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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:新田義貞



 くくくくくくく………やっと足利どもの息の根を止められるぞ。

 ここまで待つのに苦労をしたが、これで大手を振って潰せる。

 我が新田家が頂点に立ち、武家の棟梁となるのだ!

 その手始めとして足利の家を滅ぼしてくれようぞ!

 ふははははははは……!!


 ザッザッザッザッザッザッザッザッザッ……


 「兄者、本当によいのであろうか?

 足利家から独立し、さらに叛旗を(ひるがえ)すなど、決して良い事とは思えぬが……」


 まだそんな事を言っておるのか義助は。

 あのような叛逆の徒など滅ぼしてしまうべきであろうが。

 さらに主家だなんだと五月蠅いのだ。

 ワシはあんな奴らの下で終わるような男ではない!

 断じてないのだ!!


 「何を言うておるのだ、義助よ。

 あのまま足利の庶家で良かったというのか?

 これからも永劫に我が家は庶家のままぞ。

 そもそも足利とて元は足利荘の豪族であろうが。

 それが立身出世をして大きな家となったのだ。

 ならば我が新田家が立身出世をして大きくなって何が悪い」


 「それは……確かにそうだが、しかし主家に対する裏切りであろう?

 足利家に連なる家からは完全に敵視されておるぞ。

 足利家に連なる家は多いし、新田家の家は関東ぞ。

 坂東武者が敵に回るというのは……」


 ふん! 下らん。

 なれば足利兄弟を滅ぼし、我らが鎌倉を手に入れればよい。

 ついでに鎌倉将軍府でワシらが執権となるのだ。

 そしてゆくゆくは宮将軍も傀儡にしてしまえばよい。

 ふはははははははははは……!!!


 「兄者……」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:脇屋義助



 この頃、兄者が狂ってしまったのではないかと思う。

 確かに足利家も元は足利荘の豪族であった。

 その事に違いはない。

 とはいえ源氏の血は間違いなく継いでおるし、そこは絶対のところだ。

 当時は豪族でも平氏か源氏の血筋の豪族は普通に居たからな。

 北条は違うが。


 それはともかくとしてだ。

 主家を裏切るという事は、次の主家も裏切るという事でもある。

 兄者はそこが分かっておらん。

 まるで己の考えの通りに上手くいくと思っておるようだが、そのような事はあり得まい。

 仮に足利家を打ち破れば、さらなる怨みと憎しみに晒されるぞ。


 その結果、新田家が滅んでしまったらどうするつもりだ。

 そもそも兄者は新田家の者ではない、同族の里見家から養子に入ったという事を忘れたのか?

 あくまでも新田一族から新田家を預かっておるに過ぎんのだぞ。

 いつの間にか己の家と誤解しておらぬか?


 それに宮将軍を傀儡にして、などと言うとは……

 それが北条のやった事であり、その所為で滅んだという事が何故(なにゆえ)分からんのだ。

 なぜ北条と同じ轍を踏もうとする?

 兄者がここまで愚かだったとは思わなんだ。


 兄者がおかしくなったのは鎌倉攻めの頃からだ。

 あの時まではそうではなかったが、野心が芽生えたのであろうか?

 こんな事になるのであれば、決起しなかった方が良かったかもしれん。

 兄者がせずとも誰かがしたであろう。


 あの時はそれほどまでに反北条の気運が高かったからな。

 何故(なにゆえ)こんな事になったのやら……



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利直義



 私は高三河権守と共に西進を続けている。

 実に三万もの軍勢を連れているが、今回の戦は敗北する為のものだ。

 敵を勢いづかせると同時に罠に嵌める為のものでもある。

 さらに敵を削って兄上に華を持たせる準備もしなければいけない。


 「仙太郎様、物見の報告によると敵は尾張と三河の境まで来ているようです。

 ここは矢作(やはぎ)川で対峙するのが宜しかろうと思います」


 「そうだな。

 それにしても高三河権守が、私が言い出した策に乗ってくるとは思わなかったぞ。

 いったいどういう風の吹き回しだ?」


 「どうもこうもありませぬ。

 私はそれが一番足利家の御為になると思うたまで。

 私にとって大事なのは足利家であり、その為の執事たる高家でございます。

 私にとってはそれが一番大事であり、感情だの伝統だのはどうでもよいとしか言えませぬ」


 「相変わらずだな。

 高家の者は常に同じであり、冷徹で冷酷だ。

 もちろんそれが足利家にとって最も良いからなのは分かっているがな。

 もう少し何とかならぬか?」


 「それは心の隙にございます。

 その心の隙を突かれ家ごと滅ぶ。

 左様な事が無いと言えますか?

 そうなるぐらいであれば、私はそれらを全て一刀の下に切り捨てます。

 足利家の為になりませぬゆえ」


 「まあ、言いたい事は分かるのだが……」


 高の一族はずっとこれだ。

 代々そのように教えられると言うし、間違っているとは思えぬ。

 しかし私が忠を尽くすのは兄上であり、高が忠義を尽くすのは足利という家だ。

 私としては兄上が第一なのだが、高はそうではない。

 そこが私と高の相容れぬところだ。


 それに高の一族は冷徹な部分が大きすぎる。

 それは結果として多くの恨みを生み出す元でしかない。

 それで北条が滅んだのだから、我が足利がその轍を踏むわけにはいかんのだがな。

 そこは理解しておるのであろうか?

 己ならば大丈夫だとか思ってはいまいな?


 こやつが何を考えておるのか分からぬが、とにかく今は己の役目を果たさねば。

 なるべく兵を損耗せずに敵を削り、そして負けていると見せかけて撤退。敵を勢いづかせる。

 ……危険ではあるが、これは果たさねばならぬ役目。

 しっかりと熟さねばな。


 …

 ……

 ………


 我らは矢作(やはぎ)川を挟んで敵と対峙した。

 向こうは二万の兵数ぐらいだとのこと。

 流石に私も高三河権守も頭を抱えてしまった。

 まさかこちらよりも一万も少ないとは思わなかったぞ。

 このままでは負ける事が不自然になってしまう。


 「仕方ありませぬ。

 ここは兵を広げて待ち構える事と致しましょう。

 敵に勝ってもらわねばならぬという、(いささ)か以上も常道から外れた事を致すのです。

 多少の粗さは目を瞑るしかありませぬな。

 しかし広げた兵で敵を削る事は可能でございましょう」


 「確かにな。鶴翼の陣ではないが、とにかく広げて削る事にしよう。

 それに新田はかつて鶴翼の陣を破っておる。

 それを再現してやればいい。

 どうせ単調な頭しかしておらぬのだ、それで勢いづくであろう」


 「ですな。

 それにしても何故(なにゆえ)新田如きが調子に乗っておるのか、理解に苦しみまする。

 我らが手を出さぬだけで、いつでも新田の家を根切りに出来るのですがな。

 あやつは全くそれを分かっておらぬのでしょうか?」


 「分かっておらぬのであろうな。

 京の都にもおったが、己の思い通りになると思い込んでおる田分けが、不思議とこの世にはおるのだ。

 新田がそうであっても不思議ではあるまい」


 「いましたな、そのような方が。

 なぜにそのような方が帝をやっておられるのか知りませぬがな。

 あの方は頭が悪うないのですが、(うつつ)を知らなさすぎます。

 それぞれの法は立派であり優れたるものなのですが、理想が高すぎて失敗ですからな」


 「どういう事だ?」


 「後醍醐の帝は優れたる方ですよ、私は高く評価しております。

 もちろん、そのマヌケさも高く評価しておりますがな。

 あの方の法治に関する考えは非常に優秀なのです、ですが手続きを含めて煩雑に過ぎる。

 その結果、(まつりごと)(とどこお)る事態に(おちい)っておるのです」


 「なれば、それを言えば良かろう。

 何故(なにゆえ)言わなんだのだ?」


 「それを言っても聞き入れられぬでしょう。

 それに又太郎様の手柄になるならばともかく、帝の手柄にする気などありませぬ」


 それは確かにそうだな。

 私も帝の手柄になるような事はせぬ。

 兄上の手柄になるならば喜んで上奏するが、それ以外ならば黙っておくか。

 この辺りは私と高三河権守の一致しておるところだ。


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