0202
Side:足利尊氏
オレが放っていた烏の式神が戻ってきた。
どうやら仙太郎と高の文を持ってきたらしい。
本当に若い頃に式神を習っておいて良かったわ。
こういう時に外の者とやり取りが出来るというのはありがたい。
特にオレ自身が自分でやっておるので、偽物の文だという事が絶対に無いのだ。
それはともかく文の内容を検めねば。
…………なるほど、新田、楠木殿、北畠卿の首を探しておる、怪しい坊主の集団な。
オレも同じだが、十中八九は楠木殿の罠であろう。
となると、これで終わりではないな。
仙太郎と高は三者の首っぽい物を二条河原に晒したらしい。
おそらくは敵がやらせたいのは勝ったと思わせる事であろうから、それに乗っておいたとのこと。
この後で楠木殿がやってくるのは………
「僕達を外に出したいんじゃない?
どういう事をやってくるかは分からないけど、おそらく僕達を外に釣り出して叩きたいんだと思う。
しかも兵を伏せておいて奇襲をするとかね」
「確かにありそうな感じねえ。
あの楠木河内守ならやってくると思うわよ。
だってそういうの得意なんでしょ?」
「だな。
そうすると………一番良いのは罠に掛かったフリか。それで一度京から離れよう。
ここに留まっていると第二第三の罠を仕掛けられかねん。
そうなると、いつかは大失敗をして瓦解する。まずは離れて態勢を整えねばな」
「そうだね。仙太郎にも文を送って、そのつもりで居てもらおう。
夜まで時間が無いから、急がないとマズいかも」
「ああ、すぐに書く」
そうして書いた文を足に括り付け、烏の式神を仙太郎達の下へと送る。
後は京の都から出る準備をしておかねばな。
それと多くの兵は仙太郎達と合流させる。それが一番良かろう。
何かしらの罠に行かせる者達には、しっかりと言い含めておかねばならん。
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Side:足利直義
「兄上から文が来た。
兄上は罠に掛かったフリをして都を一旦出るとの事だ。
一ヶ所に留まっていると、楠木殿にどんな罠を仕掛けられるか分からない。
なので稚拙な罠の間に退くとの事だ」
「そうですね。
未だそこまで兵の数は減っておりませぬ。
今の内に京の都から退き、態勢を整えて外から削ればよいでしょう。
又太郎様の仰る通り、楠木の罠が最も危険ですからな」
「ああ、あの御仁は何をしてくるか分からん。
それが己の命を奪うともなれば恐ろしいものだ。
だからこそ、向こうが勝手をし辛いであろう都の中に閉じ込めてしまった方が良い」
兄上が出て来たら合流し、一旦どこかへ退くべきだな。
敵軍はこの二日でそれなりに削ったはずだ。
黒金の猛兵の矢もあり、相当に敵は減っておろう。
それでも近くに寄って来ねば殺せぬのだから、限度はあるのだがな。
それに二町も飛ぶとはいえ、その距離ではまず当たらん。
あれは届く限界とも言える距離だから、そこまでだと簡単に避けられてしまう。
一番良い距離といえるのは、おそらく1町までだ。
普通の弓兵では届かん距離なのだから、十分に恐ろしい攻撃ではある。
それを活用せん理由は無いからな。
上手く兄上達を逃がさねば。
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Side:楠木正成
「兄者、足利方の兵が、兄者の首だと言うて二条河原に晒しておると報せが届いたぞ。
どうやら兄者の策は上手くいったようだのう!」
「うむ。向こうの兵が騒いでおるという事は、今日の夜が絶好の機という事よ。
この機を逃すと我らは総攻めで京の都を奪還せねばならなくなる。
流石にそれは勘弁してほしいからのう」
「その通りだ。
兵を損するなら新田か北畠卿のところの兵にしてもらいたいわ。
こちらはそこまで兵数も多くないのだからして、言って来られても困る」
「まあ、とにかく今日の軍議で言うしかない。
それでどうなるかは知らぬが、奇襲はワシらでせいと言われたら、それぐらいはするか」
「そうじゃの、それならば問題は無い。
どうせ暗闇で攻められた敵は逃げ惑うだけじゃ。
こちらに被害はほとんど出んじゃろう」
「北畠卿がお呼びとの事でございます」
「おっと、噂をすればじゃ。さっさと行って話すかの」
「おう」
ワシらは軍議の開かれる場へと行く。
すると勝ち誇ったような顔の新田と、苦虫を嚙み潰したような顔の北畠卿が居た。
相当に兵を削られたのであろう。
そもそも向こうには黒金殿がおるのだからして、当たり前ではあるがな。
「おお! 楠木よ来たか。
そなたに聞きたい事がある。あの弓矢はいったい何なのだ!?
そなたは足利軍と戦った事があるのだから知っていよう?」
「あれは伝説の陰陽師である黒金殿と、妖怪の桜殿の弓矢ですな。
黒金殿は猛兵という弓矢を扱う霊兵を使え、桜殿は十人張りの弓を楽々と引く剛の者。
その矢を受ければ死するは当然」
「なんだと!? 何故そのような大事な事を教えなんだのだ。
そうと知っておれば、あのような戦の仕方などせなんだというのに!!」
「そうは申されましてもな、聞かれぬ事を勝手に申し上げると不敬にしかなりますまい。
ワシら武士を見下しておられる方に何を言っても、聞く耳を持ってもらえたとは思えませぬがな。
今聞いておられるのも、大きな被害が出たからでございましょう?」
「………」
「それよりも、それがしが坊主に頼んでおいた罠が上手くいったようでございます」
「罠?」
「ええ。罠とも言えぬような罠でございますがな。
しかしそもそも足利殿は頭が良いので、手の込んだ罠を使うと見破られかねぬのです。
だからこそ罠とも言えぬような罠にしました」
「それは?」
「坊主にワシらが死んだと言わせ、首を探させたのです。
当然ワシらが本当に死んでおるなら、兵達が必死に首を探しましょう。
そして似た者の首を勝手にワシらだといい晒すのです。
現に二条河原にはワシらの首が晒されておると報せがありました」
「なんと……」 「そのような事をしておられたとは……」
「敵が罠に掛かったのは良いが、何故麿に一言も無く左様な事をした!」
「敵が罠に喰いつく前に話せば、こちらの行動を不審がられまする。
だからこそ敵が罠に喰いつくまで黙っておっただけのこと。
そしてここから先に更に罠を用いますが、それはワシらでやろうと思いまする」
「待て! 麿のところの兵も入れよ!!」
「罠の内容も知らぬ者を入れるのは、ワシらにとって迷惑なのでございますがな?
もしこの罠が失敗したら如何されるので?」
「………分かった。
そなたの策が上手くいったならば、麿から帝に楠木河内守の戦功著しいこと、上奏いたそうぞ!」
「では構いませぬ。
兵の方がこちらに来られ次第、それがしから罠の内容をお知らせしまする」
「うむ、頼んだぞ!」
どうやら北畠卿も相当に凹んだようじゃのう。
まあ、黒金殿を相手にすればああもなろう。
正直に言って勝てる相手とは思えぬからな。
無視した方が良いし、相手をしつつ引き付けるのが一番良いであろうて。
大きな木盾で矢を防ぎつつ、他の所から攻めれば勝てよう。
黒金殿が十人も二十人も居たら勝てぬが、黒金殿は一人しかおらぬ。
ならば勝ち方はあるというものよ。
ワシらは戦に勝てばよいのであって、黒金殿に勝つ必要は無いのだ。
そこさえ間違えねば、ワシらとて勝利を得る事は可能となる。
………ただし足利殿の首は獲れぬであろうがな。
そこを如何に考えるかじゃが、なるようにしかならぬか。




