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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 大納言である西園寺公宗様が後醍醐帝の暗殺を企て、そして誅殺された。

 俺も最初は知らなかったのだが、実は大納言西園寺様は北条家との関りが深かったらしい。

 さらには(さきの)執権の弟である、北条左近将監(しょうげん)泰家を匿っていたそうだ。


 そこまでしたならば誅殺されても仕方があるまい。

 まあ、そもそも帝の暗殺を企んだ時点で誅殺となるのは当たり前だがな。

 それにしても、ここでも北条か。本当にしつこいと思うわ。

 いったいどこまでオレに付きまとう気だ? さっさと滅べ。


 その北条左近将監(しょうげん)だが、どうも逃げたらしく、その後どこに行ったか分かっておらぬらしい。

 おそらく碌な事をすまいし、各地に蜂起を促すのであろう。

 (さきの)執権の弟であるからして、名だけは十分だ。

 動く者も出てこよう。面倒だがな。


 これで帝がしっかりし、徳と共に良き(まつりごと)をしてくれればいいのだが……。あの帝に期待するだけ無駄か。

 黒金(くろかね)も言っていた、平安の頃の帝も碌な事をせなんだとな。

 どうしてこう、世を荒らそうとされるのか。


 帝ご自身は世を鎮定されようとしておるのかもしれぬが、(ことごと)く全てが裏目に出ておる。

 なにより大内裏の再建など、(まつりごと)には何の関わりもあるまい。

 完全に己のやりたい事をやっておるに過ぎん。

 そんな無駄な銭は無いというのに、まったく……。


 いつかひっくり返さねばならぬが、大納言西園寺様までもが暗殺を企てたとすると、オレが立ち上がる日もそう遠くはあるまい。

 何故なら公家が暗殺を企てるまでになっておるのだからな。

 相当の事だという自覚は………あの帝にはなかろうよ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:諏訪頼重



 「亀寿丸様。ようやく時が来ましてございます。

 あのにっくき足利めを滅ぼし、鎌倉を奪還する準備がようやく整いました。

 滋野氏や仁科氏も呼応とするとの由にございますれば、我ら全力で事に及びまする」


 「うむ、たのんだぞ」


 「ははっ!」


 足利め。たかが御家人の分際で随分と目を掛けてもらいながら、得宗家を裏切るとは!

 父の菩提を弔えなかっただと? 貴様の父など素性の怪しき者でしかなかろうが。

 実際に「義」の字を銭で買うた程度の分際で、何様のつもりだ! 恥を知れ!


 やはり御家人などという者どもは碌な者ではない。

 我ら御内人(みうちびと)こそが正しく世を導かねばならんのだ!

 まずは愚かな足利の弟を血祭りにあげてやり、そのそっ首を兄である当主に送り付けてやろう。

 そうすれば足利など恐るるに足らずという事が分かろうぞ。


 武士は弱き者になどついて行かぬ。

 当たり前だ、弱き者について行っては滅ぶだけ。そのような者に誰がついて行くというのだ。

 そして北条家は未だに滅んでなどおらぬ。必ずや我ら御内人(みうちびと)の手で再興してくれる。

 その折には……ふふふふふふ。


 …

 ……

 ………


 今日は建武二年(1335年)の七月十四日。

 この晴れやかな日に我らは出陣する。

 僅か五歳の亀寿丸様を連れて行かねばならぬのは大変だが、輿に乗っておられる故に大丈夫であろう。

 総大将が亀寿丸様である以上、総大将がおらぬでは話にならぬ。


 それでは足利などという驕った田分けの息の根を止めに行くか。

 滋野氏も仁科氏も続くのだ、我らの前途は明るい。

 それに足利など裏切者の家。そのような者など滅ぼしてしまわねばならぬ。

 生きておる事を許してはならんのだ!


 と息巻いてもおれぬ。

 まずは我らが信濃の国は府中に進撃し、国衙(こくが)を潰さんとな。

 それをする事によって、信濃の国の多くの者は馳せ参じるであろう。

 元々信濃の国は北条家の領地。ここには親北条家の家は多いゆえ、必ずや立ち上がる。

 皆、愚かな帝にはついていけまいからな。


 国衙(こくが)におる清原なにがしなどという者は要らぬのだ。

 帝が遣わしたか何だか知らぬが、元々は北条家が任命した守護が国を治めておったのだぞ。

 勝手に来た者など叩き潰してしまえばよい。


 我らが進撃し始めると、慌てたようにやってきた者がおる。

 まさか我らの決起が露見しておったのか?


 「はぁ! はぁ! はぁ! 私は物見を命じられた者にございます。

 実は青沼において合戦があったらしく、慌ててお(しら)せせねばと思い参りました。

 四宮様や保科様が守護側の市河氏と合戦、敗北して逃走したものの追撃を受けているそうでございます」


 「ほう! となると我らが国衙(こくが)に向かうとは誰も思うておるまい。

 ならば彼奴(きゃつ)らを囮として、こちらは落としに参るぞ!

 皆の者、気合を入れよ!」


 「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」


 これから攻めに行くという時に、ちょうどよい(しら)せが来るものよ。

 天の配剤とは斯様(かよう)な事を言うのであろうな。

 よき流れである以上は、この流れに乗りて敵を討つが上策。

 一気に決めてしまうべきじゃな。




 府中に着いた我らは早速とばかりに国衙(こくが)を焼き討ちにする。

 そもそも京の都の者どもに何が分かるというのだ。

 我ら信濃はあまり裕福な国とは言えぬ。

 だからこそ大変であるのだし、だからこそ北条家に目を掛けてもらう必要があったのだ。

 にも関わらず、何も知らぬ愚か者が!


 信濃の国の本当の姿も知らぬ者が、勝手に信濃の事を決めるでないわ!

 我らの事は我らで決める! 裕福な京の都の田分けどもに決められて堪るか!

 手始めに国司を討ち取って首を晒してくれようぞ!!




 結果としては大した抵抗もなく、国司の清原なにがしは自害しておった。

 我らはその首を掻き切り晒す事で、国司に従う必要は無いと示す。

 北条家の置いた守護こそが正しいのであって、国司など要らぬのだ。

 何故に守護と国司が一緒におるのか分からん。


 このように国司などさっさと始末しておけば良かったのだ。

 それをせなんだからこそ、無駄に重税として奪われる結果となってしまった。

 重ね重ね、もっと早うに決起しておれば良かったと思うわ。

 奪われた税がもったいない。


 「諏訪殿、上手くいったな。

 これからの事を考えると胸が躍るようじゃが、まずは確実に足場を固めていかねばならんぞ。

 我らは北条家の再興を願って集まったのだ、少しずつ足場を固めながら進撃するのがよい」


 「うむ。鎌倉は要害であり、地の利がある方が有利だ。

 敵は多くの数を用いて落としたと聞く。

 守る側が有利となれば、そう簡単な事ではあるまい。

 我らも多くの兵を集めねば鎌倉を落とす事は叶わぬ」


 「それは分かっておる。

 ワシとてここと同じように鎌倉を取り戻せるとは思うておらん。

 だからこそ、まずは分かりやすく国衙(こくが)を落としてみせたのだしのう。

 まだまだこれからよ。ワシらの戦はまだ始まったばかり。

 ここで喜んで油断するわけにはいかぬ」


 「うむ。ここの国司は碌な抵抗もできなんだ。

 流石にこの程度ではあるまい。

 これからは大変になる故に、しっかり兵達を休ませねばな。

 それでも早く行動もせねばならんが」


 「兵達が休んでおっても、我らは休めぬ。文を書きて兵を募らねば。

 北条家再興の為ならば馳せ参じてくれよう。

 国司を討った事も喧伝せねばならぬ」


 「では、各々でやるべき事をやろうぞ」


 「「おおっ!」」


 ワシも文をたくさん書かねばな。

 北条亀寿丸様がおられ、そして国司を討ったのだ。反足利の者も喜んで決起するであろう。

 あのような裏切者を許してはならぬ。

 武士の風上にも置けぬ者どもめ、本物の武士たるワシが北条家の為に滅ぼしてくれようぞ!


 待っておれよ。足利のそっ首を晒し、天下万民に裏切りの非道を説いてくれる。

 それで足利の名は地の底まで落ちよう。いや、落としてくれる。


 ふははははははは! その時こそ裏切り者の終わりよ。

 そして我ら御内人(みうちびと)の正しさに皆が気づくであろう!


国衙=国司が地方政務を執った役所が置かれていた区画のこと。

その国衙の中枢を国庁と言い、国衙を含む都市部全体を国府という。

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