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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:新田義貞



 もはや我慢の限界だ!! 我ら新田荘の者に六万貫だと!? そのような銭があるはずなど無い。

 そんな当たり前の事すら分からぬと見える。否、あれらは自分達の命令であれば何でも通ると思っているのだ。

 駄目ならば、それを口実に潰せばよい。そのようにしか考えておるまい。


 誰が左様な者に従うというのだ、あり得ぬわ!!

 それに………又太郎様からは「好きにせよ」という言葉が書かれた文を受け取っておる。

 しかも持ってこられたのは仙太郎様だ。ならば確実に大塔宮様の令旨(りょうじ)の事であろう。


 つまり我が新田が蜂起しても構わぬということ。そして足利家はそれを咎めぬという事だ。

 あくまでも御言葉だけであられたが、仙太郎様は京の都は六波羅(ろくはら)攻めをされると言うておられた。

 それは明確な反鎌倉だ。つまり又太郎様も既に北条を見限ったという事になる。


 ならば我らも立ち上がらねばなるまい。もはや北条は武家に(あら)ず。

 いや、元々からして北条家は土豪であったと聞く。つまりは土豪に従っておったに過ぎぬのだ。

 我ら武士が土豪の思い上がりを粉砕せねばならぬ!

 そうでなければ武士とは言えぬであろう!!


 ワシが立ち上がるのは裏切りでも不忠でもない。

 そもそも「六万貫の銭を五日で納めろ」などあり得ぬ。

 あまりにも横暴であり、さらには世良田の町で乱暴狼藉や略奪を働く始末。

 ワシが黒沼を斬り殺し、首を晒したのも当然だ!!


 金沢は助命してやったが、此度の事で鎌倉はワシから所領を没収するという。

 あまりにもふざけ過ぎておるし、許せる事ではない。

 乱暴狼藉や略奪など、やっておる事が賊と変わらぬわ!

 地の底にまで落ちたようだの、北条は。


 しょせんは豪族の血筋よ。一皮むけばこのような者なのであろう。

 何が得宗だ! 何が執権だ! 賊と変わらぬ血筋の者が、恥を知れ!!!


 ふぅ………。今から北条を誅伐しに行くのだ、興奮していても始まらぬ。

 それよりも周りの者達を糾合して戦力とせねばな。

 そうと決まればすぐに動かねばならぬ。鎌倉とてワシが挙兵するのを見過ごす事はあるまい。

 急がねば先に潰されてしまう。


 …

 ……

 ………


 準備は整ったので、ワシはさっさと出陣した。

 事が起きたならば素早く動かねばならん。

 そうでなければ敵に機先を制されてしまう。

 唯でさえ数の上では大したものではないのだ、これで先に動かれたら何も出来ぬままに負けるは必定。

 それでは立ち上がった意味が無いからな。


 弟の義助を始め、ワシの下に参陣してくれたのは総勢五百だ。

 多いか少ないかで言えば少ないが、これで十分であろう。

 今は五百でも声を掛けていけば増える。

 なにより、ここ最近の鎌倉の横暴は目に余るほど酷いものだ。

 多くのところで戦費を徴収されており、かなりの者が困窮しておるからな。


 その割には得宗は贅沢三昧ときておる。だれが左様な者などに忠義を尽くすのだ。

 忠義を尽くすは一部の者、つまり贅沢のお零れを貰っておる者だけよ。

 不平不満が鬱積(うっせき)しておる者の方が多いのだ。こちらの数は増える。


 ワシは決起した新田荘は生品(いくしな)神社から北の笠懸野(かさがけの)に出ると、東山道を通って上野(こうずけ)の国へと行く。

 そして鎌倉の軍に圧を掛けるようにして進み、声を掛けておった先に進んでおる者達と合流。

 この時点で二千騎まで増えた。


 その後、碓氷(うすい)川を渡り八幡荘に着くと、甲斐や信濃から馳せ参じてくれた者達を合わせ九千騎まで膨れ上がった。

 これならば鎌倉の者どもとも戦えるであろう。早々に負けたりなどせぬ。

 鎌倉の田分けどもに戦というものを教えてくれるわ!!


 「兄者よ、これなら鎌倉の者どもと十二分に戦えるぞ。

 兵の数が少なすぎては戦いにもならぬが、ある程度の数がおれば戦える。

 多すぎても烏合の衆になるやもしれぬからな。九千は十分すぎるであろうよ」


 「うむ。ここまでの数であれば十二分に戦えるであろう。

 鎌倉の者どもめ、必ずや奴らのそっ首を獲って晒してくれるわ。

 我が新田荘や世良田に対する仕打ち、絶対に許さぬ。

 地の果てまで追ってでも、滅ぼしてくれるわ」


 「皆そのつもりで来ておる、志は同じよ。

 必ずや首を獲り、皆の怨みと憎しみを晴らしてくれようぞ。

 決して許してはならぬ、北条めは驕りすぎなのだ」


 「まったくもって、その通りよ。幾らなんでも驕りに驕っておる。

 奴らは<驕る平家は久しからず>の言葉も知らぬようだ。

 そのような愚かさだから滅ぶのだ。平家と同じようにな」


 諸将も鬱憤(うっぷん)が溜まっておるようだ。

 当然ではあるし、そうでなければ反鎌倉の兵が集まったりはせぬ。

 とどのつまり、こうやって皆が集まっておること自体、既に鎌倉は人心を統べる事は出来ておらぬということ。

 それを如実に示しておる。


 さて、明日からも進軍を続けねばならぬ。

 今日は早めに休むか。まだ鎌倉は遠いからの。


 …

 ……

 ………


 我らはさらに南下し、利根川を渡って武蔵の国に入る頃、十数人の旅の者達を発見した。

 中心にいるのは四人の女と一人の小さな子。

 その姿を見てすぐに分かった、あれは足利家の方々であると。

 ワシはすぐに馬を降り、自らの足で駆け付ける。


 「ごめん!! それがしは新田小太郎義貞と申しまして、足利家の庶家の者になりまする。

 もしかすれば、そこもとの方々は足利家の方々ではございませぬか?」


 「ええ、そうですが……。

 そういえば来られていたのをチラリと見ましたね。

 私は正妻である赤橋登子(なりこ)、この子は足利千寿王です」


 「おお! やはりそうでございましたか!!

 これは良かった、鎌倉を脱出されたという事は、おそらく足利家を潰すべく鎌倉が動いたということ。

 そうではございませぬか?」


 「ええ。当主、足利又太郎は京の都は六波羅(ろくはら)を攻め滅ぼす為に出陣しました。

 おそらくですが謀反に気づいたのでしょう。監視が厳しくなった為に、夜に隙を突いて逃げたのです」


 「そうでございましたか。

 では、それがしどもがお守り致しましょう。

 賊がいつ出てくるかも分かりませぬ故に」


 「ありがとうございます」


 「いえいえ、これも一門の者の為すべき事でございますれば、お気になさらず!」


 足利家の嫡男を庇護しておるとなれば、さらに兵を増やせる。

 この事を伝えれば馳せ参じる者はさらに増えようぞ。

 ワシの方にも運が向いてきたな。

 天がワシに鎌倉を滅ぼせと言っておるようじゃ。


 この機を逃してはならぬ、確実に北条の息の根を止めねばならん。

 でなければ、更に驕った北条が周りを不幸にするだけよ。

 ワシが、この手で、北条に引導を渡してやる。


 「ところで千寿王様がおられるのであれば、この軍の総大将は千寿王様がなさるべきかと存じまする。

 如何(いかが)でございましょうか?」


 「…………千寿王の名で兵を集めるという事ですね。

 赤橋の方、構わぬのではないですか? ここは確実に勝たねばなりませぬ」


 「金沢の方……はい、分かりました。

 あの御方も西で戦っておられるのです、千寿王がこちらで戦うのも当然なのでしょう」


 「では、よろしくお願いいたします」


 まだ三歳の子と聞くが、ここは錦の御旗にさせていただくしかない。

 それに、まさか義観様の(さい)であられる御二方までおられるとは思わなんだ。

 そしてワシの考えを分かったうえで合力いたして下さるとは、ありがたい事だ。


 足利家のご嫡男がおられるとなれば、必ずや馳せ参じる者は増えよう。

 これで鎌倉に勝てる見込みは大きくなった。この機を逃す事などなく、確実なものにせねば。

 これから忙しくなるぞ。多くの文を出さねばならんからな。


 諸将もそれが分かるのであろう、皆が笑顔だ。

 我らの士気も随分と上がった。このままの調子で鎌倉まで迫るぞ。

 目にものを見せてやるから、待っておるがいい。

 その時が北条家の最後だ!!


 赤橋の方の前では言えんがな。


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