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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 化け狸がついてきて10日ほど経った。

 又太郎や仙太郎は精力的に文を出していて、僕達は暇なので近くの山に狩りに出かけている。

 そして霊玉を売って雑穀を買ってきたりなどもしていて、近隣の村の人にも顔を覚えられるまでになった。

 陰陽師は助かるみたいだね。


 この辺りは田舎だからか陰陽師が多くなく、近隣の山の妖怪を退治してくれて助かると言われたよ。

 それと(ひえ)を買ってきて食べてるけど、仙太郎は昔と違って何も言わなくなったね。

 普通に食べていたし、疑問も持ってなかった。


 まあ、表面を焼いた肉を入れたり、野菜なんかも色々と入っているしね。

 当然ながら薩摩芋も入ってるから、食べ応えは十分だ。

 問題はちょこちょこと武士が食べにくるって事ぐらいか。

 熊肉が余った際に出したのが悪かったかな?


 その所為で肉が食べたい人達が来るんだよね。

 いつもいつも肉があるとは限らないんだけど、食べられれば何でもいいとばかりに食べていく。

 今まで食べた事は無かったらしいけど、内臓類も食べられると分かったからか、本当に普通に食べてるんだよ。


 武士は戦場(いくさば)では何でも食べるものだ。

 なんて言っていたけど、単に美味しい肉を食べたいだけな気がする。

 僕達も獲り尽くさないようにしていると言っているので、肉が無い時も文句は言わないんだよ。武士の人達。


 村の人達だって鳥を獲ったりはするわけで、村の人達が食べる分を奪うのは良くないからね。

 だから危険な可能性の高い熊を中心に獲ってるんだし、その熊も絶滅させないように獲ってる。

 縄張り争いをするぐらいなら、僕が獲っていっても文句は言われないだろう。


 化け狸にも肉を食べさせているし、大した値で売れない霊玉は吸収させている。

 なので妖怪としては順調に成長しているものの、自分で妖怪を倒すという事もやらせてる。

 だってそうしないと強くならないし、戦い方も知らないんじゃ結局殺されちゃうしね。


 なので戦わせているんだけど、爪で引っ掻くのと噛みつきしかないから大変だよ。弱い妖怪ぐらいしか今のところは倒せない。

 とはいえ桜いわく、弱い間はそんなものなんだそうだ。

 強くなれば霊力も強くなるから威力は出るけど、弱い間は霊力が低いので大した威力にならない。


 なので何度も引っ掻いたり噛みついたりで、ようやく敵を倒せる。

 それぐらいの強さしかないのが普通みたい。

 仕方がないんだろうけど、大変だね。本当。


 …

 ……

 ………


 「いやー、本当に肉が食えるのは助かる。

 しかも美味い肉なのだから、尚のこと助かるというものだ。

 それよりもワシの手の者が調べてきてくれたのだがな、どうやら赤松殿が名越という者を討ち取ったらしい。

 赤松殿も元は六波羅(ろくはら)に従っておったが、今はこれだ」


 「戦上手と聞く楠木殿も元々はそうだったと聞きます。

 六波羅(ろくはら)(ことごと)く離反されていますね。

 もはや人望が無いのでしょう」


 「そうだな。そもそもだが六波羅(ろくはら)の者は高慢なうえ、碌に戦費を支払わぬ。

 つまり六波羅(ろくはら)の求めで戦をしても損をするだけなのだ。

 その事もあって、離れる時は一気に離れたのであろうな。

 それより兵はどうなっておる?」


 「そろそろ動きださねばなるまい。これ以上に寡兵を続けても見つかるだけだ。

 いや、もう六波羅(ろくはら)に見つかっておるかもしれん。

 他の者を待っている余裕は無かろう。我らは京の都に進軍し、陣を張る。

 場所は北と西だな。なので千種(ちぐさ)殿は赤松殿に文を出してもらいたい」


 「分かりておる。我らが西と北に陣を張るので、赤松殿には南から攻めてもらうのであろう?

 さすれば奴らは東へ逃げるしかなくなる。

 鎌倉に集まろうとも、こちらを取り戻せば後は如何様(いかよう)にでもなる。

 それに京の都から一掃できれば、諸国の者も動こう」


 「鎌倉攻めは、おそらく我が足利一門である新田小太郎がするはずだ。

 この度の戦に六万貫も出せと命じたらしいのでな、我慢の限界を超えておるであろう。

 後は足利一門などを募って鎌倉を攻めるだけ。あの男ならやってくれるはずだ」


 「まさか、すでに鎌倉攻めの為の布石を打っておったとは……。

 いや、まっこと見事であるな!」


 「たまたまそうなっただけよ。

 天の配剤ともいうべき事であり、新田小太郎が護良(もりよし)親王殿下の令旨(りょうじ)を貰っておったからだ。

 それもあって今の形になっておる。

 それに鎌倉は下手を打ち過ぎた」


 「それはあろうな。

 鎌倉の者どもは正しいと思うておるのであろうが、遠くから見ておれば下手を打つばかり。

 それが分かっておらんのだから、尚のこと離れる者は増えようぞ。

 それに鎌倉攻めが始まれば、むしろ鎌倉を攻める者が増えるであろうよ。

 そなたの事は知っていようからな」


 「我が足利でさえこれだ。

 なら己らの家は……そう思えば、今の内に滅ぼしてしまえ。そうなったところで不思議は無い。

 どのような者とて、己の家が滅ぼされるとなれば牙を剥くものだ。

 北条の者どもはまるで理解しておらぬがな」


 「内で揉めてばかりであり、外に目を向けぬからこうなるのだ。

 日の本の全てを鎌倉で支配するなど不可能ぞ。あり得ぬわ」


 まあねえ。それは僕もそう思う。東に偏りすぎなんだよ、実際。

 東の事は耳にするんだろうけど、西の事なんて何も分かってない。

 そのうえ西の事を見下して軽んじていたしね。

 そんな事をしているから反逆されるんだよ。

 当たり前の事だとしか思えないね。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利高氏



 今日、篠村八幡宮に鏑矢を奉納する。

 そしてオレ達は出発するのだが、皆が矢を奉納いたした所為で小山になっておるぞ。

 神主殿の顔が若干引き攣っておるが申し訳ない。

 皆の必勝祈願なので受け取ってもらわねば困る。


 その後は気を取り直した神主殿に祓ってもらい、オレ達は京の都に向けて出発する。

 赤松殿が既に南より攻め寄せようとしているという情報がある為、オレ達も素早く京の都に行き着陣せねばならん。

 赤松殿を囮にしてもよいのだが、名のある者なので止めておいた方が無難だ。


 進軍したオレ達は都の北と西に陣を敷き、まずは京の都の外で睨みを利かせる。

 赤松殿が来たという情報が無い為、オレ達の方が少し早かったようだ。

 京の都の中の様子を探らせに行ったが、実は黒金(くろかね)にも探ってもらっている。


 古兵であれば簡単にやられたりはせんので、中を調べてくる事は容易い。

 言葉が発せぬのは厳しいが、それでも分かるだけで十分であろう。

 そう思っておったら中の様子を探らせた者が戻ってきた。

 とりあえず早速呼んで話を聞く。


 「京の都は六波羅(ろくはら)において、既に篭もる手筈は終わっておるようでございます。

 また六波羅(ろくはら)の者どもは、帝に後伏見院、そして花園院を六波羅(ろくはら)に連れて行ったとのこと」


 「帝や院を人質にする気か? もし負ければ鎌倉に連れて行こうという魂胆であろう。

 とりあえず帝や院が戦火が交わる所におられる事はあるまい。

 我らは六波羅(ろくはら)攻めを始めるぞ。

 ここで確実に奴らを倒す。よいな!」


 「「「「「「「「「「おおっ!!!」」」」」」」」」」


 北からは千種(ちぐさ)殿、西からはオレ、そして南からは赤松殿に攻めてもらう。

 六波羅(ろくはら)の者どもの数はそこまで多くない。一気に攻めれば勝てよう。

 今は早朝であり、まだ夜が明けておらぬ。


 少しでも夜が明けてきたら一気に攻める。

 六波羅(ろくはら)の者どもを蹴散らし、すり潰してしまわねば面倒にしかならん。

 ここで勢いづかせる為にも、徹底的にやるぞ。


 二度と立ち上がれぬように叩き潰す。

 そして後醍醐帝に帰洛の文を出すのだ。もちろん足利の名でな。

 それで我が家の安全は保たれるはずだ。


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