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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:新田義貞



 ふぅ………。鎌倉を攻めて滅ぼしたのはよいが、やるべき事が山のようにあるな。

 鎌倉に諸将が集っておるので軍忠状や着到状がワシのところに山ほど持ち込まれる。

 さらには諸将への宿の割り当てやら、兵の喧嘩の仲裁までせねばならん。


 仕方がないとはいえ、ここまで大変だとは思わなんだわ。

 倒せばさえ新田ここにありと示せると思うたが、流石にそれは甘かったか。

 とはいえ文句を言うていても始まらぬ、ここは腰を据えて取り組むしかない。


 弟の義助もそうであるし、我が家の執事である船田も頑張っておる。

 ワシだけ弱音を吐くわけにはいかぬからな。

 ここは何としても踏ん張らねば!


 …

 ……

 ………


 忙しかったのはいつまでだったか……。

 ここ最近は宿の手配も、兵の喧嘩の仲裁さえもない。

 理由は簡単であり、京の都に後醍醐帝が帰られ、皆がそれを聞きつけて上洛していったからだ。

 残りし者は皆が千寿王様のところへ詣でておる。


 ………鎌倉を打ち倒せしはワシだぞ!

 もちろん千寿王様を御旗として利用したはワシだ。

 しかしそれは勝つ為に仕方がない事であり、策を立てたも鎌倉に侵入したもワシぞ!!

 何故(なにゆえ)そのワシが軽んじられなければならんのだ!!


 しかも六月の内には又太郎様が鎮守府将軍に抜擢されていただと!?

 ワシには何も無いのにか!? ふざけおって!!

 ワシが立った御蔭で鎌倉が滅ぼせたのだぞ!!

 その事を分かっておらぬのか!!


 「兄者、入るぞ」


 弟の義助が来たか。

 何か良い話でも持ってきたのであろうな? 下らぬ話ならば聞く気はないぞ。


 「兄者、細川様方が千寿王様の支援の為に来られたそうだ。

 宿の手配を始め色々とせねばならぬが……」


 「またか! また千寿王様か!!

 ワシが立ちワシが戦をして勝ったのだぞ、もう少し色々とあっても良かろう!

 何故(なにゆえ)ここまで軽んじられなければならんのだ!!」


 「兄者……。そういえば八月に今日の都で叙位徐目があると聞く。

 それを受けにいかねばならぬとして、鎌倉を出るか?

 どのみち鎌倉を落とした功は兄者のものなのだ」


 「………よし! 鎌倉を出る!

 ワシを軽んじるような場所になど居られるか!!

 こうなれば京の都で新田ここにありと示してやるわ!!」


 おのれ足利め! ワシの功を奪いおって!!

 絶対に許さんぞ!!!



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:楠木正成



 八月には叙位徐目が行われるが、それに向けてワシは帝の下で各武士の論功を集めておる。

 足利殿の弟にも色々と聞きに行ったが、なかなかに大変じゃ。

 足利殿は思っておったよりも色々なところに文を送っておったらしく、鎌倉討伐にも相当の支援をしておる。


 新田なにがしとかいう男が立ち、鎌倉を打ち倒したのは間違いない。

 されど、その為に相当の根回しを足利殿がしておられたのだ。

 流石にここまでとなると話は変わるわ。

 千種(ちぐさ)殿にも聞いたが間違いないようだしの、流石は北条の中でも上位の家だっただけはある。


 多くの家と縁があり、それ使うて様々な者を動かしておるのだ。

 鎌倉が倒れた真の理由は、足利が反旗を(ひるがえ)したからだと言って間違いあるまい。

 特に北条にとっては大事な家であったであろうにな。

 落ちる時は失策を重ねるものであるが、それにしても、と言ったところか。


 「楠木が持ってきた物を読めば読むほどに、足利左兵衛(かみ)が勲功第一等である事は間違いがないのう。

 それはよいのじゃが、親王は何故(なにゆえ)あそこまで足利左兵衛(かみ)を邪険にするのであろうな?」


 「………」


 「楠木よ、黙りておるのが答えぞ。まあ、朕も分かってはおるがな。

 あれは叡山に居たのが長い。そこで武士という者が如何(いか)に愚かかと(ささや)かれ続けたのであろう。

 坊主が強訴を致して朝廷を脅してきた事も忘れてな」


 確かに帝の言われる通りじゃ。

 寺社は古くから強訴を致して、無理矢理に己らの都合を押し付けて来た。

 古い時代の書を紐解けば、そこには朝廷と寺社の争いが山ほど書かれておる。

 まさに日の本の歴史は朝廷と寺社の争いの歴史よ。


 そう考えると護良(もりよし)親王殿下は駄目だな。

 あまりにも寺社や坊主に近すぎるし、これでは朝廷でも使うのは難しかろう。

 むしろ朝廷内に置いておけば、寺社や坊主の為の事ばかり喋りかねん。

 帝にとっては迷惑千万であろう。


 となると………護良(もりよし)親王殿下には申し訳ないが、ワシは貴方様から離れさせていただく。

 落ち目の者と命運を共にするなど御免被るからのう。

 ワシは楠木一党の旗を立てたいのであって、護良(もりよし)親王殿下に忠義を尽くしておるわけではない。


 仮に忠義を尽くすとすれば帝に対してであって、親王殿下に忠義を尽くしてものう……。

 ワシにはそこまで益は無いし、ならば放り捨てるに限るわ。

 そもそも武士を嫌っておられる方じゃ、その武士の力を当てにせずに生きられるとよい。


 「まあ、それは後で考えるか。

 新田とか申す者も鎌倉を落としたのだ、褒美はやらねばならぬな」


 「はっ! とはいえ、そちらも足利左兵衛(かみ)の子である千寿王を担いで戦っておったようです。

 やはり東国において足利の名は大きいのでございましょう。多くの諸将が馳せ参じたと聞きまする」


 「なるほどの。確かに兵が集まらねば戦には勝てぬ。

 足利の名で集まるならば、足利の名で戦うか。

 この新田という者もなかなかに優れたる者よな。己の名より実をとったわけじゃからのう」


 「確かにそうなのでございますが……」


 「なんじゃ? 言い淀むような事があるのか?」


 「この新田と申す者、元々足利家の庶家の者でございますれば、主家の嫡子がおられるのに己が上には立てますまい」


 「ああ、この者は足利の庶家であるか。

 なるほどのう、それは上になど立てまい。となると鎌倉を滅ぼせしも足利か。

 仕方あるまい、従三位に昇進させるか」


 「よろしいので?」


 横におられた公卿の方が掣肘(せいちゅう)するように言われたの。

 従三位という事は公卿じゃ。

 正四位上と従三位では天と地ほど違うので、武士に従三位を与えるのは嫌なのであろう。

 相変わらずじゃな。


 「仕方あるまい。功があるならば正しく(むく)いてやらねばならぬ。

 それが無ければ誰もついてこぬぞ。

 それともそなたらが自ら戦うのか? なれば構わぬが」


 「………」


 己の命は懸けぬが口だけは出す、か。

 だから武士からは呆れられてそっぽを向かれるというのに、そのような事も分からぬとは。

 護良(もりよし)親王殿下とこやつらも変わらんのう。

 所詮は公卿であり公家か。


 「それに牽制として北畠にも新たに官位を授ければよい。

 他の者にも多く授ける事で、また変わろう。

 それと黒金(くろかね)にも渡しておかねばな。

 あれは伝説の陰陽師であり稀人(まれびと)じゃ。

 出来ればこちらに手繰り寄せたい」


 帝も何を考えておられるのか。黒金(くろかね)殿が足利殿の前に現れたが全てよ。

 それに黒金(くろかね)殿はそういった欲はおそらくあるまい。

 あのような(わらし)の見た目だが、それなりに長く生きてきておる。

 (わらし)と同じではないぞ。


 それに………官位や官職を与えれば言いなりになると思うておるなら、あまりにも甘すぎるわ。

 向こうは神の加護を持っておられるのだぞ。

 神々が激怒されたら如何(いかが)するのだ?

 誰が鎮められるというのか、聞いてみたいものじゃな。

 もちろん口には出さぬが。


 「従三位には出来ずとも、正四位までには上げておきたい。

 官職はそのままでも、官位を引き上げておけば良かろう。

 かつて内裏に現れし三大怨霊を祓いし者であるからな。

 崇徳院、菅原道真、そして平将門。

 その怨み深き怨霊を祓った力は大きいのだ」


 なるほど。昔に左様な事があったのか。

 本人は気にしておらぬというか、覚えてもおらぬような事でしかないみたいじゃがな。


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