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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利高氏



 今日は元弘三年の八月五日だ。

 正慶元年であったが後醍醐帝が戻られたのでな、元弘三年に戻った。

 まあ、それを認めていたのが鎌倉であり、その鎌倉が滅んだ以上は当然元号は戻る。

 (いず)れは変えるのであろうが、今は変えぬらしい。

 面倒が無くて助かるわ。いちいち邪魔くさいのでな。


 今日は叙位徐目の日であり、多くの者が受ける為に京の都に集まっておる。

 東国の武士達も何故か来ておるが、挨拶などに来ただけのようであった。

 何故か新田は来ておらぬが、まあ構わぬか。

 鎌倉からの文には「相当の不満を抱えている」とあったからな。


 どうにも千寿王の御蔭で勝ったとなっておるのが気に入らぬらしい。

 とはいえ我が足利の名で兵を集めておるし、千寿王を総大将にしたのも新田だと聞く。

 そこまで足利の名を利用しておいて、功は己で独り占めか?

 そのように虫の良い話などあるまい。


 何を考えておるのか知らぬが、余計な揉め事を起こさねばよいがな。


 「これより始める。まずは北畠左近衛中将顕家、前へ」


 「ハハッ!」


 「北畠よ、そなたにはこれからも励んでもらわねばならぬ。頼むぞ。

 そしてそなたは新たに陸奥守を兼任せよ」


 「ハハッ! 謹んで拝領いたしまする!」


 「続いて足利左兵衛(かみ)高氏、前へ」


 「ハハッ!」


 「足利左兵衛(かみ)高氏よ。改めて調べた結果、そなたの勲功は大変著しい事が分かった。

 鎌倉を討つ為に多くの所へと文を送り、鎌倉討伐に尽力をしておった事、真に素晴らしき事なり。

 また、そなたは己でも軍を率いて六波羅(ろくはら)を滅ぼしておる。

 その勲功著しいそなたには、朕の一字である「尊」を偏諱(へんき)として授ける。

 今後は足利左兵衛(かみ)尊氏と名乗るがよい。

 また、官位は従三位とし、武蔵守を兼任せよ」


 「ハハッ! 謹んで拝領いたしまする」


 「続いて楠木左兵衛小(じょう)正成、前へ」


 「ハッ!」


 「楠木よ。そなたはよく励んでくれており、その方の力で朕も助かりておる。これからも励んでくれ。

 そなたには新たに河内守と摂津守を与える。兼任せよ」


 「ハハッ! 謹んで拝領いたしまする!」


 「次に新田小太郎義貞、前へ」


 「ハッ!」


 「そなたが新田か。

 鎌倉を落とし、北条に(とど)めを刺したは見事な功である。

 官位は従四位下とし、官職は左馬助、並びに上野(こうずけ)守に越後守にも任ずる。

 今後も励むがよい」


 「ハハッ! 謹んで拝領いたしまする!」


 新田も官位を貰ったし、これで留飲を下げるとよいが……難しかろうな。

 不満などというものは誰でも持つものだが、そこから生まれ出る(ねた)みや(そね)みに(ひが)みはどうにもならぬ。

 諦めた方が良かろうな。


 「最後に神守右衛門権佐検非違使黒金、前へ」


 「はい」


 何故かまた黒金(くろかね)が呼ばれたのだが、いったいどういう事であろうな?

 確かにここ一月ほど、黒金(くろかね)は京の都の賊を殺して回っておったが、それが理由か?

 しかしな……その程度で官位や官職を渡す事は無いと思うのだが……。


 「前回にも官位と官職を渡したのだが、記録を掘り返すと朕が記憶しておった以外にも様々にあったのが分かった。

 それゆえに官位を新たに追贈いたそうと思う。

 新たな官位は正四位上である。

 それと京の都の治安を引き続き頼む」


 「はい、謹んで拝領いたします」


 何というか、とってつけたような理由だな?

 ……伝説の陰陽師であり稀人(まれびと)である黒金(くろかね)を引き入れたいのか?

 稀人(まれびと)がおるというだけで、己の正統性を示せるとでも思うておるのであろうかな。

 だとすれば甘いとしか思えぬが……


 その辺りは分からぬゆえに何とも言えんところだが、おそらく大きくは間違っておるまい。姑息だとしか思わんがな。

 オレも黒金(くろかね)に頼り切る気はないが、朝廷は完全に黒金(くろかね)を利用しようとしか思うておらぬであろう。

 黒金(くろかね)自身、そんな甘い者では無いぞ?




 叙位徐目が終わったオレ達は内裏を後にしたものの、帰りの道で少々話し合う。

 何と言っても面倒なのは新田だ。


 「仙太郎、そなた新田の事をどう思う?」


 「ハッキリと申せば、完全に欲に目が眩んでおるのでしょう。

 我が足利家の庶家でしかないですが、これを機に大きくなろうという野心が見えています。

 そのこと自体は悪い事ではありませんが、あの男の器量では無理でしょう」


 「やはりそう思うか。あやつの内心がどうかは知らぬが、あやつの器量では無理だ。

 上に立った事がないからか知らぬが、顔に出してはいかんという事すら分かっておらぬらしい。

 あからさまにオレの方を睨んでいたからな。周りの者も驚いておった」


 「自分が率いたのに納得がいかない。

 そこまでなら分かるんだけど、勝手に怨んで勝手に(ねた)んでるだけなんだよね。

 しかも又太郎に言いに来ないし」


 「そうなのだ。新田は主家の当主であるオレに何も言わず、勝手に不満を溜め込んでおる。

 それ故に周りも困惑しておった。普通はまず主家に言うだろうとな。

 その所為で庶家を力で押さえつけておるみたいに思われたわ」


 「迷惑な事をしてくれますよ、まったく。

 それに足利の名で戦っておきながら、己の名が一番でないのが気に入らないって、意味が分かりません。

 アレはいったい何を考えているのやら……」


 「何かは分からないけど、面倒くさそうな感じだったよ。

 この後もしつこく絡んできそうな感じ」


 「だな、警戒だけはしておくか。欲に目が眩むと何をし出すか分からんからな。

 いきなり暗殺など考えても不思議ではない。

 それに、まずは足場を固めるのが先だ。

 ますます鎌倉へ帰れぬようになるが、已むを得まいな」


 「赤橋の方が五月蠅そうですけどね」


 「仙太郎のところも変わるまい。それに子を催促されていると聞いたぞ?」


 「とはいえ急いではいませんよ。千寿王も居ますし、そう急ぐ事でもありません」


 「そんな事はあるまい。

 竹若丸が亡くなっておるのだ。千寿王がいつ亡くなるかは分からん」


 「兄上……」


 今年の六月頃、竹若丸は密かに山伏の姿で上洛しようとしておったらしい。オレの下に来る為だったそうだ。

 理由はオレが六波羅(ろくはら)攻めを行った事であり、危険だとして京の都に連れてこようとしたと聞く。


 しかし駿河の国で北条方の刺客に襲われ、走湯山密巌院別当であった覚遍殿と共に殺されたそうだ。

 竹若丸は(さい)も認めてくれておったのだがな。

 その竹若丸が死に、認めておらぬ新熊野(いまくまの)が生きておるとは……


 なんとも言えぬが、供養してやらねばならぬ。

 が、今は京の都から動けず、それも(まま)ならんのだ。

 少なくとも動けるようになるまでは、どうしようもないな。


 屋敷に戻りて(まつりごと)を始める。

 少なくとも六波羅(ろくはら)を攻め滅ぼした以上は、それについての責は果たさねばならぬ。

 ある程度を過ぎたら鎌倉に帰らせてもらうが、それまでは責ある者としての勤めを果たさねばな。


 黒金(くろかね)は屋敷に戻った後、すぐにいつもの水干姿になって出て行った。

 どうやら京の都の近くの山に獣を獲りに行ったらしい。

 仙太郎も同じ事を言っておったが、黒金(くろかね)がいつも通りなのを見ると、己も不思議と落ち着いてくるのだ。


 それ故になんとか頑張れているという所もある。

 オレも仙太郎も本来は鎌倉の者であり、京の都の者ではないからな。

 ここは息苦しい。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:新田義貞



 おのれ、足利め!! 鎌倉を滅ぼしたのはワシだぞ!

 貴様など六波羅(ろくはら)を攻めただけであろうが。

 それが何故(なにゆえ)帝から偏諱(へんき)を賜るのだ、おかしかろうが!!

 もし賜るとしたら、それはワシ以外あるまい!!


 おのれぇ……! 許さんぞ、足利!

 機会が来れば、必ずや足利の血を滅ぼしてくれようぞ!!


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