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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利高氏



 オレは準備が出来たのですぐに出発する。

 既に仙太郎によって新田小太郎にはオレの文は届けてある。

 そこには「そなたの好きにせよ」とだけ書いた。

 それだけで新田小太郎には分かるはずだ。あの男は愚かではない。

 そしてオレが唯々諾々と従う事がないのも分かっておるであろう。


 オレは仙太郎と黒金(くろかね)達と共に鎌倉を離れて西へと向かう。

 今回はそこまで兵数は多くないし、あえて多くはしていない。

 何故なら新田小太郎が鎌倉を襲う兵が必要だからだ。

 これに関しては仙太郎が言葉だけで伝えてある。文に残すのはマズい故にな。


 とはいえオレが「好きにせよ」と言っているという言葉は文にせねばならん。

 でなければ、足利一門の者達が新田小太郎に味方せんかもしれぬ。

 事を起こすとなれば日和見(ひよりみ)では困るのだ。確実に立ち上がり、勝ってくれねば困る。


 それに仙太郎はオレが京の都の六波羅(ろくはら)を攻略する事も伝えておる。それを聞けば新田小太郎も奮起しよう。

 かわりにオレの家族への手出しは禁じてある。それさえ成るのであれば、後は好きにして構わんのだ。

 オレは気にせん。


 父上は足利家の為に耐えてきて下さったのであろうが、その息子であるオレは我慢が出来なんだ。

 とはいえ、今の北条はもはや泥船よ。沈みゆく泥船に乗る武士などおらぬ。

 元は東国の豪族なのだ、長い夢が見れて良かったではないか。

 あれに対して思う事はそれぐらいだな。


 まずはそれぞれを欺く為に、真面目に伯耆(ほうき)の国を目指すフリをせねばな。

 特に共に行く名越高家はオレの監視役と言ってもよい。

 おそらくは北条か内管領(ないかんれい)に密命を受けておるであろう。

 裏切ろうとしたら殺せとな。


 流石にここで裏切りがバレるような愚かな真似はせんよ。

 未だに風邪気味のフリは続けるがな。

 最後の最後まで騙せるなら騙し切らねばならん。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:楠木正成



 「護良(もりよし)親王殿下!

 帝が、後醍醐帝が伯耆(ほうき)の国は船上山で挙兵なされたそうでございますぞ!!」


 「なんと! それはまことか、兵衛(じょう)!! 大変にめでたい事であるぞ。

 して、帝はご無事なのだな?」


 「はっ! 船上山で挙兵なされた帝は、周りの鎌倉方を撃破。

 伯耆(ほうき)の国の守護代である糟屋重行の中山城、そして隠岐の守護である佐々木清高の篭もる小山城を攻略。

 両者は京にまで逃げ延びたようでございます」


 「おお! 帝の軍が鎌倉を叩き潰したか。これはよい(しら)せじゃ。

 このまま我らがこちらに引き付けておれば、帝は尚も勇躍(ゆうやく)されるであろう」


 「そうでございますな!」


 勇躍(ゆうやく)するというか、活躍するのは武士であって帝ではないがの。

 反鎌倉の為には帝の名がいるが、別に帝が指揮をとるわけでもなし。

 むしろ帝が指揮をとったら負けてしまうわ。大人しく綸旨(りんじ)だけ出してくれればよい。

 もちろん口が裂けても目の前では言えぬがな。


 「そういえば兄者。あの藁束はどうする気なのだ? 人の形に作らせておるが」


 「なぁに。奴らも攻めてくる気がないようなのでな。こちらから色々としてやろうと思うてのう。

 それで用意させておるのだ」


 「また、なにか面白そうな事をするのか。

 敵にとっては堪ったものではなかろうが、味方としては頼もしい事このうえないのう」


 「そろそろ用意が完了するので、お見せ出来ましょうぞ」


 ワシはそう言って護良(もりよし)親王殿下の下を辞した。

 先に言うても意味はないし、それにこれは敵の武具を手に入れたから考えた事でもある。

 あの時は売り物にするかと思うたが、使えるなら使う方が良いのだ。

 上手くいけば、また鎌倉方に厭戦(えんせん)気分が広がろう。


 …

 ……

 ………


 夜の間に藁人形を運び出させ、そして城外の麓に運ぶと設置。そしてその藁人形に鎧を着せて槍を括りつける。

 後は潜ませた五百の兵で(とき)の声を上げさせるだけじゃ。これでおそらく勘違いしてくれよう。

 特に朝も早くなら寝惚けるはずだ。




 さて、そろそろ時間じゃな。

 まだ早いが、周りが多少見える今が一番絶妙な時であろう。

 これより遅いと見破られ、これより早いと敵が守りを固めるだけになる。


 「(とき)の声上げい!」


 「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」」


 はははははは……!! 鎌倉の者どもめ、慌てふためいておるわ。

 ここ最近は連歌だなんだと、碌に戦もせずに腑抜けておったからな。

 ワシの考えた通り、必死になってこちらに来ておる。

 実際の兵士は藁人形よりも後ろに控えておるのでな、攻められても痛くも痒くもない。


 よし! 敵が藁人形に喰いついた。今じゃ、一斉に石を落とさせる。


 「今じゃ、石を落とせーー!!」


 ゴロガラゴロガゴゴロゴロガラガラ!!!


 「「「「「「「「「「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」」」


 「「「「「「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」」」


 「「「「「「「「「「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」」」


 流石に酷い状況になっとるのう。ワシがやらせた事とはいえ、ちょっと尋常ではないわ。

 大きな石ではあるものの、潰れた者達が大量に見える。

 ここまで上手くいくと色々と思うところはあるが、そもそも油断しておるのが悪いのだ。


 これでまたワシと戦うのが嫌になろう。

 それだけこちらが安全になるという事だからして、悪い事ではない。

 やり過ぎれば命を捨てて攻めてきかねんが、これ一回でまた油断するまで待つならば大丈夫であろう。

 それよりも武具を回収するぞ。


 「皆の者。敵が退いたら武具を回収する。

 まだまだ使えるし、新しい物も手に入るからのう。

 次に何に使うかは分からぬが、取っておいて損は無い。頼んだぞ!」


 「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」


 …

 ……

 ………


 かねてより見張らせておったが、鎌倉の者どもがようやく橋を完成させたらしいな。

 我が城の北側には深い谷があり、そこは守りが手薄になっておるのだ。

 もちろん“あえて”そうしておるのだがな。

 そこに愚かな鎌倉の者どもが喰いついたというわけだ。


 ワシとしては橋か何かを架けてくれると助かるのだがなー……と思っておったのだが、まさかワシの望み通りに架けてくれるとは思わんかったわ。

 物見から(しら)せが来た時には、思わず笑うてしもうたほどよ。


 弟の七郎が「どうするのだ?」と聞いてきたので、「焼けばよい」とだけ言うてやった。

 それですぐに気づいたようだがな。この城には獣の脂が多く残っておる。

 灯りに使うておるのもあるが、山の獣を獲ってきたりしておるからな。なのでそれなりにはあるのだ。


 妖怪が出て撤退という事だけは止めてほしいが、果たして鎌倉の者どもは来てくれるであろうかな?

 ワシとしてはどちらでもよいとは思うておるが、なるべくならば叩いておきたいところだ。


 ここでさらに叩いておけば後が楽になるからだが、流石にここまでの事もある。

 そうそう簡単に引っ掛かってくれるとは思えんのも事実。

 どちらに転んでも良いようにしておくか。


 …

 ……

 ………


 阿呆にも橋が完成したので、こちらに攻めてくるらしいわ。

 護良(もりよし)親王殿下もお聞きして呆れておられる。

 ここまで散々やられておるのだからして、そう簡単に上手くいくわけがなかろうに。

 どうしてそれが分からぬのであろうな?


 まっこと鎌倉の者どもの考える事は分からん。ワシにはサッパリだし理解もできん。

 どっちでもよいとは思うておったものの、実は半ば諦めておったのだがな。

 まさか突っ込んでくるとは……。


 まあ、ワシらは叩き返すだけだ。それ以外はする必要も無い。

 さっさと用意して燃やしに行くか。


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