋敷に閉じこもったまま。
だから碌でもない事をするのよ」
「それに関しては何とも言えないわ。
私はそういう事をしたいとも思わないし、なぜあんなに権力争いが好きなのか理解できないもの。
奥の争いも同じだけどさ」
「奥の争いは安倍家でもあるけど、賀茂家でもあるんじゃないの?」
「もちろんよ。だからこそ理解出来ないのよねぇ、あの訳の分からない争い。
巻き込まれた方は迷惑でしかないのに、本人達は真剣に争ってる。
本当に嫌だわ。家臣の家でもやってるし」
「そういうのも先程わたしが言った通りよ、暇だからそういう事をするの。
忙しかったら、そんな事をする暇も無いわ。
屋敷に篭もるだけで暇を持て余しているから、そういう碌でもない事をし出すのよ」
体を洗い終わった私は川に入って綺麗に石鹸を洗い流す。
それにしても葛葉は綺麗、ちょっと反則じゃない?
その白い肌はなによ、幾らなんでもズルいでしょう。
「わたしは妖怪だって言ったでしょう? そもそも人間と違って日に焼けたりしないのよ。
わたしからすれば日に焼ける方が羨ましいけどね。だって何も変わらないし」
「それが羨ましいのだけれど、持てないものだから羨ましくなるのかしらね?
さて、髪を洗わないと」
髪を洗う間は会話も出来ないから暇だけど、この髪を洗っている時が一番無防備で危険なのよ。
まあ、今は黒金の霊兵が居るから大丈夫だけど、黒金が居なかったら……。
ち、近くで守っててもらわなきゃ駄目なのよね?
そ、そんな事を? 祝言を挙げる前に男性の前で肌を晒すの?
それはいけない! いけないんだけど、私と斯明殿がイケナイ事を……///。
「何を一人で身悶えてるのよ。さっさと洗いなさい、止まってるわよ?」
「わ、分かってるわ。大丈夫、まだそこまでいってないから!」
「は? また、訳のわから……ああ、そういう事ね。
何か想像してたんでしょう?
気持ちは分からなくもないけど、そんな事をしている暇は無いわよ。
後で好きなだけ妄想しなさいな」
「しません!!!」
「してたじゃないの。
それと大きな声を出すと斯明に聞こえるわよ」
うっ……。それはマズいわ、斯明殿にだけは聞かれたくない。
ササッと髪を洗って気付かれないようにしなければ。
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Side:斯明
黒金と二人で会話をしながら待っていると、お二人が終わられたのか声を掛けてこられた。
なので振り向くと、髪が濡れておるようでお二方とも髪を拭いておられる。
ただその所為か首元が見えておるのが、こう、なんとも……。
ハッ、いかんいかん。
そういう目で女性を見る事は良い事では無い。
自制せねば!
「あらら、止めちゃうの? 随分と煩悩が私達に向いていたようだけど」
「い、いえ。決してそのような事は「女が気付かないと思う?」ありませ……」
「気付くに決まっているでしょう? 特に煩悩塗れの視線は分かりやすいのよ?」
「も、申し訳ございませぬ!」
「別に謝らなくてもいいのに、ねえ?
祝言を挙げるという事は夫婦になるということ。
妻にその目を向けたところで問題なんてないわよ。
そういう事をする相手なのだしね」
「いや、あの、そうではありますが、黒金も居りますので……」
「僕がどうかした?」
「あ、その、だな。黒金にはまだ早いというだけだ。
お前も大人になれば学ぶだろう」
「ふーん……」
「黒金の場合は大人になる前に学びそうな気もするけどね。
それはともかく、そろそろ戻りましょうか。いい感じに誘惑できたようだし」
「まあ、そうね、それに関しては葛葉に同意せざるを得ないわ。
今までそういう目を向けられなくて残念だったけど、全く興味が無い訳ではないのが分かったし」
「あー、えー、そろそろ帰りましょう。
お二人を送って行かねばなりませんし、早い方がいいでしょう。
でないと夕餉が夜になってしまいます」
「それは駄目だよ、早く戻ろう!」
黒金が「戻ろう」と言ってくれたので、それに乗って京の都へと急ぐ。
私にああいう話をされても、何と返してよいか分からぬ。
勘弁してもらいたい。
確かに邪な目で見ていた私が悪いのだが、それにしても返答できぬ事を聞かれるのは困る。
なんとなく御二人には逃げた事がバレているようだが、ここは恥であっても逃げ一択だ。
黒金が霊兵を消し、都へと戻って行く。
特に何かがある訳でもなく上京まで戻り、先に艶殿を、そしてその後に葛葉殿を見送った。
その後はすぐに下京の家まで戻った私達は、すぐに夕餉の準備を始める。
魚は置きすぎたのか塩が効いて水が出ていた。
その水の中に臭味が出ているらしいので、黒金がそれを捨てている。
成る程、それで塩を使っていたのか。
私が稗を用意し、後は黒金が捌いてくれた朱鷺の肉と壬生菜と共に煮込むだけだ。
黒金は楽しみなようで、随分と期待しているな。
楽しそうで何よりだ。




