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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:新田義貞



 小手指ヶ原(こてさしがはら)と久米川の戦に勝利したワシらは、武蔵の国の武士達を糾合していった。

 あの時には九千だったのだが、今では一万を超えておる。

 ちょっと多すぎではないかという気はするが、敵も二万ほどおったという。

 そんな相手ならば、これぐらいは要るのであろう。


 敵は本陣に突っ込んできたからか混乱し、鶴翼の陣でこちらを挟むなどという事は出来なくなっていた。

 なのでそのまま我らが押し勝ったのだが、ここでも敵に対する打撃はそこまで与えられなんだ。

 素早く退却された所為だ。


 それでも小手指ヶ原(こてさしがはら)とは違い、数千の敵兵を倒す事は出来たので、多少なりとも削る事は出来たであろう。

 その我らは更に進んでいき、分倍(ぶばい)河原までやってきた。

 ここに鎌倉の軍が陣を敷いたのは知っておる。


 十分な休息をとった後、士気の下がっておるであろう敵を叩き潰す。

 我らの力を見せてやるぞ!!


 …

 ……

 ………


 二日の休養を兵にとらせ、十分に休ませた。これ以上の無駄な時間を使う必要は無い。

 敵の士気が持ち直しても困る。一気に行って敵を叩かねばならん。

 では行くぞ!!


 我らは分倍(ぶばい)河原におる鎌倉軍に襲い掛かったが、おかしい。

 明らかに士気が下がっておらねばならぬはずなのに、なぜか下がっておらぬ。

 しかも敵の士気が高いだと? ……ぬっ? 横からも敵が?

 まさか敵に援軍が来たのか!?

 しまった、その事を考えておらなんだわ!!


 しかも援軍の数が多いのではないか? このままではマズい!

 大軍である敵に呑み込まれてしまうではないか。

 何とかせねばならん、まさかここまでの数になっていようとは……。


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」」」」」」


 本格的にマズいぞ。敵は今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすかの如く攻めてきておる。

 しかし久米川の時とは違って窮余の策も無い。敵は純粋に数で潰しに来ておるからだ。

 数を頼みに戦われると、どうにもならん。

 仕方ない、ワシが突撃してこじ開けるしかないか。


 「ワシが手勢を率いて鎌倉の横腹を突く!!

 それで敵が崩れたら後退せよ。

 よいな! 敵が崩れたら逃げるのだ!!」


 ワシは返事も聞かずに手勢を連れて飛び出す。

 何としても助けねば、ここですり潰されたら全てが終わってしまう。

 次へと望みを繋ぐ為にも、ここで終わる訳にはいかんのだ!!


 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 「殿に続けーーーっ!! 武士の力の見せどころぞーーーっ!!」


 「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 ワシが手勢を引き連れて突撃したからか、敵の狙いは本隊からワシに変わった。

 これで本隊は逃げられるであろう。

 流石に退いて態勢を立て直さねば、勝つ事は難しい。

 士気の高さで戦ってきたが、純粋な数で来られては勝てん。


 …

 ……

 ………


 敵の横腹に突撃を繰り返した御蔭で、何とか本隊を逃がす事が出来た。

 しかし相当に手酷くやられてしもうたか。

 まさかここまでの被害を受けるとは思わんかったが、致し方あるまい。

 まだ戦えぬようになった訳ではないのだ。


 そう思うておると、何やらこの堀兼の陣に誰ぞが来たらしい。

 弟の義助が連れてきたので問題のない者なのであろう。


 「それがしは三浦氏一族は大多和様より、新田殿に言伝を頼まれて来ました。

 大多和様は「新田殿にお味方する故、鎌倉の軍を攻めてもらいたい。

 その際には鎌倉の軍の中にいる我々は裏切りて本陣を強襲する」との事でございます」


 「は、はぁ……。大多和様と言えば、足利一族の(こう)氏から養子に入られた……!

 まさか、又太郎様からの命で?」


 「その通りです。既に又太郎様は六波羅(ろくはら)を落としたとのこと。

 既にこちらには伝わっておりますれば、大多和様はご決断なされたのです」


 「おお! それはありがたく!!

 しかも又太郎様が既に六波羅(ろくはら)を落としておられるとは……」


 「又太郎様は御家族の事を気にかけておられます。

 そしてここに千寿王様や赤橋の方がおられると聞きましたが、まことで?」


 「そうですぞ。武蔵の国におられたところをお迎えし、それがしの軍勢でお守りしております」


 「そうですか。それは良かったです。

 又太郎様は現在、京の都にて後醍醐帝を帰洛させるべく尽力されておられるとのこと。

 なのでこちらも励まねばならぬ、大多和様は左様に申されておられました。

 それでは私はこれで」


 お見送りは弟に任せるが、これで何とかなりそうだな。

 それにしても又太郎様は六波羅(ろくはら)めを落とされたか。

 早いな、実に早い。ワシも急いで鎌倉まで行かねば。

 新田ここにありと示す為にも、これ以上負けるわけにはいかん。




 次の日の早朝。ワシらは再び敵陣に対して突撃をする。

 諸将には朝になって話した。使者の方が来られたのが遅かったのと、兵達から洩れるのを恐れたからだ。

 諸将もそれには納得してくれたので良かった。

 そして我らは陣を張っておった敵軍に対して突撃をする。


 昨日勝ったからであろう、敵軍は思っている以上に緩んでおった。

 もしかしたら大多和様が何かしていてくれたのかもしれん。

 そして敵軍は今や大混乱しておる。何故なら大多和様が敵の本陣を強襲しておるからだ。


 これでは命も届かぬし、兵達もいかにしてよいか分からん。

 このような状況で戦えるわけも無し。

 我らは昨日の鬱憤(うっぷん)を晴らすべく、次々と混乱する敵を討ち取っていく。

 幾ら数が多くとも、こうなったら烏合の衆でしかない。


 当たるに任せて馬上から槍を突き出し、次々に(かち)の兵を倒してゆく。

 気づけば敵が敗走しておったが、かなりの敵兵を打ち倒す事が出来た。


 「えい! えい!」


 「「「「「「「「「「おーーーーっ!!!」」」」」」」」」」


 「えい! えい!」


 「「「「「「「「「「おーーーーっ!!!」」」」」」」」」」


 皆も嬉しそうに誇っておる。

 大多和様の御蔭で勝ったとも言えるが、それでも勝ちは勝ちだ。特に鎌倉からの援軍諸共に叩けたのが大きい。

 これで鎌倉の者達は敗走するしかなくなるし、この勝ちを聞いた者達がさらに駆け付けてくるであろう。


 ワシは大多和様に礼を言い、そして共に進軍をする事を話し合った。

 また千寿王様のところにお連れすると喜んでおられたな。

 (こう)氏といえば代々足利家の執事を務める家だ。

 足利家の庶家でしかないワシと違い、足利氏の中枢の家だからな。

 そこにお味方いただけたのは大きい。


 戦にも勝ったし、これでさらに勢いを増す事が出来る。

 上手くいけば数万の軍勢になるかもしれん。


 …

 ……

 ………


 分倍(ぶばい)河原での勝ちは本当に大きかった。

 まさか本当に数万の軍勢になるとは思わなかったわ。

 それもこれも、総大将が千寿王様だからだ。

 流石に我が新田家の名では、ここまでの者が来てくれるとは思えぬしな。………今はまだ。


 その後、さらに進軍したワシらは霞の関で鎌倉軍を率いる北条泰家の軍勢と戦闘。勝利をもぎ取った。

 ここまでの戦で指揮をしておったのは、この男であったらしい。

 しかし数万に膨れ上がったこちらには多勢に無勢。

 しかも敵には逃散する兵が相次いだ。


 その所為でもあろうが、この戦は鎧袖一触とも言えるもので、あっさりと勝利してしまった。

 何というか、今までの戦はなんだったのかと言いたくなるな。

 楽な分にはいいのだが………妙に納得できぬのは何故であろうか。


 それでも北条には逃げられたのだから、全てが全て上手くいった訳でもない。

 さらに言えば鎌倉の地は要害。そう簡単に落とす事もできん。

 ここからは腰を据えて戦をせねばならん。

 今一度、気合を入れ直さねばな。


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