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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:楠木正成



 向こう側に鎌倉の兵どもが見える。

 ワシらは隠れて遠くから見ておるが、奴らはそれなりの橋をかけたらしい。

 とはいえ、もちろん縄などで作った橋であり、平地にしっかり架けてある橋と同じではない。

 それでも急造とはいえ作りたのは立派であろう。作ったのはな。


 「いざ行くぞ! 楠木など何するもの! 我らが力で粉砕してくれるわ!! ものども続けぇぇぇぇぇ!!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 愚かに過ぎようぞ。

 このようなところで大声なぞ上げれば、城におる護良(もりよし)親王殿下にさえ聞こえてしまうではないか。

 それでは不意を打つ事にもならぬし、何の意味もあるまい。

 こういうところが、鎌倉の悪いところだ。今でも源平の頃だと思うておる。


 今さら源平の頃の合戦をされてもワシは付き合わんぞ。

 あんなものは勝つ為のものではない。ワシからすればお遊戯のようなものよ。

 あらゆる手を使ってでも勝つのが武士であろうし、そこまで勝ちに拘らねばならんのが武士ぞ。

 その気概が無さすぎる。


 もちろんワシとて本当に何でもありではない。

 そこまでやってしまえば味方すら離反してしまうからの。

 それにしたところで、アレはなかろうよ。流石にな。


 準備は出来ておるのだからして、そろそろ動くか。

 奴らが橋の真ん中まで来ておる。今から出て焼けば丁度よいであろう。


 「弓射れい!! ワシらは橋のところまで行くぞ、ついて参れ!!」


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 ワシらは素早く隠れておった所から出ると、一気に橋へと移動する。

 相手はワシらが出て来たからか驚いておるが、後ろから押される形で前に出て来た。

 驚きに固まっておると、橋から落ちて死ぬぞ?


 「おのれが楠木か!! この我、長崎高貞が貴様のそっ首を獲ってくれる!!!」


 「なにを愚かな事を言うておる! 己の命があと僅かと知って狂ったか。

 しょせんは鎌倉の者どもよ、程度が知れるわ!!」


 「なんだと!! たかだか悪党の分際で、何を偉そうに喚いておるか!! 神妙にいたせ!」


 「それこそが阿呆だと言うのだ。今が源平の頃だと勘違いしておるのか?

 おのれらのマヌケに付き合う気なぞないわ!! やれぃ!!」


 ワシがそう言うと、桶を持っていた兵が一斉に油を橋に対して撒く。

 そして松明を持っていた者が火をつけると瞬く間に燃え広がった。

 その後は塊の脂を敵に放り投げる兵士達。

 それは鎌倉の兵達に当たり、さらに火を広げてゆく。

 こうなれば橋など終わりよ。


 ボゥッ!! パチパチパチパチパチ……!


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ。火だ! 逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 「はっはっはっはっはっ! 今さら遅いわ! 谷底へ落ちるがいい!!」


 「おのれ、楠木ぃ!! 貴様は武士に(あら)ず! 唯の卑怯な逆賊よ!!」


 「おのれらに従わねば全て逆賊だと!? だから貴様らは阿呆なのだ!

 そもそも北条など頼朝公から権力を奪っただけの裏切り者であろうが!!

 しかも出自は東国の豪族! しょせんは平氏でも源氏でもあるまい!!」


 「なんだと、貴様ぁ!!」


 「事実であろうが! ふざけるでないわ!!

 清盛公の御血筋たる伊勢平氏でもなく、頼朝公の御血筋たる河内源氏とも関わりあるまい!

 唯の将軍を傀儡にする豪族めが!! 貴様らこそ逆賊であろう、恥を知れ!!」


 「おのれ許さんぞ、楠木ぃ!! 今すぐその舌を引っこ抜、お、ああ、おあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 「はははははははは!! たかが豪族風情の者どもなど地獄に落ちろ!!」


 あー、スッキリしたわ。言いたい事を言ってやった。

 頼朝公の(さい)が平政子を名乗ったらしいが、そもそもの出自は唯の東国の豪族だ。どこまでいってもそれは変わらん。

 頼朝公の御血筋だからこそだったというのに、その御血筋は既に失われておる。


 その時点で北条が世を動かすなどあってはならんのだ。やっと世を正す事が出来る。

 それをせねばならなかったのだ。


 「北条に組しておる田分けどもよ、聞くがいい!! ワシの名は楠木兵衛(じょう)正成!

 東国の豪族から帝に力をお返しし、世を正す者なり!!

 東国の豪族に世を纏める権利など無い! そのような事はあってはならんのだ!!」


 「そうよ!! 兄者の申す通り、北条などしょせんは東国の豪族! 真の源氏ではない唯の豪族ぞ!!

 そのような血筋の者が世を動かしていた事がおかしいのだ。

 そのような事はあってはならん! 貴様らもよく考えるがいい!!」


 ワシらの言葉に耳を貸さずとも構わん。そもそもワシらは後醍醐帝を仰いでおるのだ。

 鎌倉の者どものように、どこぞの豪族に従っておるわけではない。

 この時点で北条なぞに正統性は無いのだ! そもそも日の本を統べるは帝のなされる事ぞ。

 北条めは調子に乗りすぎなのだ。


 誰が北条を認めたというのだ。

 力があったが故に無理矢理に認めさせただけであろうが。

 真の蛮族はおのれらぞ、恥を知れ!!


 「まったくもって兄者の申される通りよ! あの者どもは己が蛮族である事も分かっておらぬ。

 そもそも日の本の頂にあられるは帝なのだ。

 かつて古き時代におった蘇我といい、おのれらの事を何様だと思うておるのであろうかのう!

 呆れるしかないわ!」


 あの者どもには正統性など無い。

 そもそも宮将軍が鎌倉に行っておられるが、宮将軍は親王殿下となる。帝より上だなどという事はあり得んのだ。

 それで好き勝手をしていたのであろうが、それがいつまでも続くと思うなよ。

 北条の勝手になどワシがさせぬ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利高氏



 それなりに西へと進んでくる事が出来た。

 今は三河だ。そろそろ皆に裏切りを打ち明けねばならん。

 ここで方針を示しておかねば、六波羅(ろくはら)攻めに動けなくなる。

 なのでオレは仙太郎に頼んで、近しい者達を集めてもらった。


 「皆に集まってもらったのは他でもない。

 オレは北条家を見限る事にした。つまり謀反を起こす。

 賛同できぬ者は今すぐ去っても構わぬし咎めもせぬ。よくよく考えて決めてくれ」


 「それがしは殿についていきまする。

 というより、ようやっと申してくれて安堵いたしておるところ。もはや得宗家にはついていけませぬ。

 あれらはもう己らの事しか考えられぬようになっており、己ら以外を潰して回るでしょう。

 後はいつ我らが滅ぼされるかという事にしかなりませぬ」


 「確かに。今の得宗家はあまりに酷すぎる。

 今までにも足利家に対し非道な行いをしてきましたが、義観様の菩提を満足に弔う事さえ許さなかった事には我慢の限界でございました。

 殿が謀反をお決めになって、それがしもやっと心が晴れた次第」


 「我らは殿についていきまする。

 お気になさらず、殿は己の成したい事を成して下され」


 「すまぬな、皆を頼りにしておる。

 オレは鎌倉を出る前に既に決めておった、しかし名越が共に来ておる。

 (さきの)執権も内管領(ないかんれい)もオレが裏切ると思うておるのか、妻と子を人質に残せと言うてきた」


 「なんと! そのような事を殿を前にして堂々と言うなど、あまりにあまりで気が狂っておるとしか思えん!

 そのような非道を行う者についていくわけがなかろう。話にならぬわ」


 「まったくだ。頭がおかしいにも程があろうに。堂々と愚かな事を喚くとは、狂うたか!」


 「そこでだ、海老名よ。

 そなたは伯耆(ほうき)の国は船上山まで先に行き、後醍醐帝より鎌倉討伐の密勅を受け取ってきてもらいたい。

 少なくとも足利家は悪党として動いてはならぬ。それでは各々の家の名も落ちる故にな。

 それゆえにそなたの早さが大事となる。頼めるか?」


 「ははっ! お任せを!!」


 「我らは極力ゆっくりと向かうぞ。

 海老名が密勅を持って来てくれたら、それを旗印にして京の都は六波羅(ろくはら)を滅ぼす。

 それで鎌倉の力は大幅に落ちるであろう。皆もそのつもりで」


 「「「「「ははっ!!」」」」」


 ………父上。

 父上が今のオレを見たら何と申されるかは分からん。

 大目玉を喰うか、それとも悪し様に罵られるか。

 されどオレは父上を愚弄した奴らを許しはせん。

 必ず滅ぼす。


 まあ、おそらくその役は新田小太郎になるであろうがな。


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