0188
Side:足利直義
我らは仕切り直しとして、現在は駿河の国は手越河原で陣を敷いている。
今度はここで新田軍を迎え撃つのだが、此度は真面目に戦わねばならん。
相手の数は削れたものの、それでも数は多い。
矢作川では川を挟んでいた為そのような削り方となったが、この戦はしっかりと戦って削らねばならん。
なかなか敵が来ぬなと待っていると、新田軍が現れたのは正午だった。
こちらは食事を済ませておるが、新田の方の兵は大丈夫なのか?
そうは思うが早速とばかりに敵は攻めて来た。
疲れを残したまま戦うとは、こやつら正気か?
また負ける為に色々な事を考えねばならんとは。
いい加減にしてほしいわ。
「撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃てーーーっ!!
敵を倒すのだ!
畿内者なぞ叩き潰せーーっ!!」
「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」
「行け行け行け行け行け行け行け行けーーっ!!
攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろーーーーっ!!!」
「「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」
両軍が派手にぶつかっておるが、こちらは敵を誘い込んで矢を撃ちこんでおる。
なるべく敵兵を多く削る為に、前方が敵を受け止め、そして後ろから大量の矢を浴びせておるのだ。
敵の本体は遠いのと、こちらの弓が良いからか上手くいっておる。
楠木様々と言ったところだ。
こちらの兵もよく持ちこたえてくれているし、矢で相手の兵を削る策も上手くいっている。
これは味方の兵が前に出ると使えぬので、味方の兵には前に出るなと厳命した。
流石に威力の高い矢を背中に受けたくはないのか、しっかりと守ってくれて何よりだ。
あたらに味方の兵を死なせる意味は無い。
そんな戦が何度も起き、敵が何度も攻めかかってくる。
しかしながら、こちらは受け止めて削るという事を繰り返すのみ。
そうでなければ兄上を上に押し上げる事が出来ぬ。
ここが私と高の踏ん張りどころだ。
「押せ押せ押せ押せ押せ押せ押せーーーっ!!!
敵など蹴散らせ、叩き潰せーーーっ!!!」
「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」
「かかれ、かかれ、かかれ、かかれ、かかれ、かかれーーーっ!!
東の田舎者などブチ殺せーーーっ!!」
「「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」
これで十七度か。
いったい何度繰り返し突撃をしてくるのだと思うが、そろそろ夕刻が近い。
今回の突撃で最後であろう、これが終わればお互いに退くしかない時間だ。
そしておそらく新田は……
十七度目の敵の突撃も終わり、この日はここで戦が終了となった。
私は高と相談しているが、やはり新田に対する私達の意見は一致していたらしい。
高も同じ事を考えていたようだ。
「アレは確実に夜襲をしてくるでしょう。
稀人が残した言葉の中に<馬鹿の一つ覚え>という言葉があります。
あの男は正にその言葉が当てはまる者でしょう。
故に必ず夜襲をやってきますよ。
それしか知らぬようにね」
「となると本隊の者には苦労を掛けるが、先に逃がそう。
一部の者達を置いておけば、それが本隊だと勘違いするはずだ。
夜は見通しが悪く、大軍かどうかなど確認は出来ん」
「そうですな。
そしてあらかじめ逃げよと言うておけば、すぐに決められた方向へと逃げるでしょう。
最初から逃げる事を言うておけば殺される事もありますまい」
「だな。そして相手はこちらに勝ったと勘違いをする。
夜襲が成功して勝てば気分が良かろうよ、あの程度の者は」
「ええ。そしてあの愚か者が総大将である以上、他の者は逆らえません。
愚かなままに我らの手の平の上で踊ってくれるでしょう。
しょせんは新田程度の者です。
そのうえ今の新田は同族である里見家からの養子。
真の新田一族ではありませんからな」
「なんだ、そうだったのか。
新田一族も可哀そうに、愚かな養子が家を潰しかねんとはな。
しかし容赦をする気は無い」
「新田一族の持つ領地が欲しい者は多いでしょうから、そこを突いてやればいいだけです。
後はどうなろうが我関せずで済むでしょう。
そもそも既に足利家から独立したのですし、ならば攻められても文句など言えませんよ」
「足利家の庶家であったから攻められなんだのにな。
いったい何を考えて……いや、何も考えておらんな。アレは」
「でしょうね」
私と高は何とも言えない表情をしつつも、撤退の為の指揮をとる。
そして逃げる役の者達を募り、全ての者の名と出身地を書いておく。
役目を果たしてくれる者達だ、しっかりと手当をせねばならん。
私達の策とはいえ、死んで良い者などおらぬのだからな。
では撤収だ。
愚か者どもに付き合う暇など無い。
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Side:脇屋義助
「それでは諸将の皆様、敵が寝静まった夜半に夜襲を掛けるという事で」
「「「「「「「「「「異議無し!!」」」」」」」」」」
兄者が夜襲を掛けると言っておるが、果たして大丈夫なのであろうか?
此度の戦も家臣に調べさせたが、どうもこちらの被害の方が多いようなのだ。
敵は徹底的にこちらの兵を削りにきておる。
それは間違いのない事実だ。
特に矢傷で倒れた兵があまりに多い。
死していない兵も、矢を肩に受けたりして戦えぬようになった者が多くおる。
相手は鎌倉を取られねばよいのだから、このような策を使ってくる事も考えておかねばならん。
にも関わらず兄者達は勝ったからと浮かれる有様。
これは危ういとしか思えぬが、何も出来んのが歯痒い。
…
……
………
夜半。夜襲を決行する時が来た。
兄者達は調べさせておいた敵軍の陣地へと鬨の声を上げながら雪崩れ込む。
自分も後ろからついていくのだが……松明の灯りしかないものの、本当に敵軍か?
陣の規模が小さい気がするぞ。
「寝こけておる愚か者どもを叩き殺せーーっ!!
足利の首を獲れば立身出世は思いのままぞーーっ!!」
「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」
敵は我先にと逃亡致しておるが、この暗闇では追撃が難しい。
自分は家臣達と共に陣地の中を探るが、ほとんど何も無い事に気づく。
これが本当に陣地か?
なれば何故これほどに何も無いのだ?
まるで……これは偽の陣地ではないのか!?
もしや敵は夜襲を察知し、既に撤退していたのでは?
………もしそうなら何故ここに敵兵がおったのだろうか?
ここに敵兵がおった以上は陣地である事に間違いは無いはず。
しかし妙な………駄目だ、分からん。
「えい! えい!」
「「「「「「「「「「「おーーーーっ!!!」」」」」」」」」」」
「えい! えい!」
「「「「「「「「「「「おーーーーっ!!!」」」」」」」」」」」
ああ、早速とばかりに勝鬨を上げておる。
しかし敵には逃げられておるし、肝心要の足利家の方を討ったという報告は無い。
果たしてこれで勝ったと言えるのか、正直に言えば勝ったとは言えぬであろう。
敵を蹴散らしはしたが、それだけでもある。
ここでもまた多くの兵を削られたのだ、不利になっておるのはこちらぞ。
なんだか敵の罠に嵌まっておるような、そんな気しかしてこぬ。
兄者や諸将は意気揚々としておるが、自分は不安でいっぱいだ。
まるで何かの罠の中に入り込んでいっておるような、そんな嫌な感じが拭えぬ。
分かってくれるのは家臣達だけだ。
他の者達にはとても言えぬし、愚か者だ情けない者だとしか言われぬであろう。
私も脇屋の家を背負っておる。
左様に名を落とすような事は出来ん。
やはり負ける事を元に考えるしかないか。
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