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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 次の日になった。

 オレ達は京の都の外に敷いた陣を払い、再び京の都へと攻め(のぼ)る。

 しかしながら京の都の前には敵軍が既に待っておった。

 どういう事か分からぬが、変だな?

 何故か敵は京の都の外に全軍が出ておるように見える。


 楠木殿がおる割には、策も何もなく突っ立っておるだけのような気がするが……?


 「行くぞーーーーっ!!

 皆の者、突撃ーーーーっ!!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 ただ突撃してくるだけか? 何やら策を弄してくるのは後らしいな。

 最初は突撃から始めるのであろうが、横撃の兵も含めて注意しておかねば。

 特に楠木殿だと、当たり前のように奇襲などしてきかねんからな。

 そうなったら瓦解しかねん。


 黒金(くろかね)と桜が早速矢を射ってくれておる。

 このまま敵の突撃を受けとめて、確実に削ってくれようぞ。


 「攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろーーーっ!!

 押せ押せ押せ押せ押せ押せ押せ、押し潰せーーーっ!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 敵は普通に突撃してくるだけ、そして見張らせているものの奇襲は無し、か?

 楠木殿がおるにも関わらず、この状況は変だ。

 確実に変だし、何かがおかしい。

 そもそもあの御仁をして唯の力攻めなど………む? 誰か来たな。


 「報告! 仙太郎様、並びに高三河権守様、敵の突撃を受けて苦戦中でございます!

 敵は身を捨てるような突撃を敢行しており、受け止めきれぬ恐れあり!」


 「分かった。最悪の場合は逃げるようにと言うておいてくれ」


 「ハハッ!!」


 オレは報告の内容を考える。

 敵が命を捨てて突撃などようあること。

 しかし戦が始まってまだ早いこの時に、命を懸けて突撃致すのか?

 楠木殿がおる割には、おかしな事をするな?

 わざわざそんな事をしても被害が………被害だと!?


 そうか! 黒金(くろかね)や桜の矢で殺されるよりは、突撃した方が被害が少ないのか!

 それを兵達も分かっておるなら、決死の覚悟で突撃してくるのは間違いない。

 ここで押し切らねば削られるのだ。

 となると………


 「報告!! 敵は総攻めをしてきております!

 後に残る者など無く、全軍を持って突撃してきており、このままでは守りが破られまする!!」


 「全軍に通達、支えきれぬようになったら逃げろ!!

 罪には問わぬ、全力で逃げるのだ!!

 伝えてこい!!」


 「ハッ!!」


 しまった! まさか形振(なりふ)り構わず突撃してくるとは。

 それも開戦直後に総攻めで突撃とはメチャクチャな事をしてくれる。

 絶対に発案したのは楠木殿であろう。

 こちらの弱点を理解したうえでやってきておる。

 間違いない!


 こちらの弱点は兵の少なさだ。

 向こうに比べれば少ないのは当たり前であり、向こうは畿内の兵に陸奥の兵までおるからな。

 こちらは関東の兵しかおらんのだ。

 くそっ! まさか真っ向から総攻めで来るとは予想していなかった。


 流石は楠木殿だと思うが、これは支えきれぬか。

 これを支えるには陣地をしっかり築いて守らねばならん。

 しかしここではそのような余裕などない。

 京の都という守りの陣を失ったのが敗因か。


 いや、あのまま居ては妙な策で敗れていたろう。

 どのみち楠木殿を敵に回すとは、こういう事なのだ。

 戦上手と戦っておるのだから致し方ない。

 オレも形勢が不利になったら逃げるしかないな。

 今の内に黒馬に乗せてもらおう。


 「黒金(くろかね)、すまぬが黒馬に乗せてくれ。

 敵はそなたと桜の弓を恐れて、決死の突撃をしてきておる。

 そなたらの矢で射殺される前に、突撃で打ち破ろうと考えておるのだ。

 そしておそらくだが、こちらは瓦解する」


 「命を捨てて突撃してきているから抗しきれないってわけだね。

 分かった、折を見て逃げよう」


 「敵も考えるものね!

 戦が始まってすぐに全軍突撃なんて聞いた事が無いわ。

 これを考えたのは間違いなく楠木でしょ」


 「そうであろうとオレも思う。

 こんな奇抜な事をするのは楠木殿しかおらぬ。

 相も変わらずの戦上手だ。

 敵ではあるが、最も敵に回したくない御仁だからな」


 「駄目だ、前が崩れた!

 このままじゃ押し込まれる。逃げるよ!」


 「すまんが頼む、黒金(くろかね)

 ここで死ぬわけにはいかんからな、必ず逃げねばならん!」


 その時、敵の先方から突撃してくる者が見えた。

 誰かと思えば新田か。

 …………なるほど、猪武者を上手く先に使ったという訳だな。

 (きり)のような物だと考えれば分かる。

 一点突破なら、この欲に塗れた猪武者が一番良かろう。


 「あぁぁぁぁしぃぃぃかぁぁぁがぁぁぁぁぁぁっ!!!!!

 貴様はここで死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 「おうおう、凄い形相をしておるな、新田!

 それが貴様の本性か!

 あまりにも醜い顔をようも晒せたものよ」


 「死ぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 「人の言の葉も解さぬとはな。

 黒金(くろかね)、ヤツの馬を射てくれ。

 アレはまだ生かした方が都合が良い」


 「了解」


 「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」


 ドドドドドドドドドドスッ!!!


 猛兵の矢が全て直撃した馬は一気に横倒しになり即死。

 流石は猛兵だと思うも、同時に投げ出された新田は(うめ)いておる。

 運悪く死ぬという事はなかったか。

 やれやれ、向こうを掻き回す為にも死んで貰っては困るのだ。


 「ではさらばだ新田!

 ここまで来れたのに後一歩及ばなかったな。

 その一歩が果てしなく遠いのだが、そこはそなたには分からぬらしい。

 まあ、猪武者であるそなたには永劫に分かるまい。

 はははははははは!!」


 「ぐぅ……! おのれ、あしかがーーーーっ!!!」


 倒れたまま絶叫をする新田を置いて、我らは素早く撤退を開始。

 他の者達も撤退をしておるが、追撃を随分と受けているようだ。

 オレは黒馬に乗せてもらっておるので逃げ切れるが、他の者は大丈夫であろうか?


 とりあえずは兵庫へと撤退するしかないな。

 被害の大きさによっては、援軍として駆け付けてくれておる九州の者らと共に落ち延びるしかないかもしれぬ。

 まさかここまで負けるとは思ってもみなかったからな。


 どれだけ追撃を受けるか見当もつかん。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:楠木正成



 「行け行け行け行け行け行け行け行け行けーーーーっ!!

 追撃じゃーー!!

 全て斬り捨てーーーい!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろーーーっ!!

 ここで叩き潰すんじゃ!!

 ここで叩き潰せーーーーっ!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 ここで叩き潰さねば本当にマズい。

 出来得る限り叩いて相手が反撃できぬようにしてしまわねばならん。

 できれば名のある将を幾人も討ち取りたいが、果たして上手くいくのかどうか……。


 それに敵が逃げるのが早い。

 もしかしたら先に逃げろと言うていたのかもしれん。

 もしそうならば名のある将は誰も討ち取れぬ可能性がある。

 そうなると相当にマズい、確実に息を吹き返すぞ。

 そもそも武士の支持は向こうの方が多いのだ。


 確実に味方致す者が現れるし、足利殿を担ぐ者が出る。

 稀人(まれびと)がおるのだからして、尚の事そうなるじゃろう。

 ここで敵の力を削いでおかねば………この先がどうなるかはワシも読めん。


 西国や九州の兵も連れてくれば、本気で勝てぬであろう。

 元々は関東が地盤なのだ。

 そのうえ西国や九州まで味方したら、こちらには畿内と陸奥の兵しかない。他は日和見(ひよりみ)しておるしな。

 それでは数の上で負けてしまう。


 そして数で負ければ突撃戦法は使えぬのだ。

 そうなれば削られるしかなくなってしまう。


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