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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:楠木正成



 昨日は挑発をした結果、敵が決死の攻撃をしてきたが上手く捌けた。

 その御蔭で城は未だに問題がない。ただし崖下には大量の死体があるままじゃ。

 何とかあれの持っておる物を奪っておきたいところじゃな。

 鎧や槍などは兵の持ち物でも売れる故にな。


 この後の事を考えると、ここで銭の元となる物を得ておきたいところよ。兵達に指示してワシも加わるかな。

 どうにも鎌倉の動きが無いのだ。おそらくは昨日の大敗で、こちらに攻め寄せる事を諦めたのであろうがな。

 迂闊(うかつ)に攻めても死ぬだけとなれば、やる事は一つだけじゃ。


 「兄者。敵の動きがまるで無いが……」


 「おそらく、こちらを軽々しく攻めても勝てぬと思うたのであろう。

 なればやる事は一つだけ、兵糧攻めじゃな。

 こちらの食う物が無くなるまで囲んでおこうという事であろう。愚かな事よ。

 運び込む道はあるのだ、いつまで経っても食う物が無くなるなどという事は無い」


 「となると一息つけるが、ただ休むというのも良くないぞ?」


 「分かっておる。兵達を使うて崖下の(むくろ)から鎧や武器を引っぺがす。

 敵がこちらに来ぬ間に奪ってしまうぞ。売って銭の足しにせねばならん。

 兵糧を買うのもタダでは無い故にな」


 「それはそうじゃな。食う物を買う為にも、死体から引っぺがしてくるか。

 それに放っておけば鎌倉の者どもに持っていかれてしまう。

 最悪はこっちが使えばよいだけよ。下に槍を落としてやればよかろう。

 上手く刺されば相当の傷になる」


 「うむ。兵達にはすまぬが、今の内に取っておきたい。ワシについてきてくれ」


 「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」


 鎌倉が攻めて来ぬのを確認し、ワシらは昨日の崖下の死体に近づく。

 未だに鎌倉の者達は動いておらんので、今の内に死体から鎧や武器などを回収し、兵達にどんどんと持って行かせる。

 城の近くで死んでおるので助かるわ。遠いと手に入れるのが大変であった。


 兵達の使っておる物だからして良い物ではないが、それでも売るには十分よ。

 そもそも鉄に価値があるのだからして、鋳潰してしまえばよい。

 これが新たな(やじり)になるなら儲けものよ。

 それに矢も回収せねばな。昨日は相当に使うてしもうたから無駄には出来ん。


 ワシらは十分に回収しつつ時間を掛けてでも回収をして回った。

 そしてようやく終わったので城で一息吐いておると、調べに行かせた者が戻ってきたようだ。


 「報告いたします。

 どうやら鎌倉の軍はこちらを攻める事は止め、囲むだけにするようでございます。

 誰が始めたかは分かりませぬが、連歌をしておるような有様で……。

 兵どもも各々休んでおるようでした」


 「ご苦労。やはり思った通りじゃな。

 昨日の大敗が相当に応えたか、こちらを軽々に攻めては来ぬようになった。

 これで完全に一息吐けるわ。

 今の間に兵糧の運び込みや水の補充など、やるべき事を全てやってしまわねばな」


 「こちらを休ませると碌な事にならんというのに、分かっておらんのう。

 とはいえ鎌倉の者など左様なものか。

 このまま鎌倉の者どもが手をこまねいておれば、必ずや立ち上がる者が増える。

 そうなれば尚の事こちらが有利になるな」


 「それに隠岐に流された帝も、お戻りになられるやもしれぬ。

 そうなればこちらはさらに勢いづく。

 そこまで行ければよいが、まずはしっかりと城を守る事が大事。

 我らが頑張れば頑張るほどに、他の者もワシらを見習おう。

 もはや反鎌倉は止まる事などないのだからな」


 鎌倉の愚か者どもは理解しておるまい。

 しょせんは東国に篭もって出て来んような者どもよ。

 己らの足元が揺らいでおる事にすら気づいておるまい。

 まさしく<驕る平家は久しからず>よ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利高氏



 まさかの(しら)せが入ってきた。

 なんと伯耆(ほうき)の国にて後醍醐帝が挙兵したらしい。

 隠岐に流されておったらしいが、どうやったのか戻ってきたらしいのだ。

 慌てた隠岐守護である佐々木清高という者は、伯耆(ほうき)の国は船上山に攻め込んだようだ。


 そこは守るに秀でた山で、慌てていた佐々木はそれを知らずに攻め込み敗北。小波城という城に逃げ帰ったらしいわ。

 オレはここ最近風邪気味……のフリをしておるので、おそらく戦には出ずに済むだろう。

 近頃は屋敷からも出ておらぬしな。


 あの戦上手である楠木とは戦いたくないし、いちいち北条の為に戦う気などない。

 何故(なにゆえ)オレがそのような事などせねばならんのか。戦に勝ちたければ己でやればよいのだ。

 そう思うておったら、家の者がオレに(しら)せてきた。どうやら愚か者が呼んでおるらしい。


 オレは病で動けんと言っておけ。

 そう言って家の者を遣わせたのだが、むこうからは病でも出てこいとの事だった。

 本当に愚かなものよな。そうやって無理矢理に出したところで、意味などあるまいに。


 …

 ……

 ………


 あからさまに機嫌の悪い内管領(ないかんれい)だけではなく、(さきの)執権様までおられるな。

 どうやら余程にオレが裏切ると思っておるらしい。

 まあ、裏切る事は既に決まっておるのだがな。

 風邪気味でゴネたのはワザとだ。


 「そなたには伯耆(ほうき)の国は船上山に行ってもらう。有無は言わせぬ故にさっさと行け」


 「では、せめて妻と子を連れて行きたく、ゴホッ、ゴホッ」


 「駄目だ。貴様の妻と子は人質とする。さっさと行ってこい」


 「かしこまりましてございます」


 愚かな。これで完全に愛想が尽きたわ。

 貴様らは滅ぼすべき敵でしかない。

 地獄に落ちろ。


 オレはさっさと辞すると、家の者を集めて話をする。

 残念ながら容赦は出来ぬ故に、黒金(くろかね)は連れていかねばならん。

 来てくれるとは思うが、駄目ならば家の者を守りてもらうか。


 「金沢の方、上杉の方。赤橋と越前をよろしくお願いいたします。

 出兵ですが、妻と子は人質として置いていけ。そうハッキリと言われましたのでな」


 「なんと! ……もはや己が醜さを隠そうともせぬようになったとは。

 情けないやら愚かやら。呆れて何も言う気が起きませぬ。

 事ここにまで至れば、そなたが北条を滅ぼしたとしても、私は咎めは致しませぬ。

 これでは、あまりにも……」


 「しょせんは頼朝を裏切って暗殺した家なんだし、そんなものなんじゃないの?

 むしろこういう最期の方が納得できるけどね。

 だって、どこまでいっても裏切者だし」


 「それは………」


 「ま、黒金(くろかね)の申す通りであろう。

 オレは伯耆(ほうき)の国まで行かねばならん事になっておる。そこは京の都よりもさらに西だ。

 途中で京の都に寄るのだが………六波羅(ろくはら)を潰す。

 さすれば向こうでは鎌倉の手は及ばん」


 「兄上!?」


 「オレ達は北条に近すぎる。

 自ら六波羅(ろくはら)を滅ぼすぐらいでないと同じに見られかねんのだ。

 仙太郎、足利家を保つ事を第一に考えねばならん。

 それと文を書く故に、それを足利一門の新田小太郎に届けてくれ」


 「兄上。もしやあの時にワザと見逃したのは……」


 「こういう事も考えてだ。

 しかも新田荘はこの度の軍を派遣する為に、内管領(ないかんれい)から六万貫もの銭を出せと命じられたそうだ。もはや我慢の限界であろう。

 そもそも新田荘にそのような銭を出すなど無理だ」


 「「「「ろ、六万貫……」」」」


 「あまりに愚かだね。全方位を敵に回してるじゃん。

 これでよく自分達は無事だと思うよ、頭が悪くてビックリする。

 鎌倉に居る自分達は、何があっても大丈夫とでも思ってるのかな?

 なんだか平氏よりも愚かなんだけど」


 「ふふふふ、平氏より愚かか。しょせん北条など元は豪族に過ぎんのだ。

 愚かな夢を見るからこうなる。<この世は夢、この世は幻>。

 まさに北条にこそ相応しい言葉であろうよ。

 <驕る北条は久しからず>というところだな」


 まあ、我が足利が引導を渡してやるがちょうど良かろう。


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