0197
Side:足利尊氏
オレ達は仙太郎達と合流した後、逃走する新田達を追って追撃を致しておる。
黄瀬川でも追撃を致し勝利。
続いて遠江は浮島原で追撃中だ。
「押せ押せ押せ押せ押せ押せ押せーーーっ!!
敵は逃げていくだけの者どもぞ、完膚なきまでに叩き潰せーーーーっ!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
「防げ防げ防げ防げ防げ防げーーーーっ!!
なんとしても味方が退却するまで防ぐのだ!
我ら死しても味方の為、この地に名を刻んでくれようぞーーーっ!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
「確かに名を残す事は可能でしょう。
なかなかどうして優秀な将なのか、こちらの攻撃を防がれています。
こちらが攻める場合だと、楠木式の弓矢が使えないのが痛いですね。
黒金と桜は問題ありませんが」
「むしろ桜殿に矢をお渡しした方がいいですね。
平然と二町程度も飛ばしていますし、あれなら味方には当たりません。
というより、飛ばし過ぎで敵が慌てていますよ」
「それはそうだろう。
矢の届かん場所だと思っていたら、とんでもない威力の矢が降ってくるのだ。
慌てふためいても仕方ないと思うぞ。
黒金の猛兵からも恐ろしい矢が射られておるし、敵からすれば恐怖しかあるまい」
「前で突撃を防いでいたら、その後ろから援護する者達がバタバタ死んでいくのですからね。
恐ろしい事このうえないでしょう。
防ぐ側は弓矢で攻められるから強いんですし」
「こちらは押す側だし、押し込んだ時に矢が飛んでくると受けてしまうからな。
拮抗している間ならば使えるが、味方の矢に当たって死ぬなど兵が暴れかねん。
そのような事など出来ぬのだから仕方ない」
「それでも黒金や桜が射ってくれる分だけありがたいですけどね。
前で戦っている者達の後ろから射ったところで、一町も飛びませんし」
「二町も平然と飛ばす猛兵と桜がおかしいのだ。
それを基準に戦など考えられんよ。
普通の兵を基準に考えるのは当たり前の事だ。
それはともかく天竜川の向こうに渡られたか」
「仕方ありません。
敵は逃げる側ですし、ここまで防がれたらいつ………新田は碌な事をしませんね」
まさか敵方の将も兵もまだ居るというのに、天竜川に自分達で架けた浮橋の綱を切るとは思わなんだ。
己が助かれば何でもいいとでも言う気か?
妖怪に操られているとはいえ、あれでは更に付き従う者は減るぞ。
「まあ、相手は勝手に名を落としてくれるのですし、ここは都合よく利用させてもらいましょう。
どのみち正気に戻す術は今のところありませんしな」
「高の申す通りだな。
同情する部分が無いではないが、かといって今の新田はアレなのだ。
オレ達が対峙せねばならんのがあの新田である以上、アレに打ち勝たねばならん。
なればアレの非情は徹底的に利用すべきだ」
「味方を犠牲にして、己らだけ助かろうした者達。
そういう形で情報を撒けばいいでしょう。
後は勝手に各々で判断するでしょうし、味方を逃がしたあの者も降伏するでしょう」
「仮に降伏しても命令はするなよ?
言わされているというのは簡単にバレるし、オレ達の側が悪く言われるだけだ。
降伏したならば陣営に加えずに帰せばいい。
将は黙っても兵は黙らんのだ。放っておけば新田の非情は広がる」
「なるほど、そちらの方が良さそうですね。
こちらから言わせれば、確かに又太郎様が懸念する事が起きかねません。
そうなると、こちらが嘘を撒いたと言われる恐れがあります。
なのでこちらは一切関わりなしとするべきでしょう」
「そうだな。兄上の仰る方が足利の名が落ちにくい。
これからは名に今まで以上の気を遣わねばならん。
既に後醍醐帝と敵対した以上は、こちらの方が正当なのだと示さねば、津々浦々の武士が敵になりかねんしな」
「勝てると思えば、非道な方にだろうが味方をするのが武士でもある。
所領と褒賞の為ならばそうするのもまた、情けない事に武士の一面だ。
そこに文句を言っても始まらんからな。……っと、どうやら降伏したようだ」
「では先程の通りにしてきます。
敵対しないのであれば、後は帰してしまえばいいですし気楽ですよ。
こちらの陣営に加えると面倒にしかなりませんし」
仙太郎と高が降伏した者の所へ行った。
後は二人が上手くやってくれるだろう。
黒金と桜も労わねばならぬし、オレも結構忙しいな。
とりあえず将として為すべき事を為さねば。
…
……
………
オレは軍を二つに分けて、仙太郎達には近江の新田軍を追撃させた。
代わりにオレは宇治川の方へと進んだのだが、今は敵軍と対峙している。
しかも最悪な事に、相手は楠木殿だ。
これは兵を鼓舞して前に押してゆく形で戦うしかないな。
少なくとも楠木殿は平地で大規模な軍を扱うのは不得意というか、罠などに比べて得意ではないのは分かっている。
なのでそこを突くしかない。
黒金と桜にも矢を射ってもらえば勝てるだろう。
「行け行け行け行け行け行け行けーーーーっ!!
一気に敵を叩き潰してしまうのだ!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
「かかれ、かかれ、かかれ、かかれ、かかれーーーっ!!
敵は賊軍であり、ここで負ければ京の都が戦火に晒される!!
必ずや敵を防ぐのだーーーっ!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
楠木殿が相手では勝利を得ること自体が難しい。
されど全くの無理という訳ではないはずだ。
オレとて今まで戦ってきておるのだし、そう簡単な事では破れたりなどせぬ。
大将は自信満々でおらねばな。
「押せ押せ押せ押せ押せ押せ押せーーーっ!!
潰せ潰せ潰せ潰せ潰せ潰せーーーーっ!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
案外とこのままいけば勝てるかもしれん。
地力で勝っているこちらが有利なのは当然というか、黒金と桜の弓が猛威を揮っておるからな。
このまま戦が推移すれば敵は瓦解しよう。そうなれば追撃だ。
言葉は悪いが、ここで楠木殿に止めを刺しておかねばマズい。
生き残られると、どこかで殺されるかもしれん。
楠木殿はその恐怖を理解しておるのであろうか?
相手に恐怖を持たれるとは、時として真っ先に命を狙われるという事ぞ。
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Side:楠木正成
「これは駄目じゃなぁ………流石は足利殿と言う他ないわ。
流石に平地での大規模な合戦はワシの不得意とするところ。
これではどうにもならんし、それに黒金殿の弓矢が恐ろしい事を生み出しておる」
「そうだな。兄者、流石にあの弓兵は反則であろうよ。
それと妖怪の桜殿であったか? あまりにあまりだと思うぞ。
矢が二町ほど飛んでおるが、あんな事は人間では無理だ」
「本当にのう。
近づいたら首が捥がれそうな矢が飛んできおるとは………
やはり稀人を敵に回すのは失敗じゃ。
それでも勝たねばならんのだが、ここは撤退した方が良さ気だの。
とにかく策で勝つしかなかろう」
「うむ。正直に申して、まともにぶつかっても勝てる相手ではないぞ。
あんな矢を飛ばしてくる相手は、どうにもならん。
時が過ぎる毎に死体が増えるだけじゃ」
「まったくだ。
稀人とは、あそこまで理不尽な相手なんじゃと改めて分かったわ。
言い換えれば、そんな稀人が付いておる以上、足利殿はやはり何か大きな事を成す方なのであろう。
重ね重ね、失敗したわ」
「今さら言うても仕方あるまい。それよりさっさと逃げるぞ、兄者」
「ああ、そうしよう。撤退じゃ!! 撤退せい!!」
流石に足利殿の方には行けぬし、困った事になったわ。




