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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:新田義貞



 鎌倉は要害。そう簡単には攻め落とす事など出来ぬ。

 それ故に兵に十分な休息を与えておるのだが、ひっきりなしに援軍と称して駆け付けてくる者がおる。

 もはや我らは十万を超える軍勢となってしまった。

 これでは統制がまともにとれん。


 どうする事も出来ぬので、仕方なく全ては諸将に任せる事にした。

 幸いにも多くの諸将は足利家の方々の所に行っておるので、ようやく一息吐く事が出来る。

 大将として戦っておるのはワシなのだが……という思いは無いではないが、それにしても駆け付ける諸将が多すぎるわ。


 正直に言って、ワシのところに来る者が減るのであれば何でもいい。そんな心境だ。

 いや、本当にここまで来るとは思ってもみなかったわ。

 おそらく勝ち馬に乗りたいのであろうが、鎌倉という要害を落とす為には致し方がない。

 已むを得んと言ったところだ。


 ワシらは大変ではあるものの軍議を開き、どのように攻めるかを話し合う。

 侃々諤々(かんかんがくがく)と話をし合い、喧々囂々(けんけんごうごう)と議論を重ねた結果、三方に分かれて攻撃を始める事になった。


 左翼は堀口殿や大島殿。右翼からは大館殿や江田殿。

 そして中央はワシが主力を率いる。その形で決まった。

 とにかく数が多すぎて統制が利かぬ以上は、減らして統制が利くようにするしかない。

 まあ、主力のワシらはおそらく利かぬだろうがな。


 数が多いのも良し悪しと言うしかなかろう。

 贅沢な悩みとはいえ、統制のとれぬ兵卒など怖くて使いたくないのが本音だ。

 いつ賊のように暴れ出すか分からんし、抜け駆けで功を奪おうとするのも当たり前。

 それでは戦に勝つ事すら難しい。


 特にワシらのように膨れ上がっただけの軍など、脆く簡単に瓦解する事も多いでな。

 結束という意味では、最初から付き合ってくれておる者らを大事にせねばならん。

 さて、休息も終わりだ。明日からは鎌倉攻め。

 ようやく北条の者どもに(とど)めを刺せる。


 待っておれよ、ワシがこの手で息の根を止めてやるからな。


 …

 ……

 ………


 さて、今日この日こそが決戦。

 諸将の顔にも気合が(みなぎ)っておる。これならば確実に鎌倉を落とせよう。

 後は信じて待つのみであるな。

 それでは皆の者、行くぞ!!


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 ワシもこれだけの軍勢に号令を掛けられるようになったんじゃの。感慨深いわ。

 ……っと、そんな事より攻めねばならぬ。

 今は感動を忘れて、己の為すべき事を為さねば!



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:堀口貞満



 我らは居福呂(こぶくろ)坂より攻めあがる。

 鎌倉は要害であり、正直に申して攻めるしかない。

 ただひたすらに突撃し、敵を叩き潰すしか方法は無いのだ。

 何度も何度も突撃するしかな。


 「堀口殿、思っておる以上に敵は奮戦しておるな。これは予想以上であった。

 相手が誰かは知らぬが、なかなかの猛将と見受ける。

 堀口殿は如何(いかが)思われる?」


 「猛将かもしれぬが……。それがしには後が無い者の突撃にしか見えぬ。

 鎌倉の者どもにとっては最後とも言える場所だ。ここが失陥すれば奴らは終わり。

 それ故に抵抗が激しいのは当たり前であろう。

 かつて我らが追い詰められて苦しんだように、今は鎌倉の者どもが苦しんでおる」


 「うむ、そうも考えられるか。しかし堅いわ。

 ここまで守られると、こじ開けるのは簡単ではないぞ。

 いったい何度突撃せねばならぬか分からぬが、それでも攻めて攻めて攻めるしかないな。

 我らにはそれしか道は無い」


 「ああ、その通りだ。少なくとも、ここに敵を釘付けにしておく意味はある。

 なので突撃を繰り返しておる間に、他方が攻め上がってくれればよい。

 そうすれば我らも突破は出来るであろう」


 「そうだな……っと、またもや突撃で押し負けるか。まるで死人かのように突撃してきおる。

 こちらも突撃を繰り返しておるが、やはり死を覚悟しておる者らは強い。

 そうそうな事では、この相手を突破は出来ぬぞ」


 「こちらが下がらざるを得んとはな。

 流石に鬼気迫る猛攻を繰り返されると呑み込まれる。

 前線の兵達は相当に苦しかろう。

 それでも槍を突き出し、叩いてくれておる。ありがたい限りだ」


 「そうだな。あれに呑み込まれて逃げ惑う事が無いだけ、こちらの兵達も奮戦してくれておる。

 出来得るならば弓矢で勢いを止めたいところだが、奴らお構いなしに攻めてくるから止まらん。

 まさかここまでとは思わなんだわ」


 …

 ……

 ………


 「もう五十度以上は突撃を繰り返したぞ。

 まさか洲崎まで下がらされるとは思わなんだわ。

 このままだと主力の後背を突かれてしまいかねん。

 こちらも押そうとしておるが、死人が相手だと押すに押せぬ!」


 「まあ、待て。奴ら遂に力が尽き果ててきておる。

 相手の兵に逃亡者が出始めた。このままならば押し返せる。

 敵が逃散いたしておるのだ。この機に押さねば、下がり続ける事にしかならんぞ」


 「そうだな。

 敵は逃散いたし始めたぞーーー!!!

 攻めよ、今こそ攻めるのだーーー!!

 敵は逃散いたしておるぞーーー!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「良かった。どうやら我が方には突撃する余力と気合が残っておったか。

 敵の逃散が始まっても、こちらの力が無くなっておれば突撃できぬところであった。

 まだまだこの戦いは終わらぬ。なんとしても洲崎から押し返すのだ」


 「うむ。我らは押し込まれて勝てませんでした、では話にもならんからのう。

 戦に勝利いたしても良いところが無いのでは、褒美も碌に貰えぬ。

 それでは示しがつかぬでな」


 「ああ。奮戦してくれておる兵達の為にも、なんとか良いところを作らねばならん。

 せめて功と言えるものを得ねばな」


 ここまで追い詰められたのでは難しかろうが、それでも多くの者の為にも功を得ねばならん。

 それもまた我らの為すべき事よ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:赤橋守時



 私は(さきの)執権様に疑われておる。

 妹の登子(なりこ)が足利家に嫁いでおるからだ。

 足利又太郎は北条家を裏切り、京の都は六波羅(ろくはら)を滅ぼしたそうだ。

 正直に申せば、特に驚きも何も無い。


 私自身は(さきの)執権様の子息が執権職を継ぐまでの代理でしかない。

 その事は執権職に就く前に(さきの)執権様と内管領(ないかんれい)に言われておった。

 なのでお飾りの執権でしかないのだ。

 私は己で碌に何も決められなかった。


 足利又太郎が京の六波羅(ろくはら)を滅ぼした、その(しら)せを聞いた時の(さきの)執権様のお顔は……。

 まるで怒り狂った悪鬼羅刹のようであった。

 かつては穏やかな方であったというのに、いったい何事があられたのであろうか……。


 とはいえ足利又太郎が北条家に反旗を翻したのはよう分かる。

 重ね重ね、忌明けもせぬ者を無理矢理に戦に送ったは間違いだったのだ。

 アレで足利の忠義が失われたのだからな。

 それまで足利の者が北条家に楯突く事などなかったというのに、何故にあのような事を致すのか。

 今でも分からぬ。


 この期に及んで、思い出すのは左様な事ばかりか。

 私は流されて生きただけの小物であったのだな。

 (さきの)執権様に疑われるのを恥だと思い必死に奮戦いたしたが、ここ洲崎で終わりか。

 既に兵は逃散いたし、諸将もほとんど残っておらぬ。

 ここまでで私の命運は尽きたようだ。


 「執権様。申し訳ございませぬ……」


 「構わぬ。あの世で祖先に詫びるだけよ。

 そなた達はよく戦ってくれた。

 私の首を持って降るがよい。では、さらばだ!!」


 妹よ。そなたは流されずに生きよ。それが兄のせめてもの願いだ。

 足利に千寿王がおる限り、我が赤橋の血筋は残るのだからな。


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