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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 光厳院の下を辞した後、オレは京の都に留まって色々とやるべき事をやっている。

 確実に攻めてくると分かっている以上、用意はしっかりとしておかねばな。

 ついでに逃げる用意もしておかねばならん。


 高も言っておったが、京の都は攻めやすく守り辛い。

 このような所で戦ったところで、勝てる戦も勝てぬようになってしまう。

 それをするくらいならば、とっとと都を出た方がよかろう。

 ただし怖いのは楠木殿だ


 あの御仁が何をしてくるかが分からん。

 幾ら黒金(くろかね)が居てくれるからといって、罠に嵌められれば如何様(いかよう)にもならぬからな。

 そして何をされるか分からんというのが、これほどに恐ろしいとは。


 それでもオレは自らを強く持って勝つしかない。

 それが大将というものなのだ。


 …

 ……

 ………


 少し遅れて仙太郎と高が合流したので、京の都の外に軍を置いておるが、後醍醐帝の側も兵が揃ったらしいな。

 どうやら北から来れなんだ北畠卿の軍も合流したらしく、かなりの人数に膨れ上がっておるそうだ。

 厄介な事だと思う。


 「よいか!

 京の都は攻めやすく守り辛い。よって、守れぬとなれば逃亡する。

 まずは命を決して粗末にせぬようにせよ!

 京の都で戦ったところで、こちらは不利であると思え!

 故に逃げてもオレは咎めぬ、そのうえで励め!」


 「「「「「「「「「「ははっ!!」」」」」」」」」」


 後はそれぞれを仙太郎や高と共に決めていくが、先に逃げてもよいと言うておかねばならん。

 でなければ命を捨てる事を(ほまれ)と思う者が出かねんからな。

 泥水を(すす)ってでも生き延びねば先は無い。


 武士にとって最も大事なのは生きる事なのだ。決して華々しく散る事ではない。

 散った者の名は覚えられるかもしれぬが、だからと言って家にそこまでの得があるわけではないのだ。

 家の事を第一に考えれば、あたらに死するなど論外。


 必ずや生き残り、最後には勝つ。それこそが真の武士の生き方よ。

 故にこのようなところで死ぬわけにはいかんのだ。

 諸将にもしっかりとそれを命じておかねばならぬ。

 どこまで戦えるかは分からぬが、やれるだけやらねばな。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:楠木正成



 「では諸将の皆様方、これから軍議を始めまする。

 この軍議は麿、北畠左近衛中将顕家が執り行う。

 これは帝のお決めになられた事なので従うように」


 「「「「「「「「「「ははっ!!」」」」」」」」」」


 北畠卿か。初めて見るし話すが、典型的な公卿じゃのう。

 完全にワシら武士を見下しておるわ。

 陸奥から駆け付けてくれた武士達もおるであろうに、しかしながらそれも付き従ごうて当たり前という顔をしておる。

 何とも言えんな。


 「京の都を奪還するにあたって、足利軍と戦った楠木はともかく、追撃されていた新田よ。

 そなたはいったい何をしておった?」


 「それがしは京の都に戻り、そして帝が叡山に逃れると言われるので供奉をしましたが。

 それが何か?」


 「なぜ京の都に攻め(のぼ)ってくる足利軍と戦わなかったのかと聞いておる!」


 「それよりも帝の御身の方が大事だからでございます。

 当たり前の事でございましょう?

 まさか帝を捨て置いて足利めと戦えと申されるので?」


 「………まあ、よかろう。

 それで、そなたの軍勢の者は追われて犬のように逃げたらしいが使えるのだな?

 もう足利軍とは戦えぬとは言わぬな?」


 「当然でございましょう。

 帝の御身がご無事なのであれば、それがしは戦います」


 「そうか。では新田軍には一番槍を任せよう。

 もちろん今回は勝てると思っての配置じゃ。

 感謝いたせよ?」


 「ぐっ……。かしこまりました」


 あーあー、一番槍と言えば聞こえは良いが、一番兵をすり潰す場所じゃ。

 己の兵は傷めず、新田のところの兵を潰すつもりか。

 まったくもって容赦がないのう。

 ま、ワシらに何ぞせよと言うては来ぬので無視するかな。




 そしてそれぞれの諸将の配置を決めたのだが、なぜその際にワシにいちいち聞いてくる?

 おかげで新田がワシを睨んできて鬱陶(うっとう)しいのだがな。

 ワシまで牽制せずともよかろうに、面倒な御仁じゃわ。


 雪で遅れて間に合わなかったので、その分を牽制したいのか知らぬが、ほんに公卿の嫌味ったらしさ全開じゃのう。

 面倒すぎて関わりたくもないわ。

 それよりも、ワシはワシで罠の用意をしておかねばな。




 「兄者、戻ってきたか。

 僧に関しては頼んでおいたので大丈夫だが、あんなもので上手くいくのか?」


 「勝ちたと思うた時に油断が芽生えるものよ。

 それともう一つの罠で散々に打ち破ればよい。

 それで済むのだからして、そこまで難しい罠でもないのだ。

 足利殿を相手に小難しい罠を使うても無駄じゃ。

 むしろそちらは読まれるじゃろう」


 「だからあえて簡単な罠にしたわけか。

 罠とも言えぬような罠だが………逆にだからこそ罠だと思わぬであろう」


 「うむ。これは最初の僧の罠が成功してから諸将に話す。

 そこが失敗すれば何の意味も無いからの。

 だからそれからじゃが………」


 「兄者、如何(いかが)した?」


 「おそらくじゃが、足利殿を討つ事は叶うまい。

 そもそも稀人(まれびと)である黒金(くろかね)殿がおる以上、何かの事を成すまでは死なぬであろうからな」


 「…………それがあったか。

 何故(なにゆえ)にワシら楠木の下に来てくれなんだのであろう?」


 「後醍醐帝のなさりようを考えれば、それに近いワシら楠木の下には来られぬじゃろうよ。

 稀人(まれびと)がワシらの下に来るという事は、後醍醐帝の(まつりごと)が続くという事じゃぞ?」


 「それは……」


 あのような(まつりごと)を天が御認めになるはずがあるまい。

 なれば楠木の家に稀人(まれびと)が来る事も無いのだ。

 仕方があるまいが、しかし七郎の言いたき事も分かる。

 ワシも稀人(まれびと)が来てほしかったと思うておるからな。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:新田義貞



 おのれ! おのれ! おのれ! おのれぇ!!

 たかだか二十かそこらの小僧が、何様のつもりだ!!

 ワシは帝が御認めになった総大将ぞ!!

 鎮守府将軍だか知らぬが、ふざけおって!!


 「兄者、陰陽師が目通りを願っておるが……」


 「は? そのような役立たずなど要らぬわ!

 さっさと追い返せ!!」


 「宜しいのでございますか? 私は式神も呪いも使えますよ。

 御武士様は殺したい者が居るのでは?」


 「…………呪いというのは、ご法度とされておるぞ」


 「それは北条家の定めたものですが、既にその北条家はございませぬ。

 なれば使ってはいかぬという法はございませぬな」


 「…………成功したら褒美をやる。成功したらな」


 「それで十分でございます。

 して、いつ呪いを使いましょうか?」


 「そうだな………貴様、ついてこい。

 ワシは一番槍を務めろと仰せつかっておる。

 だから共に来て、ワシが使えと言えば使え」


 「それは出来ませぬ。

 戦場(いくさば)で使う事など考えられておりませぬし、準備に様々な物が必要でございます。

 さらには呪いを込めて相手に飛ばす事もせねばなりませぬ以上、建物の中でしか使えませぬ」


 「チッ! 仕方ない。

 ならば夕刻だ、夕刻にやれ」


 「かしこまりましてございます。

 それでは……」


 怪しい男が出て行ったが、あんなものはどちらでもよい。

 ワシは知らぬ存ぜぬで無視すればいいのだからな。


 「兄者、諸将にバレたら新田家の名が地に落ちるぞ。

 皆、呪いなどを扱う者など武士とは見てくれぬ」


 「何を愚かな事を、あのような者など始末してしまえばよい。

 それだけであろうが、下らん」


 「兄者……」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:???



 くくくくくく……成功したか。

 これで何があっても、私は新田左兵衛(かみ)に命じられたと言えば済む。

 伝説の陰陽師を殺したとなれば、私の名も轟くだろう。


 鹿野邸の前での事は忘れておらぬぞ、(わらし)

 貴様の所為で恥を掻き、仲間からは嘲笑(ちょうしょう)される始末。

 この怨みを貴様に返す為に、わざわざ呪術師の下で修行をしたのだからな。


 貴様の命も明日までだ。


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