0159
Side:新田義貞
鎌倉は要害。そう簡単には攻め落とす事など出来ぬ。
それ故に兵に十分な休息を与えておるのだが、ひっきりなしに援軍と称して駆け付けてくる者がおる。
もはや我らは十万を超える軍勢となってしまった。
これでは統制がまともにとれん。
どうする事も出来ぬので、仕方なく全ては諸将に任せる事にした。
幸いにも多くの諸将は足利家の方々の所に行っておるので、ようやく一息吐く事が出来る。
大将として戦っておるのはワシなのだが……という思いは無いではないが、それにしても駆け付ける諸将が多すぎるわ。
正直に言って、ワシのところに来る者が減るのであれば何でもいい。そんな心境だ。
いや、本当にここまで来るとは思ってもみなかったわ。
おそらく勝ち馬に乗りたいのであろうが、鎌倉という要害を落とす為には致し方がない。
已むを得んと言ったところだ。
ワシらは大変ではあるものの軍議を開き、どのように攻めるかを話し合う。
侃々諤々と話をし合い、喧々囂々と議論を重ねた結果、三方に分かれて攻撃を始める事になった。
左翼は堀口殿や大島殿。右翼からは大館殿や江田殿。
そして中央はワシが主力を率いる。その形で決まった。
とにかく数が多すぎて統制が利かぬ以上は、減らして統制が利くようにするしかない。
まあ、主力のワシらはおそらく利かぬだろうがな。
数が多いのも良し悪しと言うしかなかろう。
贅沢な悩みとはいえ、統制のとれぬ兵卒など怖くて使いたくないのが本音だ。
いつ賊のように暴れ出すか分からんし、抜け駆けで功を奪おうとするのも当たり前。
それでは戦に勝つ事すら難しい。
特にワシらのように膨れ上がっただけの軍など、脆く簡単に瓦解する事も多いでな。
結束という意味では、最初から付き合ってくれておる者らを大事にせねばならん。
さて、休息も終わりだ。明日からは鎌倉攻め。
ようやく北条の者どもに止めを刺せる。
待っておれよ、ワシがこの手で息の根を止めてやるからな。
…
……
………
さて、今日この日こそが決戦。
諸将の顔にも気合が漲っておる。これならば確実に鎌倉を落とせよう。
後は信じて待つのみであるな。
それでは皆の者、行くぞ!!
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
ワシもこれだけの軍勢に号令を掛けられるようになったんじゃの。感慨深いわ。
……っと、そんな事より攻めねばならぬ。
今は感動を忘れて、己の為すべき事を為さねば!
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Side:堀口貞満
我らは居福呂坂より攻めあがる。
鎌倉は要害であり、正直に申して攻めるしかない。
ただひたすらに突撃し、敵を叩き潰すしか方法は無いのだ。
何度も何度も突撃するしかな。
「堀口殿、思っておる以上に敵は奮戦しておるな。これは予想以上であった。
相手が誰かは知らぬが、なかなかの猛将と見受ける。
堀口殿は如何思われる?」
「猛将かもしれぬが……。それがしには後が無い者の突撃にしか見えぬ。
鎌倉の者どもにとっては最後とも言える場所だ。ここが失陥すれば奴らは終わり。
それ故に抵抗が激しいのは当たり前であろう。
かつて我らが追い詰められて苦しんだように、今は鎌倉の者どもが苦しんでおる」
「うむ、そうも考えられるか。しかし堅いわ。
ここまで守られると、こじ開けるのは簡単ではないぞ。
いったい何度突撃せねばならぬか分からぬが、それでも攻めて攻めて攻めるしかないな。
我らにはそれしか道は無い」
「ああ、その通りだ。少なくとも、ここに敵を釘付けにしておく意味はある。
なので突撃を繰り返しておる間に、他方が攻め上がってくれればよい。
そうすれば我らも突破は出来るであろう」
「そうだな……っと、またもや突撃で押し負けるか。まるで死人かのように突撃してきおる。
こちらも突撃を繰り返しておるが、やはり死を覚悟しておる者らは強い。
そうそうな事では、この相手を突破は出来ぬぞ」
「こちらが下がらざるを得んとはな。
流石に鬼気迫る猛攻を繰り返されると呑み込まれる。
前線の兵達は相当に苦しかろう。
それでも槍を突き出し、叩いてくれておる。ありがたい限りだ」
「そうだな。あれに呑み込まれて逃げ惑う事が無いだけ、こちらの兵達も奮戦してくれておる。
出来得るならば弓矢で勢いを止めたいところだが、奴らお構いなしに攻めてくるから止まらん。
まさかここまでとは思わなんだわ」
…
……
………
「もう五十度以上は突撃を繰り返したぞ。
まさか洲崎まで下がらされるとは思わなんだわ。
このままだと主力の後背を突かれてしまいかねん。
こちらも押そうとしておるが、死人が相手だと押すに押せぬ!」
「まあ、待て。奴ら遂に力が尽き果ててきておる。
相手の兵に逃亡者が出始めた。このままならば押し返せる。
敵が逃散いたしておるのだ。この機に押さねば、下がり続ける事にしかならんぞ」
「そうだな。
敵は逃散いたし始めたぞーーー!!!
攻めよ、今こそ攻めるのだーーー!!
敵は逃散いたしておるぞーーー!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
「良かった。どうやら我が方には突撃する余力と気合が残っておったか。
敵の逃散が始まっても、こちらの力が無くなっておれば突撃できぬところであった。
まだまだこの戦いは終わらぬ。なんとしても洲崎から押し返すのだ」
「うむ。我らは押し込まれて勝てませんでした、では話にもならんからのう。
戦に勝利いたしても良いところが無いのでは、褒美も碌に貰えぬ。
それでは示しがつかぬでな」
「ああ。奮戦してくれておる兵達の為にも、なんとか良いところを作らねばならん。
せめて功と言えるものを得ねばな」
ここまで追い詰められたのでは難しかろうが、それでも多くの者の為にも功を得ねばならん。
それもまた我らの為すべき事よ。
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Side:赤橋守時
私は前執権様に疑われておる。
妹の登子が足利家に嫁いでおるからだ。
足利又太郎は北条家を裏切り、京の都は六波羅を滅ぼしたそうだ。
正直に申せば、特に驚きも何も無い。
私自身は前執権様の子息が執権職を継ぐまでの代理でしかない。
その事は執権職に就く前に前執権様と内管領に言われておった。
なのでお飾りの執権でしかないのだ。
私は己で碌に何も決められなかった。
足利又太郎が京の六波羅を滅ぼした、その報せを聞いた時の前執権様のお顔は……。
まるで怒り狂った悪鬼羅刹のようであった。
かつては穏やかな方であったというのに、いったい何事があられたのであろうか……。
とはいえ足利又太郎が北条家に反旗を翻したのはよう分かる。
重ね重ね、忌明けもせぬ者を無理矢理に戦に送ったは間違いだったのだ。
アレで足利の忠義が失われたのだからな。
それまで足利の者が北条家に楯突く事などなかったというのに、何故にあのような事を致すのか。
今でも分からぬ。
この期に及んで、思い出すのは左様な事ばかりか。
私は流されて生きただけの小物であったのだな。
前執権様に疑われるのを恥だと思い必死に奮戦いたしたが、ここ洲崎で終わりか。
既に兵は逃散いたし、諸将もほとんど残っておらぬ。
ここまでで私の命運は尽きたようだ。
「執権様。申し訳ございませぬ……」
「構わぬ。あの世で祖先に詫びるだけよ。
そなた達はよく戦ってくれた。
私の首を持って降るがよい。では、さらばだ!!」
妹よ。そなたは流されずに生きよ。それが兄のせめてもの願いだ。
足利に千寿王がおる限り、我が赤橋の血筋は残るのだからな。




