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Side:楠木正成
昨日は挑発をした結果、敵が決死の攻撃をしてきたが上手く捌けた。
その御蔭で城は未だに問題がない。ただし崖下には大量の死体があるままじゃ。
何とかあれの持っておる物を奪っておきたいところじゃな。
鎧や槍などは兵の持ち物でも売れる故にな。
この後の事を考えると、ここで銭の元となる物を得ておきたいところよ。兵達に指示してワシも加わるかな。
どうにも鎌倉の動きが無いのだ。おそらくは昨日の大敗で、こちらに攻め寄せる事を諦めたのであろうがな。
迂闊に攻めても死ぬだけとなれば、やる事は一つだけじゃ。
「兄者。敵の動きがまるで無いが……」
「おそらく、こちらを軽々しく攻めても勝てぬと思うたのであろう。
なればやる事は一つだけ、兵糧攻めじゃな。
こちらの食う物が無くなるまで囲んでおこうという事であろう。愚かな事よ。
運び込む道はあるのだ、いつまで経っても食う物が無くなるなどという事は無い」
「となると一息つけるが、ただ休むというのも良くないぞ?」
「分かっておる。兵達を使うて崖下の骸から鎧や武器を引っぺがす。
敵がこちらに来ぬ間に奪ってしまうぞ。売って銭の足しにせねばならん。
兵糧を買うのもタダでは無い故にな」
「それはそうじゃな。食う物を買う為にも、死体から引っぺがしてくるか。
それに放っておけば鎌倉の者どもに持っていかれてしまう。
最悪はこっちが使えばよいだけよ。下に槍を落としてやればよかろう。
上手く刺されば相当の傷になる」
「うむ。兵達にはすまぬが、今の内に取っておきたい。ワシについてきてくれ」
「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」
鎌倉が攻めて来ぬのを確認し、ワシらは昨日の崖下の死体に近づく。
未だに鎌倉の者達は動いておらんので、今の内に死体から鎧や武器などを回収し、兵達にどんどんと持って行かせる。
城の近くで死んでおるので助かるわ。遠いと手に入れるのが大変であった。
兵達の使っておる物だからして良い物ではないが、それでも売るには十分よ。
そもそも鉄に価値があるのだからして、鋳潰してしまえばよい。
これが新たな鏃になるなら儲けものよ。
それに矢も回収せねばな。昨日は相当に使うてしもうたから無駄には出来ん。
ワシらは十分に回収しつつ時間を掛けてでも回収をして回った。
そしてようやく終わったので城で一息吐いておると、調べに行かせた者が戻ってきたようだ。
「報告いたします。
どうやら鎌倉の軍はこちらを攻める事は止め、囲むだけにするようでございます。
誰が始めたかは分かりませぬが、連歌をしておるような有様で……。
兵どもも各々休んでおるようでした」
「ご苦労。やはり思った通りじゃな。
昨日の大敗が相当に応えたか、こちらを軽々に攻めては来ぬようになった。
これで完全に一息吐けるわ。
今の間に兵糧の運び込みや水の補充など、やるべき事を全てやってしまわねばな」
「こちらを休ませると碌な事にならんというのに、分かっておらんのう。
とはいえ鎌倉の者など左様なものか。
このまま鎌倉の者どもが手をこまねいておれば、必ずや立ち上がる者が増える。
そうなれば尚の事こちらが有利になるな」
「それに隠岐に流された帝も、お戻りになられるやもしれぬ。
そうなればこちらはさらに勢いづく。
そこまで行ければよいが、まずはしっかりと城を守る事が大事。
我らが頑張れば頑張るほどに、他の者もワシらを見習おう。
もはや反鎌倉は止まる事などないのだからな」
鎌倉の愚か者どもは理解しておるまい。
しょせんは東国に篭もって出て来んような者どもよ。
己らの足元が揺らいでおる事にすら気づいておるまい。
まさしく<驕る平家は久しからず>よ。
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Side:足利高氏
まさかの報せが入ってきた。
なんと伯耆の国にて後醍醐帝が挙兵したらしい。
隠岐に流されておったらしいが、どうやったのか戻ってきたらしいのだ。
慌てた隠岐守護である佐々木清高という者は、伯耆の国は船上山に攻め込んだようだ。
そこは守るに秀でた山で、慌てていた佐々木はそれを知らずに攻め込み敗北。小波城という城に逃げ帰ったらしいわ。
オレはここ最近風邪気味……のフリをしておるので、おそらく戦には出ずに済むだろう。
近頃は屋敷からも出ておらぬしな。
あの戦上手である楠木とは戦いたくないし、いちいち北条の為に戦う気などない。
何故オレがそのような事などせねばならんのか。戦に勝ちたければ己でやればよいのだ。
そう思うておったら、家の者がオレに報せてきた。どうやら愚か者が呼んでおるらしい。
オレは病で動けんと言っておけ。
そう言って家の者を遣わせたのだが、むこうからは病でも出てこいとの事だった。
本当に愚かなものよな。そうやって無理矢理に出したところで、意味などあるまいに。
…
……
………
あからさまに機嫌の悪い内管領だけではなく、前執権様までおられるな。
どうやら余程にオレが裏切ると思っておるらしい。
まあ、裏切る事は既に決まっておるのだがな。
風邪気味でゴネたのはワザとだ。
「そなたには伯耆の国は船上山に行ってもらう。有無は言わせぬ故にさっさと行け」
「では、せめて妻と子を連れて行きたく、ゴホッ、ゴホッ」
「駄目だ。貴様の妻と子は人質とする。さっさと行ってこい」
「かしこまりましてございます」
愚かな。これで完全に愛想が尽きたわ。
貴様らは滅ぼすべき敵でしかない。
地獄に落ちろ。
オレはさっさと辞すると、家の者を集めて話をする。
残念ながら容赦は出来ぬ故に、黒金は連れていかねばならん。
来てくれるとは思うが、駄目ならば家の者を守りてもらうか。
「金沢の方、上杉の方。赤橋と越前をよろしくお願いいたします。
出兵ですが、妻と子は人質として置いていけ。そうハッキリと言われましたのでな」
「なんと! ……もはや己が醜さを隠そうともせぬようになったとは。
情けないやら愚かやら。呆れて何も言う気が起きませぬ。
事ここにまで至れば、そなたが北条を滅ぼしたとしても、私は咎めは致しませぬ。
これでは、あまりにも……」
「しょせんは頼朝を裏切って暗殺した家なんだし、そんなものなんじゃないの?
むしろこういう最期の方が納得できるけどね。
だって、どこまでいっても裏切者だし」
「それは………」
「ま、黒金の申す通りであろう。
オレは伯耆の国まで行かねばならん事になっておる。そこは京の都よりもさらに西だ。
途中で京の都に寄るのだが………六波羅を潰す。
さすれば向こうでは鎌倉の手は及ばん」
「兄上!?」
「オレ達は北条に近すぎる。
自ら六波羅を滅ぼすぐらいでないと同じに見られかねんのだ。
仙太郎、足利家を保つ事を第一に考えねばならん。
それと文を書く故に、それを足利一門の新田小太郎に届けてくれ」
「兄上。もしやあの時にワザと見逃したのは……」
「こういう事も考えてだ。
しかも新田荘はこの度の軍を派遣する為に、内管領から六万貫もの銭を出せと命じられたそうだ。もはや我慢の限界であろう。
そもそも新田荘にそのような銭を出すなど無理だ」
「「「「ろ、六万貫……」」」」
「あまりに愚かだね。全方位を敵に回してるじゃん。
これでよく自分達は無事だと思うよ、頭が悪くてビックリする。
鎌倉に居る自分達は、何があっても大丈夫とでも思ってるのかな?
なんだか平氏よりも愚かなんだけど」
「ふふふふ、平氏より愚かか。しょせん北条など元は豪族に過ぎんのだ。
愚かな夢を見るからこうなる。<この世は夢、この世は幻>。
まさに北条にこそ相応しい言葉であろうよ。
<驕る北条は久しからず>というところだな」
まあ、我が足利が引導を渡してやるがちょうど良かろう。




