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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利直義



 我らは仕切り直しとして、現在は駿河の国は手越河原で陣を敷いている。

 今度はここで新田軍を迎え撃つのだが、此度は真面目に戦わねばならん。

 相手の数は削れたものの、それでも数は多い。

 矢作(やはぎ)川では川を挟んでいた為そのような削り方となったが、この戦はしっかりと戦って削らねばならん。


 なかなか敵が来ぬなと待っていると、新田軍が現れたのは正午だった。

 こちらは食事を済ませておるが、新田の方の兵は大丈夫なのか?

 そうは思うが早速とばかりに敵は攻めて来た。


 疲れを残したまま戦うとは、こやつら正気か?

 また負ける為に色々な事を考えねばならんとは。

 いい加減にしてほしいわ。


 「撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃てーーーっ!!

 敵を倒すのだ!

 畿内者なぞ叩き潰せーーっ!!」


 「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」


 「行け行け行け行け行け行け行け行けーーっ!!

 攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろーーーーっ!!!」


 「「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」


 両軍が派手にぶつかっておるが、こちらは敵を誘い込んで矢を撃ちこんでおる。

 なるべく敵兵を多く削る為に、前方が敵を受け止め、そして後ろから大量の矢を浴びせておるのだ。

 敵の本体は遠いのと、こちらの弓が良いからか上手くいっておる。

 楠木様々と言ったところだ。


 こちらの兵もよく持ちこたえてくれているし、矢で相手の兵を削る策も上手くいっている。

 これは味方の兵が前に出ると使えぬので、味方の兵には前に出るなと厳命した。

 流石に威力の高い矢を背中に受けたくはないのか、しっかりと守ってくれて何よりだ。

 あたらに味方の兵を死なせる意味は無い。


 そんな戦が何度も起き、敵が何度も攻めかかってくる。

 しかしながら、こちらは受け止めて削るという事を繰り返すのみ。

 そうでなければ兄上を上に押し上げる事が出来ぬ。

 ここが私と高の踏ん張りどころだ。


 「押せ押せ押せ押せ押せ押せ押せーーーっ!!!

 敵など蹴散らせ、叩き潰せーーーっ!!!」


 「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」


 「かかれ、かかれ、かかれ、かかれ、かかれ、かかれーーーっ!!

 東の田舎者などブチ殺せーーーっ!!」


 「「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」


 これで十七度か。

 いったい何度繰り返し突撃をしてくるのだと思うが、そろそろ夕刻が近い。

 今回の突撃で最後であろう、これが終わればお互いに退くしかない時間だ。

 そしておそらく新田は……


 十七度目の敵の突撃も終わり、この日はここで戦が終了となった。

 私は高と相談しているが、やはり新田に対する私達の意見は一致していたらしい。

 高も同じ事を考えていたようだ。


 「アレは確実に夜襲をしてくるでしょう。

 稀人(まれびと)が残した言葉の中に<馬鹿の一つ覚え>という言葉があります。

 あの男は正にその言葉が当てはまる者でしょう。

 故に必ず夜襲をやってきますよ。

 それしか知らぬようにね」


 「となると本隊の者には苦労を掛けるが、先に逃がそう。

 一部の者達を置いておけば、それが本隊だと勘違いするはずだ。

 夜は見通しが悪く、大軍かどうかなど確認は出来ん」


 「そうですな。

 そしてあらかじめ逃げよと言うておけば、すぐに決められた方向へと逃げるでしょう。

 最初から逃げる事を言うておけば殺される事もありますまい」


 「だな。そして相手はこちらに勝ったと勘違いをする。

 夜襲が成功して勝てば気分が良かろうよ、あの程度の者は」


 「ええ。そしてあの愚か者が総大将である以上、他の者は逆らえません。

 愚かなままに我らの手の平の上で踊ってくれるでしょう。

 しょせんは新田程度の者です。

 そのうえ今の新田は同族である里見家からの養子。

 真の新田一族ではありませんからな」


 「なんだ、そうだったのか。

 新田一族も可哀そうに、愚かな養子が家を潰しかねんとはな。

 しかし容赦をする気は無い」


 「新田一族の持つ領地が欲しい者は多いでしょうから、そこを突いてやればいいだけです。

 後はどうなろうが我関せずで済むでしょう。

 そもそも既に足利家から独立したのですし、ならば攻められても文句など言えませんよ」


 「足利家の庶家であったから攻められなんだのにな。

 いったい何を考えて……いや、何も考えておらんな。アレは」


 「でしょうね」


 私と高は何とも言えない表情をしつつも、撤退の為の指揮をとる。

 そして逃げる役の者達を(つの)り、全ての者の名と出身地を書いておく。

 役目を果たしてくれる者達だ、しっかりと手当をせねばならん。

 私達の策とはいえ、死んで良い者などおらぬのだからな。


 では撤収だ。

 愚か者どもに付き合う暇など無い。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:脇屋義助



 「それでは諸将の皆様、敵が寝静まった夜半に夜襲を掛けるという事で」


 「「「「「「「「「「異議無し!!」」」」」」」」」」


 兄者が夜襲を掛けると言っておるが、果たして大丈夫なのであろうか?

 此度の戦も家臣に調べさせたが、どうもこちらの被害の方が多いようなのだ。

 敵は徹底的にこちらの兵を削りにきておる。

 それは間違いのない事実だ。

 特に矢傷で倒れた兵があまりに多い。


 死していない兵も、矢を肩に受けたりして戦えぬようになった者が多くおる。

 相手は鎌倉を取られねばよいのだから、このような策を使ってくる事も考えておかねばならん。

 にも関わらず兄者達は勝ったからと浮かれる有様。

 これは危ういとしか思えぬが、何も出来んのが歯痒い。


 …

 ……

 ………


 夜半。夜襲を決行する時が来た。

 兄者達は調べさせておいた敵軍の陣地へと(とき)の声を上げながら雪崩れ込む。

 自分も後ろからついていくのだが……松明の灯りしかないものの、本当に敵軍か?

 陣の規模が小さい気がするぞ。


 「寝こけておる愚か者どもを叩き殺せーーっ!!

 足利の首を獲れば立身出世は思いのままぞーーっ!!」


 「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」


 敵は我先にと逃亡致しておるが、この暗闇では追撃が難しい。

 自分は家臣達と共に陣地の中を探るが、ほとんど何も無い事に気づく。

 これが本当に陣地か?

 なれば何故(なにゆえ)これほどに何も無いのだ?

 まるで……これは偽の陣地ではないのか!?


 もしや敵は夜襲を察知し、既に撤退していたのでは?

 ………もしそうなら何故(なにゆえ)ここに敵兵がおったのだろうか?

 ここに敵兵がおった以上は陣地である事に間違いは無いはず。

 しかし妙な………駄目だ、分からん。


 「えい! えい!」


 「「「「「「「「「「「おーーーーっ!!!」」」」」」」」」」」


 「えい! えい!」


 「「「「「「「「「「「おーーーーっ!!!」」」」」」」」」」」


 ああ、早速とばかりに勝鬨(かちどき)を上げておる。

 しかし敵には逃げられておるし、肝心要の足利家の方を討ったという報告は無い。

 果たしてこれで勝ったと言えるのか、正直に言えば勝ったとは言えぬであろう。

 敵を蹴散らしはしたが、それだけでもある。


 ここでもまた多くの兵を削られたのだ、不利になっておるのはこちらぞ。

 なんだか敵の罠に嵌まっておるような、そんな気しかしてこぬ。


 兄者や諸将は意気揚々としておるが、自分は不安でいっぱいだ。

 まるで何かの罠の中に入り込んでいっておるような、そんな嫌な感じが拭えぬ。

 分かってくれるのは家臣達だけだ。

 他の者達にはとても言えぬし、愚か者だ情けない者だとしか言われぬであろう。


 私も脇屋の家を背負っておる。

 左様に名を落とすような事は出来ん。

 やはり負ける事を元に考えるしかないか。


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