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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利高氏



 下らぬ一騎打ちが終わり、再び矢合戦が始まったが、遂に敵は抗しきれずに向かって来た。

 矢合戦を続けておったら、己らの被害が増える一方だと分かったのであろう。突撃を行って来たのだ。

 当然それを予期しておった者達は前に出るが、オレは後ろへ引かずに奮戦する。


 「殿、危険ですのでお引きを! 殿、聞こえませぬか!!」


 「後ろに引いてなんとする! ここは前に出なければならんところぞ!!

 兵達を前に出して、己は後ろに引っ込むというのか?

 そんな情けない事が出来るはずなかろう! オレは武士ぞ!!

 前に出るに決まっておろうが!!」


 オレはそう言って(かち)の敵兵を槍で刺すと、更に馬で前に出る。

 それを見た兵達は大きな声を上げ、更に前へと出て行く。


 「殿が前に出られているというのに、我らが更に前に出なくてなんとする!!

 前に出るのだ! 敵をブチ殺せーーーーっ!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」


 オレが前に出る事によって、皆が前に出る。

 当たり前だ、大将より後ろで戦っていましたでは話にならん。

 そんな者が褒め称えられる事も、褒美を貰える事も無い。

 つまり大将が前に出た以上、己はそれより前に出なければならぬとなる。


 そして前に突っ込んでくる敵というのは恐ろしい。

 だが黒金(くろかね)の猛兵の矢もあって、敵は徐々に足が鈍り始めた。

 こうなれば更に押し込んで敵を鈍らせるが上策だ。


 「敵の足が鈍っておるぞ!! 怯懦(きょうだ)に塗れる敵など打ち払ってしまえ!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 明らかに敵はこちらに押され始めてきた。

 ここは一気に押して勝敗を決したい。そうせねば盛り返されると面倒にしかならぬ。

 元々ここは六波羅(ろくはら)の連中が根ざしておるところ。

 こちらが弱いと見るや、何をしてくるか分からん。


 一気に押し込んでしまい、出来れば京の都から叩き出してしまいたい。

 東側は空いておるのだ、確実に東へと逃げるであろう。それこそがこちらの狙いなのだしな。

 だからこそ、さっさと逃げろ。

 東ならば鎌倉がある方角、貴様らなら逃げを選択するであろう?


 …

 ……

 ………


 流石は六波羅(ろくはら)というところか。

 あれから粘られてしまったが、それでもついに六波羅(ろくはら)めに篭もらせる事に成功した。

 今現在、既に我らは京の都の中は六波羅(ろくはら)の前まで来ておる。

 後は篭もっておる者らを叩き出すだけだ。


 敵の数はすでに千を切っておる。これでは守り続ける事は不可能。必ずや比叡山の方へと逃げる。

 帝や院は、困ればすぐに比叡山へ逃げるであろう。昔からそれは変わらんのだから、さっさと逃げろ!

 逃げればすぐに六波羅(ろくはら)めを潰す。帰ってこれぬようにな。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:糟谷(かすや)宗秋



 事ここに至っては多勢に無勢。

 ここは一度、東に逃げて再挙を図るべきであろう。すぐに進言致さねばならぬ。

 間に合わぬようになれば終わりだ。


 「ごめん!! 皆々様、ここは一度東へと逃れるべきでございます! こちらにはもう千人もおりませぬ。

 こうなれば敵を防ぐ事もままならず、やがては多勢に無勢で討ち取られるのみ。

 そうなる前に東へと逃れ、再挙するべきでございます!!」


 「糟谷(かすや)か……。

 しかしな、京の都を離れるというのは、帝にとって大きな事であらせられるのだぞ」


 「それでもでございます! 幸いにも近江や美濃に尾張や三河では、敵軍がおるという(しら)せはございませぬ。

 鎌倉まで逃げれば再挙は容易く、京の都の奪還もなりましょう。されどこのままでは、負けて終わりでございます。

 名将が名も無き兵に討ち取られてよいと言われる気ですか!?」


 「………相分かった。

 しかし逃げるには夜闇に紛れるしかない。なんとか夜になるまで防ぎ続けねばならんな。

 幸い日暮れまでは長くない。今のままならば守り切れるであろう。

 それが成れば、まずは近江まで退きましょう。よろしいでしょうか?」


 「致し方がないの。向こうは後醍醐側じゃ、こちらに何をしてくるか分からぬ。

 こうなれば逃げるしかなかろうて」


 花園院が御認め下さったか。

 一番力のある花園院が認められれば逃げる事は出来る。敵の囲みは東だけ全くと言っていいほどに無い。

 おそらく向こうは意図的に東を空けておるのであろう。

 包囲は一角を空けておくのが基本。そうせねば中の者が死兵になってしまうからな。


 逆を申せば、向こうは鎌倉に逃げるならば追わぬと言っておるのと同じよ。

 この敵将とは分かり合える気がするが、今は敵味方じゃ。考えても詮無き事よな。


 …

 ……

 ………


 六波羅(ろくはら)に篭もってからの敵の攻めは大した事が無かった。

 やはり明らかに東に逃げろと敵は言うておるな。

 おそらく敵の目的は後醍醐帝を帰洛させる事であって、我らを滅ぼす事ではないのであろう。

 さればこそ空けてくれておるのだ。


 「皆々様。足元が分かりにくうございますが、参りましょうぞ。

 申し訳ございませぬが、敵に見つかると危険ですので、輿や牛車は使えませぬし、馬は危険ですので使えませぬ。

 明るうなれば使えますので、それまでの辛抱をお願いいたしまする」


 「うむ。敵に捕まって(みじ)めを晒すよりはマシじゃ。

 出来得る限り離れれねばならぬし、今の内に行こうぞ」


 「では、参りまする」


 そうして我らは夜半に六波羅(ろくはら)を脱出。東へと落ち延びていく。

 敵はやはり東に兵を全く配しておらぬ。御蔭で敵兵に見つかる事なく逃げられたが、ここからが大変だ。

 長い道を歩く事すらない帝や院を連れて、夜の内にどこまで逃げられるであろうか?


 急ぎたいが急げぬ。そんな焦れた心のまま、我らは闇夜を歩き続けていく。

 千の兵も守りについておるので問題はなかろうが、しかしそれ故に五月蠅いとも言える。

 特に京の都を離れてからは、誰も彼もが気が抜けたのか音を出しておるのだ。

 松明を持っておる者も必死に落とさぬようにしており、音に気を配る余裕も無しか。


 それでも我らは東寺を抜け、山科荘に差し掛かったその時であった。

 突然、闇夜から「ヒュー!」と音がしたかと思うと、兵の一人が声をあげる。


 「ぐあぁ!!」


 「っ!? 敵襲じゃ!! 敵がおるぞ!!!」


 そんなバカな! ここまで来て連中が待っておっただと?

 わざわざそんな事をする必要がどこにある?

 なぜ山科の地で襲う必要があるのだ!?


 「野伏(のぶし)じゃーーっ!!

 襲ってきておるのは野伏(のぶし)ぞーーーっ!!」


 なんと! 襲ってきておるのは野伏(のぶし)か!! 通りでこんな夜半に襲ってくるはずだ。

 六波羅(ろくはら)を囲んでおる者らが襲ってくるのであれば、もっと京の都に近い所で襲ってきておるはず。

 山科の近くで襲う必要などないのだからな。


 「野伏(のぶし)など叩き潰せ!!

 しょせんは数も多くないのだ、我らに勝てるはずも無し!!」


 「そうだ! 我らが簡単に蹴散らし、ぐぼっ!?」


 マズい! 誰かは分からぬが、名のある方に矢が刺さったか!!

 兵達は闇夜で矢を撃ってきておる者らを襲いに行ったが、それでもどこに潜んでおるのかが分からん。

 こうも闇夜では敵の位置も分からんのだ。


 特に松明を持っておる者を狙ってきており、落ちた松明を別の兵が拾って掲げておる有様だ。

 しかし私もそうだが奮戦いたし、なんとか野伏(のぶし)を殲滅する事が出来た。

 逃がした者もおるが、それどころではない。


 まさかこんな事になろうとは、思ってもみなかったわ。


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