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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0014




 Side:黒金くろかね



 やっと京の都に出たけど、そこまで沢山の妖怪が居る訳じゃないらしい。

 もっと溢れてて戦いの経験を積めると思ったんだけど……。


 「黒金くろかね、そこまで妖怪が京の都を跋扈ばっこしておったら、誰も都で生きていけぬぞ?

 結界もあるのだからして、そうそう妖怪に溢れておるなどという事は無い」


 「とはいえ結界では大きな力を持つ妖怪を弾く事は出来ても、小さな妖怪までは防げないの。

 だから今までは小さな妖怪を陰陽師が退治してきたのだけれど……」


 「段々と強い妖怪が入り込むようになったという訳だ。

 というより、同じ妖怪でも強くなっておるというべきか。

 特に乙一級など早々出てくるような妖怪ではない。

 他の陰陽師が出くわしておれば、どうなったのやら」


 「本当にね。

 斯明かくめい殿だったから逃がしたという程度で済んでいるけれど、力の無い陰陽師なら死んでいたかもしれないわ」


 「死ぬのであれば、何処の馬の骨とも知れぬ平民であろう」


 僕達が歩いていた道の先の曲がり角から出てきたのは、何だか目つきの良くない陰陽師だった。

 陰陽師は誰でもそうだけど、真っ白で胸元に陰陽の印がついた直衣のうしを着ているから分かりやすい。


 普通の人は水干すいかんという簡単な衣服を着ている。

 ちなみに僕が最初から着ていたのも、この水干すいかんだ。

 何故かは知らないけどね。


 斯明かくめいが言うには、稀人まれびとは不思議な服装の人が多かったらしい。

 なんでも<じーぱん>とかいうのを履いていた人も居れば、<めいさいふく>とかいう不思議な模様の服の人も居たんだって。


 「まったく、何故お前のような者が左京をウロウロとしておるのか知らぬが、そろそろ京の都を出てはどうだ。

 下京の外にお前に似合う小屋があるではないか」


 「下らない事を言うわね。陰陽師ならば己の実力で語りなさいな」


 「おや? これは賀茂家の御嬢様。

 貴女のような方が何故このような者の肩を持つのか分かりませぬが、先ほども申した通り、何処の馬の骨か分からぬ者ですぞ?」


 「仮にそうだとして、それがなに? 本人には何の関わりも無いわね。

 その言を正しいとするのならば、立派なのは貴方の親であって貴方ではないわ。

 そんな事すら分からないの?」


 「………」


 「「「「………」」」」


 目つきの良くない陰陽師の周りに四人居たんだけど、そいつらもこっちを睨んできた。

 何だか知らないけど、とりあえず確認しよう。おそらく敵だと思うし。


 ―――――――――――――――


 井波 高之丞 男 二十一歳


 体力・十一

 霊力・二十二

 術技・十八

 知恵・十

 知識・十九

 運勢・普


 大した事のない木っ端陰陽師。群れる事でなんとかしているのは道丹と同じである。そもそも師が道丹であるので、真似をする事しか出来なんだのであろう。無様なものよ


 ―――――――――――――――


 「斯明かくめいつや

 こいつ師が道丹だけど、道丹のように群れる事で何とかしてるんだってさ」


 「群れる……。いや、まあ、道丹もそうであったが……」


 「貴様! 師の名を呼び捨てにするな!

 これだから何処の馬の骨とも知れぬような者は困る。

 礼節すら知らぬとはな!」


 その言葉を受けて、つやが僕の方をチラリと見る。

 いったいなんだろう?


 「道丹なら死んだわよ、陰陽寮の試しの儀の場を穢した罪でね」


 「何ですと!? そんなバカな!!」


 「事実よ。陰陽寮に聞きに行けば分かるわ。

 私も斯明かくめい殿も、御当主様に呼ばれていたから行っていたもの。

 その時に試しの儀に負ければ中央から除名するという話になったのよ。

 ところが負けを認めなかった道丹は、その場で仲間に相手を襲わせたわ」


 「そのような事をされて、あの男を師などと言える訳が無い。

 更に言えば、あの男は芦屋一族とは何の関わりも無い事が分かった。

 最後は唯の道丹として死んだのだ」


 「なんだと!? そんな事があるか!!

 ならば私は芦屋一族とは関わりの無い者から学んだという事か!?

 ……ふざけるな!!!」


 「ふざけるも何も、この世に芦屋あしや道満どうまんの子孫を勝手に名乗るヤツがどれだけ居ると思っているの?

 騙されたお前が悪いのでしょうが」


 「クソッ! どいつもこいつも私を舐めやがって!

 行くぞお前達!!」


 「「「「ハッ!」」」」


 何か勝手に怒って勝手に去っていったね?

 なんだったんだって言うか、何の為に出てきたんだろう。

 サッパリ分からない変な連中だった。


 「勝手に怒ってどっか行ったけど、あんなに弱くて大丈夫かな?

 霊力しか二十を超えてなかったし、妖怪に負けて殺されそうな感じだったけど」


 「霊力だけ二十? だったら他はそれより下なのか……。

 京の都の生まれを誇っているヤツだったが、大した事はなかったのだな」


 「斯明かくめい殿の霊力は七十八だもの、違いすぎるわ。

 それに黒金くろかねの言う<術技>って、おそらく陰陽術の上手さだと思うの。

 という事は、あいつ斯明かくめい殿よりも下手って事よ?」


 「むしろ、だからこそ斯明かくめいの事をあんなに必死に罵ってたんじゃない?

 道丹と同じで、斯明かくめいの方が上だって分かってるんじゃないかな?」


 「それはそうかも。

 あの男の態度は斯明かくめい殿を罵る事で、必死に己の弱さを隠そうとしているように思える。

 とはいえ、そんな者がいちいち突っ掛かってきても……」


 「斯明かくめいには勝てないね? 実力も霊力も違うし」


 「そうかもしれんが、陰陽師同士が無駄に争う事もあるまい。

 私の事は気にする必要など無いぞ?

 慣れたものだし、特に何とも思っておらん。

 とはいえ、ありがとう黒金くろかね


 「僕は相手をただけだよ。言い負かしたのはつやだし」


 「そうであった。つや殿もありがとう」


 「い、いえ///」


 また赤くなった。

 あれも何の意味があるんだろう? よく分からないな。


 僕達はそのまま歩いて回り、左京の見回りを続ける。

 周りの人達に話を聞くけど、左京で妖怪に襲われたという話は聞いていないらしい。


 この後も妖怪を探してウロウロしたけど、結局妖怪に会わないまま僕達は昼餉をとる為に飯屋へ。

 その道で葛葉くずはが合流した。


 僕達は飯屋に入ると、水団を頼む。

 ここはそれしかないらしいけど、それで十分みたい。

 イマイチ何を言っているか分からないけど、気にしない事にして待つ。


 「水団というのは麦の粉を練って作った団子を汁に入れた料理の事だ。

 昔の稀人まれびとが麦の粉を使う料理を広めてな、この水団は簡単に出来るのだよ」


 「へー………本当に何処にでも稀人まれびとが出てくるなぁ」


 「東国であのバカ、おっと……九尾である玉藻を追い詰めたのも稀人まれびとだと聞いた事があるわ。

 何でもじゅう? とかいう武器で追い詰めたそうね。

 珍しい模様である<めいさいふく>とかいうのを着ていたらしいけど」


 「その服の話は斯明かくめいから聞いた。

 でも不思議な模様ってどんなのだろうね?」


 「さあ? 私も見た事は無いのよね。

 あのバカの所為で傷を負って晴明はるあきに助けられたから。

 あいつ、わたしを囮にして逃げようとしたのよ。

 本当に碌でもないわ」


 「成る程、それが切っ掛けで安倍家に住まう事になったのか。

 晴明はるあき公も驚かれただろう」


 「驚いたっていうより、晴明はるあきがわたしを助けたのは知る為よ。

 妖怪の霊力の使い方を知りたかったから助けたって事ね。

 あいつ陰陽術以外に興味を持つ事が殆ど無かったみたいだし」


 「陰陽術以外に興味が無いって凄いね。食べて美味しい物とかいっぱいあるのにさ」


 「そうね。確かに美味しい物とか色々とあるのに、興味も示さなかったもの。

 食べて生き延びられれば何でもいいという感じだったわ。

 そういう意味では変わったヤツだったと思う」


 変わってるっていうか、どこかがズレた感じの人だね?

 そんな人って居るんだなぁ……。


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