0015
Side:黒金
昼餉の水団を食べたけど、そこまで美味しい物じゃなかった。
もちろん不味いわけじゃないんだけど、何か足りない感じ。
何が足りないんだろう? まあ、いいか。
「昼餉も終わったし、これからどうするの?」
「今度は右京に行って妖怪退治よ。
許しは既にあるから、行ったところで文句を言われる事もないわ。
向こうにも妖怪の被害は出ているらしいから、しっかり調べないとね。
外は明日」
「外に行くの? 別にいいけど、ついでに石鹸を買って来ようかな?
外の子達が作ってくれるから助かるのよねえ、石鹸」
「せっけんってなに?」
「石鹸とは泡が出る物……かな? それで体を綺麗にすると、病に罹りにくくなるらしい。
実際に流行病で疱瘡が広がった時も、私はそこまで酷い事にはならなかったからな。
効果はあると思うぞ」
「ふーん……」
「それも昔の稀人が伝えたらしいわよ。
何でもあまりに病が広がるので調べたら、汚過ぎるのが原因だって分かったらしいわ。
だから身奇麗にするようにと作り方を伝えたそうよ」
「綺麗にすると病に罹りにくくなるんだ。良い事だね」
「人間は病に罹るものだから気をつけないといけないわよ?
貴方も稀人とはいえ人間なんだから」
「そうだな。気をつけねばならん。
少し早めに終えて、川へ行って体を洗うか。
黒金も洗ってやらねばならんし」
「なら私も行きます。
斯明殿が終わった後に見張っていただければ問題ないでしょう」
「ならわたしも行くわ。
この体で斯明を誘惑しなくちゃいけないし」
「「………」」
艶と葛葉は、お互いに笑顔なのに睨み合ってる気がする。
何か凄く器用な事をしてるなぁ。
そして斯明は見ないフリをしてる。
そんな事をしてて妖怪が出てきたらどうすんの?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぬっ! 妖怪か!? すぐに行くぞ!!」
斯明が走ったので僕も慌てて走る。
艶と葛葉も走ったけど、僕だけ遅くて間に合わない。
何か早く走れる方法は無いかな? このままじゃ置いてかれるばかりだよ。
「大丈夫か! 急急如律令!!」
あれって確か道丹が使ってた言葉だ。
たしか晴海って人が短縮だとかどうとか……。
いつもみたいに左右とか上下に指を振らないんだね?
やらなくていいなら、あれでいいのに。
白い狼を出した斯明は命令して戦わせるけど、相手の黒い狼も結構強いみたいで苦戦してる?
僕が古兵を出した方がいいかと思ったんだけど、何故か肩を触られて止められた。
「貴方が強いのは分かってるから、ここは手を出さないようにね。
斯明が戦わなければ意味は無いのよ。
戦いたいという気持ちは分かるけど」
どうやら今回は戦っちゃいけないみたいだ。
何となくだけど、葛葉は斯明の事を考えて言ってると思う、だから大人しくしておこう。
斯明の邪魔をする気は無いし。
白い狼が相手に噛みつこうとするけど、相手の黒い狼は横に跳んで避けた。
そして白い狼に噛みついたけど、そのすぐ後に白い狼も噛みついた。
お互いに右と左で噛みつきあってる。
その時、斯明が白い狼に近付いて左手で触れた。
いったい何をしてるんだろう?
「臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!!」
またあのよく分からない奴だ。あれにいったい何の意味があるんだろう?
「あれは九字護法だけど、式神を呼び出すには幾つか種類があるの。
正式なものは九字護法を使って印を結んで呼び出すんだけど、これが一番強く式神を呼び出せる。
そして今回、斯明は短縮で呼び出した。
だからあの白い狼は本来の強さじゃないの」
「短縮で呼び出すと弱くなる? ……だったら、あの道丹が呼び出した狼も弱かったんだ。
何でアイツは正式な呼びだし方をしなかったんだろう?」
「それは短縮でも黒金に勝てると見せ付けたかったからでしょうね。
そもそもの話、正式に呼びだしても稀人に勝てないでしょうに。
挙句の果てには卑怯な事をして黒金を殺そうとし、激怒した神様が降臨なされたじゃない」
「げっ! 何で神が降臨してくるのよ。
今回の稀人は明らかにおかしいわ。
普通、神降ろしって秘儀でしょうよ。
何で稀人に降りるわけ? わたしでも大変なのに」
「いえ、それ以前に神降ろしが出来るの?」
「わたしこう見えても宇迦之御魂神様と関わりのある狐なのよ?
あんまり舐めないでくれるかしら?」
「神様と関わりがあるって事は神使なの?」
「そうではないけどもね、わたしってちょっと微妙な立場なのよ。
それはともかくとして、ああやって短縮で呼び出した式神に再度正式な印と霊力を与える事で、本来の力を出させる事が出来るの」
「ああ、その為に斯明はアレをやったんだ。
………式神って面倒臭いんだね。何で霊兵を使わないんだろう?」
「あのねえ、霊兵を使える方は限られるのよ。
使えない者は全く使えないし、使える者は当たり前のように使える。
それが霊兵なの。
逆に式神は誰でも修行をすれば使えるわ、霊兵が使える方以外はね」
「どういうこと? 僕は式神を使えない?」
「ええ。というより、霊兵を使う方が式神術を修行すると、霊兵との縁が切れるらしいのよ。
それで霊兵は使えなくなるそうだから、式神を使おうとするのは止めなさい。
黒金の霊兵は圧倒的に強いんだから、式神を使う必要もないわ。
本来は逆なんだけど……」
「ぎゃく?」
「霊兵より式神の方が使い勝手が良く強いの。
実際には人間が勘違いしているだけなんだけどね。
あら? 斯明の狼が噛み殺したわ。
これで戦いは終わりね」
「時間が掛かってしまい、すみません。
それで勘違いとは何ですか? 話は聞こえていたので気になります」
「式神と霊兵に違いは殆ど無いわ。あるのは篭められた霊力よ。
式神は霊玉を使うけれど、霊兵は全て自分の霊力を使う必要があるの。
そこが大きな違いね。
霊兵を使える人間の霊力は高くない事が多いの。
その所為で弱いと誤解されているってわけ」
「つまり霊力の高い者の霊兵は強い?」
「ええ。でも式神の方が強いと思われているから、霊兵を使うのを諦める者が殆どね。
まあ、霊玉の力も上乗せできるから、式神の方が有利ではあるのよ。
とはいえ呼び出せる霊兵によっても変わるから、一概には言えないわ」
「黒金の呼び出せる霊兵は古兵と猛兵で、古兵は古代の兵士、猛兵は強弓を持つ大男です」
「どっちもおかしいでしょ。
霊兵って普通は武具なんて身に着けていない筈よ。持たせる事は出来るけども。
そもそも何で最初から武具を身に着けているのかしら?」
「さあ? 私が初めて見た時から、そうでしたな。
凄まじい切れ味の剣を持っている古代の兵士。
とんでもない強弓を持つ熊の毛皮を着た大男。
それが黒金の霊兵ですからな」
「うーん………そもそも霊兵を二種も呼び出せる時点でおかしいんだけどね?
何だか嫌な予感がしないでもないわ」
「二つ目の霊兵を呼び出したのは八意思金神様です。
神様は第一の封を解くと仰っておられましたが……」
「………封を解いたから?
……いえ、第一の封を解いたという事は、第二、第三の封があるということ。
そして、第一の封が解かれた時点で現人神一歩手前なのよ。
どうなってるのかしら?」
「「あらひとがみっ!?」」
あらひとがみって何? っていうか、何で斯明と艶はあんなに驚いてるんだろう?
「これは分かってないわね? 現人神というのは、人の体を持つ神の事よ。
そして黒金、貴方は神の一歩手前に在るということ。
だから二人は驚いたのよ」
「僕が神様の一歩手前? ………よく分からないんだけど」
「まあ、貴方は分かる必要が無いと思うわ。
神々が予定しているなら神の座に至るでしょうし、予定していないならそのままでしょう。
少なくとも稀人である以上、何かの拍子に現人神になる事は無いわ」
そうなんだ。
興味ないから、どっちでもいいけどね。




