0162
Side:楠木正成
ワシらが鎌倉の者どもとの戦を始めて三月ほど過ぎたかの。
この日、ついに鎌倉の者どもに変化があった。
なんと奴らが撤退を始めたのだ。
おそらくは何かがあったのだろうが……む? 誰ぞが来ただと?
「楠木殿にお報せせよと言われ、何とか急いでやってきました!!
京の都は六波羅が、足利と申す者に滅ぼされたとの事にございます!!」
「なんと!! 六波羅を滅ぼしたと申すか!
それはよき事であると同時に、何故敵が逃げだしたか分かったわ。
唯でさえ野伏の所為で兵糧が滞っておるのだ。
遂に我慢の限界を超えたか!」
「六波羅が滅ぼされたとなれば、連中への兵糧の補給は無いに等しい。
兄者、すぐに奴らを追撃するぞ! 今の間に散々に打ち破ってやるのだ!!
こちらを散々攻めてくれたのだ、返されても仕方あるまい?」
「弟よ! すぐに準備いたせ!
敵を散々に追撃するのだ、決して逃がすでないぞ!!
野伏と共に、鎌倉の者どもを殲滅してやるわ!!」
「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」
ふふふふふふふ、ここまで来たら最早ワシらの勝ちは揺るがぬ。
皆もよう戦ってくれた。ここからは鎌倉の者どもにお礼返しと行こうかのう。
散々っぱらワシらを攻めてくれたのだ、おのれらとて攻められる覚悟があろう? 覚悟せいよ。
「出陣じゃあ!! 鎌倉の者どもを叩きつぶせえ!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」
「攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろーーーっ!!
今まで散々にやってくれのだ!! 敵を叩き潰せーーーっ!!!」
ワシらは城門を開けて、一気に敵へと迫る。
しかし敵の方が早かったのか、もはや敵陣は蛻の殻であった。
どちらに行ったか分からぬが、とりあえず野伏に聞けば分かろうと、山道を封じておる野伏に聞きに行く事にした。
勢いが削がれてしもうたが仕方ない。
そう思いつつ野伏の下に行くと、多少の者だけが残っていた。
その者達の話であると、どうも鎌倉の者どもは南都へと逃れようとしておるとのこと。
どうやらワシらは遅れてしまったらしい。
「兄者、如何する? 南都へ向かった鎌倉の者どもを追撃する事は可能だが、それをしても届くかどうかは分からん。
何より南都へ逃れようとしておる者らを野伏が追いかけておるらしいしな。
取り分を奪うのもどうかと思うぞ?」
「此度は護良親王殿下の呼びかけで集まってもらったのだしの。
散々世話になっておきながら愚かな真似はできん。
仕方ない、城へと戻るか。帝を京の都にお招きせねばならんしな」
「そうだな。我らには為すべき事がある。
そちらをせねばいかんし、帝のお迎えこそ、我らがせねばならぬ事よ。
そうと決まれば早う動かねば!」
「うむ。すぐに城へと戻るぞ。
護良親王殿下にも、この事を話さねばならぬ。
ワシらは迎えの仕方も知らぬでな。それでは粗相をしてしまいかねん」
帝をお迎えするのだからして、きちんとせねばな。
知らぬまま行っては愚か者扱いをされかねん。
今後の楠木家の事を考えても、正しき形を学んでおかねば。
後々で困るからのう。
…
……
………
我らは護良親王殿下と出立いたし、播磨の国にまで移動。
そこから帝の列に加わり、京の都までの警護をした。
そして都に辿り着いたのだが……
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Side:足利高氏
オレは諸国への軍勢の督促状を書いておる。
簡単に言うと六波羅が無くなった為、都の治安を維持する者がおらなくなったのだ。
これに関しては仕方がないと言えるしな、六波羅を潰したオレが何とかするしかない。
そう思って動いておったのだが……。
「京の都にお戻りになった帝が、それがしをお呼びであると?
もちろん参内させていただきまするが、いったい何用であられましょうか?」
「さて? 麿は何も聞いてはおじゃらぬ故、帝にお聞きになるしかなかろうな。
足利殿、伝えましたぞ」
「ははっ!!」
公家が来たのはいいのだが、オレに参内せよとはいったい如何な事であろうか?
まあ、来いと言われれば行くしかないので行くがな。
しかし………思い当たる事が無いぞ?
オレは後醍醐帝が使われておる冨小路坂の里内裏へと昇り、そして謁見の場へと上がる。
さて、オレに対していったい何用なのやら?
「そなたが足利又太郎高氏か。
此度の六波羅攻め、真に大儀であった。褒めてつかわそう」
「ハハッ! ありがたき幸せに存じまする!」
公卿や公家どもがこちらをジッと見ているが、平伏しているので顔を見られる心配は無い。
それにしても、いちいち面倒な事だ。さっさと終わらせてほしいのだがな。
その後も訳の分からん挨拶のようなものが続き、やっと本題に入った。
「して、親王がそなたに問いたき事があると言うておる。率直に申せ」
「ハハッ!」
「そなた、諸国の武士に京の都へ来いと督促状を出しておるそうだな?
京の都を己の支配下に置くつもりか?」
「………何をお考えになられてそう思われたのか、それがしには分かりかねまする。
あれは無くなった六波羅の代わりに京の治安を守る兵が必要だからでございます。
このまま放置すれば京の都は賊が入り放題になりまする故、早急に手を打たねばなりませぬ」
「ふむ。確かに足利の又太郎が申す通りじゃな。京の都が荒れては困る。
そして京の都の治安を守るは、確かに六波羅の役目でもあった」
「しかし武士がまた京の都に多くおるなど、第二の北条になりかねませぬぞ」
「しからば、それがしは鎌倉に帰らせていただきまする。
そもそも鎌倉が故郷でありまする故に」
「いやいや、そなたは六波羅を落とした第一の功を持つ者じゃ。
親王も別にそなたを邪険に扱おうとしておる訳ではない」
「………」
「あー、うむ。
そなたは北条めに父の葬儀の翌日に出兵を命じられたと聞く。
親王の物言いはそれに近き事か……」
「我は左様なつもりでは言っておりませぬ。
しかし武士どもが京の都におるなど、またぞろ碌な事をしますまい!」
ならばオレはさっさと帰らせてもらう。
しょせんは武士を都合の良い道具くらいにしか思うておらんのであろう。下らぬ。
散々楠木を使うておいて、本音はコレか。こやつらも北条と何も変わらんな。
「これ、止めよ。そなた楠木の助力があったのを忘れたのか? 楠木も武士ぞ」
「あっ………」
「………」
オレが楠木に話すとは考えておらぬようだな。随分と脇が甘いものだ。
このような者が次代の帝になるのか? それこそ碌な世が訪れまい。
なんにしろ、オレは朝廷内のイザコザに巻き込まれる気などない。
勝手に争い、勝手に死ね。
「うむ。とりあえず足利又太郎高氏よ、そなたを鎮守府将軍に任じる。
そなたが勲功第一と朕は思うておる故にな」
「ハハッ!」
「うむ。それでは下がってよいぞ。
此度は督促状の事を聞きたかっただけじゃからの」
「ハッ! 失礼いたしまする」
やれやれ、やっと終わりか。面倒な。
………何というか、早速下らぬ政が始まったようだな。
足の引っ張りあいと言うか、まったくもって愚かしい。
こういうところから北条は滅びたというのに、早速とばかりに同じ事をしておるわ。
呆れて物も言いたくなくなるな。




