0153
Side:足利高氏
黒金や桜が矢を撃ち敵を殺してくれておるからか、少しずつこちらが有利になり始めて来た。
矢を撃ったところで兵が早々に死んだりなどせぬ。しかし黒金も桜も矢の威力が高すぎるのだ。よって一射ごとに敵が死ぬ。
つまり時間が経てば経つほどにオレ達が有利になるという事でもある。
だからこそ矢合戦はオレの側にとって都合がよい。
仙太郎も頑張ってはおるが、人の身ではあれ程の力は出せん。むしろ人の身と考えれば仙太郎は弓の名手と言ってもよかろう。
比べる相手が悪すぎるのであって、仙太郎が下手だという事は絶対に無い。
そんな矢合戦を繰り広げておると、ついに敵は堪らず動いたようだ。
まあ、無限に致死の矢が飛んでくるとなれば耐えられんのも当然か。
オレならその時点で逃げるがな。絶対に勝てんし。
「我こそは六波羅が雄である、豪徳寺四郎である!!
誰ぞワシの相手になる者はおらぬか!! それとも数だけおる有象無象か!!」
「何を愚かな事を抜かしておるか!!
我こそは糠谷八郎太! 貴様の勝負、受けて立とうぞ!!」
互いに武士が前に出ると、それぞれの者は矢を射るのを止めて見物を始めた。
黒金と桜も矢を射るのを止めて見物……というか、干し肉を齧り始めたな?
作っておったのは知っておるが、オレにもくれ。
「兄上……。黒金も桜も一騎打ちに興味なしか。
まあ、あの程度の腕前では見る価値も無いというのは分からなくもないが……」
「オレ達は若い頃から黒金の古兵や斬兵を見てきたからな。
古兵や斬兵は強いが、それ以上に技の冴えが凄い。あれは人間では簡単に出来ん事よ。
それを見慣れておるオレ達からすれば、アレは流石になぁ……」
「馬の上から必死に槍を突き出しているのはいいんだけど、どっちも自分が傷つくのを必死に防いでるって感じだね。
今一歩踏み込んだ方が早いと思うんだけど、それは怖くて出来ないっていうのが見てとれる」
「仕方がないとはいえ、怖いものは怖いんじゃない?
その割には武士だとか偉そうに言ってるみたいだけどさ」
「容赦がないなと思うが、そういう者もおるのが事実だからな。
それにあのへっぴり腰では……そう言われても仕方ない。
いったい何をしに出たのかサッパリ分からん。自分より弱い者が出てくると思うたのであろうか?」
「さてな。とりあえず今の内に出来る準備をしておこうか、あれの決着はまだつきそうに無い。
それに終わればまた矢合戦が始まるであろう。向こうもこちらも、まだ矢は尽きておらんのだ。
黒金と桜の弓が脅威だから言い出したに過ぎん」
「一射で確実に一人殺されますからね、それは脅威でしょう。私だって絶対に敵に回したくないですよ。
勝つ道筋は突撃しかないですけど、確実に逃げ続けられるのは目に見えてますし。
しかも逃げながら矢を射ってくるんですから、始末に負えません」
「黒金の黒馬は疲れもせんし、影兵は矢に当たっても効かんからな。
黒金には遠距離からの攻撃が効かんのだ。どうにもならんよ。
延々と逃げられ続けて殺され続ける。敵対した者にとっては最悪の相手だ」
「そう考えると脅威的と言えるわねえ、黒金は。
流石は大級を一人で討伐できるだけはあるわよ。その時点で尋常じゃない強さでもあるからねえ。
私もここまでだとは思ってなかったけど」
「そう言われてもねえ。……うん?」
「どうした黒金?」
黒金は空を見上げて何かを見ているな?
いったい何を………あれは鳥か?
鳥が飛ぶなどふつ……違うぞ! あれに大きな霊力を感じる。
もしかしたら、あれは式神か!?
「あの鳥、妙に霊力が篭もっているわね? もしかして式神かしら?
だとしたら、こちらを見張ってるって事になるけど……。
いったいなぜそんな事を?」
「それは……こちらの陣容を把握する為?
しかし式神で把握するにしても、詳細には分からないはずだが……」
「分からない。もしかしたら新しい陰陽師の技術が出来たのかも……。
あくまでも僕が知っているのは源平の頃のだし、新しいものまで知らないからね。
一応は警戒しておいた方がいいと思う。
流石に一騎打ちの邪魔はしないみたいだけど」
「そうだな。
一騎打ちの最中にこちらに攻撃してきたら一気に矢合戦に戻すのだが、そうそう下らぬ事はせぬようだ。
まあ、向こうが不利なのだから当たり前ではあろうが」
「しかし、へっぴり腰の戦いは終わりませんねえ。
段々と見ている者達も飽き始めてきてますよ。
流石にあんなものを見せられたら当然ですけど」
「やっている本人達は必死なんでしょうけど、周りで見ている側はねえ。
あんなの見せられても退屈で仕方がないわ。
もうちょっと真面目に相手を倒そうとしてくれないかしらね。幾らなんでも踏み込まなさすぎでしょうよ。
黒金の言う通り、守るのに全力だから情けない姿にしかなってないわ」
「だからこそ本気の殺し合いとも言えるがな。
誰だって死にたくはないが、一騎打ちの栄誉は欲しい。そんなところであろう。
分からぬではないが、自身がどう見えるかは考えておいた方が良かったな。
あれではむしろ名が下がったとしか思えん」
「それでも必死にやり合ってるんだから放っておくしかないね。
どのみち体力が無くなったら退くでしょ。
それまでは休憩って事にするしかないんじゃない?
僕としては、あれなら時間の無駄だとしか思わないけど」
「そうね。
せめてもうちょっとマシな腕なら立派な戦いになったんでしょうけど、どちらも腰が引けているのではね……」
周りもしょっぱい一騎打ちに呆れていたが、終わりは唐突に訪れた。
敵方の放った槍が腹に突き刺さったのだが、味方の側の槍は敵の喉を突いたのだ。
腹を刺されて逸れた穂先が偶然刺さったというべき形であった。
最後まで妙な一騎打ちだったな。
「矢を射れーーっ!! 一騎打ちの結果は相打ちぞ! 矢を放てーーー!!!」
「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」
ズドドドドドドドドドド!!
すぐさま黒金の猛兵が矢を撃っていく。
それを皮切りに敵も矢を放ってくるが、明らかに黒金の猛兵を恐れておるな。
仕方がないとはいえ、これも戦場の習いだ。容赦はせぬ。
殺し合いである以上は、敵に情けなど掛けられるはずも無し。
そうしていると桜が突然、空に向かって矢を放つ。
上空の式神はかわしたようだが、あれはいったい何をしにきているのだ?
何故か不気味な動きを繰り返しておるが……。
「なんだか鬱陶しいのよねえ、あいつ。
上をとってるし、ずっと私達の上を回ってる。
なんだかここに居ると誰かに伝えてる気がするのよ。
こっちの大将はここに居るってね」
「確かに先程から、こちらに向かって矢がたくさん飛んでくるようになったな。
届かんから特に気にもせんが、あれがオレの位置を把握しているという事か。
なかなかに厄介ではあるが、だからといってアレ一つで勝敗が決まったりはせぬ」
「それはそうだけどね。でも厄介な事に変わりはないわよ?
大将の位置がバレているって事は、執拗にこっちを狙ってくるって事でもあるもの。
徒戦に変わったら、一気に攻めてきかねないわ」
「それならそれで、槍を持って奮戦するだけよ。
どのみちオレの鎧は目立つのだ、気にしたら負けであろう」
戦場ではこんなものだが、大将は目立たねばならんからな。
どこに居るか分からぬ大将になど、誰もついてこんのだ。
だからこそ大将は己が健在であると見せつけねばならん。
つまり大将というのも楽ではないというわけだな。
実際それが士気に関わるのだから、バカには出来ん




