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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利高氏



 オレ達が篠村の近くで軍を休ませておると、近づいてくる者達が居た。

 それなりの軍勢が来たが、いったいどこの誰だ?

 そう思っていると、馬に乗った大将と(おぼ)しき者が前に出て大声を上げる。


 「それがしの名は千種(ちぐさ)忠顕である!

 そこもとはいったいどなたであろうか!!」


 「それがしは足利又太郎高氏と申す。

 ここ丹波の国の篠村は、我が足利家の所領である。それゆえに休みに来た」


 「おのれ鎌倉の者か! ワシらは帝に忠義を尽くす者なり。

 鎌倉の者ど「止めよ!!」もに負けるような……」


 「我らはもはや得宗家に愛想が尽きた。

 だからこそ、京の六波羅(ろくはら)を滅ぼす気だ!

 聞いた事は無いか? 父の菩提を満足に弔う事も出来なかった者がいると。それがオレだ」


 「なんと! そこもとが、そうであったか!

 なれば鎌倉に愛想を尽かすというのも分かろうもの。

 武士が父の菩提を満足に弔う事すら出来ぬようにするなど、すでに人の所業では無い。

 それは畜生の所業よ」


 「それ故にオレは鎌倉を出る前から謀反を起こす事を決めていた。

 ここで休んでおるのは先程も申した通り、六波羅(ろくはら)を滅ぼす為だ。

 その為には近場の者だけでなく、多くのところに文を送りて募らねばならぬ」


 「おお! そうであるな!

 六波羅(ろくはら)攻めなど心躍るとはいえ、実際に成そうとすれば簡単ではない」


 そう言いながら馬で近づいてきたので、こちらは歩いて近づいていく。

 オレは身に何も武具を帯びておらぬ。向こうは身に着けておるが、それでもオレは堂々と相手に近づく。

 ここで怯えたり恐怖を感じていると見せてはならん。将とは堂々としておるものだ。


 「いや、お見事。

 馬に乗り武具も身に着けておるそれがしに近づき、恐怖も怯懦(きょうだ)も見えぬ。

 まことに天晴である」


 そう言って千種(ちぐさ)殿は馬を下り、オレの前に「ドカッ」と座った。

 オレも千種(ちぐさ)殿の前に座る。お互いに腹を割って話し合うという合図だ。

 どちらの兵士も「ホッ」と息を吐いたようであるな。


 「して、足利殿。京の都の六波羅(ろくはら)を攻めるは簡単ではないぞ?

 もちろんそなたが知らぬとは思うておらぬが……」


 「ここで兵を募るのだが、西国の様々な者に対して送ろうと思うておる。

 九州までにも送り、とにかく寡兵を進めねばならん。

 それとオレは山陰道で来たが、山陽道を進んでおる名越がおるのだ。

 こやつをどうにかせねば後背を突かれかねん」


 「山陽道か……。

 播磨の国の赤松殿が叩きそうな気がするがな? あの者は猛将とも言える男だ。

 おそらくは放っておいても名越という者は負けると思う。

 なので、それからでもよいのではないか?」


 「なるほど、そのような方がおられたか。

 我らは既に家臣を伯耆(ほうき)の国は船上山まで送り、密かに帝から鎌倉討伐の密勅を頂こうとしておる。

 おそらくだが帝から密勅は頂けるはずだ。なれば堂々と六波羅(ろくはら)を滅ぼせる」


 「うむ、それはよい。

 しかし伯耆(ほうき)の国は遠いからな。そうそう簡単には戻ってこれまい。

 その間に我らは準備を進めねばならぬな」


 「ああ。事ここに至っては必ず勝たねばならぬ。

 それに、父と足利の家を愚弄したあれらを生かす気などオレには無い。

 必ず滅ぼす」


 「うむ。それがしも合力いたそう。

 共に鎌倉の者どもを打ち倒すのだ。

 これ以上、連中の好き勝手にさせるわけにはいかん」


 どうやら畿内には相当の鬱憤(うっぷん)が溜まっておるようだな。

 鎌倉の事を考えたら分からぬでもないし、元々日の本の中心は京の都だ。

 鎌倉の持つ実権を都に戻すというのは分からぬでもない。

 それが元々の形なのだからな。


 頼朝公が鎌倉に実権を移されたが、頼朝公が作られようとしたのは愚か者が争う世だ。

 それを根底から壊すには、実権を京の都に戻すしかなかろう。

 さりとて、それで治まるかはオレにも分からん。


 一度愚か者が争う世になってしまっておる以上、果たして本当に京の都に戻すだけで済むのか……。

 それに都でも争いは起こり続けておる。

 もちろん朝廷内でだが、それでも争いは無くなっておらんのだ。


 オレ如きが考えても良い知恵など浮かばぬか。今はそれよりも多くの者を募らねばな。

 一度で六波羅(ろくはら)の息の根を止めねばならん。それが出来ねば盛り返されてしまう。

 そうなればどちらに転ぶか分からんからな。確実に潰さねば。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:黒金(くろかね)



 今もまだ丹波の国は篠村に居る。

 兵士達は篠村八幡宮という神社に居るけど、僕達は近くの山に妖怪退治に出た。

 ここ最近は妖怪退治と獣狩りを繰り返しているんだけど、この辺りは山が豊かなのか獣が多いね。

 もちろん獲り過ぎたりはしないけど、熊は優先的に獲ってる。


 神社に真っ黒な木が生えた所為で、神主という人が不吉だなんだと騒いだ事があった。

 僕が稀人(まれびと)なのと、神様の加護があるのですぐに治まったけどね。

 ただ、代わりに尊敬するような目で見るのは止めてほしい。

 正直に言って変わり過ぎだよ。


 そしてこの日、僕は初めての妖怪を見た。

 っていうか、妖怪なんだよね?


 ―――――――――――――――


 化け狸 丙八級


 さしたる力も無い、妖怪になって間がない者。めずらしいが、獣から妖怪になった者なので元々は唯の狸であった。助けるも殺して食うも、好きにすればよいと思うぞ?


 ―――――――――――――――


 別に助ける気もなかったんだけど、神様がわざわざ書いているって事は助けた方が良いのかな?

 そう思い、化け狸を襲っている餓鬼を古兵が切り裂く。

 あっさりと餓鬼は死んだけど、今度は化け狸がこっちを警戒し始めた。


 「クー! クー! クー!」


 「なんだか鳴いて必死に守ろうとしているみたいだけど、そもそも私達は貴方を殺す気なんて無いわよ?

 だいたい殺すなら、さっきの餓鬼と一緒に殺してるわ。

 それをしてないんだから、分かるでしょうに」


 「………ク?」


 何故かこっちにトコトコ来て僕の前に寝そべった。

 何してるんだろう、この狸。


 「獣が腹を見せるというのは、降参というか勝てませんっていう意味よ。

 だから助けてくれって事でしょうね。

 そもそも殺さないって言ってるんだけど、伝わってないのかしら?

 まだ弱いみたいだし、獣から抜け出せていないのかも」


 「つまり妖怪として強くなると、人間の言葉も分かるようになるってこと?」


 「まあね。でないと天狗達があんなに群れたりして生活をしないでしょう。

 妖怪は強くなればなるほどに冷静で賢くなるわ。

 ただし一定以上は人間と同じで学ぶしかないから、強くても必ず頭が良いとは限ってないの。

 とはいえ考える事は出来るから、後は努力だけね」


 「なるほど、妖怪ってそういう感じなんだなぁ。

 とりあえず丙八級じゃ無理だって分かったよ」


 「丙八級って……それは無理でしょうよ。せっかくなら黒金(くろかね)が手伝ってあげたら?

 黒金(くろかね)の霊力を吸わせてやって、それと霊玉から吸収させれば十分強くなれるでしょ。

 ある程度の力を持ったら放してやればいいわ。離れるかどうかは知らないけど」


 「ずっと、くっついてくるってこと? それはどうなんだろうね。

 僕は神隠しにあったりするから、いきなり居なくなる恐れがあるんだけど……」


 「そこは神様にお願いするしかないわね。

 とはいえ神様もどうにも出来ないかもしれないけども」


 「どうなんだろう? とはいえ起きる時はすぐに起きるからどうにも出来ないし、気づいたら別の場所なんだよ。

 どの神様がやってるのか知らないけど、こっちの言う事を聞いてくれるとは思えないなぁ」


 「まあ、神様だもんね」


 「クー……」


 なんだか放っておいたみたいになっちゃったな。

 とりあえずお腹を撫でておこう。


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