0195
Side:神守黒金
「ほざけ、叛逆者めが!
散々我が足利の禄を食んでおきながら、その言い種。
地の果てまで追いかけてでも、必ずや首を獲って晒してやるぞ!!」
おっと、又太郎からの合図が出たね。
「叛逆者」という合図を聞いた僕は、すぐに新田という男の方を向く。
すると何故か勝手に相手を調べた結果が目の前に出た。
あれ? 眼の力を使ってないのに何で?
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新田義貞 男 三十五歳
体力・二十八
霊力・二
術技・一
知恵・二十七
知識・二十二
運勢・悪
そなたが寿命を見たくないからと使わなかったが、教えておく必要がある。この者は九尾の狐こと玉藻の分身によって操られておるのだ。正しくは己の欲のままに動くようにされており、本来のこの者ではない。他にも玉藻の部下が悪さをしておる。なのでもう少し眼の力を使うがよかろう。それと前執権と外戚も操られておったぞ
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えっ? ………………玉藻って言えば、確か葛葉が敵視していた悪い狐の妖怪だったはず。
今までまったく出て来なかったから関係ないと思ってたけど、まさか人を操るようなヤツだったなんて。
「ふんっ! 貴様に負けるほど落ちぶれてなぞおらぬわ!
退け! 退けーーーっ!!」
あっ、しまった、逃げられる。
……とはいえ操られている人を殺すのはどうなんだ?
良い事なのか悪い事なのか判断がつかない。
正直に言って悪いのは玉藻ってヤツなんだし、新田が悪いわけじゃないんだよね?
それに前執権も外戚も操られていたなんて知らなかった。
特に外戚なんて会った事も無いから知らなかったよ。
前執権はいつ操られたんだろう?
昔に視た時には操られていなかったはず。
「黒金! 大丈夫、黒金!?」
「ああ、大丈夫だよ。
特に何かがあったわけじゃない。ただ、ちょっと驚いただけ。
それよりごめん、又太郎」
「いや、それは構わぬが……いったいどうしたのだ?
黒金が驚いて動けぬとは思わなかったぞ。
それに目が金色になっておったし、いったいどうしたのだ?」
「あー、うん。
簡単に言うと、昔、義観さんの寿命が見えた事があったんだよ。
それで寿命が見えるとか良くないと思ってさ、長くこの眼の力を使ってこなかったんだ。
そしたらさっき勝手に神様に使われてさ、そして新田の情報が出た」
「それはまあ、そうでしょうね。金色の眼になってたなら、確実に使ったのでしょうし。
問題は何が見えたかだけど、いったい何が見えたの?」
「そうだ黒金、いったい何を見た?
お前が驚いて動けないほどの事が出ていたのだろうが、その方が気になる」
「実は………新田は玉藻という強力な妖怪に操られてる。
どうやら欲望のままに動くように操られていて、それであんなおかしな事を言ったりするようになったみたい。
そして前執権と外戚も操られていたって出てた」
「なんだと!? 前執権と外戚も操られていた!?
………だから父上の葬儀の翌日に戦に行けなどと言ってきたのか。
つまり前執権も玉藻とかいう妖怪の所為で……」
「まさか眼の力を使わなかった結果、こんな事になるとは思ってなかった。ごめん」
「いや、黒金の所為ではあるまい。
どのみち前執権も外戚も新田も同じだ。
どうする事も出来ん以上は、戦って殺すしかない。
そうでなければ操られたままなのだろうしな」
「そこは分からないけど、もうちょっと色々と視て調べる事にするよ。
まさか操られていた結果あんな事をしていたなんて……」
「仕方ないわよ。
悪いのはその玉藻ってヤツであって、黒金じゃないでしょう?
流石に黒金が責を負う必要は無いし、それを言うヤツは居ないわ」
「だな。どうにもならんのは事実だ。
それに新田がおかしくなったのは鎌倉攻めの辺りから。
となると、そこで玉藻という妖怪に操られたのであろう。
欲のままに動くという事は、大凡で動きが分かるという事でもある。
それが分かっただけで十分だ」
「そう……だね。神様の眼にも出てなかったし、治す方法は無いのかもしれない。
もしくは次に調べたら分かるかも。
とにかく会う人はきちんと調べておいた方がいいね。
あの帝も調べておくべきかな? 会うのは難しそうだけど」
「今後は難しいだろうな。
オレは既に光厳院に文を送っておるし、後醍醐帝を追いやり光厳院の嫡子か弟君を帝にと思うておる。
つまり<持明院統>の帝をな」
「それも仕方ないね。
後醍醐帝じゃもう民もついていかないと思うし、任せて今の世の中だからさ。
このままが良いなんて人も公卿や公家以外は居ないよ」
「ああ。だからこそ何とかせねばならん。
最早オレ達は叛逆の徒のように扱われていよう。しかし今の世が正しいなどとは誰も言えぬ。
公卿や公家だけが得をし、他は虐げられる世など間違っておろう。
たとえ後醍醐帝に立派な志があろうとも、現の者は皆苦しんでおるのだからな」
「まあ、帝からすれば下々の者なんてどうでもいいのでしょうね。
もしくは側近が耳に入れないようにしているか。多分だけどそんなところでしょう。
自分が都合よく操られている自覚も無いんじゃない?
玉藻とかいう妖怪じゃなくて、公卿や公家に操られているんだけども」
「やっておる事は変わらぬし、碌な事ではない。
結局は誰かが立たねばならぬ以上、オレが立たねばな。
それで足利の家も保てるはずだ」
「義観さんが言っていた事だね。足利の家は保てって」
「ああ。落ちぶれても陰陽師として生きればよいかと思っていたが、多くの者が我が足利家に従っておる。
この者達の為にも足利家を没落させるわけにはいかんのだ。ならばオレが立って上に立つしかない。
父上もまた、そういうお気持ちであられたのであろう」
「一族郎党を背負うというのも大変だね。
本当の又太郎は暢気に生きていたいだろうに」
「まあな。それは今でも変わらん。
陰陽師として妖怪と戦い、銭を稼いで適当に生きる。今でもそんな事をしている自分を夢に見る。
………それでもオレは振り切らねばならん。足利家の当主はオレなのだからな」
「準備、終わりましてございます!」
「そうか。では進むぞ、敵を追撃する!!」
又太郎は決意を込めた顔で前を向き、馬を進ませる。
本当なら今でも鎌倉で暢気に生きていたいんだろうけど、それが許されない立場になってしまった。
当主としては仙太郎の方が合っているのかもしれない。
でも仙太郎は言ってたんだよね、「私が当主では、ここまで人が集まらない」って。
足利家の下に多くの人が集まるのは、又太郎の人柄などによるものが大きいみたい。
性格は仙太郎が向いているんだけど、魅力的には又太郎の方が向いてる。
足利家の当主というのも、難儀なものだと改めて思うね。
仙太郎みたいに真面目だと悩まないんだろうけど、風来坊みたいな生き方を好む又太郎は悩んでしまう。
でも、その風来坊みたいなところに魅力を感じて人が集まる。
人の数は強さだ。人が集まらない者は然したる強さを持てない。
だからこそ、戦の事を考えたら当主は又太郎しかないわけだ。
ここは仙太郎も理解しているし、だからこそ仙太郎は支える側に回ってる。
とはいえ仙太郎自身、そもそも又太郎を追い落とすって事は考えてないみたいなんだよね。
支える自分こそが正しい姿って思ってるみたいだし、兄弟仲はとても良いんだよ。本当に。
そこは楠木も新田も変わらないみたいだけど。




