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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:脇屋義助



 兄者から搦手(からめて)の方へと行かれる尊良(たかよし)親王殿下の護衛を命じられた。

 まあ、仕方がないかと思い、自分がこちらに来ておる。

 とはいえ公家の方々は自分に嫌味を言わんのだよなぁ。


 あれは絶対に兄者だからやっておるのだ。

 言い方は悪いが、兄者は嫌味に顔色を変えすぎだ。

 だから面白がって挑発をされたりバカにされたりする。

 公家の方々は効かぬ相手にはせぬ。


 だからこそ足利家の方々が嫌味を言われているなど聞いた事が無いのだしな。

 これは兄者には言えぬというか、言うと自分にとばっちりが来かねんので言えぬ。

 嫌味などいちいち言われたくはないからな。


 それはともかくとして、尊良(たかよし)親王殿下の護衛をしつつ搦手(からめて)に来たのだが………兄者の予想は完全に外れておったぞ。

 それも遠くに見えるは<丸に二つ引き>の家紋であり、それはつまり足利家の方が居るという事だ。


 しかも大軍でおるという事は、ほぼ間違いなく向こうは足利武蔵守様だ。

 これはマズい。こちらの兵は多くなく、本隊は兄者が………兄者の行ったのは本道。

 しかも向こうは隘路(あいろ)ではないか!!


 兄者は何を考えて向こうに本隊を持って行ったのだ!

 大軍が使えるのは、こちらの搦手(からめて)の方であろう!!

 むしろ敵方が正しく大軍を展開しておるではないか!!


 「脇屋よ! 脇屋左馬権頭よ!!」


 「ハッ! 如何(いかが)されましたか?」


 「なんなのじゃ、あの大軍は! なぜあのような大軍がおる!!」


 「なんなのだと申されましても………搦手(からめて)である竹之下は平坦な道が続きまする。

 それ故に大軍を使いやすいのでございます。

 それと比べて本道は隘路(あいろ)となっておりますので、大軍が使い難うございます」


 「…………それはつまり、相手は大軍が使える所に大軍を置き、こちらは大軍が使えぬ所に大軍を置いたという事か?」


 「ハッ! 左様にございます」


 「…………阿呆か!!! そなたの兄は真の阿呆でおじゃろう!!!」


 「申し訳ございませぬ。

 それがしも敵軍を見た時に初めて気が付きまして。

 正直に申すと、こちらが平坦であるという事を忘れておりました。

 知っている場所でありましたので、詳しい者を雇わず……」


 「それで如何(いかが)する気じゃ!

 向こうは軽く見積もっても一万以上はおるぞ!

 こちらは七千しかおらぬではないか!!」


 「一万ではございませぬ。

 後ろにもおるようですので、ざっと見積もっても三万を超えております。

 それにおそらく向こうの大将は足利武蔵守様でございましょう。

 勝てる相手ではありません」


 「何を暢気(のんき)に言うておじゃるか!! 如何(いか)に責をとる気じゃ!!」


 「そんな事を言うておる場合ではございませぬ。

 敵軍が攻めてきておるのでお戻りくだされ。

 それと、我らが負けそうになったら撤退を」


 「当たり前じゃ!!」


 そう言って怒りながら公家の方は去られた。

 それにしても完全に忘れておったわ。

 こちらは平坦で大軍が展開できるのだ。

 どう考えてもこちらが不利にしかならん。


 「皆の者、声を出せ! 少しでも味方を鼓舞するのだ!

 そうでなければ呑み込まれるぞ!!」


 「行け行け行け行け行け行け行け行け行けーーーっ!!

 東国の者など何するものぞ!!

 我ら畿内者には勝てぬと教えてやれーーーっ!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 とりあえず勢いだ。

 相手の方が兵が多くとも、こちらに勢いがあれば押し勝てる。

 こうなれば押して押して押し続けるしかない。

 そうでなければ数の差で潰されて終わる。

 それだけは阻止せねば。


 「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」


 敵は動いていない?

 こちらの突撃を受け止めるように戦っておる。

 ここに来るまでも戦い方はあのような感じであったな。

 おそらくは仙太郎様であられたのであろうが、何故(なにゆえ)あのような戦い方をされるのであろうか。


 相手とぶつからずに受け止めるようにして戦う。

 何か理由があってしているのだろうが、それが何なのかは分からぬ。

 いったい何故にあのような戦い方を………



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利尊氏



 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 敵が攻めてきたが、こちらはそれを受け止めるのみ。

 理由は簡単であり、前に出ると味方の矢を喰らうからだ。

 こちらは敵を受け止めつつ、矢で敵を射殺していく。

 それが一番正しい敵の殺し方だ。


 誰かは知らぬが、容赦なく打ち倒させてもらおう。

 どのみち物見の報告通り、新田の弟であろうがな。

 兄の方と違ってまともだが、だからと言って手加減などをする気は一切ない。


 何よりこちらには新田氏の傍流である岩松家を始め、新田一族の大舘や烏山もおる。

 そもそも新田小太郎は里見の家から入った養子。

 そのうえ新田一族は足利家に組しておるのだ。

 すでに新田小太郎に総領の資格無しとな。


 まあ、そこも新田小太郎がオレを敵視するところなのだが、そんな事は知らん。

 そもそも新田家に養子に入っておりながら、新田家の事も考えずに好き勝手をするのが悪い。


 新田家の為を思えば足利の中で頭角を現せば良かったのだ。

 そうすれば新田一族は強固に纏まったであろう。

 しかし新田小太郎がやったのは、己の野心の為に新田の家を利用しただけ。


 これでは新田一族が離反するのも仕方なき事よ。

 そもそも新田一族から誰かを入れて新田家を継がせれば済むのだ。

 新田小太郎が生きている意味も無い。

 こちらにとってはな。


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「かかれ、かかれ、かかれ、かかれ、かかれ、かかれ、かかれーーっ!!

 西の奴らなど何するものぞ、叩き潰してしまえい!!」


 「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」


 ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!!


 「ふっ!!」


 ズドン!!


 相変わらずだが猛兵の矢はとんでもないが、桜の矢も十分にとんでもない。

 そして次々に敵兵を射殺しておるからか、徐々にだが、敵が及び腰になってきたな。


 前で牽制をしている者達が幾分か楽になってきたようだ。

 楠木殿が使っている弓矢が効いておる証だな。

 このまま敵を引き込んで殺してしまおう。

 守りを固める敵を倒すのは簡単ではなく、その後ろから矢が大量に飛んでくる。


 そんな相手を崩すのは難しいのだ。ましてや数が少ないのであれば猶更な。

 オレなら本隊を待って睨み合いを続けるが、敵はそうは思うておらぬようで、幾度も突撃を繰り返しておる。


 新田小太郎もそうだが、脇屋もそこまで指揮は上手くないらしい。

 オレとしては助かるが、そろそろ気づかぬと瓦解するぞ?

 そこまで行けば逃げ行く者どもを追撃する事になるが……それは大敗を意味するのだがな。


 物見から尊良(たかよし)親王殿下がいる事は分かっておる。

 親王殿下がおられるところが大敗する、その意味を本当に理解しておるのか疑問があるな。

 ………ま、オレには関わりない事か。


 弟の方は惜しいのだが、兄弟仲は悪くないと聞く。

 なので離反はすまい。

 あの兄と落ちていくのを思うと遣る瀬無いが、これも武士の習いというもの。

 甘んじて受け入れよ、脇屋。


 「敵が崩れたぞーーーっ!!

 追撃じゃーーっ、叩き殺せーーーっ!!!」


 「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 崩れれば後は逃げるしかない。

 このまま敵を追っていき、新田の本隊を裏から強襲する。

 仙太郎達と挟み撃ちにすれば、散々に叩けよう。


 新田どもには大敗をくれてやり、そのまま京の都まで追いかけてやる。

 光厳院には文を送り、オレ達の行いが正当であると御認め頂けるように根回しをしておるのだ。


 後醍醐帝では駄目だというのは、衆目の一致するところだからな。

 そうなれば光厳院に出張っていただく他あるまい。


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