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Side:足利尊氏
新田が妖怪に操られておるという驚くべき事が黒金から伝えられたが、よくよく思い出せば納得だ。
むしろ妖怪に操られていると聞いて腑に落ちたくらいなのだからな。
新田もあそこまで頭のおかしい者ではなかった。
少なくとも、かつて会った時には頭のおかしい様子など無かったのだ。
それがいきなりオレを悪し様に言い、足利の家を舐め腐るように変わった。
明らかにおかしい。
そのうえ独立して足利家に牙を剥く有様だ。
普通に考えれば理解できぬし、そのような事をする理由が無い。
仮に独立をするなら、普通にオレに言いに来ればいいだけだ。
まったく何も無しにはいかぬが、誠意を見せれば独立くらい認める。
そもそも古くから、そうやって独立するのが普通なのだ。
筋を通し、払う物を払えば独立は認められるのが慣例だからな。
流石に今まで庇護してもらっていたのだから、何も無しで勝手に独立などは出来ん。
それは裏切りでしかない。
だからこそ誠意というか、ある程度の金銭なりを主家に支払うのだ。
大きな家の家臣という事は、それだけで己の家や領地が名で守られる事を意味している。
仮に誰ぞが攻めてきたら助力を請う事も出来るのだから当然だが。
だからこそ独立する際には色々と支払わねばならん。
今まで散々世話になっておきながら砂を掛けるように出て行けば、攻め滅ぼされても文句は言えぬ。
だからこそ新田小太郎とは関わりなく、新田一族は自ら動いたのだ。
あれは新田小太郎が勝手にやった事で、自分達はそのような事を考えてはいないとな。
そして自分達は足利家に残ると言ったわけだ。
それはそういう意味であり、武士としての筋すら通さぬのは極めてマズい。
他の家に属しようとしても受け入れてなどくれぬ。
裏切者を所属させれば、かつてその者が所属していた家と敵対してしまう。
そして我が足利家と敵対するのはマズいのだ。多くの者を敵に回してしまうが故に。
考えれば当たり前に分かる事なのだが、操られていては無理であろうな。
しかし人を操り弄ぶ妖怪が居るなどとは思ってもみなかったわ。
もしかしたら北条家の祖も操られていたのかもしれん。
だから頼朝公を暗殺したとしたら、分からぬでもない。
もしかしたら操られていたのは尼将軍か?
………考えても答えは分からぬし、今は行軍中だ。
余計な事を考えるのはやめるか。
…
……
………
「兄上、無事の勝利おめでとうございます」
「又太郎様、ご無事で何よりでございます」
「二人ともよく戦ってくれた。
まさか隘路の方に敵の大軍が行くとは思わなかったがな。
流石のオレも予想さえ出来なんだわ」
「こちらもですよ。
まさか大軍が使えない場所に大軍を持ってくるとは思いませんでしたし、完全に予想を裏切られた形です。
あそこまで新田が愚かだとは思いませんでしたよ」
「………黒金、どうだ?」
「大丈夫。二人ともおかしくはなってない。
流石にあまり多くはないんだと思う」
「どうかしたのですか?
又太郎様と黒金殿の間では分かりておるようですが………」
「実はな、黒金が新田を確認してくれて発覚したのだが、ヤツは玉藻という妖怪に操られていた。
正しくは欲望のままに動くようになってしまうらしい。
それと………前執権と外戚も操られていたそうだ」
「なんと………」
「前執権様の様子がおかしかったのは、心変わりされたのではなく妖怪の所為だったのですね。
しかも操られるとは……」
「黒金の眼で見てもらえば操られているかどうかは分かる。神様の加護の眼だからな。
ただ、黒金は父上の死期を生きている時に見てしまったらしくてな。
それから使う事はあまりなかったそうだ」
「流石に寿命が見えるのはマズいし、死ぬ時が分かってしまったら顔を合わせ辛いからね。
あの時はなぜか義観さんが後一年で亡くなるって出たんだよ。
それもあって、あんまり使わなくなってたのが仇になった」
「なるほど。
確かに知っている方の死期が分かるというのも、あまり気分の良いものでもなかろう。
黒金が使うのを躊躇うのもよう分かる」
「ですな。
死ぬ時が分かっている相手が目の前にいる。
私でも、どのような顔をして話せばいいか分かりませぬ。
神様にとっては問題なくとも、人にとっては辛いものですからな」
「そうだな。
とりあえず妖怪に操られている者が居るかもしれぬ。
おかしくなっている者がおったら、それを疑った方がよい。
おそらく本人に言っても意味は無かろうが、周りの者には教えてやってもいいかもしれん」
「でしょう。
向こうに流すのは難しいですが、それとなく流せば注意にはなります。
もし京の都まで上れるならば、朝廷の方々にも言っておくべきでしょう。
あの帝も操られているのかもしれませんし」
「公卿や公家が「なぜ今まで見なかった」などと言ってきたら、不敬だからどうとか言って逃げればいい。
そもそも黒金が必ず調べねばならん義理など無いのだしな」
「ああ。そもそも怪しい者を昔から狐憑きなどと言うのだ。
実際に新田は狐に憑かれておる訳だし、何も間違ってはおらぬな」
「そうですね。
しかし昔から玉藻という妖怪におかしな事をされてきたのであれば、日の本という国はその妖怪に狂わされてきた事になります。
本当に碌な妖怪ではありませんね」
「かつて稀人が倒して封印されたはずなんだけど、その封印も弱まっているのかもしれない。
もし封印が解けかかっているなら、僕が行って倒すしかないかも」
「もし本当に黒金が戦わねばならんのなら、神様から何か言われるのではないのか?
かつても義経公についていけと出たのであろう?」
「そうなんだよね。
それが無いって事は、まだなのかもしれないし、それとも僕じゃないのかもしれない。
その辺りは不明かな」
「ま、今はそれよりも新田達を追撃せねばなりません。
散々に叩いておかねばいけませんし、このまま京を目指して進軍すれば、敵も鎌倉に行っている場合ではなくなるでしょう。
鎌倉から目を逸らさせる事が出来ます」
「そのまま京の都を占拠できればいいですが、もし無理そうならすぐに撤退をお願いします。
京の都というのは、攻めやすく守り辛い場所。そこを無理に守っても意味はありません。
さっさと退いた方が傷が浅くて済みます」
「昔から京を守る戦いで勝てた者は多くないからな。
それほどまでに守り難いのが京の都だ。
何故あのような所に都を置いたのかは知らぬが、ワザと攻めやすくしたのかもしれん。
奪われても奪還しやすいようにな」
「どうせ絶対に奪われない都なんて無いんだから、だったら奪い返しやすくしておくってこと?
その考えもどうなのかと思うけど、斬新なのは確かね。
誰も彼も守り難い都っていうのも、意味が分からないけど」
「鎌倉は逆に堅牢ですからね。
それでも奪われるんですから、確かに奪い返しやすくしておくというのは、分からなくもありません。
絶対に奪われない城が無いのと同じと考えれば、昔の方々が左様に考えた気持ちは分かります」
確かに守り難く攻めやすいのは奪還しやすい。
されどそれは戦火に巻き込まれやすいという訳で、やはり良い事とは思えぬな。
もしオレなら守りやすく攻められにくい場所にするが………
まあ、昔の方が何を考えてあそこに都を築かれたのかは知らぬ。
どうせ風水とか吉凶とか、そんな下らぬ事でしかないと思うがな。
北東に叡山という坊主の住処を置いているのだから、その吉凶や風水など笑い飛ばすべきものでしかない。




