0201
Side:神守黒金
敵が攻めて来るから戦ってるんだけど、そろそろ夕方という頃、僕の元に呪いの塊が飛んできた。
それも結構強力な呪いだ。
昔見た事がある、相手を地獄の苦しみで呪い殺すという呪いよりもマシなぐらいだろうか?
それほどに濃密な呪いが向かってきたが、僕は霊力を多く込めて呪いに触れる。
すると呪いは弾き返されるように離れていき、そのまま京の都の一角へと飛んで行った。
誰かが僕を呪い殺そうとしたみたいだけど、そんな程度の呪いじゃねえ……
それよりも誰が呪ってきたのか気になるな。
今は呪術が禁止されているはずなのに、この戦場に紛れて使ってきてるくらいだ。
もちろんどこかで技を継承している呪術師は居ると思ってる。
でもこの機を狙って使うかな?
何となく私怨で使わせたか、それとも自ら使ったって感じだろうか。
実際に怨み憎んでいる者が使った方が、呪いの強さは上がるらしいからね。
ま、後で話せばいいや。今は敵軍に矢を浴びせ続けないと。
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Side:足利尊氏
なんとか今日は退ける事が出来たか。
なるべく敵を削りたいところだが、京の都に留まれたのがどう出るか……。
案外と今日の内に出ておった方が良かったのかもしれん。
一日経てば相手に何かをされてしまうかもしれんしな。
特に楠木殿の罠が怖い。
何かをされる恐れが高く、非常に危険だとしか思えん。
それと北畠卿だ。若いとはいえ、若いからこそ大胆な事もしてくる恐れがある。
さらには公卿や公家の家には良い書物もあると聞く。
そういった軍略をも使ってきかねん。
そう考えると今日敵を退けられたのは、むしろ失敗であったと見る事も出来る。
外の方が自由に動き回れるし、我らにとっては有利だとも言えるのだ。
特に黒金の猛兵を考えると、自由に動き回れる方が都合が良い。
失敗したかという思いが込み上げてくるが、今さら悩んだとしても始まらん。
こうなったら、明日も腰を据えて戦うしかなかろうな。
とりあえず兵を休めねば。
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Side:楠木正成
「今日の軍議を始める。
京の都まで迫れたのは良かったのだが、新田は一歩及ばなんだようだ。
残念であったな。明日は私が出よう」
「なっ!?
あれだけの被害が出たのだ! 明日もワシが前に出る!!」
「その必要は無い。
新田の軍は十分に戦った、後は後ろで休んでおるがよいぞ」
これはまた容赦がないのう。
元々から新田の軍をすり潰す気であったのは分かっておったが、その気を隠そうともせぬとは……。
どちらかと言うと、その恐怖で家臣どもは従っておるのか?
あまり良い事ではないがな。
その恐怖はいずれ己を殺しにくる刃になりかねんのだが……その辺りは周りが上手くやっておるのであろうか?
北畠卿は恐怖を与え、周りの者が慈悲を与える。
それならば上手くいくであろうが……それでも暗殺などの危険は無くならんぞ。
「さて、明日は麿が攻める故に、諸将の皆さまはゆるりと休んでおかれるがよかろう。
出来るな?」
「ハハッ!」
「我が軍も陸奥から駆け付けたのだ、ここにありと示しておかねばな。
では今日の軍議を終わる」
やれやれ、新田が憎しみの篭もった目で北畠卿を睨んでおったな。
北畠卿はどこ吹く風といった感じじゃったが、こんな事で上手くいくとは思えんのだがのう。
ほんに乱れた軍じゃ。数の多さだけは勝っておるがな。
それぐらいであり、後はバラバラ。
今日は策が使える感じではなかったからな。明日は策が使えればよいのだが……
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Side:足利尊氏
京の都に篭もって二日目。
守り難く攻めやすい京の都にて、なんとか踏ん張って敵の数を減らしておる。
今日は<風林火山>と書かれた旗の者が攻めてきておるが、楠木殿でもないし新田でもない。
となるとアレが北畠卿の軍か。
なかなかに厄介というか、素直に攻めては来ん感じだな。
本当に若者かと思うが、もしかしたら歳のいった者が補助をしておるのかもしれん。
そう考えれば、老練というか飄々とした感じなのは分かる。
平地において厄介なのは北畠卿であり、策が厄介なのが楠木殿か。
新田は妖怪に操られておる猪武者なので考える必要も無い。
調子にさえ乗らせなければ、ヤツに勝つのは容易いからな。
今日も弓矢で敵を削っておるが、それでも簡単ではない。
昨日の猛攻とは違い、ゆるりと攻めてくるので矢が無駄に減ってしまう。
気にせぬのは黒金だけだし、当たりて殺すのも黒金と桜だけだ。
それでも殺されるのは怖いのか、黒金の猛兵が射ってくる近くには兵が寄り付こうとせぬ。
猛兵は離れて配してあるので、あまり意味はないと思うがな。
どのみち正門の者達は矢の猛攻に晒される。
多くの者が突撃して破ろうとするが、黒金の猛兵が指揮している将も射殺していく。
流石に何度か指揮している者が殺されると、二町以上も離れていってしまったがな。
その気持ちは分かるし、怖かろう。
あの矢に晒されるという事は死ぬという事だ。
死が己に迫ってくるのだ、恐ろしさに漏らしても笑わぬ。
死に恐怖するは正しき事よ。でなければ生き残れぬ故にな。
…
……
………
必死になって抵抗を致し、都の中でも争ったが、再び敵軍を追い返す事に成功をした。
今日も勝ったと言えるが、嫌な予感は膨らむばかり。
顔には出さぬが、楠木殿がまったく出て来ぬのが怖い。
いったい何をしておるのだ?
ここまで出て来ぬという事は、確実に裏でなんぞやっておるであろう。
あの御仁が何もせぬなどという事は無い。
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Side:足利直義
戦場に転がっておる骸から、身につけておる物を奪い取っておる兵が多い。
まあ、特におかしな事もしておらぬ、普通の戦場の光景だ。
そんな場所に坊主が十名ほどおり、兵と話をしておる。
いったい何かと思ったら、私が近づく前に話が終わったのか坊主は離れていった。
とはいえ近くでまた何かを探しておるようだ。
しかし……坊主が見ておるのは骸だぞ。
どういう事か分からぬので、兵から詳しい話を聞く。
「はっ! 実はあの坊主どもいわく、今日の都攻めで新田左兵衛督、楠木河内守、北畠左近衛中将が亡くなったとのこと。
それで供養する為に骸を探しておるとの事でした」
「その三者が死んだと、あの坊主どもはそう言ったのだな?」
「はっ!」
「そうか、分かった」
私は兵達の下を離れたが、十中八九は嘘であろう。
そもそも今日攻めておった軍が<風林火山>の旗を掲げておったのは知っておる。
となると、それは北畠卿の連れて来た陸奥の軍であろう。他は違う旗だしな。
ならば新田と楠木殿が死んでおるのは明らかにおかしいのだ。
しかしそれを上手く使うには、いったいどうすればよいのかという問題が出てくる。
ほぼ間違いなく、これが楠木殿の策であろう事は分かるのだが……
とりあえず高と話して兄上の下へ文を届けねば。
私達は京の都から離れたところで軍勢を休ませているからな。
流石にそろそろ京攻めを行っておる者達にもバレるであろうし、動く事も考えておくか。
「で、戻って来られたわけですな?
私も十中八九は敵の罠だと思います。
なぜ三者の名を出したのかは知りませぬが、あからさまに過ぎますからな。
坊主どもが勝手に新田と楠木殿の名を出したのかもしれませぬが、戦上手にしては痛い失敗でしょう」
「そうだな。しかしそれは横に置いて、いったいどうやって上手く使う?」
「そうですな………」




