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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0017




 Side:黒金くろかね



 「そもそも崇徳は怨み言を何も残していないの。

 そして将門が東国を奪ったのは、当時の大宰府があまりに東国に重税を強いていたから。

 つまり三人とも怨霊になるのはおかしいのよ。

 ついでに道真も嘆いていただけで怨みは残していない」


 「まあ、それはそうなのよね……」


 「私のような平民は知りませんが、そうなのですか?」


 「ええ、まあ……。朝廷の中でも当時は色々とあったと聞きます。

 そういった争いの果てで亡くなった方ですね、三人とも」


 「なんとまあ……」


 「じゃあ、なんで怨霊に?」


 「それは多くの者が怨霊だ祟りだと恐れたからよ。

 それによる負の心で、三人とも怨霊になってしまったわ。

 自分達が悪い癖に、三人を怨霊にしたってわけね。

 しかもその後は神社を立てて祀ったりしてる。

 ふざけるなという話よ。

 わたしは三人と知り合いだったからね、尚のこと腹立たしいの」


 「気持ちは分かります。

 知り合いが悪しき扱いを受けておるのですから、憤りは当然かと」


 「本当にね。

 そもそも怨まれるなんて思い込むって事は、自分達が悪行をしたという自覚があるという事よ。

 その時点で駄目でしょうにねえ。

 本当、碌な事をしないわ」


 「まあ、とにかく話は終えて、真面目に右京を見回りましょう。

 先ほど黒金くろかねが見たという黒いものも気になりますし」


 「にゃーん」


 「あ、黒いの!」


 「黒いのって……黒金くろかねは猫を知らなんだのか。

 あれは猫といってな、妖怪ではなく唯の生き物だ。だから問題は無い。

 何処かから来て住み着いたかしたのだろう。

 鼠も出るし、おそらくそれを食うておるのであろうな」


 「ねこ……」


 「まあ、黒いのが妖怪でなくて良かったわ。

 このまま右京を見回りましょう。

 こちらがどうなっているかの確認も必要ですから」


 皆で右京をウロウロしながら妖怪を探す。

 歩いている最中に葛葉くずはから霊力を感じるっていう方法を教えてもらったけど、サッパリ分からない。

 本当に葛葉くずはは霊力を感じてるんだろうか?


 「失礼ね、感じられるに決まってるでしょう。

 そもそも一つの技術がすぐに身につく筈が無いし、修行はそう簡単なものじゃないわよ。

 黒金くろかねも符術と霊力感知ぐらいは学ぶ必要があるから、しっかりと教えてあげるわ」


 「ふじゅつってなに?」


 「さっきわたしが【狐火】を使ったでしょう? アレに近いものよ。

 私は妖怪だから符も無しに使えるけど、普通は符と呼ばれる紙を使って使うの。

 【霊波】はちょっと別だけど」


 「れいは?」


 「【霊波】とは霊力を直接体から放出する術の事だ。

 霊力が少ないものは然したる威力にはならんが、霊力の高い者や篭め方で威力が変わるという。

 修験者が霊力を篭めるのも、この【霊波】だと言われておる」


 「へー………。

 あれ? もしかして妖怪って殴ったり蹴ったりしても駄目?」


 「いいところに気が付いたわね。妖怪とそうでない者の差、その一つがそれよ。

 妖怪は霊力を帯びた何かで攻撃しないと倒せないの。

 だから修験者が杖や棒に霊力を篭めるのは正しいってわけ」


 「式神は霊力を込めなければ使えないし、それは霊兵も変わらないわ。

 つまり式神や霊兵なら問題ないの。

 私も式神は使うけれど、符術も戦いも普通に出来るわ」


 「それは凄いですな。

 私などは、なるべく近付きたくないので符術で何とかしています」


 「まあ、世の大半の陰陽師はそうでしょうよ。

 妖怪と武器を持って戦うって簡単じゃないからね?

 だからこそ式神やら符術が作られたんだしさ。

 皆が皆、修験者のように戦える訳じゃないのよ」


 「アレはちょっと別物のような……。

 体を物凄く鍛えてますし、むしろそれを主体にしているから……」


 「どういうこと?」


 「修験者は体を鍛えるのが好きでな、筋骨隆々な者ばかりなのだ。

 男も女も関わり無く、物凄い筋肉をしておる。

 それに釣られてなのか、高野山の者達も鍛えている者が多いと聞く。

 修験者に感化されておるのは確実だ」


 「あれらに絡むと、おかしくなるんでしょうね。

 修験者になる者が一時物凄く増えた事もあるわ。

 なんであんなに筋肉が好きなのかしら?」


 「高野山の者は厳しい戒律で肉を食べませんけど、修験者は関係なく食べてますからね。

 体を作るには全てのものに感謝して頂くというのが修験者ですから。

 第一が体を作る、なのよ。あの人達」


 「体を作る……」


 「黒金くろかねは止めるようにな。お前がああなるのを私は見たくない」


 「うん、分かった。修験者にはならない」


 「それがいいわ。

 そもそも黒金くろかねは綺麗だし、将来は光源氏のように色々な事を起こしそう」


 「あれは単に物語の中の者だけど、この子の場合は無自覚にたらし込みそうね? この感じだと」


 「「………」」


 何故か斯明かくめいつやが黙ったけど、たらしこむって何だろう?

 僕がやりそうな事なのかな?

 もっと勉強しないと分からない事だらけだ。


 「ゴホンッ!! まあ、放っておいても大丈夫でしょう。

 それより右京もそれなりに見回ってきましたけ、ど?」


 「あ、魚屋だ。僕のお金で魚を買う」


 「まあ、好きにしていいが、今の時間に良い魚は残ってないと思うぞ? 既に昼を過ぎているからな」


 「らっしゃい。悪いんだが、魚は殆ど残ってないぞ?

 オイカワが一匹残ってるだけだ」


 ―――――――――――――――


 オイカワ 質:三


 清流に住む川魚の一種。オスの婚姻色が美しいが、それが見られるのは夏である。そこまで臭くはないが、気になるならば捌いた後に塩を振って放置。時間が経った後で拭くとよい。煮込む前に少し焼いておくと更に良い


 ―――――――――――――――


 色々と教えてくれるのは助かるね。

 臭くないって事は、臭い魚も居るって事かな。

 気をつけないと臭い物を口に入れちゃうよ。


 「買ってくれるなら、ありがてえな。オイカワ一匹で大銅貨二枚だ」


 「これ」


 「おう、まいど。ところで見ない陰陽師だが、何処の誰だ?」


 「私は左京の陰陽師で斯明かくめいと申す。

 賀茂家の御当主様から下京の全域を見回れと命を受けてな、それで今見回っておるところなのだ」


 「ああ、左京のな。通りで見た事が無い陰陽師だと思ったぜ。

 正直に言ったら陰陽師が誰かなんて、オレ達は気にしねえからなぁ。

 妖怪を退治してくれれば何でもいいんだが、どうして揉めるのかねえ」


 「申し訳無い。

 とはいえ妖怪を退治して手に入る霊玉は買い取って貰えるのでな、縄張りがそれぞれにあるのだ。

 なので普段は右京に入れぬ。

 今は許しがあるが、それでもいい顔はされんよ」


 「あー……儲けを取られるって訳か。そりゃ目の敵みたいにされっちまうなぁ……。

 しょうがねえって事かい」


 「そうなのだ。私だって許しが無ければ立ち入らないさ。

 場合によっては殺されかねんしな」


 「そういう物騒なのも居そうだなっと、手で持って帰んのか?」


 「あ………持って帰る事を忘れてた。

 うーん………<古兵・勇壮猛夫>」


 よし、しっかり出てきた。

 一人だけなら怒られない筈だ。持ってもらおう。


 「左手で魚を持てる? 家まで運びたいんだけど」


 「………」


 おおっ! ヒョイっと手に持った。

 よしよし、じゃあ帰って魚を置いてこよう。

 夕方に食べるんだし、腐ったりはしないでしょ。

 もしくは捌いて塩を振っておけばいいのかな?


 「霊兵に魚を持たせるとは……。

 まあ、悪い事ではないのだろうがな」


 「思っているより霊兵の扱いが酷いわね」


 そうかな? 力がありそうだから持ってもらっただけなんだけどね。


 それより早く家に帰ろう。

 今日の夕餉に入れなきゃいけないから。


崇徳=崇徳天皇の事で、日本三大怨霊の一人。

将門=平将門の事で、日本三大怨霊の一人。新皇を名乗った人

道真=菅原道真で、日本三大怨霊の一人。北野天満宮に祀られてる人。


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