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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利直義



 何とか三河まで逃れてくる事が出来たか。

 おそらくだが赤橋の方に危害は加えられていないはずだ。

 そもそも奴らは北条の残党。そして赤橋の方は当然ながら赤橋家だからな。

 北条方に危害を加えるなど、自らの欲で北条を担いだと吹聴するようなものだ。


 それよりも足利家の領地である、ここ矢作(やはぎ)で態勢を整えねばならないな。

 まずは成良(なりよし)親王殿下を京の都へお返しし、兄上に援軍を請う文を出さねば。

 それを待って反撃と転じたいが、まずは千寿王を休ませないと。


 この歳で随分と苦労を掛けてしまっているな。

 それでも足利家の次代の当主だ。

 すまないとは思うが、我慢してくれ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利尊氏



 仙太郎から鎌倉を襲われ敗北し、三河の国は矢作(やはぎ)で態勢を整えているという文が来た。

 相手は(さきの)執権の息子である北条亀寿丸を御輿にしておるようだ。

 どこの誰かまでは分かっておらぬようだが、すぐに動かねばならん。


 オレは帝に上奏を申し出て、それが許可されたので里内裏に来ておる。

 そして述べるのだが、どうにも周りの公卿や公家の顔色が変だな? 何かあったのか?


 「足利左兵衛(かみ)よ、如何(いかが)した?」


 「ハッ! (さきの)執権の子である北条亀寿丸を御輿にした者達が、東国にて蜂起致しましてございます。

 その者達は多くの者を糾合致しまして鎌倉を強襲しようとした為、それがしの弟が鎌倉の外で奮戦。

 しかし敗れ、現在は三河まで逃れてございます。

 それがしはこれを救援し、鎌倉に居座る者どもを打ち倒しに参ります。

 そのお許しと征夷大将軍位を賜りたく」


 「征夷大将軍位をか? あれは鎌倉将軍府の将軍の為のもの、つまり親王の為の官職ぞ。

 何故(なにゆえ)そなたに与えねばならんのだ」


 「かつて河内源氏の棟梁たる頼朝公が得ておられます。

 必ず親王殿下でなくばならぬという訳ではございませぬが……」


 「駄目じゃ! 駄目じゃ! 今は親王の為の官職である!

 そなたに与えるようなものではない!」


 「いい加減にせよ、足利左兵衛(かみ)

 己の分を(わきま)えるのだな」


 「………それでは失礼いたしまする」


 「なっ! 己でこの場を願っておきながら、なんと無礼な!!」


 何か公卿や公家どもが喚いておるが、オレにとってはどうでもいいし知った事ではない。

 征夷大将軍位が役に立つと思ったから願ったが、こいつらが役に立たなかったな。

 あまりにあまりで呆れるわ。やはりこやつらも無能か。


 オレは里内裏を辞すると、すぐに高師直(こうのもろなお)、正しき名は高階(たかなし)師直(もろなお)に兵を集めさせる。

 仙太郎と千寿王が三河で待っておるのだ。すぐに出陣致したいが、兵がおらぬでは戦えぬ。

 他の者達も手伝ってくれたからか、総勢四万もの兵が集まった。


 そしてオレはすぐに出陣。京の都の事など放り捨てて救援に行く。

 唯でさえ今まで何度も鎌倉に帰ると言って来たのだ、その俺を無理矢理に引き留めて来たのは朝廷であろう。

 にも関わらず肝心な時に役にも立たんのだから、話にならぬわ。


 京の都を出た我らは一路、鎌倉を目指して東山道を進んで行く。

 近江に入りある程度進んだところで、後ろから誰ぞが来たらしい。

 オレに用があるというので会うと、白塗りの公家であった。

 誰かは知らぬが何の用だ?



 「ふぅ、やっと追いついたわ。まさか、ささっと兵を集めてすぐに出て行くとは。まるで雷の如しじゃの。

 麿は帝からの命を受けて足利左兵衛(かみ)の下へと来たのじゃ。

 帝は足利左兵衛(かみ)、そなたに征東将軍の官職を授けるとの由におじゃる」


 「ハハッ! 謹んで拝領いたしまする」


 「うむうむ。それにしても驚いたわ。

 まさか帝の許しも無しに出陣致すとはのう。

 一部の方が五月蠅いが、それは覚えておかれるとよかろう。

 面倒なのでな」


 「ハッ! 御助言、ありがとうございまする」


 その後は丁重に見送ったが、渡すのであれば最初から渡せという話だ。

 弟が救援を待っておるというのに、行かぬ兄がおると思うておるのか? あり得ぬわ。

 必ず己を優先するとでも思ったのかもしれぬが、その考えが(さきの)執権と変わらんのだぞ。


 それ故に足元が崩れて滅んだのだという事すら分からぬとは……。こちらは唯々呆れるだけよ。

 北条もそうだったが、なぜ分からぬのか理解できん。

 そもそも己らの都合の良きように行くなどあり得ぬであろうが。

 左様な世ならば、ここまで民心が乱れたりしておらぬわ。


 おのれらで乱しておきながら、今だに好き勝手とは恐れ入る。

 もちろん頭のおかしさに恐れ入るのだがな。

 いい加減にしてもらいたいところだ。鎌倉の残党を叩き潰して追い出したら、鎌倉で過ごそう。

 京の都などオレのおるべき場所ではない。


 黒金(くろかね)も桜もその方が喜ぼう。あのような面倒しかない場所はもう御免だ。

 雑訴決断所も知らぬ、おのれらでやればよいのだ。回らぬならば公家を入れればいい。

 見下している武士ではなく、立派な公家がやればよかろう。


 …

 ……

 ………


 三河は矢作(やはぎ)まで来たが、仙太郎も千寿王も無事であった。

 やれやれと言ったところだが、二人が無事なのを見て安堵したわ。


 「仙太郎も千寿王も無事だったようで何よりだよ。

 まさか仙太郎が戦に負けるとは思わなかったけど、相手はそんなに強かったの?」


 「強いのではないな。帝のなさりようの所為で、敵に勢いがありすぎたのだ。

 こちらは鎌倉を荒らさせぬ為に外に出て戦ったし、その所為もあって地の利がなかった。

 あとは敵の勢いに押し切られて終わりだ。頑張って矢を射ったのだがな」


 「敵が怒涛の勢いで攻めてきたなら、どうにもならないでしょうよ。

 ま、私達に任せておきなさいな。

 鎌倉に篭もってようと奪還できるわ。

 それにようやく面倒で堅苦しい都から出られたしね」


 「そういえば皆は都に居たのだったな。

 大変であったろう、私が居た頃も面倒な事が山ほどあったからな。

 それが続いておるとなれば……よく兄上は我慢できましたね?」


 「仕方あるまい。今でも我ら足利の家を狙っておる者はおる。

 何かにつけて我が家の領地を奪おうとする者がな。

 それらを牽制するには都で仕事を熟すしかなかったのだ」


 「まだ居たのですか。本当に欲というものは無くなりませんね。

 我が足利から奪おうなどと考えるとは、どこの愚か者でしょうか」


 「そんな者はどこにでもおる。

 嫉妬から言いだす者も、己ならばもっと上手く出来ると(うそぶ)く者もな。

 そういう田分けが集まるのも都だ。

 さて、仙太郎と千寿王の無事も分かったし、鎌倉から阿呆を叩き出すか」


 「ですね。奴らは北条亀寿丸を御輿にしていますが、集めた情報によると亀寿丸はまだ五歳でしかないようです。

 そして信濃の国の諏訪という者が後ろにいるようで」


 「信濃の諏訪? ………ああ、御内人(みうちびと)か。

 元々は御内人(みうちびと)が御家人も兼ねておったし、御家人の方が立場は上だったのだがな。

 内管領(ないかんれい)と共に賄賂を受け取り私腹を肥やしていた連中だ」


 「ええ。

 どうやら賄賂を受け取れなくなったから、(さきの)執権の遺児を担ぎ出したようですね。典型的な愚か者です。

 ただ、そこに帝の失政に対し不満を抱えた者が合流したようで」


 「重ね重ね、碌な事をせんな。

 いったい何故(なにゆえ)あそこまで下らぬ事をし続けるのやら。オレには全く理解できん。

 帝もそうだし、周りの公卿もそうだ。まるで我が世の春のように好き勝手しておるが、頭の中も春らしいわ」


 「春になると田分けどもが湧いてきますからね。

 仕方がないのでは?」


 仕方がないでは済まされんと思うがな。

 帝がアレでは……


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