0182
Side:神守黒金
僕達は久しぶりに鎌倉に戻ってきたので、今は近くの山に獲物を獲りに来ている。
又太郎と仙太郎は色々と話し合っていたけど、簡単に言うと付き従ってくれた諸将に恩賞を出すかどうかという話し合いだった。
又太郎は勝手に出すと京の都が五月蠅いのでは? と言っていたけど、仙太郎は恩賞を勝手だろうと出すべきだと言った。
特に又太郎は征東将軍の官職を得てるんだから、出しても問題ないはずだと。
そもそも帝が碌な恩賞も出さないからこうなってるんだしね。
それと同じ事を又太郎にさせる訳にはいかないんだろう。
そんな事をすれば足利家の求心力が落ちてしまう。
そこに関しては高師直も同じ意見だった。
仙太郎と高は別の意見である事も多いんだけどね。そこは一致してる。
そして結局悩んだ末に、又太郎は独自に恩賞を発給し始めたようだ。
まあ、恩賞を与えなかったら、今度は足利家が諸将から恨まれるからね。
これは仕方がないとは思う。
とはいえ間違いなく揉め事になるだろうけどさ。
それでも恩賞を碌に出さない後醍醐帝よりはマシじゃないかと思う。
都合よく武士を使う割には恩賞も与えないっていうんじゃねえ。
怒って当然だし、そっぽを向いても当然だと思うよ。
だって戦をするだけで銭が掛かるんだしさ。
そんなに恩賞を出したくないなら、全部を公卿と公家にさせればいいんだよ。
あいつらには恩賞を配ってるんだしさ。
あいつらなら銭を持ってるんだから、問題なく出来ると思う。
陸奥将軍府で励んでる北畠っていうのも居るんだし。
そんな事を考えながら狩りをしていると、上から「バサバサ」聞こえてきた。
空からそんな音をさせるのなんて一人しか知らないから、間違いなく黒霧だろうね。
「久しぶりだな。長く留守にしていたみたいだが、京の都は楽しかったか?」
「ぜんぜん。だって人が多いし、賊も多いし、なんか争ってるのも多いんだよ?
あんな所だと久しぶりに思い出したけど、なんであんなに争うんだろう。不思議で仕方がない。
そんなに暇なら何かすればいいのに、下らない争いばかりしてるんだ」
「ま、あそこの人間どもなど、そんなものであろうよ。
昔から争ってばかりと聞くし、禄でもない者どもしかおらぬ。
勝手に争って勝手に死ぬならば構わんのだが、そやつらの争いの所為で妖怪が増えるからな。
我らからすれば面倒でしかない」
「だろうね、僕もそう思うよ。
なんでああも争いが好きなのかと思うけど、あんな帝なら倒すのも仕方ないのかなって思う。
流石にアレは愚かだとしか思えない」
「姓と名字を貰ったと聞いたが、その相手に対して随分と辛辣だな?」
「そこは知ってたんだね? とはいえ公家を優先して、功も無い公家に恩賞を出す。
その割には功のあった武士には恩賞を碌に与えない。
一部の武士には与えてるけど、それは僅かな者だけだからね。
それに重税を課すし」
「随分と色々な者が苦しんでいるようだと思ったら、重税など課しておったのか。
それでは民心の離反を招くし、結果として追い落とされるぞ。
まさか左様な事すら分かっておらんのか?
………流石に呆れるな」
「まともな者は誰もが呆れてたわよ。
それでも止めないんだから、あり得ないわ。
そもそも大内裏とかいう、自分の住まいを含めた建物の為に重税を課すんだもの。
どれだけの怨みと憎しみを生み出したか……」
「己で己の首を絞める阿呆か。碌でもない者だが、古き時より左様な者はおると聞くしな。
そのような者なのであろう、としか言えん。
頂点が愚かだと大変だな。我ら天狗の場合は愚かでない故、そこは助かっておるところだ」
「そうなんだ。だったら感謝した方がいいよ。
上が酷いと、本当に酷いからね」
本当に碌でもないんだけど、あれは経験しないと分からないだろうと思う。
本当に何を考えているのか、まったく理解できないし。
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Side:足利尊氏
オレが仙太郎と高階に言われて恩賞を発給しておると、それをどこかから聞きつけたのであろう。帝の文が届いた。
どうやら激怒してしておるらしいし、それと共に帰洛の命令が書かれておる。
オレはそれに対して恩賞を与えねば武士が暴発する事と、雑訴決断所は公家にやらせてくれと書いて送り返した。
正直に言って京の都に戻る気などないし、向こうは仕事もしていない公家が大量におるのだ。
そいつらを使えばよかろうとしか思わん。
なぜオレがわざわざせねばならんのであろうな? 本当に嫌になってくる。
帝は親政をなされると決めたのだ。
そして全ては己の決済が必要だと定められた。
だったら全て自分でしてくれ、いちいちこっちに言ってくるな。
オレはオレに味方した御内人達にも恩賞を出さねばならんのだ。
諏訪が御内人が北条を再興するとか言っておったようだが、御内人の中にも従わぬ者は多く出た。
それ故に北条は正式な文書すら発給できず、御内人の連署で発給できる程度の書状しか出せなんだという。
呆れる他ないが、このような状況で上手くいくと思っておったとは、諏訪とはまことに愚かだったのだと思うわ。
それはともかくとして、新たに帝の文が来たらまた考えればよかろう。
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Side:楠木正成
足利殿が鎌倉に行った後、まったく帰って来ぬらしい。
気持ちはよう分かる。ワシも嫌になってきたからな。
しかもその事について参内せよと言われる始末。
いちいち正装をせねばならぬので面倒だというのに、いったいワシから何を聞くと言うのだ。
「おお、楠木よ。やっと来たか。
此度そなたを呼んだは、足利左兵衛督の事についてだが、勝手に鎌倉攻めの者どもに恩賞を発給し始めおった。
朕の親政を揺るがす行為でしかない。楠木は如何思う?」
如何も何も当たり前の事であろう。
そも武士が恩賞も無しに働く訳があるまい。
それこそ下からの突き上げを受けてしまうわ。
場合によっては謀反を起こされかねん。
「それがしは仕方なき事と思いまする。
武士とは御恩と奉公の関係にございます。それ故、恩賞も無しに働く者などおりませぬ。
そもそも文永の役と弘安の役にて、碌な恩賞が出せなんだのが北条の傾きの始まりでございます」
「なんという卑しき者どもじゃ」
「これだから武士というのはいかん」
だったら全ておのれらがやれ。
ワシらがなぜ身銭を切ってまでせなばならんのだ。
恩賞を貰っておる、おのれら公家がすればよかろうが。
いちいちワシら武士に言ってくるな。
「それほどまでに恩賞を求めるのか?」
「戦をするにも銭が掛かり、兵糧も無くなりまする。
それが補填されないのであれば、武士はそっぽを向きましょう。誰も己が損する事など致しませぬ。
それで争いとなるならば、己の土地を命を懸けて守るのみ。
それもまた武士でございまする」
「これはまた……。しょせんは武士など話にならぬな。
やはり武士などという者どもは必要ない、そうではおじゃりませぬかな?」
「さすれば、それがしも河内に帰らせていただきまする。
後の事は皆々様にお任せ致します。
ではこれにて」
「まあ、待て、待て。
そなたらもいちいち口を挟むな。
雑訴決断所の仕事をするのか? 記録所の仕事をするのか? せんならば黙りておれ」
「「「「………」」」」
これは駄目だな。本当に話にならぬ。
京の都を目指す武士はおるであろうが、有力な者がそっぽを向けば京の都など丸裸じゃぞ。
なぜその程度の事も分からんのだ。
己の命がタダで守れると本気で思うておるのか?
これだから公家は嫌いなんじゃ、現をまったく理解しておらぬ。
こやつら京の都の事しか知らぬのだ。
ある意味で京の都の田舎者じゃ。
日の本の広さを知らぬ田舎者、それが一番相応しかろう。




