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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:新田義貞



 千寿王様を連れた我々は、武蔵の国は入間川を渡り小手指ヶ原(こてさしがはら)までやってきた。

 しかし、ここで鎌倉の軍に遭遇、陣を整える事も無く戦に入ってしまった。

 強いて言えば、敵も態勢が整っていない事が救いであろう。


 敵軍は数万とも思える軍勢であるが、こちらの士気は高く何度もぶつかる戦となっておる。

 不意の遭遇戦であるので弓矢が使えぬのが痛い。

 これではお互いに退くまでぶつかり合うしか出来んからな。


 「行け行け行け行け行け行け行け行けーーーーっ!!! 鎌倉の者など何するものぞ! 叩き潰すのだーーーっ!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 我が方の士気が高いのが救いか。敵の数を見ても兵が怖気(おじけ)づいておらぬ。

 その御蔭で何度もぶつかる事ができておるが、士気が低ければ敵の数に潰されておったわ。

 特に鎌倉に不満のある者ばかりだからか、折れぬのはありがたい。


 「潰せーーーーっ!! 奴らは我らから全てを奪う者ぞ!!

 奪われぬ為には潰さねばならんのだ!! 行け行け行け行け行け行けーーっ!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 奪われる、か。我が家もそうよ、奴らは何でも我らから奪ってゆく。

 その苦しみを奴らも味わってみればよいのだ、そうすれば我らの痛みも苦しみも分かろう。

 そのうえで完膚(かんぷ)なきまでに潰してやるわ。地獄に落ちるがいい。


 「進め進め進め進め進め進めーーーっ!!

 敵を殺せ、殺し尽くせ!! でなければ我らが苦しむだけぞ!!

 家の者を苦しめてもよいのか!? 敵を倒さねば我らが苦しむのだ!!

 許すでない! 地獄に落としてやれい!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」


 凄まじいまでの怨念が渦巻いていそうだが、これが得宗家のやってきた事よ。

 それが得宗家に返っておるのだからして、完全に因果応報としか言えまい。

 おのれらがやった事が、おのれらに返るだけよ。

 甘んじて受け入れるがいい。


 その後も何度もぶつかったが、敵が退いていったので我らの勝ちとなった。

 勝鬨(かちどき)を上げて喜んでおるが、敵にそこまでの損害を与えられた訳ではない。

 戦の時間も短かったしな。


 不意に遭遇してしまったので仕方ないが、それに関してはお互いに同じ。

 今は敵を退かせたという事の方が大事だ。これで我らはさらに勢いづく。

 士気の高さこそが大事なのであり、我らの肝とも言えるところだ。

 士気が落ちれば我らは呑み込まれる。なので士気は高く保たねばならぬ。


 さて、このまま退いていった敵を逃すほどワシは愚かではない。

 というより、ここで削っておかねば後が大変だ。

 という事で、どうにかせねばならんのだが、やるべき事は奇襲であろうな。

 やるは明日の朝、敵が起きる前に一気に攻める。

 まずは軍議を開かねば。




 「皆の者に集まってもらったのは他でもない、退いた敵の事だ。

 我らは敵を退かせたとはいえ、あくまでも出来たのはそれだけでしかない。

 敵を倒せたわけではない以上、確実に倒さねばならん。

 そしてその為に奇襲をしようと思う」


 「敵は退いていきましたから夜の間にある程度近づき、朝も明けぬ間から攻めるのですな?

 敵の方が兵数が多い。そのような敵を逃がしたままでは、次の戦いは不利にならざるを得ぬ。

 ならば今の内に奇襲をいたして、完膚(かんぷ)なきまでに叩いておかねばならん」


 「で、あるな。今ならば敵も浮足立っておるままじゃ。

 これは一日か二日置かねば治まるまい。その治まらぬ内に攻めるは正しかろう。

 兵法にも通じるものじゃ」


 「では諸将の皆様方、我らは朝駆けを行うという事で」


 「「「「「「「「「「異議なし!」」」」」」」」」」


 一応だが千寿王様にも出ていただいておるが、しっかりと起きて聞いておられたな。

 三歳では分かりておられぬであろうが、立派であられる姿だ。

 将来が楽しみであるが、今はそれを考えても仕方ない。まずは勝つのが先だ。


 その後、我らは八国山まで進み、そこで陣を張る事にした。

 敵は久米川近くに布陣して休息しておるようなので、ここからならば麓の状況がよく分かるのだ。

 なので最もよい場所であろう。




 そのまま我らは休息し、次の日の朝を迎えた。

 未だ朝の明けぬ頃、我らは準備を整えて攻める。

 八国山には千寿王様の護衛と弟を残し、我らは朝焼けの中を敵に向かって奇襲する。


 ドドッ!ドドッ!ドドッ!ドドッ!ドドッ!ドドッ!


 「進めーーっ!! 鎌倉の者どもなど、ここで叩き殺してしまうのだーーっ!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 よし、我らの士気は未だ高、しまった!! 敵は奇襲を読んでおったのか!!

 まさか陣形を整えておるとは思わなんだし、奇襲が読まれておるとなれば勢いのままに押し切る事ができん!!


 「愚かにも敵は罠に掛かったぞーーっ!!

 今じゃ、反逆の徒など叩き潰せーーーーっ!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 ちぃ!! なんという痛恨事。

 そもそも数の上ではこちらが不利なのだ、しかし士気の高さで何とかせねば。

 このままでは呑み込まれるだけだ、声を上げて皆を鼓舞して敵を押す。

 こうなったら押して押して押し続けねば勝利は無い。


 「行け行け行け行け行け行け行けーーーっ!! しょせん敵は退いて逃げた者どもぞ!!

 我らの力には勝てぬ弱兵ばかりよ!! 押せ押せ押せ押せ押せ押せーーーっ!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」


 よしよし、その士気の高さと攻めの強さが我らの良きところ。

 言い換えればそれが無くなれば敵軍に呑まれるのだ。それだけは絶対に避けねばならん。

 なんなら酒を飲ませてから突撃させてもよいぐらいよ。

 それぐらいに押し込めねば勝てん。


 ドドッ!ドドッ!ドドッ!


 ぬ? 後ろから馬が駆けてくるだと!? いったいどういうこ、なんだ弟の義助か。

 いったい何用だ? というか千寿王様の守りは如何(いかが)したのだ。

 まさか何かあったのではあるまいな!? そうなれば又太郎様に顔向けできぬぞ!!


 「良かった、間に合ったか!!

 兄者! 敵は鶴翼の陣を敷いておる!

 このままでは挟み込まれて潰されるぞ!!」


 「なんだと!? 鶴翼の陣………それが敵の言うておった罠か!!

 これはマズい、何とかせねばすり潰されてしまうぞ」


 鶴翼の陣とは鳥が翼を広げるように兵を広げ、そして相手を包んで包囲し潰すというものだ。

 包囲されれば最後、中央の者は満足に戦えぬどころか身動きがとれん。

 そして外側から削られ続けてしまう。

 包囲が開けてあり逃げ道があっても、それは逃散に等しく追撃をされるだけ。


 それが成ったら(ことごと)くやられてしまうわ。そうなれば二度と立ち上がる事など出来まい。

 考えろ、考えるのだ………何か突破口があるはず。鶴翼の陣は鳥が翼を………翼?

 右手と左手に展開……そうか!!


 「皆の者ーーーっ!! 敵は本陣の守りを薄めておる!! 突撃じゃーーーっ!!

 敵の本陣は薄いぞーーっ! 今なら大将首が獲れる!!

 大将首を獲れば末代までの(ほまれ)ぞーーっ!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「そうか。鶴翼の陣は広がる為、中央が手薄になる。なれば突撃して本陣を貫いてしまえばよい。

 流石は兄者であるな!」


 「それはよいが弟よ。そなたはさっさと戻って千寿王様をお守りせい!!

 己のやる事を間違うな!!」


 「おう! すぐに戻る!!」


 ドドッ!ドドッ!ドドッ!ドドッ!ドドッ!


 弟が馬で戻っていくが、本当に助かったわ。

 弟が(しら)せてくれねば、鶴翼の陣で包囲されるところであった。

 そうなれば蜂起も終わり、また北条の禄でもない世が続くところであったぞ。


 危なかったが、諸将にはそんな姿は見せられん。堂々としておかねば。


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