0208
Side:楠木正成
新田と北畠卿が一旦京の都に戻ってきた。
理由は北畠卿の兵力回復の為じゃ。
簡単に言うと、陸奥の兵を更に連れて来る気らしい。
陸奥の辺りはそこまで人が多くないと聞くが、そんなに連れてきて大丈夫であろうか?
新田は数日休んだ後、今度は播磨攻めらしいわ。
足利殿に近い赤松円心を攻めるようじゃの。
この人物は足利殿に九州に行くように進言した人物であり、更には播磨の白旗城で西進を防いでいる者らしいわ。
なかなかの実力と将の器を持つ者らしいし、そこを抜く為に兵力の補充に戻ったのなら分からんではない。
どれだけ削られるかも分からぬし、その後も西に進むのじゃからの。
ワシとしては応援もできんし、困った立場じゃわ。
まったく。
…
……
………
北畠卿が陸奥に戻っていったのはよいが、新田が病か何かに罹ったとのこと。
高熱が出ておるらしいので、とてもではないが出立は出来ぬと聞いた。
仕方なく江田氏と大舘氏が先行して出発する事になったようじゃ。
新田はあれだけ足利殿を倒すは己だと言うておったが、ここに来て病で倒れるか。
…………勝ち残る者というのは、こういう運に恵まれておるものよ。
足利殿を勝たせるような風が吹いておるのう。
もしかしたら天の時が近いのかもしれぬな。
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Side:足利尊氏
何とか九州に逃れようと西進を続けてきたが、長門の国で肥前の国の守護である少弐氏に迎えられ、筑前の国の宗像氏から支援を受けられる事となった。
やはり西国でも後醍醐帝の<二十分の一税>には大きな反発があるらしい。
オレに勝ってほしい者は多いようだ。
ここに来て西国でもオレに支持がある事を知れたのは良かった。
それと西進の最中も黒金が獣を獲ってくれるので、美味い肉が食えて助かる。
結構な者達にも振る舞ったが、全員に振る舞うほどの量も無いからな。
そこは諦めてもらうしかなかった。
なので順番に食わせているのだが、ついてきてくれた諸将からは好評だ。
改めて結束が強まった気がするが、苦しい時に共に戦える仲間というのは良いものだと思う。
心強いし、信頼も出来るのでな。
そう思って居たら、少弐氏の本拠である大宰府が帝側の軍勢に攻められて陥落したらしい。
そしてその者どもはこちらに向かっているそうだ。
オレは地元の者達に聞き、今は筑前の国を進んでおる。
既に敵方は多々良浜という所で陣を敷いておるそうだからな。
「久しぶりに水兵が出せるけど、止めておいた方がいいかな?
特にオロチ状態にすると味方からも怯える者が出かねないし……」
「流石に止めておいた方が無難であろう。
そもそも斬兵で斬り込めば良いのではないか?
今のオレ達には諸将も合わせて三千しかおらぬ。
大半はこちらまで来られなかったからな。
おそらくは関東に戻ったと思うのだが……」
「向こうが捕らえて利用してるかもしれないけれど、又太郎が戻ってきたらこっちにつくんじゃない?
元々から関東の者なんだし」
「そうだな。
それはあろうし、その方がこちらにとっても都合が良い。
敵勢は二万とも三万とも聞くが大丈夫か?」
「問題ないよ。
そもそも斬兵を使うよりも、防御に優れた古兵を多く出せばいいし、今は努力もあって二十体までは出せるようになったからね。
僕と桜が前に出て影兵が四体だから、残りは古兵と猛兵で十分でしょ」
「いや、できれば斬兵と影兵を出してくれ。
そして斬兵の体を影兵で守る、その形で戦わせてほしい。
おそらく目の前で真っ二つにされた方が恐怖を感じるであろう。
上手くいけば敵を総崩れにさせられる」
「それはいいけど、急にどうしたの?」
「楠木殿の騎馬突撃だ。
アレに対する対抗策として、弓は弓兵に任せ、黒金の霊兵には斬り込んでもらった方がよいのではと思ってな。
特に将門公の短刀を持っていれば、よく斬れよう?」
「そうだけど………うん、やってみる価値はあるかもしれない。
でも今回は勝たなくちゃいけないんじゃないの?」
「だからこそだ。
だからこそ弓矢で勝つのではなく、突撃で押し切って勝つ。
それに敵に寝返りを誘おうと思っておる。
実は少弐に聞いたのだが、九州の者達は仕方なく菊池なにがしに従っておるだけらしい」
「<二十分の一税>があるからだが、やはりそれの所為で渋々従わざるを得んのであろう。
誰だってあんな重税を支払いたくもないのだから、当たり前の事ではあるが」
「そうですね。
あれほどの重税を強いておいて、まだ反発が無いか軽いと思っているのですから、本当に京の都の者どもは現を知らぬようで」
「そうだが、だからこそ俺達が九州で足場を整えられるとも言えるのだがな。
向こうの失敗は帝の失政にある。
それは間違いない」
「つまり帝に味方している限り、我々はやり直せると言えるでしょう。
諸国の者にも、あの重税を本当に払い続けるのか? と言えば済みますし」
「あの重税を止める、それこそが俺達の錦の御旗だな。
世の多くの者が味方してくれた者が勝者だ。
ならば俺は旗印として立たねばな。
………これも宿命なのであろう。
おそらくは黒金が俺の前に現れた時からの」
「稀人は大きな事を成す者の前に現れる。
昔からそう言いますが、兄上の場合は帝の排除ですか。
重いですね……」
「仕方あるまい。
このままでは誰もが不幸にしかならぬ。
喜ぶのは帝とその周りの公卿や公家だけだ。
京の都と言えば聞こえはいいが、あそこは妖怪が可愛く思えるほど薄汚れておる。
といっても都の全てではなく朝廷が、だが」
「あそこまで薄汚れた者達から政を遠ざけたのですから、やはり頼朝公は正しかったのでしょう。
朝廷に戻した途端にアレですから」
高がそのように言うが、オレと仙太郎は微妙な表情になってしまう。
オレ達は頼朝公が“醜く争う世”を作ろうとされていた事を知っておるからな。
今もそうだと思えば、頼朝公の思うた通りの世になっておるとも言えるのだ。
なんだか遣る瀬無い思いも湧いてくるが、しかしあの帝に政をさせる訳にはいかん。
皆が不幸になる世など間違えておる。
故にオレが出来る事はするしかあるまい。
一夜明けて朝。
オレ達は多々良浜にいる菊池なにがしという者の陣に突撃を始める。
この九州に武勇を示す為にも突撃をせねばならん。
足利ここにありと示してくれようぞ。
「皆の者、用意はいいか?
ならば行くぞ、声高く上げい!
突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」
敵はオレ達が攻めて来るとは思わなかったのか浮足立っておるな。
そんな事だと最前列におる斬兵に斬られるぞ?
アレは一振りで数人を切り裂いてしまうからな。
その様を見せつけられて、いつまで戦えるのやら?
「行け行け行け行け行け行け行け行け行けーーーーっ!!
重税を敷く奴らなど叩き潰してしまえーーーっ!!」
「どうせ奴らは賄賂を貰って私腹を肥やしておるような奴らぞ!!
絶対に許すな、叩き潰せーーーっ!!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」
よしよし、いいぞ。
本当に菊池なにがしが賄賂を貰っておるのかは知らん。
ただし不満の本当の捌け口は、オレ達ではなく菊池の方ぞ。
そうすれば敵の中にもこちらに味方する者が現れよう。
重税に苦しんでおるのは皆が同じなのだ。
斬兵が早速敵の一番前とぶつかったが、容赦なく切り捨てたな。
おそろしいほどに一撃だ。
あの長い剣が一閃する度に斬り殺される。
しかも鎧ごと両断されてだ。
怖くて仕方あるまいよ、鎧が何の役にも立たんのだからな。
そのうえ黒金は未だに将門公の短刀を抜いておらぬ。
その状態でも真っ二つなのだ。
恐ろしいにも程があろう。
まあ、オレは味方なので斬り殺される事もないのだが。




