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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:諏訪頼重



 我らは流れの勢いのままに信濃の国を出て武蔵の国まで進撃、今は止まって少々休んでおる。

 疲れたまま鎌倉を攻めても勝つ事など出来ぬからな。

 ぬっ? 物見が帰ってきたか?


 「報告! 報告!

 この先の女影原にて鎌倉の軍が布陣! 既に待ち構えております」


 「ほう、数はどれぐらいじゃ?」


 「はっ! 数は大凡(おおよそ)で二千というところでございます!」


 「はっはっはっはっはっはっ! これは笑える話じゃわ!

 我らが五千を超えておると敵は知らぬようじゃのう。

 ならば話は簡単。全軍で一気に攻めるべきじゃな。

 下らぬ手練手管を考える必要などない。

 敵の罠さえ気を付ければ、数ですり潰す方が余程よいわ」


 「うむ、それが一番よかろう。なんと言っても兵が勢いづく。

 力で当たりて勝利したという事実は大きいからのう。我らは鎌倉を見据えて勝ち方も考えねばならん。

 府中の国衙(こくが)では碌な戦いもなかった。ここが今回の戦の初陣と言ってもよい」


 「その通り。それ故に、ここを力尽くで突破できれば大きな勢いとなる。

 我らはその勢いと流れに乗らねばならん。

 ここは諏訪殿の申す通り、罠を警戒しつつも真正面から力で潰すが上策よ。

 ここで士気を高めるのと同時に、さらに兵を増やす為にも派手に勝たねばならんぞ」


 「それでは満場一致という事で、派手に鎌倉、いや足利の者どもを打ち破るとするかのう。

 皆の者を十分に休ませた(のち)に出陣いたす」


 「楽しみで仕方ないのう! 我らが打ち破り、それを亀寿丸様にお見せする。

 ふふふふふふふふふ、血が(たぎ)ってくるわ!」


 「まだ戦が始まるわけでもない。

 ここで血気に(はや)っても疲れるだけぞ。まずは落ち着いて休まれるが良かろう。

 戦いの前に疲れるなど、初陣の済んでおらぬ(わらし)ではないのだからしてな」


 「そういえば左様な頃もあったのう、懐かしいわ。

 かつては死した者を見ただけで足が震え、小便を漏らしたものよ。

 その姿を父上に笑われたが、父上も初陣では同じであったと言われてな。

 そのようなものかと思った記憶がある」


 「ワシも同じじゃ。敵の槍が迫った時には小便も糞も漏らして逃げたわ。

 情けない話じゃが、しかして戦場(いくさば)など左様なもの。

 (わらし)の時に思い描いておった、恰好の良いものではないからな」


 「うむ。だからこそ、愚かな者は戦に放り込むべきよ。

 人の生き死にを見て漏らせばよいのだ。そうすれば愚かな事も言わぬようになる。

 己の情けない姿を多くの者に見られるのだからな」


 「はははははははは、確かにワシも愚かな戯言など言わぬようになったな。

 真の怖さというものを思い知ったからのう。

 そしてだからこそ勝つ事の難しさも知ったわ」


 「ふふふふふ、誰もが通る道であるな。

 それぞれに情けない初陣の姿があるが、それがあって今がある。

 ……さて、休んだ(のち)に暴れるか。

 白刃や槍の穂など、なにするものぞ。

 と、今は言える故にな」


 「そうじゃの。ゆっくりと休んで、しっかりと戦えるようにせねば。

 それでは、御免」


 「それでは、それがしもこれで」


 滋野殿と仁科殿が離れていくが、誰もが初陣は左様なものよ。

 初陣で怖さを感じぬ者もおるが、そういった者ほど早う死ぬ。

 父上も言うておられた、戦場(いくさば)では如何(いか)に怖さを感じるかが肝要。

 そして怖さから目を背けるな、ともな。


 怖さを感じれば、すぐに何があったのかを探らねばならぬ。

 そうせねば怖さの大本に殺されてしまう故にな。

 それ故に目を背けてはならぬのだ。


 ワシの命はそうやって助かってきておる。

 怖い事を認め、それ故に怖さを真っ直ぐ見る。

 それこそが武士の戦の仕方よ。


 愚かに争うだけなら賊でも出来るのだ。

 しかし我らは武士。賊と同じような争いなどするわけにはいかぬ。

 そのような恥を晒すくらいならば、いっそ討ち死にした方がマシだ。

 子や孫の為にもな。


 …

 ……

 ………


 十分に休んだ次の日。

 我らは女影原に進撃し、敵に襲い掛かる。


 既に物見の者どもに調べさせ、敵に罠が無いのは分かりておる。

 ならば後は押して押して、ひたすら押すだけよ。そうすれば我らの勝ちだ。

 なにより敵よりも数が多いのだからして、勝って当たり前ではあるがな。


 「押せ押せ押せ押せ押せ押せ押せ押せーーーーーっ!!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「これは楽勝であるな。

 敵は最初から及び腰じゃ、流石にこれでは戦とも言えん気がしてきたぞ。

 幾らなんでも、もう少し頑張りてほしいものだが……」


 「仕方あるまい。敵の数がここまで違うともなれば、相手の兵は逃げたかろう。

 だからこそ我らは完膚なきまでに敵を倒し、さらに寡兵の文を出さねばならん。

 このままの勢いで敵を破れば、さらに兵も集まる。

 そうなれば鎌倉に篭もる連中など恐るるに足らず」


 「うむ。ここまで歯応えのない相手とは思わんかったが、しかし勝ちは勝ち。盛大に使わせてもらおうか。

 足利など恐るるに足らず、裏切者を誅殺すべく立ち上がったのだとな」


 「得宗家からの大恩を忘れ、愚かな帝にすり寄るなど武士ではないわ! あれらは唯の賊徒よ!

 我ら御内人(みうちびと)こそが正しき姿にせねばならぬ。

 北条家を再興致して、必ずや愚か者どもを根切りにしてくれようぞ」


 「うむ。北条家をここまでにしたのだ。

 彼奴(きゃつ)らは必ず根切りにせねばならん。

 そうでなければ、お亡くなりになられた執権様や(さきの)執権様が浮かばれぬ。

 それに内管領(ないかんれい)の長崎様や、外戚(がいせき)の安達様もじゃ」


 「全ての得宗被官の為にも、裏切り者の足利を滅ばさねばならぬ!

 謀反人には死をくれてやらねばな」


 「まったくだ! と、そろそろ勝つな。敵が逃げ始めたぞ」


 「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「おお! 我が方が崩し、遂に敵が瓦解したぞ。

 はははははははは、我らの勝利じゃ!!」


 「うむ、我らの勝利じゃ! ここからが始まりよ。

 敵を蹴散らしたという文を出して、このままの勢いで突き進むぞ!

 鎌倉を北条家の手に取り戻すのだ!!」


 ワシが鎌倉を取り戻し、必ずや北条家を再興してみせる。

 その時には…………ふふふふふふふ、新たな内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)が必要じゃからのう。

 くくくくくくく……はははははははは………!!!


 …

 ……

 ………


 我らがさらに進撃を始めてすぐ、今度は小手指ヶ原(こてさしがはら)で再び鎌倉の軍と合戦となった。

 此度の相手は今川らしいの。

 家紋を見れば分かるが、足利に近き家の者か。ここで確実に討ち取らねばならんな。

 足利に関わる者など一人も生かしてはならぬ。


 「行けーーーーっ!!

 相手は裏切者の足利に近き者ぞ!! 必ずやここで首を獲るのだ!!

 裏切者に生きる場など無いと教えてやれい!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 ふははははははは!

 我らの方の寡兵は上手くいっておるのでな、貴様ら鎌倉の者どものように少数ではないのだ!

 さっさと負けろ、ここで死ね!

 貴様ら裏切者は生きる資格などない。(すべか)らく黄泉に送ってやるわ!!


 「押せ押せ押せ押せ押せ押せーーーっ!!

 裏切者に地獄を見せてやるのだーーー!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 よしよし。このままなら押し勝てるぞ。

 しょせん裏切者についた者など弱兵よ。

 我らとは信念も何もかもが違うのだからな、相手にならぬで当然だ。

 裏切者の末路は悲惨と決まっておる。

 ワシがそこ突き落としてやろうぞ!


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