0203
Side:足利尊氏
黒金から呪いが来たという話があったので、今日の戦の最中に密かに探させていたのだが、それが見つかった。
どうやら家の中で苦しんだ後に死んでおったらしいのだが……
「こいつ、間違いなく鹿野家の前で太刀を抜いたヤツだよ。
あの後で居なくなってたけど、まさか呪いを使ってくるとはね。
それも自分で使ったって事は、こいつ呪術師に弟子入りか何かをしてたんだと思う」
「本当に碌な事をせぬヤツというのはおるが、こいつは極め付きだな。
まさか呪術を使って相手を呪い殺そうとするとは……」
「そんな事をするから、灰色の変なのが現れたんでしょうにね。
どうしてこんな下らない事をするのかしら?
しかも呪いを返されて苦しみ抜いてから死んでるみたいじゃない。
頭が悪すぎるわよ」
「僕は普通に呪いが見えるし、呪い返しが出来るんだよね。
だから意味が無いっていうか、何をしてるんだろうとしか思わないよ。
こんな事をしたって効かないし、そもそも平安の都で呪いを解いてたりしたんだけどね?
そういうのは伝わっていないみたいだ」
「平安の世から呪いを解いたりしていたのか。
それなら公卿や公家は知っているのかもしれんな。
とはいえ鹿野家に居た事もある者が知らんのは、少々不思議に思えてくるが……」
「それよりも兵達の撤退は完了したの?」
「いや、まだだな。
とはいえ罠に掛かる者達は既に選定した。
その者達には出来得る限りの物を持たせてある。
鎧などもすぐに脱ぎ捨てられる安い物にしてあるしな。
一気に走って逃げれば、敵は追いつけまい。
それに行くべき場所は伝えておいた」
「なら大丈夫そうだね。
後は兵達の脱出が終わってからだけど、いったいどんな罠を使ってくるんだろう?
気になるな」
「失礼します。
実は鞍馬山の方に灯りが連なって移動しておるとの報告がありまして……」
その報告を聞き、すぐにこれが楠木殿の策だと理解した。
おそらく敵は逃げていくフリをしているのだろう。
そしてそこに襲い掛かると逆撃を喰うという形にしてあるはずだ。
となると………
「敵は追いかけさせようとしておる。
罠に掛かる兵達には、敵が逆撃してくるので、その様子が見えたらすぐに逃げろと言っておいてくれ。
出来るだけ大きな声を上げて逃げろとな」
「かしこまりました。
武蔵守様もそろそろ京の都からお逃げください」
「分かっておる。
すまぬが後を頼んだ。
出来得る限り生き残って逃げるのだぞ。
死してよい者など誰もおらぬのだからな」
「はっ!」
それを言い残し、オレは仙太郎達が居るであろう場所まで移動していく。
先に馬などは連れて行かせてある為、オレ自身は久々に黒金の出した黒馬に乗っておる。
これだと夜でも乗っているだけで済むので本当に助かる。
どうも黒いだけあって、影兵は暗闇が見えておるようなのだ。
なので昔も夜に使わせてもらった事があるが、一度も何かに落ちたり、ぶつかったりという事が無かった。
流石は神様の加護のある兵だと思う。
おかげで夜の闇の中なのに気楽だ。
後は兵達が上手くやる事を祈るだけ。
頼むぞ、上手く楠木殿を出し抜いてくれ。
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Side:楠木正成
そろそろか。
鞍馬山に行くと見せかけた兵達を追ってくるはずだ。
二条河原に首まで晒したのだから、流石に追いかけて来るであろう。
負けた敵を追撃するのは当たり前であるからな。
「敵は逃げておるぞーーーっ!!
追撃じゃーーーーーーーっ!!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
よーし、掛かった!!
後は敵が例の位置に来たら、一斉に矢で攻撃じゃ。それで敵を叩き潰せる。
………………今だ!!!
「矢を放てーーーっ!!
敵は罠に掛かったぞ!
反転せい、攻めよーーーーっ!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
よし、上手くいったわ。
ここで敵を散々に叩いて、京の都から追い出すのだ。
そうせねば総攻めをするしかなくなる。
しかし黒金殿の弓矢に晒されるなど死んでも御免じゃ。
それをするくらいなら罠で追い出した方が遥かにマシよ。
「行け行け行け行け行け行け行け行けーーーっ!!
敵を散々に叩け、潰してしまえーーーっ!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
弟の七郎も必死に声を上げておるな。
黒金殿と戦いたくないのであろう? 気持ちは痛いほど分かるぞ。
あれほどの反則も無いからのう。
黒金殿に勝つには、平地で馬で突撃するしかあるまい。
おそらくじゃが、それで押し切れれば勝てる。
黒金殿に勝つ必要は無い。
勝てぬまでも追いかければ済むし、敵軍を瓦解させればワシらの勝利じゃ。
そしてそれに対して一番被害が少なくて済むのは騎馬の突撃。
ワシはそう結論付けた。
矢を射るにしても時間は掛かる。
一気に大量の矢を射る事など出来ぬ故にな。
なればこそ、馬での突撃は生きてくる。
ただしそれが出来る者でなくばならんがな。
………新田ならしそうじゃのう。
後で言うか?
…
……
………
敵軍を追い立て終わり、朝になった。
敵を散々に追い散らしたし、北畠卿の軍が報せを受けてすぐに京の都に入ったようじゃ。
その御蔭で京の都に敵がおらぬ事も分かった。
北畠卿は大いに喜んでおったようじゃが、ワシは喜べぬ。
「兄者。思っておるよりも遥かに骸が少ない。
それに敵が脱ぎ捨てていった鎧や兜もじゃ。そのうえ安物ばかり。
名のある武将がおったとは思えぬ」
「ああ、分かっておる。
足利殿は罠に掛かるフリをして撤退したという事じゃ。
多くの者を追い立てて蹴散らしたと思うておったが、実際には多くなかったのであろう。
してやられたわ」
「二条河原で晒したのもワザとか。
だとするならば、なんで逃げたんじゃ?
あのまま京の都に残っておれば……」
「ワシらが総攻めをすると分かっておったからこそ逃げたのかもしれん。
向こうからすれば、黒金殿の矢で削り続ける方が良いのだ。
なれば都に篭もっておっては上手く削れまい。
逃げる道があった方が、繰り返し削れる故にな」
「つまり敵はこちらを削ってくるし、攻めようと思ったら逃げるのか?
そんな相手と戦えと?」
「仕方あるまい。向こうの方が一枚上手であったと言うしかなかろう。
もしくは罠を使い過ぎて見切られたのかもしれん。
足利殿のように頭がいいと、罠を何度も使うのはマズいかもしれんのう」
「兄者の策に慣れてしまうという事か。
常に警戒されておれば、そう簡単に策も成功せん。
それは仕方がないが……」
「うむ、相当に厄介な相手じゃ。
この後どうなるか分からんが、簡単に蹴散らせる相手ではない。
仮に畿内から追い出したとしても、ずっと脅威として残り続ける。
そういう相手となろう」
「………帝には足利殿と和解してもらいたいところだな。
そもそもからして、あの御仁のやった事はおかしな事ではないのだし」
「そうなのだ。そこが一番の困り事よ。
褒賞を勝手にとは言っても、貰う物を貰わねば納得せんのが武士じゃ。
褒美も出さぬ者に従う義理は無いでのう」
「とりあえずは、我らも入京するか。
この後がどうなるかは分からぬが、京の都に足利軍はおらぬようじゃしな。
それより、敵が少なかった事は言うか?」
「………言わんでもよかろう。
ワシらは罠を使用し、敵を京の都から追い出した。これは紛れもない事実じゃ。
それ以外は知らん」
「………そうだな。それが一番良いか」
そうじゃ。余計な事を言うても仕方あるまい。
黙っておく方が良い事も多いのだ。




