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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:糟谷(かすや)宗秋



 「左近将監(しょうげん)様!! 左近将監(しょうげん)様!!!」


 野伏(のぶし)に襲われてすぐの頃、誰かが矢に当たったと思っておったが、まさか北条左近将監(しょうげん)時益様であられたとは……。

 首に矢を受けておられるが、あれでは助からぬ。おそらくは矢を受けてすぐに絶命なされたであろう。


 「それがしがお守りせねばならぬというのに、まさかこのような事になるなど……

 真に申し訳ございませぬ。申し訳ございませぬ……」


 糟谷(かすや)七郎は自らの鎧直垂(ひたたれ)を外し、左近将監(しょうげん)様の首を掻き切った。

 そして鎧直垂(ひたたれ)で包むと、近くの田の土を掘り返す。

 周りの兵も私も手伝ったので何とか早く掘る事が出来た。


 糟谷(かすや)七郎はそこに左近将監(しょうげん)様の首を埋めると、左近将監(しょうげん)様の遺体の前に戻る。

 (うつむ)いて何事かを喋っておるが、小さい声なので聞こえぬ。

 すると、突然大きな声で話し始めた。


 「左近将監(しょうげん)様。それがしは不忠者でございまする。

 主を先に死なせるなどという不忠、死して詫びる事しか出来ませぬ。

 死したりて後、泉下では必ずお守りいたしまする故に、この愚か者に仕える許しを今一度お与えくだされ!!」


 そう言うと糟谷(かすや)七郎は腹を十字に掻っ捌き、左近将監(しょうげん)様の遺骸に倒れ込むようにして果てた。

 なんと見事な忠義であろうか、その見事さに目の前が涙で(にじ)んで見えぬ。

 見事なり、七郎。


 「糟谷(かすや)七郎よ、見事な忠義である! 主と共に泉下に行き、それでも守らんとするその姿。

 それこそ真の忠義であり、武士の姿である。

 皆、涙するのは分かるが先を行こう。我らは立派な忠義を忘れてはならぬ」


 「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」


 私は涙する皆と共に先を急ぐ。ここで立ち止まってはおれぬし、未だ危険は無くならぬのだ。

 それにしても見事な最期であった。

 私もまた七郎と同じだ。主を先に死なせるなどという不忠を晒す気は無い。

 武士なのだ、最後まで忠を尽くしてみせようぞ。


 …

 ……

 ………


 「野伏(のぶし)じゃあ! またも野伏(のぶし)が出たぞぉ!!!」


 既に我らが京の都を追われたと知られておるからか、野伏(のぶし)が次々と襲ってくる。

 農民とはいえ、武具を持っていれば誰でも戦えるのだ。

 これほどまでに厄介だとは思わなかった。

 何とか美濃まで行ければ楽になると思うのだが……


 「うぐっ!!」


 「帝! 帝の腕に矢が!?」


 なんだと!? おのれ野伏(のぶし)如きがぁ!! 許される事ではないぞ!!!


 我らは奮戦して敵を叩き潰したが、帝の左肘の辺りから血が止まらぬ。

 何という事だ。帝の玉体に傷がつくなど、本来あってはならぬ事ぞ!!

 まさかこのような事になってしまうとは……


 その後、陶山備中守が何とか血を吸い出して布を強く巻きつけたが、今はそれ以上の事が出来ぬ。

 稀人(まれびと)が残した薬は幾つかあるが、今はそのどれもが無い。

 せめて穢れが入らぬようにするしか出来ん。

 帝が苦痛に顔を歪めておられる様を見ると、果たして逃げた事は本当に良かったのかと思えてくる。


 今さら戻る事も出来ぬ故に進むしかないが、私の心の内は後悔で満ちておる。

 まさかこのような事になるとは思ってもおらなんだわ。

 しかし、あの時はこうする他なかったのだ。

 あのまま六波羅(ろくはら)におれば、皆殺しにされて終わっておったであろう。


 …

 ……

 ………


 我らは近江の国は番場まで来た。

 しかしまたもや野伏(のぶし)に襲われ、もはや進退が(きわ)まってしまった。

 今は蓮華寺と呼ばれる寺に身を寄せておるが、もはや如何(いか)にもならぬ。

 野伏(のぶし)を蹴散らしても先はあるまい。


 寺の者に帝と院を任せると、北条越後守仲時様は本堂の前で皆に座るように言うと語られ始めた。


 「皆の者、よくここまでついてきてくれた。

 しかし戻るも進むも出来ぬようになってしまっておる。

 このような事になるまでついてきてくれた皆に感謝をまずは言おう。ありがとう。

 そして私の首を持って京の都の者達に降るがよい。

 ぬんっ!!」


 言われるや否や、越後守様は自刃されてしまった。

 我らがお止めする事も出来ぬ速さで自刃されてしまっては、どうにもならぬ。

 それに主の首を敵に持っていくなど出来ようはずも無い。


 「越後守様! それがしもまた七郎と同じく、泉下にてお守りいたしまする!!」


 私は鎧を脱ぎ去ると、自ら自刃した後に越後守様に向けて倒れる。

 泉下においても必ずや……



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:蓮華寺の僧



 一人の者が自刃して果てると、次から次へと自刃し始めた。

 いったい何故にそこまで致すのか理解できん。まるで気が触れたようじゃ。

 ここには多くの兵が未だおるが、その者どもも次から次に自刃して果てておる。

 その異様な光景に拙僧は言葉が出ぬ。


 「武士どもめ……後で誰が片付けると思うておるのだ。

 おのれらは立派な最期だと思うておるのか知らぬが、迷惑に過ぎるわ。

 血の臭いなど簡単には取れんのだぞ。まったく」


 「武士に関わると碌な事が無いわ。

 いきなり寺に来たかと思えば勝手に死に、さらには本堂の前を盛大に汚しよる。

 野伏(のぶし)に突っ込んで死んでくればよいものを……」


 「しょせんは逃げ行くだけの無様な者どもよ。

 腹立たしいが、下の者にやらせれば済むであろう。

 寺から離れたところまで持っていかせて適当に埋めればよい。

 恰好をつけたい者が、供養塔でも建てるであろう。

 次の住職か、その次の住職かは知らぬがな」


 この方々の言葉を聞いておると、この世が無情である事はよく分かる。

 寺の者でさえ、このような考えなのだ。

 真に衆生を救う事など誰も出来ぬし、せぬのであろう。

 この世に救いなど無いのかもしれん。


 欲に塗れた者が醜く争う。

 左様な意味では武士も坊主も変わるまい。

 現に己の欲のままに言の葉を(つむ)いでおるのだからな。

 口にすれば何を言われるか分からぬので口には出来ぬが……



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利高氏



 六波羅(ろくはら)の者が出て行った為、ようやく六波羅(ろくはら)の掃除が出来るな。

 我らは六波羅(ろくはら)の者達の家々から全ての武具を取り上げておる。

 こやつらに武具を持たせておると、必ずや反抗してくるからな。

 最初から武具を持たせねば大丈夫だ。


 実際に反抗は致さぬと思うが、念には念を入れておかねばならん。

 そして我らは今、六波羅(ろくはら)の一部を拠点として文を書いている。

 伯耆(ほうき)の国は船上山におられる帝に帰洛していただく為のものだ。

 それともう一つは戦上手に京の都の事を伝える文だが、こちらは先程持って行かせた。


 伯耆(ほうき)の国へは、再び海老名を遣わすのが一番良いであろう。

 既に面通しは出来ておるのでな。

 ちなみに文にはオレの名、仙太郎の名、千種(ちぐさ)殿の名、そして赤松殿の名が並んでおる。

 赤松殿は名の順番で渋るかと思うたのだが、そんな事はなかったな。


 意外と控えめな方なのかは分からぬが、オレ達にとってはありがたかった。

 実際、戦後の足利家の立場がどうなるかは分からんのだ。

 北条に近い家だからと、いきなり全てを取り上げられる恐れがある。

 それがある以上は、何としても功を主張しておかねばならん。


 それでも兵を集めたのはオレと仙太郎であるし、千種(ちぐさ)殿はオレ達の下に入ってくれておる。

 なのでそこまで問題になるという事はないはずだ。

 今回だけは許してもらいたい。


 それにしても、こちらは上手くいったが鎌倉はどうなっておるのであろうか?

 新田小太郎は上手くやっておればよいのだが、オレの家族が殺されてはおらぬであろうな?

 もしそのような事があれば、新田、貴様も許さんぞ。


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