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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 相変わらず意味の分からんヤツだ。

 普通に考えれば平坦で大軍が展開できるこちらに主力を向かわせるのが常道。

 にも関わらず、ヤツは大軍が展開できん隘路(あいろ)の方に大軍を持って行った。


 訳が分からなさ過ぎるし、貴様は兵法を学び直せと言いたくなるな。

 いったい何を考えればこんな事をするのだ。

 意味が分からんし、訳が分からん。

 ………駄目だな、考えても分からんものは分からん。


 「頭がおかしいのかな?

 隘路(あいろ)で大軍を展開しようとするとか、「殺して下さい」と言ってるようなものだよ。

 唯でさえ仙太郎達は、戦上手が使っていた弓矢を使ってるんだしさ」


 「まったくだ。

 頭が悪すぎるのか、それとも何かしらの理由があったのか。

 手柄を取られまいと搦手(からめて)の道に誰ぞを押し込んだのかもしれん。

 共に来ておる者は誰だ?」


 「名のある方としては、尊良(たかよし)親王殿下がおられますし、親王殿下は搦手(からめて)の方に来られておるようです」


 「また面倒くさい事になったな。

 流石に親王殿下を殺すわけにはいかんぞ。

 偶然にも矢が当たったとかいうなら仕方ないがな」


 「やろうか?」


 「いや、そこまでせずとも構わん。

 そもそも親王殿下は戦の指揮などとった事が無いのだ。

 むしろ邪魔にしかならぬであろうから、生きていてくれた方が都合が良い」


 「なるほどね、確かにそうかも。

 そのうえ逃げるとなっても足が遅そうだし、それを守るのに兵も要る。

 色々な意味で生かした方が都合がいいね」


 「そうねえ、追っかけて兵だけ殺していけば済むでしょ。

 足手まといが居ると大変だけど、こっちじゃないから気にする必要もないわ」


 「しかし本隊の指揮は新田がとるであろう。

 となると、こちらに来る将は誰だ?」


 「おそらくですが、新田左兵衛(かみ)の弟である脇屋左馬権頭ではないかと思いまする」


 「そういえばオレは左兵衛(かみ)ではなく、今は武蔵守だったのであったか。

 官職が簡単に変わるので慣れんな」


 「又太郎は又太郎でいいんじゃないの?

 というか官職をころころ変えすぎだよ。

 年号と何も変わらないけどさ、なんでころころと変えるんだろうね?」


 「さあな? 向こうにも何か事情があるのであろうが、オレからすればどうでもいい。

 正直に言って朝廷が認めずとも土地は持ち続けるしな。

 あくまでも朝廷が認めてくれるなら貰うという程度だ」


 「元々から土地を持ってるんだし、勝手に奪われても困るよね」


 「とはいえオレも新田荘などは三浦にくれてやる書状を発給したがな。

 あやつは我が足利から独立したのだ。

 こちらが配慮してやる義理も、守ってやる義理も無い。

 それがオレからの手切れだ」


 「仕方ない事ではあるよ。

 そもそも叛旗を(ひるが)えしておいて、自分の領地には手を出すなって言っても通じないしね。

 ただ独立しただけなら、そこまでされなかったのにさ」


 「そうだな。

 独立したのが(とど)めになったというところだ。

 元々あそこまでオレと足利家を舐め腐ってくれたのだ、ここまで反撃されるのは当たり前であろう。

 かつて黒金(くろかね)も言っていたが、武士は舐められたら負けなのだ。

 それは変わっておらん」


 「だよねえ。

 簡単に斬らなくなったけど、だからと言って舐めて来たヤツを許すわけが無い。

 そのまま放置すれば自分の家が舐められてしまう。

 それをしない為には殺すしかない」


 「まったくもってその通りだ。

 だからこそ新田だろうが脇屋だろうが容赦はせぬ。

 足利の家を舐め腐ってくれたのだ、後悔させてやろうぞ」


 足利の家を舐めるという事はだ、父上を始め代々の祖が舐められたという事だ。

 許せるはずなどあるまい。

 理解しておらぬのかもしれんが、既に容赦をする事など出来んのだ。


 新田には自らそこへ行ったという自覚は無いのかもしれぬが、許せる限界というものがある。

 しかしそれを振り切ったのは他ならぬお前だぞ、新田。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:新田義貞



 このまま行けば本道と搦手(からめて)で分かれる。

 敵の本隊は本道の方におるようじゃからして、尊良(たかよし)親王殿下には搦手(からめて)の方に向かってもらうか。


 「そのように分かれようと思いますが、如何(いかが)でございましょうか?」


 「ふむ。如何(いかが)思う?」


 「麿はそれで良いと思いまする。

 武士どもが必死になっておるのも見飽きました故に」


 「ゆるりと鎌倉に向かうも宜しゅうございましょう。

 いちいち面倒なものも見ずに済みますからなあ。

 ほほほほほほほほほほ…………!!」


 「然り、然り。

 武士どもが血や泥に塗れておるのを見ても、風雅典雅を解さぬ田分けとしか思えませぬからな」


 このクソどもが!! 戦いもせずに勝手な事ばかりホザきおって!

 貴様らなど尊良(たかよし)親王殿下がおらねば八つ裂きにしておるぞ!!


 「新田殿、如何(いかが)なされた?

 蟀谷(こめかみ)がひくひくと動いておじゃるぞ?

 まだまだ甘いのう、顔に出るなど朝廷では生きていけぬというのに。

 ほほほほほほほほほほほほほ…………!!!」


 それは貴様らの性格が悪いだけであろうが!

 何が風雅典雅だ! 腹の中がクソ塗れなほど醜き者どもめ!!

 ふざけるでないわ!!


 「ま、そなたの言いたき事は分かった。

 我は搦手(からめて)より行くので下がってよいぞ」


 「ハハッ!!」


 クソが!!

 敵とて搦手(からめて)に多少の兵ぐらい配置しておろう、そやつらに殺されるがいい!!

 ………いや、待てよ。

 義助に守らせて、密かに敵に殺させるか。

 流れ矢など戦場(いくさば)では珍しくもなんともないからな。


 そうと決まれば、しっかり話しておかねば。

 尊良(たかよし)親王殿下は無理でも、せめて公家どもは殺しておけ。

 そういえば義助も理解しよう。


 「兄者。呼ばれたから来たが、いったい如何(いか)な用件だ?

 今は忙しいのだが……」


 「義助、お前は尊良(たかよし)親王殿下の護衛として搦手(からめて)の方に行け。

 本隊はワシが指揮するので、搦手(からめて)の方はお前が指揮せよ」


 「は? …………いや、搦手(からめて)の方に行くのは構わんが、尊良(たかよし)親王殿下の護衛をしろというのか?」


 「そうだ。向こうも多少は搦手(からめて)に兵を置いていよう。

 なのでそれらとの戦いの最中に公家を殺せ。

 敵の流れ矢でな」


 「兄者、正気か!? そのような事が出来る訳なかろう」


 「やれ。あやつらは武士を舐め腐っておる。

 義助、昔から言うであろう。武士は舐められたら負けなのだ。

 武士を舐めておる以上、舐めた相手は殺すしかない。

 それが古くからの習わしぞ」


 「そうは言うが、無理だ。

 そもそも前に出るような方々でないのは、兄者も知っていよう。

 矢が飛んでくるよりも遥か後方に居るような方々ぞ。

 どうせよというのだ」


 「ぬ、それは確かにそうか。

 あやつらめ、武士を舐め腐っておるわりには、己らは後ろで高みの見物としておる。

 その割にはワシら武士を血に塗れた薄汚れと言いよるからな。

 ふざけおって!」


 「そのように言われたのか。

 それは確かに怒って当然だが、今に始まった事ではないし、言っても無駄だと思うぞ。

 何より相手は公家の方々であり、こちらよりも上だからな。

 どうにもならん」


 「義助! 貴様は武士としての矜持(きょうじ)も失ったか!」


 「兄者。矜持(きょうじ)と出来る出来ないは別だ。

 そしてやれば間違いなくこちらに兵を送られるぞ。

 その時は新田家の破滅に他ならぬ。

 公家の方々の言う事など右から左に聞き流せばよい。

 どうせ言う事しか出来んのだ」


 クソ! 義助は分かっておらぬ!

 武士は舐められたら負けなのだぞ!!

 たとえ相手が公家であろうが何であろうが、舐めて来た相手は殺さねばならんのだ!!


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