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Side:楠木正成
帝の下を辞して帰りておるが、もしかしたら足利殿を討つ事になるのやもしれん。
そういう事は無い方がよいのだが、あの朝廷の様子じゃと言いだしかねんな。
しかし………足利殿の下には稀人である黒金殿がおるのを忘れておらぬか?
後醍醐帝にはおらず、足利殿と共におるのだ。
これはどう考えても天意というか、神意が足利殿にあるという事であろう。
帝が何をどれだけ言われようが、稀人がつくという事の意味を考えた方が良い。
黒金殿が帝に靡く事も無かったしな。
となると間違いなく足利殿の下に天意があると言っても過言ではあるまい。
……さて、困ったぞ。
この場合は足利殿の方につくべきであろうと思うが、帝がそう簡単にワシらを手放してくれるとは思えぬ。
そうなる前に帝の陣営に居すぎたとも言えるが、こうなるまでは分からんかったからのう。
仕方がないと言うしかないわ。
帝に合力いたして楠木一党の旗を立てる。
そこまでは間違っていなかったはずじゃ。
現に北条に勝つ事は出来たのじゃからのう。
しかし問題はそこからであったか……。
それに帝が帰洛する際の護衛を務めたりと、ちょっと近くに行き過ぎた。
ここで帝を裏切るなどという事になれば、ワシの領地が奪われかねん。
足利殿は東国だからよいが、ワシは完全に畿内じゃからのう。
こうなってくると、足利殿以上に領地を奪われる覚悟をせねばならん。
いったい何故こうなったのやら……。
ワシは屋敷に戻りて正装を脱ぐが、気になったのか弟がやってきた。
「兄者、内裏はどうであった?
何かワシらの手に負えぬような事を言われたか?」
「ワシらの手に余るというか、問われたのは足利殿の事よ。
足利殿が勝手に恩賞を発給しておるのだが、それに対してどう思うかと問われた。
なので「致し方ない」とお答えしただけだ」
「しかし恩賞などは帝がお決めになる事であろう。
仕方ないも何も大問題ではないのか?」
「確かに大きな問題じゃ。
だが、恩賞も与えぬ者についていく武士はおらぬよ。
それどころか、恩賞を出さねば足利殿が恨まれかねん。
なので恩賞を出すのは致し方がない。
そもそも恩賞を出さぬからこそ、北条に対する怨みと憎しみが広がったのであろう。
文永の役と弘安の役を考えれば分かる事だ」
「そうじゃな。
蒙古を防いだというのに恩賞は碌に無かったと聞く。
とはいえ守る戦であり攻める戦ではなかったので、仕方がないとも言えるであろう。
もちろん誰も納得などせぬがな」
「そういう事じゃ。
だからこそ、此度の足利殿も致し方がないとしか言えぬ。
しかしなぁ………公卿や公家の方々はそう思うておらぬようじゃ。
足利殿を討てと言いかねん雰囲気であった。
ワシは御免だぞ、相手には黒金殿がおる。
稀人がついておる相手と戦ってどうするというのだ」
「それはマズいのではないか?
もし足利殿が武家の棟梁にでもなってみろ、楠木一党の名が地に落ちる事すら無いとは言えん。
せっかく掲げた旗が、朝廷の所為で地に落ちかねんぞ」
「そうなのだが、ワシらは帝に近すぎる。
こうなるとは思っておらなんだのでな、帝が帰洛する際の護衛も行った。
これでは完全に帝の側だと思われておろう。
流石に向こうに行く事は難しい。
足利殿が許しても、周りが許しはすまい」
「…………このままではマズいな。
できれば帝には、足利殿を討つなどという事は言わんでくれとしか思わん。
仮に一度や二度勝ったとしても、本当の勝ちにはならぬかもしれん。
足利に勝つには足利兄弟と息子を殺すしかないが、あの稀人が居て出来るのか?」
「難しかろうな。
逃げに徹されると討つ事など不可能であろう。
伝説の稀人が、なぜ伝説なのか。
その事を朝廷の方々は知らなさすぎる。
いや、ワシも知らなんだが、あそこまでメチャクチャだとは思わんかった。
流石にアレに勝つのは難しい。
ワシをして無理だとしか言えん」
「で、あろうな。
あれに対してだけは、兄者が勝てるとも思えんのだ。
それどころか殺されかねんし、間違いなく敵対してはいかんであろう」
「このままどうなるかを見守るしかあるまいが………。
新田が何を言いだすか分からんのが怖い。
あやつであれば帝に対し、喜んで足利殿を討つべきだと言い出すであろう。
そして公卿や公家の事を考えれば、そうなる恐れが大きい」
本当に面倒な事になってきおったわ。
このままでは楠木一党の旗がどうなるか分からん。
帝が上手く政をしてくれていれば、このような事にはなっておらぬというのに……。
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Side:新田義貞
ふふふふふふふ……。
足利めが勝手な事を始めたか。
ここで後醍醐の帝に接近いたしてワシが足利を討てば、帝の覚えも目出度くなろうというもの。
こうなれば新田の家に文を出し、足利の庶家ではなく新田の家として独立しておかねばな。
ふはははははははは、ワシが足利の息の根を止めてみせようぞ!
待っておれよ、ワシがそのそっ首を刎ねて二条河原に晒してやるわ!!
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Side:足利尊氏
恩賞を発給した事により、共に戦ってくれた武士達からは随分と助かったと言われた。
まあ、仕方あるまいな。
帝の下では恩賞が出るかは分からぬ。
いや、出ない可能性の方が高い
朝廷が何を考えておるのかは知らぬが、武士とは御恩と奉公の関係なのだ。
これは頼朝公がお決めになられた鎌倉の世から変わらぬ。
いや、その前からそもそもの形はあったという。
それに平安の世でも武士に恩賞は出ておるのだ。
それが何故武士に恩賞も碌に出さず、何もしておらぬ公家には恩賞が出るのだ?
もちろん全ての公家が何もしておらぬ訳ではない。
されど公家にはさっさと恩賞を出し、武士には厳しく指摘して恩賞を減らす。
左様な事をやっていれば不満が鬱積するのは当たり前であろう。
にも関わらず、全てを帝が行うなどとしたから、いつまで経っても恩賞が出ぬのだ。
武士が怒り狂い、そして帝を見限るまで遠くはなかろう。
実際にオレや楠木殿や新田には出たが、そもそも北畠卿は何をしたのだ?
何か聞こえてくるような功があったのか?
オレは北畠卿の功として何があったのかなど、一度も聞いた事が無いぞ。
にも関わらず褒賞を貰っておったな。
あれもおかしな事だ。
いったい何故あんな事を今でも続けておるのか理解できん。
武士達がそっぽを向けば、誰ぞが好き勝手を始めても止められなくなるのだがな。
その辺りの事をまったく理解しておらぬ。
未だに武士は従って当たり前だと思うておるのであろう。
帝は醍醐帝などの頃に戻して、帝が親政すべきだと考えておられる。
だがな、今はその時の世と同じではない。
なぜ同じ事をして上手くいくと思うのか分からぬし、だからこそ二条河原の落書があったではないか。
今の世と昔の世は違うのだ。
同じような事をやろうとして、上手くいく事などあるまい。
帝の理想は立派なれど、現に足がついておらぬ。
だから失敗しているのであり、それ故にあんな落書が書かれるのだ。
内裏の中におると外が分からぬのであろうな。
どれだけ立派であろうが、現にとって役に立たぬなら、それは役に立たぬのだ。
向こうにおるのは楠木殿と新田か。
新田はどうでもよいが、楠木殿が怖いな。
何か言ってきたら出家でもするか。
千寿王に当主を替えれば文句も言ってくるまい。
よくある事でしかないからな。
朝廷とて何人も院がおるし、それでありながら院として権勢を揮っておるのだ。
オレだけ駄目だとは言えまい。




