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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 年が明けた。今年は建武二年であり、今日は一月四日。

 三が日も終わったが、その日に(しら)せが届いた。それは尾張守高経が紀伊で敗れたという事だ。

 仕方がないので増援を送る事に決め、家臣を行かせた。

 別家としての最有力ではあるものの、戦はどうなのであろうな?

 帰ってきた者達から聞けば分かろう。


 それよりも仕事がなかなか終わらぬのと、去年の大内裏の造営発表、それに(ともな)う<二十分の一税>という増税が厳しい。

 民にも坊主にも神官にも、そして武士にも不満が溜まっておる。

 特に武士は恩賞が出んという事で元々不満が大きかったのだ。


 オレ達も身内には出すが、関わりの無い者に褒賞を出したりはせんからな。しかし帝に上奏いたしても無視されるだけ。

 それを言ったところで疲弊しておる武士が納得するはずもなく……。

 いったいこれからどうなるのであろうな?


 「お金が無いのは厳しいよね。

 北条との争いで銭も部下もなくなってるのに、それの恩賞が何一つ無いって言うんじゃ、どうにもならないよ。

 不満が溜まってるのに、それを無視してるんじゃさ。(いず)れ必ず立ち上がる者が出るよ。

 当たり前だけど」


 「そうね。

 そもそもそうやって北条が打ち倒されたのに、なぜ自分は大丈夫とか思うのかしら? 意味が分からないわ。

 自分だって同じ目に遭うかもしれないって思うのが普通でしょうに」


 「そう思えるならば、あんなに暢気(のんき)に無茶な命を出したりなどせぬさ。

 己の危うさを全く理解しておらぬとしか思えぬ。

 楠木殿も呆れておったぞ、こんなはずではなかったとな。

 実権を京の都に戻したかったのであって、世を荒らすつもりなど無かったと言っておった」


 「だろうね。誰もあんなマヌケだなんて思わなかったでしょ。

 公卿や公家の中にも反発している人が居るし、もうメチャクチャだよ。

 自分だけが素晴らしいとでも思い込んでるんじゃないかな?

 他人がどう思っているかという事を考えられないんだろうね」


 「特に平民の不満が凄いわよ。

 京の都の中なのに当たり前に口に出すくらいだもの、相当に不満が鬱積(うっせき)している感じね。

 いつそれが噴出しても不思議じゃないわ。

 結局大内裏の造営も途中で頓挫(とんざ)しそうな気がする」


 「そうなるであろう。

 そもそも大内裏を再建するなど無理だ。あまりにも莫大な銭が掛かりすぎる。

 あれは当時だから出来た事であり、今の世で行うのは無理だと言っていい。

 おそらくは公卿や公家の方で苦言を呈した方はおられたであろうが、聞く耳を持たなかったのであろうな」


 「本当に北条と似てるね。なんでこうもソックリなんだろうと思うよ。

 他人の話を聞かずに自分勝手にやって、その所為で我慢の限界を超えた者達に攻められる。

 もうその時が近づいてるんじゃないかと思うよ。本当」


 「クー!」


 「おかわりか。それはいいけど、よく食べるようになったね?

 太ってないみたいだからいいけど、あまり食べ過ぎるのも問題だよ?」


 「ク!」


 「碌に話を聞いてないわね、桃は。

 お肉が好きみたいだから分かるけど、どうにも霊力が増えないのよね。

 妖怪になって間がないからかしら?

 やっぱり時が立たないと強くなれないんだと思うけど、その辺りは分からないのよね?」


 「分からないっていうか、強くなる為に時が必要とは出てる。だから時が経たないと霊力の上限が増えないんだろうね。

 すぐに強くなるっていうのは無理なんじゃないかな。

 人間とは違う感じだと思う。人間は才で決まってるけど……」


 「妖怪は長く生きなければ駄目か。

 代わりにオレのように29が限界、とかではなくて良いと思うがな。

 長生きすればさえ増えていくのだからだが……よく考えれば、妖怪は長生きするのが難しいのか」


 「そうね。だいたいは弱い間に喰われてしまうから、生き残れるもの自体が多くないのよ。

 だからこそ長生き出来る者は強いんだけど、長く生きないと強くなれないとは知らなかったわ。

 って、これは私のお餅だから駄目よ」


 「クー……」


 「駄目、駄目。前に餅を喉に詰まらせて死にかけたのを忘れたの?

 死なずに済んだとはいえ、餅は駄目だよ」


 「あれは焦ったからな。

 流石に喉に詰まらせる可能性のある物は食わせられん。諦めろ」


 「クー……」


 どうしても食えんと分かったからか、ゴロンと横になって寝始めたな。

 不貞寝なのか、それとも腹がいっぱいで眠たくなっただけか。

 それにしても黒金(くろかね)達が居てくれて本当に良かった。

 こうやって穏やかに暮らせるだけで助かるわ。


 この冷たい屋敷に一人だと耐えられたかどうか分からん。

 そう思えるほどに一人は辛いものだ。

 京の都なのは諦めるにしても、一人はな……色々な意味で厳しい。

 いい加減に帰りたいわ。


 …

 ……

 ………


 今日は二月の十五日だ。

 先月に尾張守高経が紀伊の乱を鎮圧して何よりだと思っていたが、今度は信濃で小競り合いがあったらしい。

 問題はこれも北条の残党だという事だ。本当にどこにでも居るな、北条の残党は。

 余程に返り咲きたいのであろうが、諦めろと言いたいわ。


 あれだけ派手に失政を重ねておったのだ。

 確かに今の帝は良うない。されど北条に対するオレの憎しみが無くなったわけではないぞ。

 父と我が足利家を愚弄したのだ、許す事は永劫にない。

 出てきて勢力が膨れ上がろうと、必ず滅ぼす。


 …

 ……

 ………


 六月の二十二日になった。

 七日前に大内裏の造営が開始されたが、ハッキリ言って朝廷の者以外は誰も喜んでおらん。

 仮に完成しても憎悪の対象にしかならぬと思うがな。


 そもそも今日この日は、我が家の執事である高階(たかしな)三河権守師直(もろなお)と楠木殿が捕縛に動いておる。

 その相手は大納言西園寺様だ。


 理由は謀反なのだが、あの帝では謀反を企てる方が出ても仕方ないとしか思えん。

 それほどまでに酷いのだが、あそこまで言われても止めぬし(かえり)みぬところは凄いと思う。

 もちろん愚かという意味で凄いのだがな。


 何故(なにゆえ)あそこまで愚かで居られるのか、聞いてみたいような聞く意味が無いような……。

 色々な事を考えても聞く事は無いのだが、それにしても何を考えておるのか分からぬ帝だ。

 あれで己は立派だと思うておるのであろうか?


 仙太郎には護良(もりよし)親王殿下を密かに殺せと文を送っておいたが、上手く殺せたかどうかの報告は無い。

 まあ、無理にというわけではないので、まだ生きていたとしても問題はないのだがな。

 ちなみにこの事は帝からの密命であって、オレが勝手に殺せと命じたわけではない。


 帝としては比叡山の者が未だに護良(もりよし)親王の事で言ってくるのが鬱陶(うっとう)しいらしい。

 元々は比叡山の天台座主であり尊雲法親王という名であられたからな。

 今も比叡山は護良(もりよし)親王の名を使って(まつりごと)に介入しようとしてきておるようだ。


 帝が護良(もりよし)親王を暗殺させても仕方がない。

 そう思うぐらいには比叡山の者達が鬱陶(うっとう)しいようだが、坊主がなぜそこまで口出ししてくるのやら?

 もしかしたら<二十分の一税>の事かもしれん。

 もしそうなら「もっとやれ」としか思わんがな。


 あれの所為で我が足利家の領地も、かなりの痛手を被っておる。

 正直に申してオレのところに陳情が来るくらいには疲弊したのだ。

 だからこそ現状が非常に厳しいのも分かりておる。

 いつかどこかで帝を裏切る事になろう。


 我が家は一度北条という主家を裏切っておるのだ。今更であろうし、新田の事は言えんな。

 それでも裏切らねばならぬのであれば裏切る。特に斯様な圧政をされる以上、裏切られたとて仕方あるまい。

 皆が怒りに満ちておるのだ。後は誰が上に立つかというだけでしかない。


 そして我が足利家の為には、オレが上に立つしかないのだ。

 もちろん今はその時ではないし、まだ早い。もう少し時が満ちてからだ。

 誰しもが裏切るのは仕方ない、反旗を(ひるがえ)すのは已むを得ぬ。

 そう思うてくれる時まで待たねばならん。


 義憤に駆られようと、時が来ておらぬならば立ったところで潰されるだけだ。

 それでは父上に申し訳が立たぬ。


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