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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利尊氏



 帝から(さきの)執権を供養する寺を建てる事を命じられた。

 名は宝戒寺と決めてあるらしい。

 それはともかくとして、寺を建てる以上は鎌倉に文を送らねばならん。

 ついでに家の者に対しても送るかな。

 こちらの状況を知らせるだけならば、特に問題もあるまい。


 それと護良(もりよし)親王が征夷代将軍位を離れたようだ。

 鎌倉将軍府の将軍が征夷代将軍位を持つなら分かるが、わざわざ(なだ)める為だけに与えていたからな。

 帝は征夷代将軍位が持つ意味を理解しておられぬ。

 良いか悪いかは別にして、あれは機嫌をとる為に与えるようなものではないぞ。


 なので護良(もりよし)親王が失ったのは当たり前だとしか思えん。

 とはいえ、その事でまたこちらを敵視しかねんのが何とも言えんところだ。

 新田といい、何がしたいのかサッパリ分からん。

 あれもこれも気に入らんと駄々を捏ねる(わらし)のようにしか見えぬ。


 それはともかくとして、オレは励まねばならぬ故に励んでおるのだが、いつになったらこの大変な仕事は終わるのであろうな?

 オレはさっさと鎌倉に帰りたいのだが。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 今日は十月の二十日。

 北畠卿が義良(のりよし)親王殿下を奉じて陸奥へと下向された。

 おそらくは、この為に北畠卿に陸奥守をお与えになったのであろう。

 親子で行かれるとの事だが、大変であろうな。

 陸奥は寒いと聞くし、北畠卿はまだお若い。


 公家から歳を聞いた事があるが、まだ十六歳という若さだと聞いて驚いたくらいだ。

 オレが十六の時といえば、黒金(くろかね)に会って半年ぐらい経った頃か。

 まだまだであり、必死になって式神を学んでおった頃だな。

 あの頃は楽しかったが、まさか今こうなるなど思ってもみなんだわ。


 色々と大変だからか、本当に心身共に疲れておる。

 冗談でもなんでもなく、黒金(くろかね)がおらねば全てを放り出しておったかもしれん。

 いつも変わらぬ黒金(くろかね)が居ると、本当に助かるのだ。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 十二月も十五日になった。

 寒い日が続いておるが、急な(しら)せが舞い込んできた。

 どうやら陸奥の国にて北条の残党が立ったらしい。

 とはいえ陸奥将軍府の北畠卿が軍を発したらしいので、おそらく鎮圧されるであろう。


 そこまで北条の残党に力があるとは思えぬ。

 求心力も低いし、何より既に鎌倉にはおらぬのだ。

 どう考えても後ろ盾が無いのだから、復権など無理筋でしかない。

 立った者らも何を考えているのやら。


 「誰かは知らないけど、滅亡してから立ち上がるんだから意味は無いけどね。

 既に旗頭になれる者は居ないだろうし、今さら戻ってきても困る人達ばかりじゃん。

 そんな事も分からないのかな?」


 「分からないんでしょうね。

 もう帝が親政をしている以上は戻らないわよ。

 それを無理矢理に戻す力は、残念ながら残党には無いでしょ。

 そもそも声を上げても従う者が少ないんじゃ……」


 「潰されて終わりでしょう。

 一度転落した以上は、もう一度立ち上がるのは無理です。

 ある程度の時が経てば可能かもしれませんが、それを成すには大事な事がありますしね」


 「大事な事ってなにかしら?」


 「敵ですよ。

 誰にとっても敵と言えるような、絶対の敵が必要なんです。今回であれば北条家のようにね。

 だからこそ帝は返り咲く事が出来たでしょう?

 (まつりごと)の中心を京の都に戻せたのも、誰もが納得する敵が居たからですよ」


 「今のところはその敵が居ない?

 いえ、むしろ残党の方が敵ね。これって打ち倒される側じゃない」


 「確かにそうだな。

 皆を集めて力とするには、明確な敵が必要になる。

 それが居ない間は何をやっても意味などあるまい。

 むしろ打ち倒されて終わるだけか……」


 「ええ。今の内に挙兵しなければ忘れ去られると思ったのでしょうが、今立ち上がっても帝の敵にしかなりません。

 向こうに大義が無いのであれば、打ち倒されるのは向こうですよ」


 「だな。仙太郎の言う通りだろう」


 オレも敵にならぬように注意せねばな。

 何としても足利家をこのまま維持してみせようぞ。

 落とす事があってはならん。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 今日は十二月の二十四日だ。

 前から準備をしていたが、ようやく成良(なりよし)親王殿下を奉じる事が出来た。

 親王殿下に征夷大将軍位は与えられなかったが、上野(こうずけ)守は頂けたので、仙太郎と共に京の都から送り出す。


 オレが行ければ一番良かったのだが、帝から残れと言われれば断る事は出来ぬ。

 仕方なく仙太郎を執権にする形で送り出さざるを得なかった。

 さっさと鎌倉に帰りたいのだが、なかなか帰る事が出来ぬ。

 それでも黒金(くろかね)が残ってくれたのが救いだ。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 本日は年が明けて一月の二十九日。

 今日この日に改元があった。

 新しい元号は建武。つまり今年は建武元年となる。

 そして(さかのぼ)ること六日前。

 帝の長子である恒良(つねよし)親王殿下が立太子をされた。


 これでようやく様々な事が決まったが、いまだ内実は定まらぬままだ。

 それぞれの部署も全てが全て決まったわけではなく、未だに色々と手探りで行っておる事が多い。

 帝が決められなければならんのだが、帝が何人もおられるわけではないからな。

 順番待ちのようなものだ。


 その所為で定まらぬまま仕事をせねばならず、余計に手間が掛かりておる。

 こうやって苦労を重ねておると、本当に鎌倉に帰りたくなるわ。

 いったいオレはいつまで京の都におらねばならんのだ。

 もう帰ってよいのではないか? そう思う事も増えた。


 もちろん足利家の為にも、そんな事は出来んのだがな。

 しかしこうも都合よく使われておると、いい加減にしてくれと思うわ。

 そんなに武士が気に入らんなら、全て公家でやればよかろう。

 わざわざ武士を関わらせるなと言いたくなる。


 特に護良(もりよし)親王に新田が接近して、様々な事を吹聴しておるのだ。

 オレとしては呆れるしかない。

 なぜなら、武士が嫌いな癖にオレの悪口と聞くや鵜呑みにするのだ。頭が悪すぎるわ。

 讒言(ざんげん)しておるのも武士であろうが。


 呆れて言葉も無いうえに、この話は護良(もりよし)親王に近い楠木から(もたら)されたものだぞ。

 あの戦上手の楠木でさえ、新田には参っておるらしい。

 とにかく無い事ばかり讒言(ざんげん)するので頭が痛いそうだ。気持ちはよく分かる。


 アレはあそこまで頭が悪い男ではなかったはずなのだが、欲が出て狂い始めたのであろうか?

 欲は人を狂わせるものであるし、それならば仕方ないのであろうが、それでも鬱陶(うっとう)しいわ。

 何より鬱陶(うっとう)しいのは、嫌ならば鎌倉に帰ると言うておるというのに帰れんところだ。


 オレが気に入らんというなら、いつでも罷免(ひめん)してくれて構わぬと言うてある。

 にも関わらず、それは(まか)りならんと言われる始末。何をどうせよと言うのだ。

 その割には護良(もりよし)親王は放置するし、何がしたいのか分からん。


 オレを使いたいのか、オレの邪魔をしたいのかどっちだ?

 帝の腰も定まらぬし、公卿や公家は勝手ばかり。

 どうせ駄目になるのは目に見えておる。

 故に離れたいのだが、それが分かっておるのか逃がす気は無いらしい。


 実に面倒で鬱陶(うっとう)しい事だ。

 何かの役職でも与えて、そこに閉じ込めておけばよかろうに。

 暇があるから下らん事をするのだ。迷惑でしかないわ。


 それに新田も新田だ。あやつは武者所の頭人(とうにん)のはず。

 にも関わらず、下らぬ讒言(ざんげん)をする暇があるとはな。

 真面目に仕事もしておらぬと見える。

 まあ、オレの評価が下がるわけでもないから構わぬがな。


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